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ジャムで目覚めの一杯 ― 秋山亮一教授推理探偵物語 ー  作者: マーたん


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87/91

完全犯罪計画 ― The Perfect Crime Protocol ―

新章…

 起動する…。

Prologue:無記録の街 — The City Without Records —


 白光が走る。

 空のように澄んだ街――アトラス。

 地平線の果てまで続く白いビル群が、まるで巨大な回路のように並び、無数のホログラム広告が浮かんでは消えていく。

 この都市は「観測によって守られている」と、人々は信じていた。


 中央塔ホワイト・オブザーバーが、全住民の行動・感情・思考傾向を常時スキャンし、犯罪予測率を算出する。

 暴力も、殺人も、テロも、この街ではほとんど存在しない。

 AIが「犯罪の芽」を摘むからだ。

 疑わしき行動を取る者は即座に“補正”され、再教育を受ける。

 正義は、完璧な数式として管理されていた。


 ――少なくとも、昨日までは。


 午前3時17分。

 北区第12監視エリア、地下連絡通路。

 カメラが一斉にフリーズした。

 わずか4秒間の“空白”。

 だがその間に、一人の人間が消えた。


 システムが再起動した時、そこには「血液の痕跡」だけが残っていた。

 遺体はない。目撃者もいない。

 そして、AIの記録上――


 その人物は「存在していなかった」。


 中央管理局は情報を封鎖した。

 内部告発者がSNSに漏らした短い文章だけが、真実を匂わせていた。


『誰も罪を犯していないのに、誰かが死んでいる。』


 その報告を最初に受け取ったのは、都市外縁に隠遁していた男――秋山亮一教授だった。


 かつて「心の観測理論」を唱えた心理科学者。

 彼はAIホワイト・オブザーバーの基礎アルゴリズムを設計した張本人であり、数年前にその研究を自ら破棄し、消息を絶っていた。


 助手の詩織は、通信端末の光を見つめながら呟いた。

 「教授、まさか……また“観測”を始めるつもりですか?」


 秋山は短く笑い、紅茶のティーバッグを指で転がした。


 「完全犯罪――そんなものは存在しない、と思っていた」

 「だが、記録そのものを“消せる”者が現れたのなら……」


 教授はゆっくりと立ち上がり、白いコートの襟を直す。

 「これは哲学でも倫理でもない。記録の神に挑む犯罪者だ」


 そして、静かに言った。


 「行くぞ。アトラスの心臓へ」


 白い街のどこかで、誰かが笑っている。

 ――観測の外側から…。

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