ついに来た、浴衣回
ちょっと間が空いてしまいました。別の女子高生たちのストーリーにはまってしまって。無事、浴衣回です。
温に郁から次のデートの計画について打診があった。お盆の夏祭りに行こうとあった。浴衣なのでモノレール一駅の高幡不動尊の縁日はどうかと。温は速攻でOKの返事をした。親にねだって買ってもらった浴衣の出番だ。気合いが入る。温はとりあえず浴衣を出して部屋の鏡の前で着てみた。
「おお、これぞ現代の大和撫子。世界に通用する可憐な乙女。民族衣装は強い。民族の人種的特徴に最適化されたデザインだ。」
デートの当日になった。家がある日野市万願寺から歩いても行けるモノレール一駅。モノレールが開通したのは2000年だが、それまでは結構不便だったのかも知れない。そのころはまだ両親は知り合ってもいなかった。歴史の重みを感じる。父はまだ若手の独身サラリーマン、母は大学生だった。温は自分の未来を想像して、少し照れて頬を赤らめた。高幡不動駅に到着した。駅前で郁が待っていた。
「郁さん、お待たせ。」
「温ちゃん...浴衣姿で来るとは思っていなかったよ。サプライズのショックで挙動不審になりそうだ。」
「ふふ、日本人としての喜びをじっくり堪能しましょうね。」
「うん。さっそく縁日を見て回ろうか。」
「あ、郁さん、射的があるよ。」
「お、これは訓練の成果を見せるチャンスだね。」
「私たち、実はヒーローなので申し訳ないけど、豪華景品を撃ち落としちゃいましょう。」
「俺は上段にある美少女戦士フィギュアを狙う。取ったらプレゼントするよ。」
「じゃあ私はその隣の改造人間フィギュア。無事ゲットできたらプレゼントします。」
「こういうのは重心のどこを崩せば動いて墜ちるかってことだね。重量系シミュラントを転倒させて仕留めた訓練で学んだ。」
「そうですね。それを意識しないと何発当ててもちょっと動くだけで墜とせない。」
「やった!さすが温ちゃん。」
「ふっふっふ、さあ戦利品を手に食べ歩きしましょう。久しぶりに財政充実してますから。」
「ホントだよ。週末訓練に対価が支払われて大助かりだ。」
「テレビのヒーローって生活費どうしてるんでしょうね?美少女戦士は実家が裕福そうだったり謎の一人暮らしだったり。」
「子ども向け番組なのでわりと曖昧にしてる。たぶんルールがあるんだよ、子ども番組に生々しい金銭の背景を持ち込まないって。」
「私の中でチョコバナナ派とリンゴ飴派が激しい討論をしてます。」
「両方行っちゃえば?」
「甘味で満たすとそのあとの醤油味ソース味コースが辛くなるので、ここはしっかり選択しないと。」
「確かに。じゃあぼくはチョコバナナ。」
「私も。水飴は何となく事故りそうなので回避します。」
「ねえ、見て。あれ、美咲さんじゃない?」
「あ、本当だ。男の人と一緒だ。綿飴食べながら楽しそうに喋ってる。見なかったことにすべきか、挨拶すべきか、私の対人解析センサーが出した答えは...スルー!」
「邪魔しちゃ悪いもんね。」
「大人の雰囲気、あの人きっと社会人だ。」
しかし温は知らなかった。美咲の対人解析センサーのほうが高性能だということを。
「あら、温ちゃんと郁くん、縁日デートかしら?」
「こ、こんばんは...美咲さん。やだなあ、デートじゃありませんよ。」
「そうなの?隠さなくても良いのよ。私の対人解析センサーは瞬時に判定するから。」
「美咲さんもデートですか?」
「私?ふふふ...どうかしら?」
そう言って美咲は連れの男性に尋ねるような視線を送った。男性は少し顔を赤らめて、「デートならばうれしいんだけど」と答えて頭を掻いた。
「彼は基地のスタッフで友だちなの。こんな顔してるけどオーストラリア人なので日本の縁日を案内してるのよ。」
「こんな幸せな日常の向こう側に悪が蠢いていると思うと、気が引き締まります。」
「あら、そんなに張り詰めたままだともたないわよ。緩急のバランスが大事。せっかくのデートなんだからのんびり楽しみなさい。じゃ、私たち、お邪魔しちゃ悪いから行くわね。」
「ねえ、温ちゃん。格の違い、思い知らされたよね。」
「うん、かっこよすぎる。」
「そういえば温ちゃん、これまでの経験から気付いたんだけど、こんなふうにたくさん人がいる場所に敵が出現したことはないよね。」
「あ、ホントだ。だいたい1人のときや2人だけのときを狙ったように出現してた。」
「混乱で被害が広がらないのは良いことだけど、敵にも何か制約があるのかな?」
「大勢の人間が発する何かに弱いとか。」
「俺たちがここで考察してもたいした答えは出ないから、基地に行ったときイリーナさんやヒルデガルトさんの意見を聞いてみよう。」
「そうですね。私たちに言ってない何かがあるかも知れないし。」
*************************************
温の夏期講習も終盤に近づいて来た。仕上げに模擬試験があり、志望校の合否判定が出る。講習はしっかり受けて参加料の元を取ったつもりだが、夜の金策で家での勉強時間が確保できていなかった。講習を聴いている最中は、ちんぷんかんぷんということはなく、かなり理解が進んでいる実感があった。模擬試験に臨む思いとしては不安と期待が半々だった。
「温、久しぶり!」
「あ、百合華!クラスが違うから同じ夏期講習会でも顔を合わせることがなかったね。元気?」
「うーむ、そうでもないかな。」
「どうしたの?そこのカフェで冷たい飲み物を飲みながら少し話そう。」
「何か悩みがあるの?」
「うん、トラブってるというほどでもないんだけど、親との関係が微妙かな。たまにチクチク言われる。特に父親。」
「何が原因。」
「私の成績。東大に入れるつもりで一貫校に入れたんだけどな、って。」
「あ、それはチクチクを通り過ぎてグサグサだよ。」
「東大はおろか早慶も盤石じゃなくなってきた。でさ、そういうのって雰囲気に出るじゃん。夏期講習の同じクラスに同じ学校の子がたくさん来てるんだけど、何となく蔑みの目で見られてる気がする。」
「それ、気のせいだよ。」
「いや、うちの学校って完全な成績カーストの世界なの。カースト下位には辛い日々しかない。」
「うう、かける言葉が思いつかない。うちの学校の女子に明確なカーストはないけど、かわいいか否か、流行に遅れていないかどうか、そのあたりで上下関係が決まるかなあ。」
「それは平和で良いわ。」
「うん、平和は守らなくっちゃ。」
温の模試の結果が気になります。でも、敵の謎設定はもっと気になります。




