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大学生と宝探し2

 キヴァトの部屋を飛び出した後も各階には様々な警備ロボが待ち構えていた。


 一体ずつであればそこまで手こずるものではないが、何といっても数が多い。特に中層階のホールでは一度に数十体に囲まれる形になった上、自爆に近い突っ込み方をしてくる個体があったために、流石に避けきれるものではなかった。全てを相手にはできず、時に行きつ戻りつしながらようやく1階部分まで辿り着いた頃にはさすがのアズも幾らかダメージを貰ってしまっていた。潜入の度警備は厳しくなっている。今回はもうヴァルルカン側としても出し惜しみをする気はないのだろう。


 地上階で、装置類の詰まれていた倉庫に一旦身を隠すと、アズはリジェネを試みた。何時ぞやのように片腕が吹き飛んだりした訳ではないので、随分マシだ。忘れかけていたコンビーフ缶の回収をしようとしたところで、しかしマズイことに気づいた。

通信妨害(ザヴァルゥ)…しまった。道理でリラシュさんから連絡が無いと。」

 外部通信を遮るものが起動されていたらしい。なるほど敵ながらいい手だ。リラシュ本体を止めることが難しくとも、内部との連絡を切っておけば、かなりフェチケ側としては痛手である。地図データの更新もできないし、地下へ進入できたとして手持ち(ローカル)のリストを見ながら自力でザスロの探索をするよりない。

「無いものは、仕方ないな。」

 気を取り直す。

 むしろ今までが充実し過ぎていたのだ。

 通常の攻略状態に戻っただけだと思えば、特に当初の予定を変更しなければならないような事態ではない。そもそもリラシュの存在は全フィールド上でもイレギュラーなのだ。

(最悪、どうしても全ザスロの回収が難しい場合は島ごと破壊をしてでも終わらせなければならない。)

 先ほどの警備の中に幾人か混じっていたヴァルルカン側のメンバー、彼らの依代がザスロだとして、短時間に一人ずつ直接倒して回収していくというのは相当に困難だ。幹部連中と同じように単独で行動してくれればやりやすいが、そうもいくまい。普通に考えれば状況が悪いと思った時点で逃げ隠れされてしまったり、自分たちで降りて回収してしまう可能性が高いだろう。そういう交々(こもごも)を勘案すれば、拠点破壊の方が余程リスクは少ない。なまじそれが出来てしまうので選択肢としてどうしても頭を()ぎる。ザスロ回収は不可能になるとして、それは相手も同じ事だ。その場合イクスも巻き込まれるだろうが、何かを成し遂げるには犠牲はつきものだ。他意は無い。

 それよりも、第6象限地球人にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

(けい)との連絡ができないのは困ったな。)

 島の破壊をためらうのは、そのことによって新にどんな影響があるか分からないという点が大きい。まずもう見つかってしまっている以上、現時点の状況で無事でいてくれていることを祈るよりない。

 アズは最低限の休息を終えると、少し考えてから拳に光を溜めた。そのまま床面をぶち破る。音や振動は仕方ない。

 自分一人が通れるだけの風穴が開いたところで地下1階へ向けて飛び降りた。この大きさの穴ならば警備のロボットは少なくとも通れないだろうし、階段やエレベータまわりはここへ来るまでに破壊済みだ。キヴァトのような能力を使えばそのうち上階からも追いついて来るだろうが、多少は時間が稼げる。


 降りた先は工場の通路のような雰囲気の場所だった。部屋ではなく、柱などの構造材がむき出しで、一つの空間がずっと続いている。地上のフロアに比べこの階は天井が低い。全体に暗めで、配管や金網状の足場がそこかしこに張り巡らされた様子から、整備用の空間か何かのように思えた。

 最後に送ってもらった地図情報からアタリをつけ、階段を見つけてもう一つ下のフロアへ進んだ。

 地下2階は天井高も戻って通路が続いている。ノブが無い扉が並んでいるが、時折のぞき窓から見える内部の具合からすると、居室というより機械室や工作室のような場所のようだ。この階も随分と薄暗く、足元が見えにくい程だがトラップのようなものは無い様子だ。自分たちの使う拠点内にそんなもの仕掛けてあったら邪魔でしょうがないせいだろう。

