難関の末にたどり着いた夏デート
地獄の金策を乗り越えいよいよ待望のデートです。
郁は馬車馬のように働いた。昼間は書店のバイト、夜は引っ越しバイト。ヒーローになってから続けている訓練をしていなかったら途中で倒れていただろう。地獄の日々を過ごして週末になった。美少女戦士の基地へはバイクで直接アクセスする許可を得ている。下半身スースーにも慣れた。スカートがめくれてもそれはパンチラではない。
「こんにちは、郁くん。何だか痩せたみたいだけど,大丈夫?」
「はい、肉体労働で脂肪が落ちただけです。」
「まあ、そんなにバイトしてるの?苦学生なのね。」
「一時的に苦学生になってしまっただけです。もう大丈夫です。」
「それなら良いけど。今日の訓練は、苦手な剣戟よ。まず陸上戦、そして次は空中戦。シミュラントドローンは中級用を用意しました。」
「頑張ります。」
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温は自室で白ビキニを試着してみた。完璧にフィットしている。問題ない。ただし、露出がヤバい。プールの中なら良いけど、それ以外は上に何か羽織らないとハズい。バイト代を日給制にしてもらったので、そこそこ資金はある。財布の中に7000円、引き出しの中に26000円。よし、ビーチサンダルとラッシュガードを買いに行こう。多摩センターだとバイト仲間に見られるおそれががあるので、聖蹟桜ヶ丘だ。イタリアンレストランも聖蹟桜ヶ丘だし、白ビキニも京王デパートで買った。稼いで使う街、何だか大人の階段を上がった気がした。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「はい、ラッシュガードを探しています。羽織れるタイプの。」
「水着と合わせる必要がありますね。水着はどんな感じですか?」
「白のビキニです。」
「上品で引き締まった印象を演出するならネイビー、かわいらしさを出したいならパステルカラーですね。」
「ん~、ここはかわいらしさ重視でパステルカラー。」
「種類もたくさんありますよ。用途としてはもちろんUVカットですけど、全体のシルエットをどう演出するかで変わってきます。」
「水着がビキニなので、陸に上がっているときはできるだけ隠したいです。」
「ならばビッグシルエットとよばれるふわっとした感じのがよろしいかと。パステルカラーでふんわり包まれているとかわいいですよ。」
「あ、これなんか良いかも。」
「何点か持ち込んでご試着してみてください。」
温は試着してみて,ミントグリーンの大きめサイズを選んだ。これならがっちりガードだ。ラッシュガードだけに...ん?ラッシュって何だ?温の受験生モードが起動した。スマホで検索。Rash、それは発疹。サーファーの擦り傷や日焼けの発疹をガードする、うん、なるほど。しかしRashは限りなく受験とは縁遠い単語のようだった。
「お会計はあちらでお願いします。」
温はドキドキしてキャッシャーの値段の表示を待った。3200円。思ったより安い。水着との価格差に驚いた。使ってる布地は圧倒的にラッシュガードのほうが多いのに、値段は7倍以上。この価格差の構造を理解するのは温にはまだ無理だった。いや、たいていの男性も理解できまい。
温が次に向かったのは靴屋だ。ビーチサンダルを買う。温は知らなかったが、高級ビキニと合わせるとなると、テナントとして入ってる量販店ではなく、セレクトショップに行くべきなのだが、一般高校生の温にはそんな知識はなかった。量販店のサンダル売り場は無造作に並べられていて値札も貼ってあるので、温は吟味した上で3500円のかわいいサンダルを買った。これでデートの準備は万全...か?いや、デートに着ていく服....だけど、バイクに乗ってプールに行くとなると、かわいいワンピというわけにもいかない。デニムのショーパンにTシャツが妥当だろう。良し、きょうの買物はTシャツでお終い。資金も十分に残った。
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「郁くん、ブラウリヒトの取り回し、かなり上手くなったわ。温ちゃんのビブリアと同じレベルになったわよ。さすが男の子ね。」
「ありがとうございます。」
「温ちゃんのメタルヒーローはどうなってるのかしら?」
