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偽聖女と追放された真の聖女ですが、規格外の魔力が開花して氷の王に溺愛されています〜祖国が滅んでも絶対に戻りません~  作者: 黒崎隼人


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第6話「大地の声」

 朝の澄み切った空気が、広大な草原を通り抜けていく。

 王城の門から馬車で数時間ほど離れた場所にある、グラシエール帝国の農耕地帯。

 しかし、目の前に広がるのは豊かな畑ではなく、ひび割れた灰色の土と、冷たい風に吹きすさぶ荒野だった。

 リアナは厚手の外套に身を包み、アルヴィドと共にその荒れ果てた大地を見下ろす丘の上に立っていた。

 ルティは彼女の足元で、風を避けるように丸まっている。


「ここが、我が国で最も土壌が死に絶えている地域だ」


 アルヴィドの低い声が、風の音に混じって耳に届く。


「長年、民たちはこの痩せた土地を耕し、わずかな収穫で飢えをしのいできた。だが、年々寒さは厳しさを増し、もはやクワを入れることさえ困難になっている」


 彼の横顔には、国を背負う王としての苦悩と、民を思う深い憂慮が刻まれていた。

 リアナは視線を落とし、足元の土を踏みしめた。

 靴の裏から伝わってくるのは、岩のように硬く冷たい感触。

 だが、その奥深くから、微かに、本当に微かに、命の脈動が聞こえてくる。

 それは、中庭の土よりもずっと弱々しく、今にも途絶えてしまいそうな声だった。


『苦しい、寒い、助けて……』


 土の下で眠る微小な命たちが、必死に助けを求めている。

 リアナの胸が、ぎゅっと締め付けられた。

 ソルスティス王国で、彼女の力が当たり前のように搾取され、誰からも感謝されなかった日々。

 だが、この国の人々は違う。

 アルヴィドは彼女の力を尊び、民は過酷な環境でも生き抜こうと必死に足掻いている。

 自分が持っているこの力が、彼らの助けになるのなら。

 リアナはアルヴィドを見上げた。


「私に、やらせてください」


 その声には、迷いがなかった。

 アルヴィドは一瞬驚いたように目を見張ったが、すぐに静かに頷いた。


「無理はするな。お前の体が第一だ」


 その言葉が、リアナの背中を力強く押してくれた。

 リアナは丘を下り、荒野の中央へと歩みを進めた。

 風が強くなり、銀色の髪が激しく煽られる。

 彼女は足を止め、ゆっくりと膝をついた。

 手袋を外し、両手の平をひび割れた土に直接触れさせる。

 氷のように冷たい土の感触が、肌を刺す。

 リアナは目を閉じ、意識を土の奥深くまで沈めていった。

 自分の内にある魔力の泉に触れ、その封印を完全に解き放つ。

 ソルスティス王国にいた頃は、常に力を抑え込み、目立たないように小出しにするしかなかった。

 だが、今はもう制限する必要はない。

 ドクン、と心臓が大きく鳴る。

 それに呼応するように、リアナの体から膨大な魔力が溢れ出した。

 彼女の指先から流れ出た魔力は、金色の光の奔流となって、放射状に荒野へと広がっていく。

 光が触れた場所から、土の色が変化していく。

 灰色の死の土が、水分を含んだ豊かな黒土へと変わり、表面を覆っていた氷の層が音を立てて砕け散る。

 光の波は止まることなく広がり続け、見渡す限りの荒野を飲み込んでいった。

 土の中に眠っていた種子たちが、リアナの魔力という栄養を浴びて、一斉に目を覚ます。

 緑色の若葉が、黒土を割って次々と顔を出した。

 それらは目にも留まらぬ速さで成長し、茎を伸ばし、葉を広げていく。

 数分前まで荒涼としていた景色が、あっという間に緑豊かな草原へと変貌を遂げた。

 さらに、点在していた枯れ木が息を吹き返し、太い枝を伸ばして、鮮やかな緑の葉を茂らせた。

 風が吹き抜けると、緑の海が波打ち、草花の新鮮な匂いが空気を満たす。

 リアナはゆっくりと目を開けた。

 目の前に広がる生命の輝きに、自分自身でも息を呑んだ。

 これが、私が本当の姿で解放した力。

 背後から、足音が近づいてくる。

 アルヴィドが、緑に覆われた大地を踏みしめながら歩み寄ってきた。

 彼は周囲の景色を見渡し、感嘆の息を漏らした。


「これが……お前の真の力か」


 彼の声は、微かに震えていた。

 リアナは立ち上がり、少しよろめいた。

 急激な魔力の放出で、手足の感覚が麻痺し、視界がチカチカと点滅する。

 倒れそうになった体を、アルヴィドの力強い腕がしっかりと受け止めた。


「よくやった。もう十分だ」


 彼の胸に顔を埋める形になり、リアナの鼻先に彼の外套の匂いが漂う。

 その力強い鼓動が、彼女の耳に心地よく響いた。


「少し、疲れました……」


「当然だ。これほどの奇跡を起こしたのだからな。お前は我が国の救世主だ」


 アルヴィドはリアナの体を軽々と抱き上げると、馬車の方へと歩き出した。

 腕の中に収まるリアナの体は小さく、頼りなかったが、彼女が成し遂げたことは、この国の歴史を永遠に変えるものだった。

 ルティが嬉しそうに跳ね回りながら、二人の後を追う。

 リアナはアルヴィドの腕の中で目を閉じ、自分を満たす静かな充実感に身を委ねた。

 かつてすべてを奪われ、絶望の中で彷徨った暗い森。

 そこから始まった新しい命の軌跡が、今、この豊かな大地の上に、確かに花開こうとしていた。

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