 アズが目指しているのは例の大きな格納庫のような場所…この建物の中でも最も広い空間で、かつザスロの反応の多かった場所。あれは恐らく地下3階、最下層の中央部と思われる。おそらく今までの動きからアズがそこを目指しているということは向こうにも知れているはずだ。それなのにこの通路を駆ける中で、何にも遭遇しないというのも妙な具合だ。

 そう思った矢先に通路のドンツキについた。

 一本道ではなかったものの、フロアはさほど複雑な構造はしていない。地図からするとこの先に地下への階段があり、まだここは廊下のはずだった。また床を破ろうかと思ったところで、正面の壁が動いていることに気づいた。

 壁ではない。

 暗くて気づかなかったが、緩やかな動作でのそのそと歩いているのは間違いなく“生き物”だ。

(ヴィョルチェンバーだ…。)

 高次象限にいるはずの生き物だった。どちらかというと植物に近い生き物だが地上の樹木のように光合成をしているわけではない。意思を持って動き回り、「知識」などの習得によりエネルギー生成し「概念」の根を張る。詳細は割愛するが単体でこんな建物の地下を徘徊しているような存在ではない。

(と、言う事は。)

 ヴィョルチェンバーの邪魔をしないように慎重に脇をすり抜けて奥へ進んだ。目当ての階段を下る。階段は長く、ずっと下まで続いていた。このフロアの天井がそれだけ高いという意味だ。

 地下3階に降り立つと、アズは建物中心に向けて駆けた。空気感でもう分かっている。この先に彼奴(あいつ)が居るのは間違いない。

 通路を抜けると、広い空間に出た。

 いつぞや見た、巨大な扉が右奥に広がっている。正面から左側に向けては広々としたスペースがあるだけで、置いてあるものは何もない。ジャンボ機がそのまま入りそうなサイズ感も相まって飛行機の格納庫のような(しつら)えだ。緩やかに湾曲した天井と遠くの壁にはジグザグに張り巡らされた建物の構造部材と配管類。時折明滅する表示灯を含め、全体に無機質で暗い灰色の広間だ。

 右手側は壁一面がそのまま分厚い金属のドアになっている。一見すると観音開きのように見えるが、ヒンジにあたる両端の太い柱のような部材からすると恐らく“吸い込み(ズィヴァシュ)型”のドアだろう。

 扉の中央部へ向けて駆ける。

 以前にここへ辿り着いた際にはどうしてもこの扉を開くことができなかった。そのためにリラシュのバックアップが欲しかったのだが、今は贅沢を言える状況ではない。

 しかし、近づくとここでも妙なコトに気づいた。


 扉がほんの少し、開いている。

 中央部にちょうど人ひとり通れそうな隙間があるのだ。


(来い、ということか。)


 誘われるままに、アズは扉を駆け抜けた。 




 その分厚さのせいでちょっとした通路のようになっていた隙間を抜けた先には、明るい空間が広がっていた。先ほどの格納庫よりも更に天井は高くなり、おそらく地下階全てをぶち抜いたほどの高さがある。正面は数メートル先で唐突に足場が消えており、手摺りもない。

 開口部際まで進むと、はるか下方に海の照り返しが揺れていた。床は抜けているが風や音は聞こえないので透過して見えているだけなのかもしれない。

 元の建物では飛行艇か何かの入場用のゲートだったのだろう。基本的に第5象限内の建物は高次象限で実際に使われている建物をトレースしたものが多い。建設に要件はあるが割と好きな建物が設定できる。もちろん建てた後に使いやすいよう改装などもやっているので必ずしも元の姿そのままというわけではないが、使う人数の割にやたらと部屋数が余っていたり不自然な設備があったりするのはその為だ。

 ただ目の前の光景は、現在ここが本来の用途に使われていないことを如実に示している。


 アズの眼前いっぱいでは、様々に伸びた巨大な木の枝が大空間を埋め尽くしていた。


 複雑に伸びながら壁を貫通し、みっしりと張られた枝は、中央にある巨大な幹を隠す勢いだ。外から見てこの幹が海まで伸びていなかったところを見ると途中で切られてでもいるのだろう。そうでなければおかしな程の圧倒的な質量だった。