「あっちの基地には顔を出していないのでよくわかりません。」
「まあ温ちゃんのことだからしっかり使いこなしているでしょう。イリーナさんに訊いておくわ。」
「しばらく戦闘から遠ざかって,訓練だけになっているので少し心配です。」
「大丈夫、戦闘は訓練のように、訓練は戦闘のように、これが鉄則です。」
「それ、ガールズバンドのアニメで聞いたような台詞です。」
「あら、私、そんなの観たことはないわ。」
「失礼しました。」
「ふたりの練度がある一定のレベルまで上がったら特別作戦があります。しっかり精進してくださいね。」
「了解しました。」
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「温さん、こんにちは。なんだか疲れているみたいだけど大丈夫?」
「はい、夏休みなので夏期講習と夜のバイトでずっと拘束されていますので。」
「あら、夜もバイトなの?大変ね。」
「去年はお子様だったので女子高生らしいことを何一つやってこなかったので、それを取り戻すべくいくつかの必須アイテムを購入したら資金難に陥りそうになり、労働で挽回する羽目に陥りました。今、余儀なくされると羽目に陥るで一瞬迷って後者を選びました。」
「あなた、言葉遣いが独特ね。まあ良いわ。今日の訓練はソードを右手、ガンを左手に持って、複数の敵と単騎で戦う訓練です。シミュラントドローンは中級です。まず陸戦、次に空中戦です。それぞれ10体のドローンが射出されます。四方八方から攻撃してくるので、できるだけダメージを避けながらすべて倒してください。」
「フェアシュタンデン、フラウ・イリーナ!」
「あのね、私はドイツ人じゃないの。そしてイリーナは姓ではなくて名前だからフラウは付かないのよ。」
「ドイツ映画のミリタリーものを観て真似したくなったのでやってみました。」
「あなた、言葉遣いだけじゃなくて発想も独特ね。じゃあ、訓練、頑張ってね。」
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いよいよデートの日が来た。郁はガソリンスタンドで洗車してピカピカになった愛機にまたがった。トップスは立川で買ったアロハと白T,白Tの首にはサングラスを引っかけた。下はライダーらしくメッシュライディングパンツ。風を通して蒸れとは無縁の優れものだ。サマーランドのチケットと有料席は事前にネットで購入済みだ。温に電話して自宅へ迎えに行く。
「やっほー、温ちゃん!」
「郁さん、何かきょうのスタイル、オーラを感じる。」
「そう?アロハを新調しただけだけどね。それより、ごめんね、バイカーリュックを背負ってるからざらざらゴツゴツするかもしれない。」
「大丈夫です。私もバイクに乗ること前提で、袈裟懸けできるバッグにしました。」
「不便すぎることにこのあいだ気付いたので,今度基地へ行ったら収納トランクのことを相談してみるよ。」
「そうですね。お買い物に行くと大変なことになりそうです。」
郁は考えもなしに買物に行って大変なことになったことを思い出して苦笑した。
「よし、じゃあ出発だ。しっかり捉まって。」
「OKです。レッツゴー!Let’s get going!」
「お、英語の勉強の進捗が感じられる。」
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夏休みでサマーランドは混んでいたが、事前に有料席を確保していたので、快適に遊ぶことができた。
「温ちゃん、水着姿が眩しいな。」
「やだ,郁さん、そんなにまじまじ見ないで。」
「おっと、失礼。じゃあ、さっそく泳ごうか。」
「私、浮き輪借りてくる。」
「ふう、少し休もうか。」
「私、何か飲み物を買ってくる。郁さん、何が良い?」
「そうだなあ。やはりここはバイカーらしくワイルドに、コーラ!」
「ふふ、コーラね、わかった。」
温は悪戯っぽく笑って自販機へ行き、郁にコーラ、自分にドクターペッパーを買った。
「はい、お待たせ。」
「え?ドクペ?」
「いつもひと味違うことをする主義なのです。」
「そんな温ちゃんと一緒にいると飽きないなあ。」
「そう言ってもらえるとうれしくて抱きつきたくなっちゃいますが、衆目環境の中では自粛するのです。」
楽しそうで何よりですね。基地でイリーナさんだかヒルデガルトさんが口にした特別作戦って何でしょう、気になります。




