第17話 地下牢からの救出作戦
サトルが家に帰ると、リビングに家族が全員集合していた。
ミオリが、震えるナホとカホの背中を優しくさすっている。
「お母さん…サチちゃん、大丈夫…?」
「…大丈夫。大丈夫よ。」
ミオリが双子を宥める。その傍に座っていたマサヤが、帰宅したサトルに気がついた。
「父さん。…本家、どうだった?サチ姉は?」
「ああ。……」
珍しく言い淀むサトルに、ミオリとマサヤは不審がる。
「…サトルさん?何か、あったの?」
はぁー、とひとつため息をついて、サトルが口を開く。
「ま、どーせすぐバレちゃうだろうから、言っとくけど……サチちゃん、今地下牢に入れられてる。」
「……え?」
「あそこが最強の守りだから、だとよ。…あいつ、いよいよトチ狂ってんな。」
チッ、とサトルが舌打ちをする。
「…おとう、さん。サチちゃん、閉じ込められてるの…?わたしたちの、せい?」
ナホがしゃくり上げながら、サトルに尋ねる。
「あー、違う違う。お前達のせいじゃない。っていうか、むしろナホとカホのおかげで、サチちゃん助けられるんだぞ。すげー能力だなぁ、さすが俺の娘達!」
サトルがナホとカホの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「…父さん。サチ姉を、助け出してあげられる?」
マサヤが尋ねる。
「いや…今は下手に動かない方がいい。逆に考えれば、サチちゃんの身の安全は保証されてる。当主命令に逆らうと、厄介な事になる…」
サチを、【ゼロ】に奪われる。
タケルがそれを心の底から恐れていると、サトルも分かっている。
かつて同じ状況で、タケルはユキをリヒトから守れなかった。
そのトラウマが、タケルから冷静さを奪っている。
今は、タケルを刺激しない方がいい。
サトルはそう判断した。
*****
いつの間にか、気を失っていたらしい。
サチは、薄暗い地下牢の中で目が覚めた。
鉄格子に手をかける。…しっかりと施錠されている。
周囲に誰かがいる気配はない。
あるのはただ暗闇と、静寂のみ。
サチは身を守るように膝を抱えて、顔を埋めた。
ふと、涙が溢れてくる。
お父さん。
どうして。
「こわいよ……ここ、嫌い。
お願い、出して……。」
その時、ふとサチの脳裏に、ある記憶が蘇った。
前にも、この地下牢に入れられた事がある。
…あれは、何歳の時?5歳か、6歳位だったか。
ゲンドウと、タケル。あともう1人、知らないひとがいた。
背中に、焼け付く様な痛み。
サチは泣き叫んだが、タケルは助けてくれなかった。
『これ、本当にあざ?誰かにつけられた痕、じゃない?』
マリの言葉を思い出す。
あれ?…あの時。
その知らないひとが、私の背中に、何かをした?
そこから先の記憶が、あいまいにぼやけている。
(あ…そういえば、今日マリとアラタを、家に呼んでたんだ。)
サチはふと思い出す。
もちろんスマホは手元にない。
わざわざ来てもらって、中に入れてもらえないなんて、2人に申し訳ないな…。心配かけちゃうかな。タイチとマサヤが、上手い事ごまかしてくれるかな?
…いや待て、そもそも、何で私って閉じ込められてるんだっけ?
お父さんは、何も言わずに私をここに放り込んだ。
私、何かやらかしちゃったかな?…いや、ここ最近は怒られるような事は何もしてない、はず。
それにお父さん、怒ってるっていうよりは、焦ってる、みたいな感じだった。
『サチ、ごめん。しばらくここにいて。』
目も合わせずに、最後にそれだけ言い置いて、タケルは去っていった。
何かが、起きたんだ。
おそらく、あのサングラスの男関連で。
いまのサチにできる事は、ひたすら不安と恐怖に耐えて、待ち続ける事だけだった。
*****
「……だめだ、サチに電話繋がらないな。」
アラタがスマホを切る。
マリとアラタは、アザイ家の前まで来て、文字通り門前払いを受けた。今日はお帰り下さい、と。
門の向こう側は、何となくバタバタと忙しない感じがした。…何かあったのだろうか?
「…サチ、大丈夫かな?」
マリが不安そうに呟く。
あ、そうだ、とアラタが何かを思いつき、再びスマホを操作し始めた。
「……もしもし、マサヤ君?」
「そうだった、今日はお姉ちゃんの友達が遊びに来る事になってたな…」
タイチは、マサヤの部屋にいた。
「どうする?…帰ってもらう?」
「そりゃ、帰ってもらうしかないだろ……」
言いかけてふと、タイチは昨日の嬉しそうな姉の表情を思い浮かべた。
そして今朝の、恐怖に怯える表情も。
「…いや、待って。2人に、入ってもらおう。」
タイチとマサヤの手引きで裏道から敷地内に忍び込んだマリとアラタは、マサヤの部屋で事情を聞いて、絶句した。
「サチパパ、何でそんな酷い事を…。やっぱ、おかしいよ!実の娘に指輪贈ったり、監禁したり…絶対、フツーじゃない!」
マリ以外の3人が、顔を見合わせる。
「……何?私、なんか変な事言った?」
「…タイチ君。マリにも、話していいか?」
アラタが尋ねると、こくん、とタイチが頷く。
アラタはマリに、これまでの事情をかいつまんで説明した。
「……サチとタイチ君は、異父きょうだいって事?サチパパは、ほんとのパパじゃない…?」
「そうだ。…サチの本当の父親は、テロ組織【ゼロ】のリヒト。サチのお父さんお母さんと、同じ学年だった。」
「サチは、その事、」
「…おそらく、知らないと思う。」
重い沈黙が、場を支配する。
「…どうして、そんな大事な事、私達に話してくれるの?」
マリが沈黙を破った。
「昨日、お姉ちゃん、2人が遊びに来るのを本当に楽しみにしてたんだ。……お姉ちゃんを、助けたい。でも、うちの大人達は頼りにならない。だから、味方を増やしたかった。」
タイチが、苦しそうに打ち明けた。マサヤが続ける。
「俺の父さんも、普段はタケルおじさんに意見する事も多いんだけど…今回の事に関しては、なぜか及び腰なんだ。大人達は、何かの事情でがんじがらめになっているみたいな…」
「……でも、助けるって、具体的にどうすれば?」
アラタの問いかけに、再び沈黙がおりる。
その時。
突然、ガチャっとドアが開いた。ミオリだった。
「!!!母さん…っ!?」
ミオリに内緒でマリとアラタを家に引き入れた事がバレて、マサヤは慌てる。
しかしミオリは、マリとアラタを見ても動じる事なく、話し始めた。
「…あんた達の話、外で盗み聞きしちゃった。ごめんね。」
一同が、はっと息を呑む。…ミオリに作戦がバレたら、サトルやタケルにも知られてしまう。万事休すだ。
しかし、ミオリは意外な提案をした。
「私も、あんた達の作戦に協力させてもらう。」
「……え!?」
一同、唖然とする。
「正直、サトルさんにはちょっとがっかりしたわ。何も悪い事してないサチちゃんが辛い想いをしてるのに、あんな事なかれ主義な男だったとは…」
ミオリが、はぁーとため息をつく。
「か、母さん…?」
「私はね。本当に、サチちゃんの事が大切なの。…実の娘と同じくらいに。だから、あんた達に乗る。」
こうして、サチ救出作戦会議が始まった。