 地下にあるためか視界の範囲に葉はないが、枝の一つ一つがそのまま大木と呼べるスケールだ。枝ぶりが発達した形をしているにしても高層ビルをそのまま木にしたようなサイズだ。


 アズはこの巨木が、塔に接するような位置に埋まっている事について考えていた。

(おそらくこの木は建物ができた後、ここへ“展開”されたものだろう。目的までは分からないが、そんなことができるのは…。)


 遠く、幹の(そば)に人影を認めた。

 想像とは違い随分小柄な体格のようだが、おそらく間違いないだろう。


 アズは迷いなく跳躍して1番近い枝に着地すると、巨木の中心に向けて駆けた。

 樹皮は堅く乾いていて、深いひび割れさえ避けられれば走りやすい。目当ての人物もこちらに気づいた様子だ。鋭い眼光がじっと近づく獲物を待っている。


「来たなウトルシュ。」


 まだ10m程の距離があったが、アズは立ち止まった。

「エルゥ…だな。」

 見上げた先で巨木の隙間に腰掛けているのは小柄な少年。ニコリともせず無言でいるのは肯定の意味だ。


 姿は戸出圭祐といで けいすけ。上背は低いが三白眼が鋭過ぎて威圧感がある。

 ペアはケズドゥーディク、通称はケズデット。

 彼をして特別な呼称をつける者達からは「創造の息吹エルゥフォルドゥラーシャ」と呼ばれている。


「上にいたヴィョルチェンバーもお前が呼んだのか。」

「俺が狙ったわけじゃねぇ。この木に着いて来たんだ。多分彼自体の“意思”だ。」

「巻き込む気は無いができれば避難して欲しいところだな。」

 長い前髪の隙間でただでさえ吊り上がった目元が更に不機嫌そうになった。

 そのケズデットの頭上で何かがチラと光ったのに気付く。視線を上げると、幹の一部に何かが埋め込まれているようだ。

「事務所にオグ=ズールドが来たぞ。」

「交渉の結果は?」

「さぁな。ハルに任せたから俺は知らない。」

 ケズデットはヒラリと一つ下の枝に降りた。

「ザスロを取りに来たんだろ。やらんぞ。」

「いや、ザスロも欲しいがむしろ今は(あらた)の魂を返してもらうことが先決だ。」

 少年が首を傾げた。

「前に、そのシンジョウアラタもそんな事を言っていたな。何か分からないが流行ってるのか。」

「知らないとでも言うのかエルゥ!」

 アズが一歩で間合いをゼロ距離まで縮めるのと、ケズデットの身体が浮き上がるのは同時だった。拳が空を切る。ケズデットは上方の枝に掴まると懸垂の体勢から飛び上がった。アズは幹に足を掛け、垂直方向にそれを追い掛ける。

「わからない事で難癖(なんくせ)を付けられるのはパッとしねぇな。」

 ケズデットが手近な枝に息を吹きかけた。アズの眼前に樹皮のカゲが広がる。

「ぐっ!」

 急激に()()()()枝に絡め取られ、手足の自由が奪われる。アズが手足を()ぐ度に枝の幾本かが木っ端に砕けはしたものの、そのものの成長する速度には追いつかなかった。やがて伸長を止めた枝はそれでも十分に立派な木と呼べる大きさになっている。

 アズは頭突きの要領で顔の前の木片だけ払うと、改めてケズデットと向き合った。

「成る程、"創造"は第5象限以下だとそういう風に顕現するんだな。」

 そう言いながら、包み込まれるように全身を埋め立てられ、アズは頭の他は右肩と膝の端がほんの少し露出する程度になっていた。感心している場合ではない。

「ウトルシュ、話は聞いてやる。お前も少しは落ち着け。短気が多くて困る。」

 ケズデットはやや離れた枝にすとんと腰をおろすと脚を組んで斜めにアズの方を見た。

「殊勝だな。てっきり他のヴァルルカンの奴らみたいに手が早いのかと思っていた。」

「ここのフィールドがおかしいんだ。本来ヴァルルカンは思慮深い個体の集まり…のはずなんだがな。」

「単刀直入に言う。ハールディに新の魂が奪われている。それを返してもらいたい。」

「その、魂というのがわからねぇ。」

「比喩みたいなものだ。意思を低次象限に縛られているというべきか。要は第6象限で寝たきりにされてるんだ。新はフェチケではない。地球の民の生活に影響を与え過ぎている。それを解消したい。」

