完全犯罪計画 ― The Perfect Crime Protocol ―
新章…
起動する…。
Prologue:無記録の街 — The City Without Records —
白光が走る。
空のように澄んだ街――アトラス。
地平線の果てまで続く白いビル群が、まるで巨大な回路のように並び、無数のホログラム広告が浮かんでは消えていく。
この都市は「観測によって守られている」と、人々は信じていた。
中央塔が、全住民の行動・感情・思考傾向を常時スキャンし、犯罪予測率を算出する。
暴力も、殺人も、テロも、この街ではほとんど存在しない。
AIが「犯罪の芽」を摘むからだ。
疑わしき行動を取る者は即座に“補正”され、再教育を受ける。
正義は、完璧な数式として管理されていた。
――少なくとも、昨日までは。
午前3時17分。
北区第12監視エリア、地下連絡通路。
カメラが一斉にフリーズした。
わずか4秒間の“空白”。
だがその間に、一人の人間が消えた。
システムが再起動した時、そこには「血液の痕跡」だけが残っていた。
遺体はない。目撃者もいない。
そして、AIの記録上――
その人物は「存在していなかった」。
中央管理局は情報を封鎖した。
内部告発者がSNSに漏らした短い文章だけが、真実を匂わせていた。
『誰も罪を犯していないのに、誰かが死んでいる。』
その報告を最初に受け取ったのは、都市外縁に隠遁していた男――秋山亮一教授だった。
かつて「心の観測理論」を唱えた心理科学者。
彼はAIの基礎アルゴリズムを設計した張本人であり、数年前にその研究を自ら破棄し、消息を絶っていた。
助手の詩織は、通信端末の光を見つめながら呟いた。
「教授、まさか……また“観測”を始めるつもりですか?」
秋山は短く笑い、紅茶のティーバッグを指で転がした。
「完全犯罪――そんなものは存在しない、と思っていた」
「だが、記録そのものを“消せる”者が現れたのなら……」
教授はゆっくりと立ち上がり、白いコートの襟を直す。
「これは哲学でも倫理でもない。記録の神に挑む犯罪者だ」
そして、静かに言った。
「行くぞ。アトラスの心臓へ」
白い街のどこかで、誰かが笑っている。
――観測の外側から…。
ジャムはお好き?




