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異世界工場管理  作者: 好山 雪


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## 第4話 黒炉祭



四日目、第十三工廠の煙突には弔旗が掛かっていた。


だが黒炉都市ラグナの中央広場では、祭りが始まっていた。黄金の灯火、竜骨の舞台、香辛料をまぶした肉、砂糖菓子を握る子供たち。楽隊は明るい曲を鳴らし、貴族たちは白い仮面で笑っている。


同じ都市とは思えなかった。


「黒炉祭です」


バルトロメウスは白手袋の指で広場を示した。


「市民は黒炉へ感謝を捧げます。痛みも恐怖も、こうして美しく包めば文化になる」


「工廠は納期遅延中です」


「だからこそ参列するのです。政治とは、遅延を儀式で隠す技術ですから」


俊平は返事をしなかった。広場の奥では、新兵たちが行進している。彼らの胸甲には第十三工廠の刻印があった。回収命令を出したはずの製品だ。


コーデックスが赤く点滅する。


製品欠陥率: 31%

戦場生存率: 18%

怨霊化危険: 高


「あれは出荷停止にしたはずです」


「軍令が優先されました」


声を返したのは、豪奢な赤い外套の女だった。年齢は三十前後。金の髪を短く切り、唇だけが血のように赤い。


「マルタ・ヴェイン。ヴェイン軍需商会の代表です。第十三工廠の不足分は、当商会が補っています」


俊平の視界に、彼女の情報が浮かぶ。


対象: マルタ・ヴェイン

契約数: 438件

利益率: 異常

隠し事: 高

第十三工廠閉鎖時利益: 大


「閉鎖された方が儲かるんですね」


マルタは笑った。


「管理官様は数字が見えると聞きました。本当のようで」


「商会は味方ではない、と」


「味方ですよ。あなたが工廠を生かす限りは」


マルタは白い仮面の貴族たちへ視線を流した。


「ただ、都市は善意では動きません。血を流す者、血を買う者、血の値段を決める者。その三者が揃って初めて、黒炉は静かに燃える。あなたは今のところ、血を流す者の側に立っている。珍しい管理官です」


「褒めているんですか」


「値踏みです」


その時、壇上の軍務卿が声を張り上げた。


「出征を祝え。兵士は死を恐れず、黒炉は彼らの勇気を糧とする」


母親らしい女性が、少年兵の肩を抱いて泣いていた。楽隊の音が大きくなり、その泣き声を塗りつぶす。


俊平は行進の前へ出た。


「管理官権限により、その甲冑の使用を停止します」


広場が凍りつく。槍が向けられた。軍務卿が壇上から睨む。


「工廠の小役人が、軍を止めるか」


「欠陥品を着せれば、前線で兵士が死にます」


「兵士は死ぬものだ」


俊平の中で、何かが静かに冷えた。


「では支給順を変えましょう」


コーデックスの表示を広場の空へ投影する。赤く染まった甲冑、欠陥率、生存率。貴族席から悲鳴が上がった。


「危険度の高いものから、軍務卿閣下と上級将校の護衛部隊へ支給します。兵士は死ぬものなら、指揮官の近くで死ぬ方が戦況把握に役立ちます」


軍務卿の顔が朱に染まる。


マルタだけが拍手した。


「見事です。ですが、敵を増やしましたね」


「味方は増えましたか」


「新兵の母親たちが、あなたの名を覚えました。貴族たちは、あなたの首の値段を相談しています」


出征は半日延期された。完全な勝利ではない。俊平たちは祭りの裏で回収可能な甲冑を工廠へ戻した。だが、その間にヴェイン商会の荷馬車が第十三工廠の裏門へ入り込んでいた。


積まれていたのは、正規品より安い鎮魂符。


リゼットが一枚を裂くと、中から灰色の髪がこぼれた。


「これは鎮魂符ではありません。死刑囚の記憶を薄く削って貼ったものです」


「使えば?」


「一時的に怨霊は静まります。代わりに、使った者の罪悪感を黒炉へ流します」


マルタは悪びれない。


「必要でしょう? あなたの工廠は納期に追われている」


俊平は符を見た。使えば工程は戻る。使わなければ明日の監査に間に合わない。


コーデックスは冷たく告げる。


推奨: 使用

必要犠牲数: 17から11へ低下


「買いません」


マルタの笑みが薄くなる。


「理想だけで工場は回りませんよ」


「わかっています」


俊平は鎮魂符を返した。


「だから、これは理想ではなく不良品判定です」


その夜、工廠の倉庫で火災が起きた。燃えたのは回収した甲冑の保管区画だけだった。


壁に、赤い口紅で文字が書かれていた。


納期を守れ、管理官。


遠くで黒炉が祭りの太鼓のように鳴った。


火災の跡で、グレンが煤を握りしめた。


「身内の手引きがある。裏門の鎖は内側から外されていた」


リゼットは無言で記録簿を閉じる。そこには夜勤者の名が並んでいた。処刑を延期された二十九人のうち、三人が消えている。


俊平は焼け残った甲冑を見た。内部の怨霊は、まだ小さく爪を立てている。


味方にしたはずの者が、もう誰かに買われていた。

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