第8話 出自の秘密と、少年探偵団結束
「うげー…。ここだけで、一体何冊本があんの…。」
サチは一歩足を踏み入れるや否や、がっくりと項垂れる。
夏休みに入ったばかりだというのに、うだるような暑い日。
サチは、タイチとマサヤと一緒に、書庫に来ていた。
1人では書物調査が終わらないと踏んだサチは、子分たちに手伝うように要請したのだ。
「てかさ、アザイ家って、予知能力者がほとんどいないんじゃなかったっけ?
…予知能力について書かれた本なんて、ここにあんの?」
マサヤが疑問を口にする。
「いや、だからさ。逆に私以外にアザイ家で予知能力があった数少ない事例を調べ上げて来いって課題なわけ。
あんたたち、そっちの棚は任せたわよ!」
へーい、とマサヤが返事をして、「タイチは下の段から見てけ、俺は上から見てく」と指示した。
蔵の中には冷房がなく、外よりはいくらか涼しいとはいえ、3人はすぐに汗だくになった。
「……あっつ……。サチ姉、もうさ、探したけど文献はありませんでしたー、でよくね?」
マサヤが、額の汗を拭いながら唆す。
「うーん…。でもさ、正直私も気になるんだよね。アザイ家の歴史で、予知能力持ってた人がいたのかどうか。そもそもこの書庫なかなか入れる機会もないし、せっかくだからちゃんと調べたい。」
サチが、棚に読み終わった本を戻しながら言った。
「2人とも、適当なとこで切り上げて。
…せっかくの夏休みなのに、つき合わせちゃって、ごめんね。」
「僕は、全然構わない。お姉ちゃんのためなら、何でもするし。」
タイチが涼しい顔で、また激重発言をする。
「……仕方ねーな、どうせ家にいても暇なだけだし、俺も手伝うわ。サチ姉、今度何かおごってよ。」
「ありがと!やっぱ持つべきものは、従順な子分だわねー。」
書庫に篭り始めて、2時間が経過した。
タイチは、比較的最近の本が収納されている棚に取り掛かり始めた。この書庫には初めて入ったが、サチの言う通り、興味深い文献も多かった。
「はぁ、それにしても、あっついな…」
呟きながら、5冊ほどの本をまとめて書棚から下ろす。
と。
1枚の紙が本の隙間からひらりと落ちて、マサヤの足下の床に着地した。
「おい、何か落ちたぞ、ーーー」
マサヤが紙を拾い上げてタイチに渡そうとした時に、紙に書かれている文字が目に入って、息を呑む。
「マサヤ?何が……」
タイチも紙を覗き込んで、言葉を失った。
それは、比較的新しい紙で、戸籍謄本だった。
アザイ家
夫 タケル
妻 ユキ (旧姓: ミタライ)
そして、その横に。
養女 サチ
(父 ハルオミ・イシイ)
と書かれていた。
養女?
サチが?
「おーい2人とも、どーしたのー?」
サチの呼びかける声に2人はハッとして、咄嗟に紙を背後に隠した。
「いや、何でもない。…ちょっと暑くて、熱中症気味かも。休憩してきてもいい?」
「え!?マサヤ大丈夫!?もちろん、休んできて!タイチ、一緒に行って、なんか冷たい飲み物出してあげて!」
タイチは無言で頷き、2人で連れ立って、蔵を出た。
「……一体、どういう事なんだ。」
タイチの部屋で、2人は、書庫から持ち出してきた戸籍謄本を穴が開くほど見つめる。
「サチ姉は、アザイ家の血筋じゃ、ない…?」
「いや…でも、お姉ちゃんは母さんとは顔がそっくりなんだ。母さんの子供である事は、間違いないと思う。」
「…てことは、父親が違うって事か?
この、ハルオミって人と、タイチのお母さんとの間に産まれたのが、サチ姉…?」
ハルオミ・イシイ。初めて聞く名前だ。
「…ここ、見ろよ。お姉ちゃんが養女になった日と、父さんと母さんの結婚した日が、一緒だ。」
「ほんとだ。…ってことは、お前のお父さんと結婚した時に、サチ姉は連れ子としてアザイ家に入った…?」
ハルオミとは、ユキの前の夫だったのか?
タイチは、これまでサチに冷たく当たってきたアザイ家の人間を思い浮かべた。
…サチに、アザイ家の血が流れていないから?だから、冷たく当たっていたのか?
「おい、マサヤ。…この事は、絶対にお姉ちゃんには言うなよ。」
「当たり前だろ…。言えるわけ無い。
ただ、…サチ姉がアザイ家の血筋じゃないなら、あの蔵をいくら調べても、無駄にはなっちゃうけどな。」
「いや…もしかしたら、この事に関係する資料が他にもあるかもしれない。マサヤ、2人で追加で調査しよう。手伝ってくれるか?」
マサヤは、深く頷いた。
*****
夜、タイチとマサヤは再び蔵に忍び込み、サチの出自に関係のある書物を、目を皿のようにして漁った。
結論から言えば、ほとんどの文献がハズレだった。
ただ、1つだけ収穫があった。
かなり昔のアカデミー卒業生の名簿(おそらく、ゲンドウの所蔵だろう)に、ハルオミ・イシイの名前を見つけた。
卒業年から計算すると、もうかなりの歳のはずだ。タケルやユキとは、40歳近く年が離れている。
年齢差を考えると、ハルオミがサチの父親の可能性は低いか?と思った次の瞬間、2人はまた息を呑んだ。
名簿に記載されたハルオミの能力は、予知能力だったのだ。
「…やっぱり、このハルオミって人が、お姉ちゃんの本当の父親なのか…?」
「可能性はあるな。…この人、今どこにいるんだろう。もうとっくに現役は引退してるだろうし、…誰か知ってる人がいればいいんだけど…」
ぺらりとページをめくって、マサヤはハッとした。
トオル・イナバ
能力…念視
「……この人って、…」
「お姉ちゃんの同級生のあの男が言ってた、サイコメトリーの非常勤講師?」
卒業年を見ると、ハルオミの3学年下だ。
「同じ時期にアカデミーに在籍してたなら、イナバ先生がこのハルオミって人を知ってる可能性はあるな。」
2人は顔を見合わせた。
「……どうする?この先生に、話聞きに行くか?」
「今は夏休み中だから、先生アカデミーにはいないんじゃね?」
「…でも、2学期まで待つのか?」
うーん、とマサヤが唸る。
「…あのアラタ?って人に、相談してみるか?サチ姉の同級生の」
「でもそうすると、そいつにも事情を話さないといけなくなるだろ。」
「あの人は常識人っぽい気がするから、ちゃんと事情話せば大丈夫だと思うけど。」
今度は、タイチが唸る番だった。
「………っていうかさ、そもそも、この事父さんに直接聞いちゃだめかな?それか、マサヤのおじさんおばさんとか。」
「うーん…今までずっと俺たちに内緒にしてきた人達が、簡単に口を割るとは思えないけどな…。しかも、サチ姉が聞くならまだしも、俺たちに話してくれるかな…。」
タイチはしばらく考え込んだ後、マサヤに告げた。
「…アラタに、聞いてみよう。それで、イナバ先生の連絡先を教えてもらう。
2学期に入ると自由に動ける時間が少なくなるから、僕とマサヤで、夏休み中になるべく動こう。」
マサヤは同意した。




