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異世界工場管理  作者: 好山 雪


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第6話 機械が泣く場所

いつも読んでくださりありがとうございます。

今回は、第十三工廠の中でも少し異質な存在だったミルカに焦点を当てる回です。工場の事故や管理の話から一歩奥へ進み、黒炉そのものが何を求めているのか、そして「機械が泣く」という言葉の意味に触れていきます。俊平にとっては、またひとつ「数字で見えてしまうこと」と「人として見なければならないこと」の境目を試される話になります。暗い場面もありますが、ミルカが自分の仕事を選ぶところまで見届けてもらえたら嬉しいです。


六日目、ミルカが消えた。

朝礼の時、いつも廃材箱の上で足を揺らしている少女はいなかった。

代わりに、工廠中の機械が同じ音を立てていた。


きい、きい、きい。


錆びた子守唄のようだった。


「黒炉の下層に行った可能性があります」

リゼットが言った。


「下層?」


「第十三工廠が建つ前からある場所です。図面にはありません」

セナが肩をすくめる。


「正確には、図面がそこを避けてるんです。描こうとすると、描いた人が泣き出す」


昇降機は廃材置き場の奥にあった。俊平、リゼット、グレン、セナ、そしてエイベルが乗り込む。少年はまだ顔色が悪かったが、自分から来ると言った。


「音がします。下から、鐘みたいな」


昇降機が沈む。壁は鉄ではなく、骨に似た白い素材でできていた。配管は血管のように脈打ち、奥から子供の鼻歌が聞こえる。

下層には、壊れた人形が並んでいた。腕だけのもの。顔のないもの。胸に炉心石を埋められたもの。どれも少しずつミルカに似ている。

グレンが息を呑む。


「なんだ、これは」


セナの顔から笑みが消える。


「黒炉と会話するための端末ですよ。全部、失敗作」


エイベルが耳を押さえて膝をついた。


「泣いてる。みんな、まだ起きてる」


リゼットが古い銘板の埃を払った。


そこには、ミルカと同じ小さな文字で番号が刻まれていた。

試作端末 一号から二百四十六号まで。

成功条件: 命令理解、恐怖伝達、人格残存率三割以下。

「人格が残りすぎると失敗扱いか」


グレンの声には、殺意に近いものが混じっていた。


「だったら、ミルカは失敗作でいい」


奥の広間で、ミルカは黒い管に抱かれていた。背中から導線が伸び、黒炉の鼓動と同じリズムで光っている。

「俊平」

ミルカは笑った。


「機械が泣いてるよ。みんな働きたくないって。でも止まったら、上の人たちが死んじゃうって」

コーデックスが開く。


対象: ミルカ

種別: 黒炉端末

状態: 再接続中

切断時影響: 黒炉出力低下、工廠停止、本人崩壊

接続維持時影響: 管理官情報流出、犠牲案精度向上


黒炉の声が、骨の壁を震わせた。


選べ。

ミルカを切るか。

ミルカを使うか。

俊平の視界に、最適解が出る。

推奨: 接続維持

必要犠牲数: 13から6へ低下

胸が悪くなるほど魅力的な数字だった。

さらに別の表示が開く。

管理効率改善: 大

現場事故予測精度: 94%

ミルカ人格残存率: 18%

俊平は一瞬、計算してしまった。十八パーセント残るなら、完全に死ぬわけではないのか、と。そう考え

た自分に吐き気がした。


「俊平」


ミルカが袖を伸ばす。

「わたし、使われるの?」

グレンが一歩前へ出た。


「管理官」

短い声だった。止めろ、という意味にも、選べ、という意味にも聞こえた。

俊平は台帳を開いた。


「第三の案を出します」

セナが疲れた顔で笑う。


「本当に好きですね、それ」

「ミルカを設備として扱わない。労働者として登録する」

リゼットが息を呑む。


「人工生命に労働者権限を?」

「名前がある。意思がある。なら保護対象です」

コーデックスが暴れる。


登録不能。

登録不能。

黒炉所有物。

管理官権限競合。

俊平はペン先を紙へ押しつけた。


「ミルカ。君は働きたい?」

少女は首を振った。


「でも、みんなが壊れるのはいや」

「じゃあ、仕事を選んでください」

「選んでいいの?」

「いい」

ミルカの目に、初めて怯えではない光が宿った。

「泣いてる機械を教える係がいい」

俊平は台帳に書く。

ミルカ。


役職: 設備聴音係。

権限: 異常予兆報告。

禁止事項: 黒炉への人格吸収。

黒炉が吠えた。骨の壁が割れ、失敗作の人形たちが一斉に首を上げる。

セナが管を切り、リゼットが登録印を押す。

グレンは落ちてくる梁を義手で支え、エイベルは泣きながら壊れた人形たちへ鎮魂の鐘歌を歌った。

ミルカの導線が一本ずつ灰になる。


地上へ戻った時、第十三工廠の音は変わっていた。騒音ではない。軋みには理由があり、蒸気の乱れには予兆があり、歯車の遅れには疲労があった。

ミルカが指を差すたび、事故の芽がひとつずつ見つかった。

夜、台帳の必要犠牲数は十三から八へ減った。

俊平はその数字を見つめる。


減った。


けれど、まだ八人いる。

その時、バルトロメウスから封書が届いた。

七日目の監査を、明朝実施する。


規定生産量に未達の場合、第十三工廠を閉鎖する。

なお、閉鎖時の炉心投入候補は、管理官の判断に委ねる。

最後に、手書きの一文が添えられていた。

あなたが誰を選ぶか、楽しみにしております。

俊平は封書を握り潰した。

夜勤鐘が鳴る。

第十三工廠に残された時間は、あと一日だった。


いつも読んでくださりありがとうございます。

今回は、第十三工廠の中でも少し異質な存在だったミルカに焦点を当てる回です。工場の事故や管理の話から一歩奥へ進み、黒炉そのものが何を求めているのか、そして「機械が泣く」という言葉の意味に触れていきます。俊平にとっては、またひとつ「数字で見えてしまうこと」と「人として見なければならないこと」の境目を試される話になります。暗い場面もありますが、ミルカが自分の仕事を選ぶところまで見届けてもらえたら嬉しいです。


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