大学生と宝探し1
新城新は戸惑っていた。
頭上の人物があまりにも眩しかったせいである。
事前に臼井さんのペアだと聞いていたので、あの白衣のバルディッシュがドッカンドッカン森林破壊しているイメージがどうしてもチラついていたのだが、会って2秒くらいでその記憶は霧散した。
「と、いうわけでイクシン=キィクだ!イクスと呼んでくれたまえ!新城新よ、早速だがヨロシクなっ!」
ビッシィィ!と決めたポーズと首元から棚引く爽やかな透ける布地。
ウゥ、今までも大概だったがこれは強烈だ。
因みに何故か手近な高台の上から自己紹介されており、腰のひねりのついたポージングを見上げる格好で仰いでいる俺である。
ここへ至るまでのこと。
目覚めた俺はケーブル接続を免れてとりあえずシャワーを浴びさせてもらった。
そして歯を磨いた。所定の位置にちゃんと自分の歯ブラシがあったのでこの第5、第6象限とやらの繋がり方というのが不思議なのだが、そこはあまり考えないことにしている。
こざっぱりしたところで腹ごしらえ…は流石に諦めて俺が“解錠”されてから今までの出来事をリラシュさんと一通り情報交換した。口頭で。
…あの鋭利過ぎるケーブルによる接続は謹んで遠慮させていただいた。注射はあまり好んで受けたいもんではない。しかも首筋に刺すらしいし。リラシュさんが妙に残念そうにしてたのは気のせいだと思う。うん。
「そんで、どうやったらザールゥクであること忘れられるん…?」
「話すと長いんだがざっくり言うと一時停止の機能が付いてたんだ。」
「えぇ…?信じがたい話やけどそう言われてしまうとなぁ…。でも何にせよ今度からはイクスが透視せんでもジョーシン君にザスロのこと聞いたらええんやんな。」
うん?
「えーと、聞かれたらどうしたらいいのかな俺は。」
「え?」
「あれか、一々俺が寝ないといけないのかなこれは。」
「んなエラい面倒やな。」
その時部屋の隅から着信音が聞こえてきた。音を辿ると布団の下からまだ見慣れない買ったばかりの俺の携帯が発掘された。
「非通知からの着信だ。ほっといていいか。なんか画面バグってるし。」
「ちょお見して?」
ずっと鳴りっぱなしの携帯をそのままリラシュさんの方に向けると、有無を言わさず通話ボタンを押下された。
ちょーちょーちょー、どういうことですか。
無言のままこっちに差し出されたので慌てて出るしかない。
「も、もしもし?」
『やぁ、ザスロの事ならボクに訊いてね。』
…レンザァルからだった。
「おい、どういうことだ。」
なんで電話。はっ、まさか俺の携帯は既に魔改造された後なのか。いつぞやになんかそんな事を三笠が言っていた気がする。
『新が理解しやすい方法で最適なアクセス経路を取ったらこういう形になったみたいだよ。』
「はぁ、」
なんだかよく分からんがとりあえず訊きたいことがあればこうしてコイツに訊けと。
「コッチからかけるときはどうしたらいいんだ?」
『今回は便宜上こちらからかけたけど、普段は通話ボタンを押したらいつでもボクに繋がるようにしてある。』
三笠の手によるものでは無いようだが何にしろやっぱり魔改造されていた。人にはチョット見せられない携帯にされてしまっているようだ。まぁ見せる相手なぞ居ないんだが。
「リラシュさん、何かこうやって通話するとザスロの事調べられるみたいです。」
「そんな雑な仕組みでええの?」
「そこは俺もツッコミたいです。」
『新に合わせてテキトーな作りになってるよ!』
「お前も爽やかにさり気なくディスらんでいい。」
『実は接続の仕方は今本部内で協議中なんだ。こうして片手が塞がると面倒だろうから疑似的にペアとして貰うとか、場合によってはリラシュ=ピロシュのヘッドマウントディスプレイみたいな形で情報表示することも考えてる。』
なるほど、リラシュさんのジェットヘルってHMDだったのか。ていうかもしかして他のフェチケのやつらのマスクとかもそういう意味あったのか。だったら確かにあのスーツも伊達じゃないということか。装甲としても強そうな変な繊維だし意外と機能的なのかもしれない。美的感覚だけがきっと残念なんだと思う。ヴァルルカンの服装も大概だし。
