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高校生と廃品回収2

「転送完了しました。アラートの不発を確認。」

 アズ=ウトルシュは何度目かになる真珠島内への潜入に成功した。把握済みのザスロの確保、並びに必要に応じて陽動(ようどう)(おとり)をする役目だ。


 下草の少ない大樹の森の中を滑るように駆ける。目指しているのはただ一箇所、黒い塔のような多角柱型の建物だ。さすがに建物内部へのゲート展開はできなかったが、ほど近くに開けることができたのでほぼ狙い通りと言える。今までと大きく異なるのは、この潜入が未だにヴァルルカン側に知られていないということ。予定では、だが。

「目標発見しました。内部に侵入します。正面からで問題ありませんか?」

『問題ないで。今回はセンサ関係は全部切っとる。』

 まるで自分の家の事のように気軽に言うのは通信(コムニカジオシュ)担当のリラシュだ。拠点(フェチケフィゼク)からの後方支援を担当している。もちろん敵方(ヴァルルカン)のシステムアタックがそんなに容易なワケはない。過去からの積み重ねの部分も大きいが、ここ数日間については彼女の執拗(しつよう)なまでの解析努力がある。ハールディが今まで通信上で戦ってきた相手だと分かってから、どうも気合いの入り方がおかしい。何ならちょっと怖い。そのお陰でこうして無事に潜入できているのではあるが。

 周囲を入念にチェックしてから建物の壁に触れる。ライン状の光が走り、壁が溶け落ちた。真四角の黒い穴が現れる。

『そのまま直進。エレベータには乗らず左の通路に。』

 アズは無言のまま言われた通りに歩を進める。今ハールディとケズデットは中埜なかのが交渉という名の足止めをしているはずだが、まだキヴァトやその部下たちと遭遇する可能性はゼロではない。警戒しないでいいわけではないが、経路の指示があるだけでも非常に助かる。

『3つ目のドアに入って。鍵は開いとる。入ったらウーラを内部の装置につないで欲しいんやけど。』

 危うく通り過ぎかけたドアを勢いそのままにくぐった所で、さすがのアズも足が止まった。

「装置…どの?」

 部屋中いっぱいに装置類がこれでもかと積まれていた。棚に並んでいるわけでもなく、本当にただ無造作にそこかしこに積み上げられた様子はいっそスクラップ置き場に近いといえる。外観上は壊れたり汚れたりした様子はないし、よく見ると崩れている訳でもないので、随分雑ではあるがきっと倉庫なのだと思われた。学校の教室くらいの広さは(ゆう)にある。

『一台だけ起動中のがあるはずや。申し訳ないけど探して貰えるやろか。』

 アズは少し考えてから部屋の真ん中あたりに移動すると意識を集中した。


 第5、6象限で何かが運動する時にはかならずエネルギーの移動を伴う。

 それは様々な現象として周囲の環境に影響を及ぼすものだ。


 たとえどれだけ微小(びしょう)であろうとも、()()()()()()を見つけ出せれば観測が可能だ。


 アズはそっと積みあがった装置を一つずつどかしていく。やがて現れたのはコンビーフ缶のような形をした小さな箱型デバイスだった。静かにケーブルを差し込んで手首の痛デバ(ウーラ)と繋ぐ。画面上をタップすると模様の様な箱型の文字が流れていった。

『ビンゴや。回収を。』

「いえ、できれば全て集めるまで回収は待ちたいです。数量変動があると見つかる可能性が跳ね上がりますので。このサイズであれば持ち運べますし。」

『そういうんなら頼むで。最悪は破壊しても構わんけど、ザールゥクが回収できるまではできるだけこちらで回収したい。予測ベースやけどかなり()ってるっちゅうこと、忘れやんといてな。さ、どんどん行くで。』

