第37話 仲間割れ
タイチはサトルと二手に分かれて、敷地内の身を隠せそうな所をしらみ潰しに探して回った。
敷地内のそこここに、ルキヤの術にかかったまま意識を失っている者が倒れていた。しかし、現実世界で物理的ダメージを受けているのは、ゲンドウとタケルだけのようだった。
「タイチ!!」
呼ばれて振り向くと、マサヤだった。後ろにナホとカホを連れている。
「爆発音が聞こえて、母さんが俺たちに家で待ってろって言い残して出てったんだけど、その後急にあたりが暗くなって眠らされたみたいで…。目が覚めて慌てて家を出てきたんだ。…何があった?」
タイチは一瞬、説明に窮する。
「…あのサングラスの男が、お姉ちゃんの能力を利用して、この家中に術をかけた。」
「サチ姉の…能力?」
「お姉ちゃんは、増幅者だ。」
「なん、だって?」
「じいちゃんと父さんがやられた。ミオリおばさんが、救護に当たってる。
…今、あの男はお姉ちゃんを連れて、この敷地内のどこかに身を潜めている。次の攻撃が始まる前に、見つけ出さないと…」
「タイチくん、サチちゃん、戻ってきたの?」
ナホが前のめりに尋ねる。
タイチは、先ほど見たサチの様子を思い返した。
「……ああ、戻ってきてる。今はまだ洗脳されてるから、僕達で助けないと。でも、どこにいるのか…」
マサヤが少し思案した後、言った。
「なぁ。向こうにはサチ姉がついてるんだろ?それなら……」
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ルキヤ達は、本邸近くのサチの秘密の隠れ場所にいた。あらかじめ、サチから敷地内で身を隠せる所をいくつか教えてもらっていたのだった。
「……前当主と現当主は、まだ息がある。いま、治癒者が治癒に当たってる。」
ハルは、念視で視えた情報をルキヤに報告する。ルキヤは小さく舌打ちする。
「サトル・アザイが、まさかあんなに早く私の術を破るとは。…サチのブーストが使えない間は、圧倒的に我々の不利です。今は様子を伺って、眠り姫が目覚めたら、とどめをさしにいきましょう。」
ルキヤは、自身の膝枕の上のサチの頭を愛おしそうに撫でた。
ふと顔を上げると、ユウジが青ざめた顔で俯いている。
「……ルキヤさん。あのおじさんたち、し、しんじゃうの?」
ユウジは自分の能力で重症を負わせたゲンドウと、ルキヤが刃物で背中を刺したタケルの姿を思い出して、震えていた。
「ユウジ。大きな理想のためには、多少の犠牲はやむを得ないんだよ。ユウジは何も、心配しなくていい。」
「で、…も、」
「もともと私たちは子供ばかりの集団で、非力で戦う力もろくにない。それが、サチの能力のおかげで、あのアザイ家をここまで追い詰められているんだ。…増幅者の威力が、これ程とは…」
ルキヤは、興奮を抑えきれないように笑みを浮かべる。
と。
突如、キィン、と空気を切り裂く音。
ルキヤはすぐに反応して、咄嗟に5人を包むシールドを生成した。
「ふむ…こんなに早く見つかるとは。」
ルキヤの目線の先に、息を切らしながら走ってくるタイチがいる。後ろからマサヤと双子の妹も接近していた。
タイチは矢継ぎ早に攻撃を繰り出す。
その威力に、ルキヤの急場凌ぎのシールドは綻びを見せ始める。
ルキヤは眠っていたサチを抱き寄せて、見せつけるようにタイチに言った。
「君のお姉さんも、巻き添えにするのかな?」
「……っ、」
タイチがルキヤの腕の中のサチに気づいて、攻撃の手を止めた。
「しかし、よくこの場所が分かりましたね?」
「マサヤが、ここじゃないかって教えてくれた。この家に住む子供ならみんな、敷地内の隠れ場所はよく知ってる。」
そのマサヤは、タイチの後ろでスマホでサトルに連絡をとっているようだった。
その時。
「う……、ん…」
ルキヤの腕の中で、サチが目を開く。
「……っ!!!」
まずい。またブーストを使われたら……
タイチは身構えた。
「ああ、サチ。目が覚めたのですね。…本当に、素晴らしいタイミングです。」
ルキヤはユウジに振り向いて、命じた。
「ユウジ。…できるね?さっきと同じように。」
「…………」
ルキヤはサチの耳元で何かを囁き、サチは小さく頷いて、ユウジの腕に触れた。
来る…!!!
