高校生と普通探し
ボクな、人生の中で忘れられやん日が3日あるんさ。
一つ目は最悪やった13歳の誕生日。
二つ目は最高やった15歳の3月18日、月曜日(日付までバッチリ覚えてる)!
ちっこい時からボクはずっと、自分がおかしいんやと思ってた。
トイレに入るとき。体育の授業。更衣室。アンケート。ポイントカードの登録。学校のプリント。班の分け方。恋占いも、買い物も、喋り方ひとつだって!世界はボク1人を置き去りにして平等なんやなって、特に小学生の頃は変な達観してた。
どうしてボクはコチラ側なんやろってずっと不思議やった。自分の身体が恥ずかしかった。ボクの身体には必要なもんがついてへんかった。
この不思議にとりあえずの名前がついたのが9歳の時。親父に怒鳴られて家中のお皿が割れたんは今でも覚えとる。その日からボクはママと二人暮らしなんさな。
そしてやってきた運命の日。13歳の誕生日。いつまでたっても"大人の証"が来やんくて、ボクが心から拒んでるせいなんかなって。ママと病院に行って、ボクの不思議に本当の名前がついた日やった。
アンドロゲンフオウショウ?
しかも完全型?って何さ?
何でそれが最悪の日やったかって?
ボクは何でかわからんけど、その事実を知ってめっちゃ泣いた。あの家中のお皿の破片をほかした日だって一滴も涙なんか出やんかったのに。
だって、あんまりに理不尽やと思わん?
何故かこの時はじめて"あー、ボクは今まで女の子やったんや"ってことを自覚したような気がする。それまではそうありなさいと言われ続けて、だからこそ抵抗ができたんに。どちらにもなり切れやんボクは、それでもボクのままで。
13,000人に1人くらい居るらしい仲間は、普通、事実に気付くまではあんまりオカシイとは思わずに育つもんらしい。つまりボクって相当、変わりもんやったっちゅうこと。
おかしいかも知れんけど、いけなくはないやろ。
一周回って"普通"に戻ったボクは、その日からカタツムリになったんやに。
最悪の日の話はオシマイ。
ほんでな、次はサイコーの日の話!
あの日のこと、ボクは多分一生忘れられやん。
だって、ボクがはじめてボクとママ以外の人を好きになった日やから。
「おい、そこで何してる?」
「ぁあ?…んだよ、テメェ。」
「…見ての通りコンビニの店員で、ここは店の裏なんだが。」
「んな事聞いてねぇんだよ!」
ポケットに両手を突っ込んだまま、学ランがゴミ箱を蹴っ飛ばした。派手な音とともにポリバケツが転がりゴミが散乱する。
「おい…、」
店員さんの声音が冷えた。顔色が悪い。
「んだよ?」
あくまでも挑戦的な学ラン。すかさずそいつの両肩を鷲掴みにする店員さん。
「お前今何してくれたか分かってるな?」
学ランはビクリとひと跳ねする。両肩を押さえられているせいか、手をポケットから出すことができんみたい。
「ぁんだよ?!」
「お前が今散らかしたゴミは誰が片付けると思うんだ?俺か?俺はこれからチャリを買いに行かなきゃ行けないんだぞ?ホームセンターが何時に閉まると思ってるんだ?間に合わなくなるだろうが!」
…怒り方、どうなん?
けど、学ランは少なからず上背に負ける相手に自由を奪われた状態で怒鳴られて、さすがに少しだけ怯んだみたい。中学はギリ卒業できたみたいやけど、やっぱまだガキやんな。その隙に店員さんが流し目でこちらを見た。
「お前、隠れてろ。」
「それってボクに言うとるん?」
「他に誰が居るんだよ。」
バキュゥーン
マジマジと顔を眺めてからブンブン頷いたボクはサッと店の表に逃げた。
「店長!町柳さん!ちょっと来てください!」
裏手で店員さんが叫ぶのを聞いて、ボクは店に走り込んでレジのオジさんに事情を伝えた。オジさん、180cm近くあるし、明らかにヤーさんやと思った。えっらいコワモテ。でも声がめっちゃ甲高かって、思わず吹きそうになった。ギャップ半端な!反則やろ!
