沈黙の目 — The Silent Eye —
AI
沈黙の目 — The Silent Eye —
アトラス中央管制局・防犯解析フロア。
無数のモニターが壁一面に並び、昼も夜も区別のない冷光が空間を満たしていた。
秋山亮一教授は、白衣を羽織った職員たちの視線を背に受けながら、ゆっくりとひとつの映像に目を落とす。
――時刻、午前3時17分。
カメラNo.2087。
地下連絡通路、区間C‐12。
モニターに流れるのは、何の変哲もない無人の通路。
床に並ぶ蛍光灯が、冷たい光を投げかける。
その“何もない”映像が、逆に教授の神経をざらつかせた。
「ここで、記録が消えたのか」
助手の詩織が頷く。
「はい。正確には“切り取られた”ようです。
連続しているはずのフレームが、4秒分ごっそりありません。AIの補正プログラムも反応しませんでした」
秋山は無言のまま、データを巻き戻す。
そして、再生速度を1フレームずつ落とす。
0.5秒前――
0.3秒前――
0.1秒前。
映像の端に、一瞬だけ黒い“点”が浮かんだ。
人影にも、ノイズにも見える。
だが、解析値はゼロ。
存在しないものとして処理されている。
「……“観測外ノイズ”だな」
教授が小さく呟くと、詩織の肩が震えた。
「観測外……って、まさか、例の“Black Sign”?」
「奴らだ」
秋山の声は、氷のように冷たく沈んだ。
「私がこの都市を去る前、唯一“理論上あり得る”と書き残した現象だ。
観測システムの視野そのものに介入し、データの存在を拒絶する波。
それを人工的に発生させることができるなら――」
「完全犯罪が、可能になる……」
詩織の言葉に、教授は静かに頷く。
次の瞬間、警報が鳴った。
画面に赤い警告が走る。
【再現不能データの侵入を検知】
【システム監査AI “Cassandra” が遮断を試行中】
「……来たか」
秋山は手元の端末を開き、ホワイト・オブザーバーの中枢ログへとアクセスする。
そこに浮かび上がったのは、黒い波形。
以前見た恐怖の波形と酷似している――だが、今回は“音”を伴っていた。
ザ……ザザ……ザア……。
それは、まるで誰かが耳元で囁いているようなノイズだった。
> 「観測者に、観測される覚悟はあるか?」
詩織の顔色が凍りつく。
「教授、今の……!」
「奴らはもう、“塔”の中にいる」
秋山の視線が鋭く光る。
「行くぞ。オブザーバー第三区、通信塔直下――心臓部だ」
「でも、あそこは立入禁止区域です!」
「許可はいらん」
教授はコートを翻し、無機質な廊下へと歩き出す。
――沈黙の目の奥で、
“何か”が確かにこちらを見返していた。
Ai




