第19話 初めての親子喧嘩
「タイチ。どういう事なのか、説明しなさい。」
タケルは、無機質な声で命じた。
「……父さん。お姉ちゃんをここに閉じ込めるのは、やっぱり間違ってる。だから、助けに来た。」
「そうか。
…当主命令に反した、と見なしていいんだな?」
「ち、がいます!タイチは私をここから出そうなんてしてない、食べ物を差し入れしてくれただけです!」
サチが慌ててタイチを庇う。
はぁ、とタケルがため息をつく。
「これは、サチを守るためなんだ。
タイチ、サチが【ゼロ】に拉致されてもいいのか?」
「…いいわけない!でも、ここに閉じ込めなくても、お姉ちゃんを守れるはずだ!」
「お前は何も分かってない。サチがあいつらに拉致されたら、どんな目に合わされるのか。
服を脱がされて、レイプされるだけじゃない。ひどい拷問を受けるかもしれない。それよりもっと酷いことだって…あいつらはやりかねない。」
サチは青ざめる。
「なんで……どうして、わたしを狙うの?」
タケルは、サチと目を合わそうとしない。
「…サチの本当の父親は、かつて【ゼロ】のリーダーだった。あいつらは、【ゼロ】が強大な力を持っていた頃の再興を目指してる。」
「でも、わたしを拉致しても、何の役にも立たないよ…?能力だって、ないし。」
タケルはかぶりを振った。
「…サチ。お母さんと同じ目に、合いたいのか?」
「…え?…」
「とにかく、これは当主命令だ。サチは、安全が確認できるまでここに閉じ込める。逆らうなら、処罰する」
「…父さん、僕はそれじゃ納得しない。ここじゃなくても、お姉ちゃんを守れる。
父さんは、お姉ちゃんがどんな気持ちなのか、どんな顔をしてるか、ちゃんと見てる?お姉ちゃんが、どれくらい悲しんでいるか、見て見ないフリをしてるんだろ。
…本当にこれが、父さんのしたい事なの?母さんもそれを、望んでいるの?」
タイチの言葉を聞いて、タケルから突如オーラが噴き出す。
「タイチ。お前は俺に意見できる立場ではない。
異論があるなら…
俺を倒してから言うんだな。」
声は、明らかな怒気を孕んでいる。
ジェスチャーで「外に出ろ」とタイチに命じる。タイチは立ち上がって、牢を出る。
「だめ、タイチ!!お父さんと戦わないで…お願い!!」
サチがタイチの腕を引っぱるが、タイチは「大丈夫だから」とサチを宥めて、サチを守るように前に立ちはだかった。
「タイチ。勇敢と無謀は別物なんだよ。…お前には、身を持って教えてあげた方がいいな。」
言うなり、ノータイムでタケルは無数の弾幕を同時に生成し、一斉にタイチに向かって攻撃を開始した。
タイチはすぐに反応して、攻撃があたる直前にシールドを作り出して跳ね返した。
「へぇ。さすが、おじいちゃん仕込みだな。」
タケルは涼しい顔をしながら、一切攻撃の手を緩めない。タイチは防御一辺倒で、反撃に転じる隙が全くない。
力の差は、残酷な程に見た目に明らかだった。
やがてタイチは避け損ねた攻撃を1発脚に喰らってしまい、顔を顰めてその場に屈み込む。
そこへ、タケルが一歩一歩近づいて行く。
「タイチ。もう終わりか?…それで、サチを守れると思ってるのか。」
「……っ、」
タケルがタイチに向かって右手を振り上げた、その時。
「……やめてっ!!!」
サチが、タイチを庇うように、タケルの前に立ちはだかった。
「………っ!!」
その光景を見て、タケルの攻撃の手が止まる。
かつて、ユキも全く同じように、タケルを攻撃から身を呈して庇った事があった。
その時の光景が、フラッシュバックする。
「……サチ。そこをどきなさい。」
サチは首を振る。
緊迫した空気が張り詰める。
と、
ブブッ、とバイブレーションの音が微かに響く。
争いの最中にタイチのスマホがポケットから床に落ちて、そこにメッセージが届いた通知が来たようだった。
サチは、そのスマホに手を伸ばす。
「…お姉ちゃん?」
スマホについているストラップを、サチは愛おしそうに撫でる。
あの日、3人で初めて出かけて、楽しかった記憶が蘇った。
「……お父さんも、お揃いのストラップ、ちゃんとつけてくれてる?」
サチはまっすぐ、タケルを見た。
「お父さんが、私の事、娘だと思ってなかったとしても…
私にとっては、お父さんはお父さんだよ。
今までも、これからも、ずっと。…」
「サチ……」
サチの目から、次々と涙が頬を伝う。
「お願いします。ちゃんと、お父さんの言いつけ通りにするから、…タイチを、ゆるしてください。
わたしは、ずっと、ここにいるから…」
嗚咽を漏らしながら、なおもタケルから目を逸らさない。
何かを堪えるような悲痛なサチの表情に、タケルはハッと我に帰る。
(俺はサチを、いつの間にこんなに追い詰めてしまっていたのか。)
タケルは久しぶりに真正面からサチと向き合って、呆然とした。
『お姉ちゃんがどんな気持ちなのか、どんな顔をしてるか、ちゃんと見てる?』
先ほどのタイチの言葉が、タケルの心に突き刺さる。
ユキ。ごめん。
…サチを幸せにするって、誓ったのに。
俺は………
「サチ………ごめん。」
タケルが一言、絞り出すように呟いた。
サチにゆっくり近づき、抱きしめる。
「本当に…悪かった。
サチは俺にとっても、大切な娘だよ。
今までも、これからも、ずっと。」