その後店員さんが帰って来るまで待とうと思って、勝手にバックヤードに隠れて過ごした。でも戻って来たのは店長さんだけで、店員さんはダッシュでケッタ買いに行ったらしい。結局お礼も言えんかった。
それに、ボクの気持ちも。
今度お会いしたらお名前を聞こう。
そんで、お礼を言って、伝えるんや。
だけどボクはその後店員さんに中々会えず。
天啓が降りて(手を頬に添えて、「中埜ちゃんうちで働いてみない?」小指も立ててな。)その店に履歴書を出したのは1ヶ月くらい経ってからやった。
ほんなら三つ目は何やって?
それはバイトはじめて1週間くらいした頃やったと思う。最高とはちゃうけど、ボクの目が開いた日。
ボクに親友ができた日。
でも日付が曖昧なんは許してほしい。ただでさえ入学式やら色々あってわやくちゃな中、宇宙人と戦わなきゃアカンだら、そら無理な話やん。
ボクの親友はえらい格好しとるんやけど怪しい人やない。怪しい宇宙人らしい。
無口な親友曰く、時間を前借りしたり、文字通り寝溜めしたり、物を増幅したり色々できるらしい(めっちゃ便利!)。それに比べたらボクって何て普通なんやろって笑い転げてもた。宇宙人には地球の常識は関係ない。ボクはボクのままで、面倒なことは何もない。もう、めっちゃヤバイやろ。
事件が起きたんはゴールデンウィークやったな確か。親友の能力は結構チートやと思うんやけど、それでもボク等じゃ勝てん相手と戦ってしまったんや。
親友曰く、上限はあるらしいけど寝溜めした分増幅できて、前借りした分は寝て取り戻すんやて。一定量をこえると借りれなくなって強制的に意識が切れる。
その時絶体絶命、敵に自由を奪われたボク等は寝溜め分+前借りできる最大量約2週間分を5分で使い切って全速力で逃げ出した。
時間だけに換算して単純計算やと60分×24時間×14日分÷5分=4,032倍速。移動だけに全力かけるんやったら歩いとんのに相対速度マッハ15以上?どこの極超音速試験飛翔体なん?…ホンマのところは移動だけだろうと周辺環境のホゴとやらでごっつい制限かかってその通りにはならん(空気の増幅がなんちゃららー言うとったけどボクにはチンプンカンプン)らしいけど。
そもそもこん時は相手の拘束振り切るのにほぼ全エネルギーを使ってしもたみたいで、結局ボクが気ぃ付いたんはめっちゃ近所の公園やった。
眠る直前、親友に何かを言われてた気がしたんやけど、その時は記憶がえらい曖昧で。
後から思い出したんはこんな感じの台詞やった気がする。
「…2週間したら…起こして。キーワードで…起きるから…」
そしてボクはキーワードって、なんやったっけ?って、親友との連絡手段も無く、モヤモヤしながら日々を過ごすことになったんや。
次の事件はそれから3日くらいしてからやったかなぁ。
バイトに行こうと海沿いの道を歩いとる時やった。突然の石飛礫を横飛びに避けて、気付くとボクは親友の格好をしとった。石飛礫は見知らぬ重機からの悪意ある攻撃で、ボクは右往左往しながら兎に角走って逃げる事になってな。
いや、そら逃げるやろ普通。重機やなくても車に轢かれたら死んでまうやん普通。ボクは親友とちゃうくて地球人だもんで。明らかに色々な法律をぶち破りまくっている重機を操縦しとるんが、しかもこれまたけったいな格好の女の子(多分ボクより歳下)で、ボクはもうどこからツッこんでええんか分からんかった。
親友みたいに変な能力とか無いボクはただひたすらに鬼ごっこと隠れんぼで鍛えた逃げスキルのみを駆使して街中を駆け抜けた。途中でヘッドスライディング、連続バク転、バク宙、壁走り、グライダー、その他様々な高難易度技を習得したんはある意味彼女のお陰やと思う。今更やけどここで言うとくわ、ありがとう。
その日からボクは度々、親友の代わりに(けったいな親友の姿で)宇宙人と遊ぶ事になった。
