第13話 多忙な父の家族サービス
「たまには、3人でどこかに出かけようか。」
朝食の席で、突然タケルが提案した。
サチとタイチは、目を見合わせる。
「出かけるって…どういう意味?」
「いや、せっかく2人がお休みで帰ってきてるから、家族で遊びに行こうって事、だけど…」
「……えぇ!!?」
たまにどころか、これまでタケルが2人をどこかに連れて行ってくれた事など、1度もない。
一体どういう風の吹き回し…?
「でも、お父さん、忙しいんじゃ…」
「そうだな…でも、これからもっと忙しくなりそうだから。その前に、今度の休日にでも時間作るよ。
どっか行きたい所、あるか?」
「僕は、お姉ちゃんがいればどこでも。」
タイチは、安定のシスコン発言。
「サチはどう?夏だし、海とかプールとか。」
「う、海!?プール!!??」
タケルの口から、そんな楽しそうなワードが飛び出るとは。サチは嬉しさを通り越して、戸惑う。
「あ、でも私、水着とか持ってないし…」
「海とかプールはだめ。お姉ちゃんの水着姿を他の男達に晒すなんて、あり得ない。」
どこでもいいんじゃないんかい!とサチが心の中でつっこむ。
「じゃあ、遊園地とか、映画とかか?最近何が流行ってるのか、全然知らないけど。」
「…お、お父さん、って、遊園地とか映画とか、行った事あるの…?」
サチがおずおずと尋ねる。
「…サチ。お父さんの事を、何だと思ってるんだ。昔はお母さんと、よくデートで色んな所に行ったよ。」
タケルがユキの昔の話をするのは、珍しい事だった。
「へぇ!そうなんだ!!お父さんの青春って、訓練しかしてないのかと思ってた。」
あはは、とサチが笑う。
タケルはさりげなくディスられているにも関わらず、サチの笑顔を見て、嬉しそうだった。
「じゃ、今度の休みの日までに、どこ行きたいか考えといて。」
*****
「へぇ、タケルがそんな事をねぇ…。」
ミオリが、サチとタイチに麦茶を出しながら言った。
2人はまたもや、マサヤの家に入り浸っていた。
「うん。…お父さん、今朝は前みたいに、ニコニコしてて優しかった。」
そう、と呟いて、ミオリは目を細めた。
「それにしても、サチちゃんはともかく、タイチくんがこんなにうちに遊びに来てくれるのは嬉しいわねぇ。マサヤも嬉しいでしょ。」
「…別に、嬉しいとかじゃないし。てか確かにお前、最近ゲンドウ校長の特訓、ないのか?」
「そうなんだよな。なんかじーちゃんも忙しそう、あんま家にいないっぽい。」
「そうなん。ラッキーじゃん。今のうちにいっぱい遊んどけよ。」
「僕には、お姉ちゃんを守るっていう責務があるから、遊んでいられない。」
「……あっそ。」
そこへ、ナホとカホが2階から降りてくる。
「サチちゃんー、私たちとあそぼ!」
「ナホちゃんカホちゃん、いいよー、あそぼっか。何する?」
「じゃあ、インフルエンサーごっこしよ!!サチちゃんはフォロワー1万人ね!ナホとカホは、10万人!」
「………ん?…う、うん。」
双子に誘われて、サチが2階の子供部屋に向かう。
タイチもサチについて行こうとしたが、「タイチくんは、だめー!」とナホに制されてしまった。
「ま、ウチの中にいる間は、流石にサチ姉も安全だろ。…タイチ、ちょっと俺の部屋に来いよ。」
マサヤの部屋で、2人でローテーブルを挟んで向かい合って座る。しばらく沈黙がおりた後に、マサヤが話し始めた。
「…【ゼロ】の、リヒトっていう人。そいつが、たぶんサチ姉の、本当の父親だろ。」
リヒトの、忘れ形見。
言葉通りに解釈すれば、リヒトの子供、という事だろう。
「問題は、そのリヒトって人と母さんの関係だ。…何でテロ組織の人間と母さんの間に、お姉ちゃんが産まれたのか。」
「お前の母さんって、もしかして…もともとテロ組織に属していたとか?」
「それだと、うちの父さんと完全に敵対してた事になるけど…そんな話は聞いた事ないな。」
そうだよなぁ…、とマサヤは独り言のように呟きながら、テーブルの上の新聞記事のコピーを何気なく手に取る。
「……あれ?」
「何?」
「いや……俺よく知らないけど、サチ姉ってもしかして、この無差別テロ事件のあたりでできたんじゃ?」
「は?」
「いや、だからさ…何かの本で読んだけど、ヒトの赤ちゃんは十月十日、お腹の中で育つんだろ。誕生日から逆算すると、この事件のあたりじゃね?」
「…どういう意味?」
「いや、…意味とかは分かんねーけど…つまり、お前の母さん、この事件の時にテロの主犯格と会ってたって事?」
子供はコウノトリが連れてくるのではない事くらい、2人はもう知識として知っていた。
…何となく、嫌な予感がする。
「とにかく、お姉ちゃんにはこの事を、絶対に知られないようにしないと…。父親が大量殺人犯のテロリストだなんて…、」
「ターイーチ!そろそろ帰るよー」
トントン、と扉をノックする音と共に、サチが声をかけた。
タイチとマサヤは、思わずビクッとする。
「……また、メッセージ送る。」
そう小さく言い置いて、タイチはマサヤの部屋を出た。
タイチが去った後、マサヤは1人ベッドの上に仰向けになって、ぼんやり天井を見つめていた。
サチの父親。
テロ組織【ゼロ】の、リヒト。
確証はないが、おそらく幹部レベルの、重要人物だったのだろう。
リヒト……
この名前を、マサヤは以前どこかで見かけた事がある気がしていた。
どこだっただろう。
おそらくリヒトも、能力者だったのだろう。…アカデミー関係者か?
マサヤはがばりと起き上がり、書庫から持ち出してきた古いアカデミーの卒業名簿を取り出す。
……リヒトの名前は、ない。ただし、この古い名簿に載っているのは20年前の卒業生までで、それ以降の卒業生は別冊になっているようだった。
サチのお母さんとの間に子供ができる仲という事は、年齢もそう離れてはいない可能性が高い。
最近の卒業名簿が確実にあるとすれば…アカデミーの図書館だ。
マサヤは少し考えた後、タイチにメッセージを打った。
*****
本家に帰ってきたサチは、タイチの目を盗んで、奥座敷に向かった。
確かめたい事があった。
「お母さん、…入るね。」
声をかけて、すぅっと襖を開ける。
ユキは、いつもの座椅子に座っていた。
「お母さん…あのね。
こないだの誕生日に、お父さんが指輪をくれたんだけど……
何だか、お母さんの指輪に、似てる気がするんだ。」
サチは一息ついた後、続けた。
「お母さんの指輪、見てもいい?」
ゆっくりと、ユキの左手を取る。
ユキの左手の薬指に、指輪はなかった。




