第9話 重症シスコンのくせに、一生の不覚…!!
アラタの連絡先調べるのは、簡単だった。
サチのスマホのパスワードはガバガバ(信じられない事に、初期設定の0000から変わっていない)なので、サチの目を盗んで、連絡帳を調べたらすぐに出てきた。
やってはいけない事と思いつつ、タイチとマサヤは好奇心を抑える事ができなかった。
「…はい、もしもし?どちら様?」
3コール目で、アラタが電話に出た。
「突然すみません。サチの弟の、タイチです。」
「…ん?タイチくん?…俺に、何か用?」
「実は、ちょっと会って相談したい事があるんですが…お姉ちゃんには内緒で。」
「…え…?」
*****
アラタの実家は、神奈川県だった。
中間地点の、新宿の喫茶店で待ち合わせる。
「おー、待たせたな。…ていうか、ほんとにお前達だったんだな。ここに来るまで、半信半疑だったけど。」
アラタは、テーブルを挟んでタイチとマサヤの向かいに座った。
ウェイトレスにアイスコーヒーを頼んで、2人に向き直る。
「で?相談って、何?」
「…お姉ちゃんには、何も話してない?」
「内緒にしろって言われたからな。サチには何も言ってないよ。」
タイチはマサヤの顔をちらっと見た後、アラタに一部始終の説明を始めた。
ひと通り聞き終わると、アラタはじっと黙ったまま、顎に手を当ててしばらく考え込んだ。
「…サチは、現当主の本当の子供じゃない。そして本当の父親の事を、イナバ先生が知っているかもしれない。そういうことだね?」
タイチとマサヤは同時に頷いた。
「それは、サチが最近何かを思い出せないって言ってるのと、何か関係あるのかな?」
「……お姉ちゃん、あんたにその話してたのか?」
タイチが、アラタに食ってかかる。
「念視して欲しいって頼まれたんだ、サチが倒れた時。結局、未遂に終わったけど。」
「それで、イナバ先生が今どこにいるか、ご存知ありませんか?」
マサヤが尋ねる。
「一応、夏休み中に何かあったら連絡するようにって、緊急の電話番号は教えてもらってる。」
「……!!それ、教えてもらえませんか!?」
「その前に、一応確認だけど…
2人はこの事を突き詰めて、どうしたいの?サチに真実を伝えたい?」
「…………」
2人は、即答できない。
「言ってみれば、この件はサチの究極の個人情報だ。サチ以外の人間が、容易く踏み入ってはいけない。それは分かるね?」
ああ、この人は本当に常識人だな。とマサヤは思った。
「……お姉ちゃんを、助けたいんだ。」
タイチが、声を絞り出す。
「お姉ちゃんにとって、辛い事実だったら、知らないままでいて欲しい。でもお姉ちゃんは今、能力が目覚めない事にも、すごく悩んでる。
まずは僕が真実を知って、お姉ちゃんを傷つけるものから守りたい。」
「…なるほど。ずいぶん傲慢なんだね。」
タイチが、キッとアラタを睨む。
「サチはそこまで弱い奴じゃない、と俺は思う。だから、本当は君たちはサチに1番に相談すべきじゃないかとも思う。」
正論。
アラタは年長者らしく、落ち着き払っている。
(ああ、これは協力してもらえないかな…)
と、2人が思った時。
「…とは言うものの、正直俺も、ものすごく気になる。」
タイチとマサヤが顔を上げた。
「まずは、俺と君たちの3人で、一度イナバ先生に話を聞きに行ってみようか。その結果、サチに話した方がいいと判断したら、話をさせてもらう。…それでどう?」
2人はまた、同時に頷いた。
*****
アラタがイナバに連絡を取ってくれて、千葉にあるイナバの自宅に3人で尋ねる事になった。
タイチとマサヤが出かけようとした時に、サチがアイスを齧りながら声をかけてきた。
「あれ、また2人で出かけるの?なんか最近、よく2人で外遊びに行くね?」
2人はドキッとする。
「サチ姉、俺たち一応夏休み中だし、そりゃ遊びにも行くよ。サチ姉も、今度誘うね。」
「あー、いい、いい。少年たちは少年たち同士で大いに遊びたまえ。おねーちゃんも、色々忙しいから。」
サチは大して不審に思う事もなく、ひらひらと手を振って2人を見送った。
イナバの家は、駅から離れて人家もまばらな林の中にひっそりと佇む、小さな平屋だった。
「おお、よくここまで辿り着いたね。暑かっただろう。
まずは中へどうぞ。狭いけどね。」
3人は居間へ通された。中は冷房が効いていて、道すがら噴き出ていた汗がひいていく。
「この家に人が尋ねてくるなんて、何年ぶりかね。」
イナバが冷たい麦茶を注いでくれる。
4人は居間のテーブルを囲んで、少し沈黙した。
「…それで?今日は何か、私に聞きたい事があるって?」
タイチは、単刀直入に切り出した。
「ハルオミ・イシイさんという方を、先生はご存知ですか?」
イナバが、タイチの目をじっと見つめる。
「…なぜ、そんな事を聞くんだい?」
「ご存知なんですね?アカデミーの、3学年上の先輩だったはずです。」
ふー、とイナバが息を吐く。
「知っているさ。もちろん。
ハルオミさんは、私の同級生と、長い事付き合っていたんだ。」
タイチとマサヤは、顔を見合わせる。
「付き合ってた…?」
マサヤが、持参していたアカデミーの卒業名簿のコピーを取り出す。
「ああ、この、サクラって人と付き合ってたんだよ。」
イナバが指をさす。
サクラ・モリモト。
能力の欄は、空欄になっている。
「それで?何故君たちは、ハルオミさんの事を探っているのかな?」
タイチはマサヤを見る。マサヤは頷いた。
タイチは、書庫から持ち出してきた戸籍謄本をイナバに見せる。イナバは、食い入るようにそれを見つめた。
「……僕のお姉ちゃんは、ハルオミさんの子供、という可能性はありますか?」
イナバは、ずいぶん長い事黙り込んだ。どこまで話すべきか、熟考しているようだった。
「私は、全てを知っている訳ではない。…だから、確かではない情報については、話せない。」
一呼吸おいて、続ける。
「1つだけ、確かな事は…
ハルオミさんは、もうこの世にはいない。」
タイチとマサヤ、アラタはハッとしてイナバを見る。
「亡くなったんだよ。…1年程前に。」
イナバの話によると、ハルオミは恋人のサクラと一緒に長い間隠居生活を送っていたらしいが、1年半程前にサクラが亡くなり、後を追うようにハルオミも肺炎で亡くなったとの事だった。
「ずっと、恋人と一緒に…、じゃあ、やっぱりサチ姉の父親じゃないのか……?」
マサヤは首を傾げる。
「私から言える確かな事は、それ位だ。
ただ、好奇心旺盛な若者達にもう1つ、アドバイスをしてあげよう。
…サチさんが産まれた前後の、世の中の出来事を調べてごらん。ちょうど、歴史の勉強にもなるだろう。」
「お姉ちゃんが、産まれた日…」
タイチがふと呟いた後に、あっ!!と叫んだ。
「あした、お姉ちゃんの、誕生日だった…」