あ、あとでキチンと重機の女の子にはリベンジも果たしたで。
まーその後も割とずーっと笑っちゃうようなことばっかりあって。
あれもこれも色々、ホンマにいろっいろあったんやけど、こんなに世界が変わりはじめたきっかけは間違いなくあの日の店員さんからで。それからそれを盛り上げてくれたんは親友のおかげやって。
ボクがボクのままで居ていい場所がこの世界にもあったんや。ボクが今まで届かんと思ってた"普通"って、めっちゃ狭い一部のことやったんやな。おかしなことはいっぱいあって、そんなアレコレみぃんな引っくるめてボクの普通な世界はできていて。
「ボクも…おかしいのかな。」
鈴のなるような凜とした声がした。
親友の声はいつもこうやった。何度聞いてもホンマに綺麗。
「新生種なのに…旧生種に混ざって参加してて…。」
夢の中で合う時の親友は、普段と違ってけったいな格好はしとらん。声に似合った結構な美形やし、そのまま出てきたらええのに。
細かい言葉の意味はよう分からんかったけど、ボクは思わず吹き出す。
「なんや、オグもボクと似たようなもんなんさな。宇宙人もエラいんやね。ええやん、好きな事やりぃさ。一緒にカタツムリ同盟作ろうに。」
「カ…カタツムリ…?」
「お、それ俺も混ぜてくんねぇかなぁ。」
頭掻きながらひょいと現れたボッサボサの浪人は親友のオマケの"包丁"さん。浪人ゆうて大学生未満ちゃうで、着物のお兄さんや。江戸時代生まれらしいから中身はスーパーお爺ちゃんやけど。ある日を境に夢の中でだけ、たまぁに出てくるようになった。
親友はボク等の顔を交互に見て。緑色の瞳をパチパチ瞬いてから、薄っすらと笑った。確かに笑ったと思う。
「ぉおお…オグが、笑った…、今!見たやろ包丁!」
「やめて…恥ずかしいから…。」
「あっ、真顔戻っちゃアカン!」
「ダメ…無理。」
「あかんてッ!」
代わりに包丁がカラカラ笑った。
あー、ホンマに不思議な事一杯。
このままずっとこいつ等と遊んでられたりしやんかな。無理な事はもちろんよく分かってるんやけどな。
終わったら帰ってまうんやって、言われんでも分かっとる。
分かっとるんやけど。
目の前に親友の姿が浮かんだ。
何故かあのけったいな銀色の全身タイツスーツの方。
ネタなんか。
「なぁ、もうそろそろなんやろ。」
分かるでそら、親友やから。
そうじゃなきゃこんな風に出てこやんやろ。
「そんな顔せんでええ。」
むしろ謝らなアカンのはこっちなんや。
「なぁ、またいつか会いに来てくれやん?ボク結構気長やから割といけんで。」
寿命までには会いに来てくれやんと困るけど。
「せやなぁ明日から。寂しくなるなぁ。何を生きがいにしたらええんやろな。やっぱり王子様を振り向かせる三年計画しかないかな!」
アカン、意外に元気出すぎてヤバイかも知らん。
「そう、ボクが起きるまでなんや。」
そんなん言われたら起きられんやんか。なあ、ボクまだ何にも返せてないんやけど。どないしたらええんや。
分かっとる、起きたら、起きてしまったら夢の中の事は段々薄れていってしまって。きっと今の事も、オグの顔も思い出せんようになる、そんな日が来てしまう。
今までもそうやったんや。
あのマスクは覚えとっても、何故かその綺麗な瞳も、緑に光る銀の髪も、起きてしまうと、なーんも思い出せやんのさな。
そやもんでお願いがある。
「ボクの事、覚えとって。」
できるだけ長く。ボクが生きとる間だけでええから。それって結構そっちやと短い感じなんやろ。その間だけでええから。
ありがとうな。
包丁は…回収された後どうなるんか知らんけど、できたら帰ってきぃさ。意外と気に入っとんやであんたのネックレス。
なあ、オグ。
ありがとう。ホンマに。
こんなボクを、中埜敬をこの宇宙の中から見つけてくれて。
ボク等サイコーのペアやったと思うで。
ほな、げんきでな。




