表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界工場管理  作者: 好山 雪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/9

第5話 密閉検査室

五日目、セナ・イオリスが殺されかけた。

場所は第三検査室。内側から鍵がかかり、窓はなく、通気口には封印符。室内にはセナ、壊れた通信水晶、毒を吐く検査機、そして床に倒れた検査員が一人。

セナは扉越しに笑った。

「密室殺人ってやつですね。僕、まだ死んでませんけど」

「黙って呼吸を浅くしてください」


俊平は扉の小窓から室内を見た。毒霧は床を這い、検査機の脇で青白く光っている。コーデックスの表示は乱れていた。

通信痕跡: 外部

毒性濃度: 上昇中

犯人候補: セナ・イオリス 54%、不明 46%

グレンが扉を殴る。

「壊すぞ」

「壊したら毒が廊下へ出ます」

リゼットが鍵束を確認する。

「第三検査室の鍵は三本。私、セナ、検査員エイベルが所持」

「エイベル?」

倒れている検査員の名だ。十五歳。処刑予定者二十九人の一人で、鐘楼街から来た少年。耳が異常に良く、検査機の異音を聞き分ける技能があった。

コーデックスが少年の情報を開く。


対象: エイベル・灰鐘

状態: 仮死偽装

忠誠対象: 不明

恐怖対象: ヴェイン商会


「生きています」

俊平が言うと、室内で少年の指がぴくりと動いた。

セナが咳き込みながら呟く。

「ああ、ばれた。エイベル君、逃げるなら今だよ」

廊下が静まり返る。

グレンの義手が鳴った。

「セナ。お前、知ってたのか」

「半分だけ」

「半分とは便利な言葉だな」

セナは毒霧の中で肩をすくめた。

「僕はエイベル君が何かを運ばされているのは知っていました。でも、誰に脅されているかまでは知らなかった。知ろうとすれば、彼はもっと早く殺されていたでしょう」

「言い訳に聞こえる」

「言い訳ですよ。裏切り者にも、自己弁護くらいは必要です」

俊平は通信水晶を見る。砕けた表面に、敵国の紋章が一瞬浮かんだ。

「セナさん。あなたは外部と通信していましたね」

「してました」

あまりに簡単な肯定だった。


「この都市は戦争を終わらせる気がない。勝ちすぎれば補給を絞り、負けすぎれば欠陥品を流す。黒炉は平和が嫌いなんです。だから僕は情報を流した。均衡を壊すために」

「そのせいで死ぬ人もいる」

「このままでも死にます」

俊平は唇を噛んだ。

セナの理屈は嫌だった。

嫌なのに、完全には否定できなかった。

リゼットが俊平の横で低く言う。

「管理官。彼を庇えば、あなたも外患協力者として処分対象になります」

「庇いません」

「では?」

「処分する前に、使える情報を全部吐かせます」

セナが扉の向こうで吹き出した。

「ひどい。僕、けっこう傷ついてます」

「生きているから傷つけます」

室内でエイベルが跳ね起きる。彼は通信水晶を踏み砕こうとした。

「ごめんなさい、管理官さん」

少年の声は震えていた。

「妹が、商会にいるんです。僕が失敗したら、炉心石にされる」

マルタ・ヴェイン。

俊平の頭に赤い外套の女が浮かぶ。

「リゼットさん、封印符を一枚だけ剥がしてください。グレンさん、鎖を」

「扉は開けないのか」

「開けません。全員助けます」

「欲張りだな」

「管理表にない損失は嫌いです」

リゼットが符を剥がし、細い隙間から記録針を滑り込ませる。グレンの鎖が小窓を割って走り、エイベルの足首に絡む。セナは笑いながら検査機へ身体をぶつけ、毒霧の噴出口を自分の背中で塞いだ。

「僕も少しくらい働きますよ」

毒抜きが終わった時、セナは床に座り込み、エイベルは泣きながら妹の名を繰り返していた。

「セナさん」

俊平は言った。

「通信の件は保留にします」

「甘いですね」

「違います。あなたの裏切りを、管理下に置く」

セナはしばらく俊平を見て、それから乾いた声で笑った。

「信頼より逃げにくいな、それ」

その夜、俊平は新しい帳票を作った。

外部通信。目的。影響。許可条件。裏切り発生時の損失見積。

リゼットがそれを見て言った。

「裏切りまで帳票化する管理官は初めてです」

「僕も初めてです」

机の上で、黒炉の台帳がひとりでに開いた。必要犠牲数は十七から十三へ減っている。

俊平は喜べなかった。

数字が減るたびに、自分が何かを差し出している気がした。

廊下では、エイベルが毛布に包まれて震えていた。

「妹を助けてくれますか」

「約束はできません」

俊平は正直に言った。

少年の目から、期待が消えかける。

「でも、探します。約束できる形にするために」

それは慰めではなく、工程だった。俊平は自分の言葉がどんどん冷たくなっていくのを感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