第16話 予知夢
家族3人で出かけた休日以降、タケルの仕事は急に多忙になり、家に帰らない日が多くなった。もともと家にいない事の方が多かったので、通常状態に戻ったとも言える。
そしてサチは、タケルと家で顔を合わせる機会が減った事に、内心ホッとしていた。
しかしタケルと入れ替わる様に、ゲンドウが家にいる事が多くなった。離れからちょこちょこ本邸に顔を出し、タイチの特訓も再開された。
夏休みが始まってからずっとサチにべったりくっついていたタイチだったが、ゲンドウの訓練の間はサチから離れざるを得なかった。
サチは、タイチの監視から逃れる時間が増えて安堵する一方で、1人でいると余計な考えが浮かんでしまい、不安が募るようになった。そのため、ますます頻繁にマサヤの家を訪れるようになった。
サチが時折微かに見せる物憂げな表情に、マサヤとミオリは気づいていた。
『リヒト』とは、誰なのか。
結局誰も、サチに教えてくれない。
…怖くて、聞くこともできない。
問題を先送りにしているだけだと、分かっていても。
「……サチちゃん、だいじょーぶ?」
カホが、サチの顔を心配そうに覗き込む。
「あ…ごめんごめん、ぼーっとしちゃってた。えーっと、私のフォロワーが50万人を突破した記念動画の撮影中、だったよね。」
「そうそう、ナホカホとコラボ企画!」
「…お前ら、何の遊びしてんだ…。」
マサヤが呆れる。
「サチちゃん、いっつも双子と遊んでもらっちゃって、悪いわねぇ…。小さい子達と遊んでばかりじゃ、つまらないでしょ。せっかく夏休みだし、お友達と遊びに行ってきたら?」
ミオリが提案する。
「友達と…」
マリとお茶した帰りに、タケルに平手打ちされた事を思い出して、サチは首を振った。
「…外に出かけると、お父さんとタイチが心配するから。」
「……そう……」
「あ、じゃあさ、アラタさんとマリさんに、家に遊びにきてもらったら?」
今度は、マサヤが提案する。
「え!?2人を…?」
「本家が無理でもさ、ウチならいいでしょ?母さん」
「うーん…いいわよと言いたい所だけど、一応部外者を敷地内に招くなら、ご当主の許可は取っとかないと。」
ミオリが腕組みをする。
「お父さん、の…」
サチの表情が明らかに曇ったのを見て、ミオリは「ヨシ!」と呟いた後に、スマホを取り出してどこかに電話をかけ始めた。
「…もしもし?あ、サトルさん?仕事中にごめんね、今大丈夫?あのさ、近くにタケルっている?」
「……っ!?ミオリさん!?」
「あ、いる?じゃちょっと聞いてほしいんだけどさ、今度サチちゃん、お友達をウチに連れてきてもいいかって。……あ、OK?ありがとうー、用件はそれだけです。お仕事お疲れさま。」
スマホを切って、ミオリがサチにウインクした。
「許可下りたよ。お友達に、声かけておいで。」
*****
家に友達を呼ぶなんて、サチの人生で初めての経験だった。
マリとアラタは、普段謎のベールに包まれているアザイ家に招待されるや否や、2つ返事で「行く!!」と返した。
日程調整の結果8月初めの日に決まり、念のためにタケルにもメッセージで知らせると、「分かった。その日は俺も家に帰るよ。サチの友達に、挨拶したいから。」と返事があった。
あっという間に、約束の日が来た。
前日、サチはソワソワと自室の掃除をしながら、終始落ち着かない様子だった。タイチが「お姉ちゃん、緊張しすぎ…」と呆れる程に。ただ、ここ最近は暗い顔が多かったサチが嬉しそうにしているのが、タイチも嬉しかった。
サチは楽しみすぎて夜もなかなか寝付けなかったが、日付が変わる前には眠りについた。そして日付が変わった深夜に、仕事を終えたタケルが本家に帰宅した。
事件は、夜明け前の4時半頃に起きた。
ナホとカホの予知能力が、同時に発現した。
ナホとカホはいつも1つのベッドで寝ているが、その時同じ夢を見て、同じタイミングで飛び起きた。
お互いに顔を見合わせて、すぐに両親の部屋へ向かう。
就寝中だったところを起こされたサトルとミオリは、顔面蒼白な双子の様子に驚く。そして2人が語る内容に、さらに驚愕した。
サチが、見知らぬ男達に連れ去られる。
そして、どこか薄暗い場所でその男達に取り囲まれて、服を脱がされる。
その光景を視た、と双子は語った。