タイチはすぐにマサヤとナホカホを包み込むシールドを生成した。
が。
一向に、何も起こらない。
「……ユウジ。なぜ、私の言う事を聞けないのですか?」
ルキヤが、苛立ちを隠さず尋ねる。
ユウジは後ずさった。
「僕……僕、……ひとを、ころしたくない。……」
「ユウジ。今まで何度も、話をしてきたでしょう。
"理想郷の実現"が、私たちの使命だと。
そのために、邪魔な者は排除しなければならない、と。」
「わかってる……でも僕、
…その子を、爆破したく、ない……」
「ユウジ…私を裏切るのですか?」
ルキヤがユウジに手を伸ばす。ふるふる、とユウジが首を振る。
「そうじゃない、……でも、」
ルキヤは、大きくため息をついた。
「もういい。…ミナミ、サチの助けを借りて、私たちを皆敷地外へ移動させてください。」
言いながら、サチの手を取ってミナミの腕に触れさせる。
しかし、ミナミも動かなかった。
ミナミはユウジの手を握って、じりじりとルキヤから距離を取る。
「ルキヤさん……ごめんなさい。私……」
「ミナミ……これまであなたを育ててきた恩を、仇で返すのですか?いま私の手を離れたら、アザイ家の人間の手によって、あなた達も消される運命なのですよ?」
「そんな事、絶対にありえない!」
ナホとカホが、揃って声を上げた。
「こっちにおいでよ。…2人とも、ぜったいお父さんに、助けてもらうから。一緒にいこう?」
ナホがミナミに手を差し伸べるが、ミナミは躊躇する。
「ミナミ…今まで、アザイ家の人間を信じてはいけないと、あれ程忠告しましたよね。忘れたのですか?」
「ぜったい、大丈夫だから!…こっちにきて!!」
カホも、ルキヤを遮るように呼びかける。
「…もういい。私の術ではサチの大きく精神を削ってしまうからなるべく避けたかったが、お前達が私を裏切るなら、自分でやるしかないな。」
間髪入れずに、サチを抱き抱えたまま、ルキヤはまた術を発動する。
再び、周囲を暗闇が包み込み、皆が気絶した。
しかし、先ほど術を一度破ったタイチは、すぐに意識を浮上させる。
目を覚ますと、ルキヤが自分に向かってナイフを振り上げているのが見えた。
「……っ!!」
咄嗟に防御態勢を取る。腕に深い切り傷ができたが、致命傷は免れた。
周りを見回すと、マサヤとナホカホはまだ倒れている。サチも、再び意識を失って、地面に倒れている。
それを確認するなり、タイチは瞬時にルキヤに向かって攻撃を再開した。サチがルキヤから離れている、いましかチャンスがない。
ルキヤも咄嗟にシールドで防御するが、タイチの威力の方が圧倒的に凌駕しており、シールドに徐々にヒビが入っていく。
ルキヤはサチの方に向かって手を伸ばすが、直ちにタイチがサチの周囲にも正確にシールドを張ったため、弾き返された。
「な、に…!?」
攻撃の手を緩めず、遠隔防御も同時に行う。このようなオーラの使い分けは、タケルにもできない芸当だった。
タイチが、ゲンドウとの訓練で習得した技。決戦の時に、サチを守れるように。
「お姉ちゃんは、…返してもらう!!!」
タイチが特大のエネルギー弾をルキヤに向かって放つ。
が。
ルキヤの前に、ハルが飛び出して、盾になった。
ルキヤは目を剥く。
ハルはまともに衝撃を喰らい、数メートル吹き飛ばされて倒れ込む。
「…ハ、ル…っ」
ルキヤは急いでハルに近づく。
その間にタイチはサチに接近して、サチを抱きしめた。
「ハルっ、…なぜ、どうしてこんなことを…」
う、と小さく呻いて、ハルが力なくルキヤに微笑んだ。
「ルキヤさんは、俺たちの要だ。…ここから逃げて。あんたさえいれば、態勢はいくらでも、建て直せる、から……」
そして、ハルは意識を失った。