ていうか待て、俺はさすがにあんな恰好したくないぞ。全身タイツを着たい年頃は軽く10年前には卒業している。
「よく分からんがペアになるとレンザァルがこっちで動く形になるんだよな?だったらそれが一番楽だと思うんだが。」
そう、レンザァルの恰好であれば一応真っ当な日本人男子の姿だ。
『ウギィエルゥシチェ メグァベェメネトゥ。その方向で検討するよ。因みに形がボクになったとして、活動するのは新だからね。ボクはペアじゃないから活動権限は無い。内部でアクセスだけさせて貰う形になる。』
「ん?おう。よく分からんがそれでいい。」
女の子にしておかなくてよかった。本当によかった。ナイス過去の俺。
『許可が下り次第実施するね。ボクがペアになると機能的には確かに便利だと思う。視界中にザスロ他の情報表示ができるし、一応身体機能もリラシュ=ピロシュよりはフェチケ達にかなり寄せてある。あと一番の特徴としては“意思”コントロールの機能がついてるから新向きかも知れない。』
「なんだ?投石でも得意になるのか…?」
『そっちの石じゃなくて“思い”の方だよ。ざっくり言うと下位象限並みに思いの力を収束させる機能かな。』
うん?なんだそれは。
『基本は今まで通りだから特に意識する必要ないよ。ちょっとサポートがついて顕現しやすくなるだけだから。』
アハ、とのんびりした子どもの声がした。
んんん?何だか分らんがエラい中二病臭い設定がプンプンしてるぞ。大丈夫か俺。
そして本部協議とやらが済んだところで解析補助担当として真珠島に送り込まれて先ほどの状況に至る。
つまり俺の現在の恰好は新城新としての姿ではなく、レンザァルの恰好だったりする。文字通り他人の面を下げて歩くところを想像すると何だか妙な心地なのだが、アイツが背格好を俺に似せたせいなのか動作自体には特に何の問題もなかった。声はなぜか俺のもののままだし鏡や手元を見ない限りは身体的には特に違和感という程のものは無い。
身体的には。
そう、五感については違和感だけでは済まされない変化があった。
まず視界の中にゲーム画面かと思うような情報表示が出るようになっている。第5象限だけの事らしいので講義やバイトなどの日常生活時には特に気になるものではないだろうが、それにしても尋常じゃない。視界の中に動物などの姿が入ると即座に補足してマーキングされるほか、詳細を調べようと思うと解析データが可視化されて表示される。文字やら記号らしきものは読めないのだが、何となく何が書いてあるかは雰囲気で分かる。謎仕様だがそのあたりはありがたい。詳しく知りたいと思うと今度は耳元というか、頭の中でレンザァルの日本語による解説が入る親切設計だ。
他にもここがヴァルルカンの拠点だというエリア情報やら、味方のフェチケ達のリアルタイム位置情報なども視界の表裏にバンバン飛んでくる。厳密にいうと眼に見えているわけではないのだが、どうも現実世界に慣れている俺にとっては所謂視覚に近い形で受容されるということらしい。どういうことなの。
他にも肌感覚というか、音やら気配やらに妙に敏感になっており、どんなものがどれだけの距離にあるのか、近づいてきているのかなどが感覚的に察知できてしまう。便利なんだろうが正直急激に情報量が増えたせいで単に突っ立っている時でさえ、ものすごく疲れる。身体的というより、神経を尖らせ過ぎて気疲れする感じだ。これはしばらく相当シンドイような気がする。
目の前のイクスの情報も見ようと思えば色々分かってしまう。ペアを含めた名前だけでなく、身体の損傷のレベルやら持ち物にザスロ…何で眼鏡なのかはわからないが、そういうものを所持しているようだ、というのも見ているだけで知れてしまう。
正直チートみたいなもんだ。
レンザァルって、なんだろう、もしかしてトンデモナイ奴なんだろうか。