双子はこれまで予知能力を発揮した事はなく、これが初めての予知夢だった。2人からはオーラが溢れ出しており、能力が発現した事に間違いはなさそうだった。
しかしその予知夢がいつ起きる事なのか、全くわからない。…もしかしたら、今日かもしれない。
サトルはすぐに、タケルに電話をかけた。
話を聞くなり、タケルはサトルに、直ちに分家全員に緊急招集の伝達を依頼した。
そして電話を切ると、真っ直ぐにサチの部屋に向かった。
サチはまだ、眠っていた。
タケルが突然ドアを開けた音で、ビクッと驚いて目を覚ます。
「……お、とう、さん…?」
寝ぼけた様子のサチに構わず、タケルは無言でベッドに近寄り、サチを担ぎ上げた。
「…えっ?やだっ、なにするの…!?」
サチは必死でもがく。タケルは返事をしない。
「やだ、やだっ!!!離して!!!」
物音を聞きつけてやって来た使用人達に、タケルが何かを耳打ちする。そこへ、タイチもやって来た。
「タイチ、助けて…っ…お父さん、やめて!!」
「…父さん!?何してるんだよ、」
タイチが止めに入ろうとするが、タケルが瞬時にオーラで具現化した鎖で腕を縛られてしまう。
「いやぁ…っ!!離してっ!!…」
一言も発しないまま、タケルはサチを抱えて離れに連れ去った。
何とか鎖を外して後を追いかけたタイチは、姉が離れの地下牢に閉じ込められた事を知った。
「とう、さん……何で…!?」
地下牢に続く階段を上ってきたタケルに、タイチが詰め寄る。
「…サチを、守るためだ。」
ようやく、タケルが口を開いた。
「守る…?何言って…」
「ナホとカホが、予知夢を見た。サチが何者かに拉致される、と。」
タイチは絶句した。
「あの地下牢は、守りが堅牢だ。入り口は1箇所だけで、結界も張ってある。…この敷地内で、最も安全な場所だ。」
「…でも、だからって…!」
タケルが、タイチを狂気の宿った瞳で見据える。
「これは、当主命令だ。
あの地下牢には、俺以外入るな。
…分かったな?」
5時過ぎ。
夜明けが近づき、少しずつ明るくなり始めた頃、分家からの代表者が本家に集められ、緊急会議が開かれた。
タケルが切り出す。
「今朝、突然ナホとカホが同時に予知能力を発現した。内容は、数人の男達によりサチが拉致されて、どこかで身ぐるみ剥がされる。おじさん、それで間違いないね?」
「…ああ。」
サトルが返事をする。
「おそらく敵はテロ組織【ゼロ】だ。サチがアザイ家にいる限り、アザイ家自体が攻撃を受ける可能性がある。攻撃を受けたら、直ちに臨戦態勢に入るぞ。」
「当主!1つ質問が」
「何だ?」
「ナホとカホの予知能力は、本当に信憑性があるのでしょうか?そもそも、我々アザイ家には予知能力者はあまり出た事がない。」
「ナホとカホの母方の祖母は、予知能力者だ。それに、これまでアザイ家に予知能力者が全くいなかった訳ではない。また、双子が同時に同じ予知夢を見ている点も、根拠になる。
…そしてこれは極秘事項だが、【ゼロ】の残党の活動がここ数日で急に活発化しているのも、紛れもない事実だ。」
しぃん、と水を打ったように静まり返る。
「しかし、いつ攻撃してくるか分からないとなると、対策が…」
「ひとまず、ローテーションで常に見張りをつける。その他の者も、常に臨戦態勢を取れる様準備しろ。…それから防御者は、攻撃が始まったら協力して敷地全体に結界を。各自、持ち場を確認しておけ。」
「はい!」
タケルの澱みない指揮が続き、ひと通り状況を確認した上で、一度解散となる。
分家の代表者達が退席した後、タケルとゲンドウ、サトルの3人だけが残った。
「ナホとカホは、どうしてる?」
「…ずいぶん、怯えてる。いま、ミオリが宥めてる。新しい情報が入ったら、すぐ知らせるわ。」
タケルが頷く。
「タケル。…サチは、どうするつもりだ。」
ゲンドウが問う。
「地下牢に閉じ込めてる。」
サトルがはっと顔を上げる。
「なんで…そこまでしなくてもいいだろ…!?」
「おじさん。この件に関しては、口を出さないでくれ。当主命令だ。」
「私も、地下牢の幽閉に賛成だ。…サトル、部外者は黙っていなさい。」
ゲンドウも同調する。
サトルはため息をついて、天井を仰いだ。
この後の展開に悩んでしまい、投稿の間隔が空いてしまいました。申し訳ありません。
設定に矛盾を見つけても、どうぞ温かく見守って下さい…。