 ふぅん、とケズデットは眉間にしわを寄せた。

「ハルがそんな事を?何のために?フェチケではないんだとしたら、よくわからねぇ。」

 ケズデットは組んでいた脚を戻すと真っ直ぐにアズを見る。


「シンジョウアラタ、あいつは何なんだ。」

「地球の民だ。むしろなぜ新が狙われるのか、それは私達がききたいところだ。」


 ケズデットが目を細めた。


 アズは更に言葉を重ねる。

「ただキヴァトやハールディは新以外の魂も奪っている。参加者を増やすためだと認識しているが、どうだ。まさか本当に知らないのか。」

 ケズデットはしばらく押し黙っていたが、やがてその場に立ち上がるとアズを包んでいる木から手近な枝を一本引き寄せた。


「ウトルシュ。お前はお前の仲間を信じろ。俺は俺の仲間を信じる。」


 引き寄せた枝にふ、と息を吹きかけた。

「それでいい、エルゥ。」

 眼前に更に影が広がる。


 アズを包んだ木は再び成長を始め、巨大な幹の一部として同化していく。アズのいた場所には不自然なコブができた。

 しばらく様子を眺めていたケズデットは、しかし次の瞬間勢いよくその枝から飛び降りる。その後を追うように、白熱したエネルギーが光を伴って幹を砕いた。乾いた爆音が周囲に轟く。


「それがお前の"破壊の手(ヴィゲ イドゥ)"かウトルシュ!」


 木片と共に踊り出たアズの右腕、肘から先は白く輝いている。一直線に拳が翔けると彗星のような尾を引いた。曲芸のような動きでケズデットが避けたそばから足場の枝が木っ端に砕けて行く。

 続け様に殴りかかったアズの眼前に、突如壁が現れた。ケズデットが"展開"した分厚い鋼板だ。


 ドゴォッ!!


 鈍い音と共に分厚い壁が(えぐ)りこまれ、苦しげにひしゃげる。

「なるほど、キヴァトはこれのマネをしてたんだな。」

「マネ?」

「前に、第4象限でな。」

 言いながら次々に展開され続ける物質の塊を、或いは叩き割り、或いは蹴り上げてケズデットの後を追う。

「ウトルシュ、俺はお前の腕が羨ましい。」

「何を…、」

 次に展開された塊はドス黒い光沢のある物質だった。気付いたが既にモーションに入っていた身体を止めることはかなわない。

 流れる動作のまま拳を突き刺すと同時に、被膜が弾けて粘性の液体がドバリと溢れた。黒々とした粘着質な液体を正面から全身に浴びる。

「ぐむ、…ッ」

 トリモチのように地面にへばり付けられる。飛び出そうとするとダンパのように強い反力がかかり容易に引き戻されてしまった。拳のまわりでは液体が焼き固められ、愚鈍(ぐどん)籠手(こて)のようになっている。


 ギチ…

 アズはゆっくりと腕を引き上げようと力を込めるが、強力な粘着剤は一向に剥がれる気配がない。


 完全に動きを封じ込まれたアズの目の前に、ストンとスニーカーが着地した。

「俺は何も()()()()()()()()()()()からな。」


「エルゥ…」


 駆け出そうとする姿勢のまま、1ミリも動くことが出来ない。

「私は…、」


 ケズデットが懐から携帯を取り出した。


「…その代わり、私の腕は何も、」


 ケズデットがコールをすると、受話器の向こうで声がした。



ヴィゲ イドゥ(終わりの時間だ) アズ=ウトルシュ。




 何も、生み出す事ができない。







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