第18話 今度は、僕がお姉ちゃんを助ける番
夜。
地下牢へ続く階段前で見張り番をしている分家の若衆2人に、ミオリが近づいていく。
「ご苦労様です。…これ、差し入れの夜食です。ずっとここに立ってると、お腹空きませんか?良かったらどうぞ。」
にこにこと愛想良く、おむすびがたくさん乗ったお皿を差し出す。
「これはこれは、サトルさんとこの…。お気遣いありがとうございます。」
「いえ。今回は、うちの娘達の予知がきっかけで、大騒動になってしまって…。」
流れるように、ミオリが雑談に持ち込む。見張りの2人はおむすびを頬張りながら、立ち話を始めた。
その隙に、茂みの中に身を潜めているマリが、見張り番の1人のズボンの後ろポケットから念動力を使って地下牢の鍵を奪う。
「訓練通りやればできる…はず。大丈夫大丈夫。」
マリは自らを奮い立たせて、集中する。
ミオリの話術のおかげもあって、見張り番に気づかれる事なく、そうっと鍵を奪取する事に成功した。
と、その時。
「母さんっ!!大変だ!!!ナホとカホが!!!」
マサヤが息を切らしながら、ミオリを呼びに来る。
「え!?マサヤ、どうしたの!?」
「とにかく来て!!ねぇ、おじさん達も!!」
「え?俺達も?」
「早く!!とにかく大変なんだ!!」
マサヤのあまりの剣幕に、見張り番の2人が何事かと持ち場を離れた一瞬の隙に、鍵を受け取ったタイチが地下牢への階段に忍び込む。
サチを誰が助け出すか、という話し合いの時に、タイチが真っ先に手を上げた。
最も見つかるリスクが高い役回りなのを承知の上で、この役目は自分しかできない、とタイチは考えていた。
そもそも部外者のアラタとマリにお願いする訳にはいかない。一方で、万が一マサヤやミオリが見つかってしまったら、当主命令違反でただでは済まない。
…処罰を受けるなら、家族である自分しかいない。
(お姉ちゃん…待ってて。今行くから。)
カツン、カツンと、誰かが階段を降りてくる音がした。
サチはビクッと身を縮める。
弟の、タイチだった。
「………!!タイ、チ……」
タイチは人差し指を立てて、シーッとサチを静めた。
「お姉ちゃん、助けに来たよ。」
小声でタイチが囁く。
「………」
サチが、声を殺して涙を流す。
怖くて、不安で、押しつぶされそうになっていた。
「お腹、空いてない?…これ。」
タイチが、ポケットから出した板チョコレートの包みを手渡す。
「……これ、」
「昔、お姉ちゃんも僕にくれたよね。…ずいぶん間が空いちゃったけど、お返し。いま解錠するから、食べてて。」
サチは、黙ってチョコレートを齧り始めた。その間に、マリが奪い取った鍵を使って、タイチは牢の鍵を開けた。タイチが中に入っていく。
「お姉ちゃん…ここを出よう。」
「………」
「お姉ちゃんの友達、来てるんだ。今日、遊ぶ約束だったんだろ。みんな、お姉ちゃんを待ってる。」
サチは、ゆっくり首を振る。
「……お父さんに、おこられる。」
タイチは、思わずサチを抱きしめた。
「父さんは、今ちょっとおかしい。お姉ちゃんをここに閉じ込めるなんて、やり過ぎなんだ。」
「……わたし、どうしてここに入れられたの。」
タイチは、双子の予知夢の事をサチに説明した。
「父さんは、お姉ちゃんを守るために、ここに入れたんだ。…でもそんなの、間違ってる。お姉ちゃんは何も悪い事してないのに、こんなとこいちゃダメだ。」
タイチが説得するが、サチは動こうとしない。
「…お姉ちゃん…?」
「タイチ。…お父さんは、ほんとに私の事守ろうとして、ここに入れたのかな?」
「……え?」
「私は、お父さんの本当の娘じゃない。」
タイチが、はっとサチの顔を見る。
サチも、知っていたのか…
「そしてお父さんは……私の本当のお父さんを、殺したのかもしれない。」
タイチは息を呑んだ。
「なん、だって…?」
「だから、お父さんは私の事、……本当は憎んでるのかも、しれない。」
サチは再びタイチから距離を取って、膝を抱え込んだ。
「だからタイチ。タイチまで、危険を冒さないで…。私がここにいれば、丸くおさまるんでしょ。
…大丈夫、お姉ちゃん、壁のシミが何に見えるかゲーム、得意だから。」
サチは、力なく笑って見せる。
タイチはしばらく黙り込んでいたが、再び姉に近づき、先程より強く抱きしめた。
「…タイチ…?」
「それが本当だったとしても……お姉ちゃんは何も悪い事してないのに、変わりはない。お姉ちゃんがここに入れられるのはおかしい。ミオリさんもそう言ってる。」
「……タイチ。お姉ちゃんには、アザイ家の血が流れてないのよ。私なんかのために、タイチが罰せられる事になったら……」
「でも、僕にとっては血を分けたお姉ちゃんだ。」
サチははっと顔を上げる。
「僕はお姉ちゃんの弟だ。今までも、これからもずっと。だからお姉ちゃんが困ってたら、助ける。
…今までは、お姉ちゃんに助けてもらってばかりだったけど、これからは僕が、全力でお姉ちゃんを守る。」
「タイチ…」
「お姉ちゃん。ここを出よう。
大丈夫。僕に任せて。」
サチは大粒の涙を流しながら、無言でタイチを抱きしめ返した。
その時。
カツン、カツンと階段を誰かが降りてきた。
サチとタイチは息を呑む。
現れたのは、タケルだった。




