芦毛の少年
エアルの冒険者試験が行われた日の夜、冒険者ギルドにてギルド職員でもあり試験官を務めたレインは、冒険者ギルドヴェイリン支部支部長の”ヴィルヘル•ラインリー”の元を訪れて試験の報告を行なっていた。
「以上が今日の試験の報告になります、どう思いますか?支部長」
試験内容を細かく伝え終わるとレインはヴィルヘルの顔を見る、そのまま何も言わずに少し沈黙が続く、ヴィルヘルは机に置かれていたまだ湯気が上がっているコーヒーを啜りながら飲み机にゆっくり置くそして静かに口を開く。
「え、本当にそのこ12歳なの?」
「はい、確認はしていませんが本人はそう言っていましたし、私もそのように感じました」
「でも、レインちゃんが負けるって相当じゃない?手抜いた?」
「抜くわけないでしょう馬鹿なんですか?」
「それもそうか、その子凄いねぇ」
ヴィルヘルはその話が信じられないと言わんばかりに質問攻めをするがレインは落ち着いて全てに淡々と返事をしていた。
ヴィルヘルは自分の水のように透き通った水色の髪の前髪をくるくると指でいじりながら話を続ける。
「何、その子難しすぎるよ、レベル4くらいは付けてあげたいけど若すぎるよなぁ、どうしようかなぁ」
「周りの目もありますけどそれでも私は公平につけるべきだと思いますよ?」
悩むヴィルヘルにレイラはエアルの実力を尊重してレベルをつけるべきだと主張する。
「いやぁ、そうなんだけどさその子の安全のためにもレベルは2にしとこうか、もし何かのはずみでレベルが他人に露見すれば悪用されるかも知れないしもしもの時のための保険さ」
そんなヴィルヘルの言葉を聞いて少し不満そうに頬を膨らませて何かを我慢するようレイラに言う。
「わ、わかりました、エアルくんにはそう伝えておきますレベル2で登録しときますからね」
「なんか怒ってる?」
レイラの反応を見ておずおずと聞くヴィルヘルにレイラは背を向け勢いよく扉を開けて立ち去ろうとする。
「別に怒ってませんから!」
バタンと勢いよく閉められた扉を見ながらヴィルヘルは1人困惑した顔で椅子に座り静かな部屋で1人呟く。
「いや、怒ってるじゃん、なんで?」
まぁいいかとため息をつき報告書を見つめ考える。
「12歳でレイラちゃんを負かすなんて一体どんな子なのか、また、楽しみがひとつ増えたな」
月明かりがさす部屋で1人ニヤリと笑う、そんなヴィルヘルの髪を撫でるように優しく風が吹く。
そんな当の本人はと言うと、ヴェイリンの街のとある酒場で荒くれ者に一言言ってやろうと酒場の扉を強く開けて言い放つ。
「たのもぉーー!!」
見ながその声の主の方を見る、背はまだ小さく体に合っていない少し大きな外套を見に纏い、まだ声変わりも起きていない少し高い声を発するそんな少年に周りは皆目を向ける。
少年は酒場で大声をあげていた荒くれ者の前に立つと腰に手を当てて小さな体を大きく見せようとしているのか胸を張り言う。
「お兄さん!店の人が困ってるじゃないですか!それにご飯中は机に足をあげるなって習わなかったんですか?他人を困らせるような人にはなっちゃダメだって僕の父さんも言ってましたよ!マナーは大事ですからね!」
急に現れた芦毛の少年に皆キョトンとした顔になっていたが唯一荒くれだけは顔を強張らせて威嚇するように少年に近づく。
「おい、ガキいい度胸じゃねぇか、俺が誰だか分かって突っかかってきたのか?」
荒くれが芦毛の少年の頭に手を当てて髪の毛をわしゃわしゃしながら、まるで子供を相手に話すかのように言う、芦毛の少年は荒くれの手を払いのけ首を傾げて荒くれを挑発するように言う。
「えっ?ただの迷惑客じゃないんですか?」
そんな芦毛の少年の一言に荒くれは激怒して声を荒げ酒場の中にはもちろん店の外にも聞こえるくらい声量で怒鳴りつける。
「てめぇ、舐めてんじゃねーぞ!俺はレベル3の冒険者だぜ?ガキだからって泣き叫びながら謝ってももう許してやらねぇからな!殺してやるぜっ!」
荒くれはそういうと腰に帯びていた剣を取り出して少年に剣先を向けて怒り狂ったように構える、芦毛の少年はその光景に微動だもせずただただその剣先と荒くれを交互に見て静かに口を開く。
「危ないじゃないですか、店の中ですよ?本気ですか?」
静かに冷たく言い放たれた言葉に周りの人は少しその小さな少年に背筋を冷やすが荒くれは頭に血が昇りきっていたのか、剣を上から下に力強く少年の頭目掛けて振り下ろした、酒場にいた者たちはその光景を見ていることしかできずにただ恐怖に震えていた。
「死ねぇガキぃ!!」
ただ荒くれの声だけが酒場に響き渡り剣が振り下ろされるが、地面に当たる事はなく少年の頭上で鉄と鉄がぶつかる甲高い音を響かせ止まる、荒くれは驚愕する、目の前の小さな少年に自分の自慢の一撃を軽く受け止められているのだから、少年はまた小さく口を開く。
「本気なんですね、知らないですからね?」
芦毛の少年は、そのまま頭上で止めた剣を弾き荒くれは少し体制を崩す、その隙を見て芦毛の少年は黒い布を剣に纏わせていた。
「うっ、なかなかやるじゃねぇかガキ、次は本気で行くからなっ!」
体制を持ち直した荒くれはそんな台詞と共に芦毛の少年に向かって斬りかかると黒い布を纏い終わった剣で鈍い音と共に受け流され、足蹴の少年に自分の懐への侵入を許してしまう。
「僕は、言いましたからね!」
芦毛の少年は言い放ち、両手で布で覆われた剣を構える飛び上がるように荒くれの下方から顎目掛けて膝を大きく伸ばして上へと斬りあげると、その刀身は荒くれの顎にクリーンヒットして荒くれは後ろに大きく飛び上がり地面へ大きな音を鳴らして力無く倒れる。
「あれ?やりすぎた?」
芦毛の少年は一撃では終わると思わなかったのか少し驚いた表情をして困惑していた、荒くれが倒れてから少しして店主が芦毛の少年に近づいてくるのを感じて少年は店を見渡す。
店の中は荒くれが吹き飛んだことでテーブルがひっくり返っており食器も何枚か割れているのが目に入る、芦毛の少年は現状を見て冷や汗をかいて何を思ったのか店主が近くに来ると荷物を持って謝罪をした途端に全力で走って行ってしまった。
「ごめんなさーい!」
「あぁっ、ちょっと!」
そんな店主の声が聞こえたのか聞こえてないのかはわからないがなりふり構わず全力で逃げて行った。
「えぇ、足早いな」
店主は荒れた店の中を見渡して、大きくため息を吐く。
「やっとローン払い終わったとこなのにな」
そして地面に寝転がっている荒くれに目が行き取り敢えず街の自警団に連絡をすることにした、荒くれに罪を全てなすりつけて弁償させるために、予算よりも少し多めに請求した。
次の日から街ではある噂が囁かれ始めた、人に迷惑をかけるようなマナーの悪い奴は芦毛の少年に成敗されると。
そんなことを知らずにその”芦毛の少年”は冒険者ギルドにまた足を運んでいた。