確かにザールゥクという貴重なもののサポート役なので、何やら重要な担当者がつくということはあり得る。リラシュさんの新型だとかなんだとか言っていたし多分ロボ的な何かなんだろうが、もしかしたらロボの概念が違うのかもしれない。それでいうなら元々がコイツラみんな地球外生命体絡みなわけで、地球の常識からは飛んで行ってしまっているわけで。いっそロボの方がまだ概念的には理解できるんだがAIにしては高度過ぎるし、何かそういうレベルで分かる対象じゃないのかも知れない。生き物じゃないって言われただけだし。
考えても分からないものは放っておくに限る。俺はその辺はもうとっくの昔に諦めた。
「それで、早速だがヴァルルカン側のザールゥクを探しているのだ!分かる情報を教えてもらえないか!」
イクスが華麗に2回転半位しながら目の前に降りて来た。周囲は森というか山の中のような場所で、ほとんど獣道のような道しか立ち位置が無い。夏前ということもあって周囲にも高低様々な植物が鬱蒼としはじめている。その中でどこの枝にもぶつからない彼はきっと凄いんだと思う。いろんな意味で凄い。それは間違いない。
「ええと、ザールゥクだな。ちょっと待ってくれ。まだ不慣れなんだこの状態。」
レンザァルに問い合わせしようかとポケットの携帯に手を伸ばした所で、しかし目の前に表示がポップアップされた。地面から生えた表示は相変わらず読めないのだが、間違いなくザールゥクを示していると分かる。
「えーと、これは地下にあるって意味か?とりあえず足元から反応が出てるな。」
「地下?それはおかしいな!既に透視済みだがこの辺りの地下に空間はなかったぞ!」
「埋めてあるとか。あれ?でもどこ向いても下の方にあることになってるな。もしかしてものすごくデカいもんが埋まってるとかかも知れん。」
ヌリエラの重機を想像する。あれがそのままザスロ指定されていたっておかしくないだろう。何トンかわからんが大型トラックサイズならそういうこともあるかも知れない。
「モノが埋まっているようにも思えなかったんだがな!ふむ、そういうならもう一度潜ってみようじゃないか!」
何やらイクスがくるくる回ってキラキラしはじめた。気にしたら負けなんだろう。
数十秒待ってると銀青色の不審者が顔を上げた。
「ぷは、やはり、何もないぞ特に。」
「どういうことだろうな。」
「とりいそぎリラシュに情報を転送しておいてくれ!」
「あ、ああ。どうやるんだろう。転送?転送ってなんだ、電話かけたらいいのか。」
「おい、大丈夫なのか新城新!しっかりしてくれたまえよ!」
「初心者なんでもうちょっとチュートリアル的なモノがほしいんですが…。」
ピコん
『ジョーシン君?』
リラシュさんの声が聞こえた。デバイスも何もないのにどうなっているんだろう。耳元に知覚できない骨伝導のヘッドホンでも装備してるのかもしれない。アハ。俺の事なのに俺が一番分かってないぞ。
『情報ありがとな。ちょっと思いついたことがあるんで試してみてええかな。』
何か知らんうちに情報転送とやらができていたようだ。もう何でもいいよ。なるようになってくれ。
『イクス。借りるでジョーシン君。』
「ああ、問題ないぞ!そちらは任せた!」
次の瞬間、俺は駐車場に居た。
見た事ある駐車場だ。いや、ていうか何だ、目の前の景色が瞬きすらしない内に切り替わった感じなんだが。一番近いのはテレビのチャンネルを変えた感じだろうか。うおおお、頑張れ俺。現実を受け止めろ俺。何でもいいとか思ったからか。
そう、ここは真珠島ゲートのあったはずの駐車場だ。いつぞやヌリエラの金馬が降って来た、ヤン車にお世話になった、あの。目の前には浮かぶ真珠島の威容がある。こうして改めてみるとデカい。トンデモナイ。
しかしそれ以上に気になる情報が“見えた”。
「ザールゥク反応…。ああ、そういうことか。リラシュさん。」
『やっぱりやな。アカン、アズにも早よ伝えやんと。イクス、回収するで。このサイズだと何分かかるか分からんけどこれは知らずに拠点破壊なんてしてた日には完全にやられるとこやった。破壊トラップやんか。』
改めて仰ぎ見た。
真珠島が目の前に浮かんでいる。
浮遊要塞にしてザールゥクである、真珠島が。