「次は上階ですか?」

『せやな。ホンマは最終的には地下に行きたいんやけどな。ゴメンやけどエレベータの解析はちょっとまだかかる。上に幾つかあるからそっち先行って欲しいわ。』

「わかりました。前回同様、外壁を使います。」

 言うが早いかアズは来た道を駆け戻ろうとした。が、通路を曲がったところで巡回していた警備ロボットが目に入った。前回侵入時に階段室からぞろぞろ出て来た大きな逆円錐型のロボだ。

 頭部のランプがブルーからピンクに変わった瞬間には、既にアズの右腕が光の尾を引いていた。事前にリラシュから聞いていたのでこの警備ロボの内部構造は把握している。通信モジュールのある場所だけを迷わず拳が駆けた。外部装甲が弾け飛び、内部の基盤ごとウエハースのように木っ()に砕ける。


 一閃。


 突然経路を遮断されたエネルギが変化を(いと)って周囲の空間を焦がす。

 あたりに派手な破裂音が響いた。

「リラシュさん、今ので発見されたでしょうか?」

『分からん。通信波の確認はできやんかったけど、何にせよ急いだほうがいい。廊下にソイツを置いていくんやし、見つかるのは時間の問題や。』

 (くずお)れたロボットをそのままに入り口まで駆け戻ると外へ出た。見つかるまでと見つかってからでは流石に動きやすさに差がある。後はどれだけ短時間にザスロを多く集められるかだ。できれば誰か捕まえてヴァルルカン側のザールゥクについて聞き出せれば1番いい。

 塔とも呼べる黒い建物だ。壁面にはわずかばかりの凹凸も無い。アズはほんの少し反動をつけるとその壁に向かって迷いなく足を掛けた。その勢いのまま鉛直方向に向かって走り出し、見る見る内に体が数十メートル持ち上がる。壁を蹴る際に背面に向けて微量のエネルギ放射を続けることで駆け上がるのに必要な摩擦を足底に確保している…らしい。ジェットエンジンのような物無しでこれができるのは恐らくアズだけだ。まず、やろうと思わない。

 自由落下と同じような速さで屋上に辿り着くと施錠してあるはずの内部へのドアを通って再び侵入した。

『映像で見とるわけちゃうけど、毎度器用やんな。』

 壁登りについてか、鍵の高速コピーの事だろうか。

「やれると思う事が大事なんです。」

 リラシュの溜息を耳にしながら目の前の階段を駆け下りる。


 ピコん


『待ちたまえアズ=ウトルシュ!』

 イクスからの割り込み通信だ。音声だけだがおそらくカッコイイポーズをしているに違いない。

 イクスは島内に別ルートから潜入している。ザールゥクの透視とリラシュのサポート役だが、内部からの透視であればかなり精度が向上するためだ。

『その建物には15階があるはずだが入り口はないか?ザスロは無いが(しつら)えからするとおそらくハールディかケズデットの部屋だ。余力があれば探索してくれたまえ。新城新(しんじょうあらた)の鍵に関する情報が欲しい。』

 アズは言われて一旦足を止めた。

「…屋上から一直線に降りていて、まだその途中ですね。」

『アカン、前回の侵入時とマップが変わっとるみたいやな。イクス、()れる?』

『リラァシュ!任せたまえよ!』

 ほどなくして解析結果として地図データがアズの手元に送られてきた。7階にホールがある等の基本構造は変わっていないが、確かに10階から上の大部屋の配置が大きく変更されているようだった。地下についても変わっている可能性がある。

『私は島内の解析に戻る。必要があればいつでも呼んでくれ給えよ!』

『助かるわイクス。逆探知より遥かに早い。しかし前回派手に壊したからやろか。侵入時を想定して慌てて改修したんかも知れん。…ふふ、まさかこんな解析のされ方しとると思わんやろな。』

 心なしか一寸(ちょっと)楽しそうである。

 アズは駆け下りると一番近いドアに手をかけた。階段室から“コピー”でフロア内に侵入する。

「リラシュさん、今何階か判りますか?」

『ちょうどええ。12階やに。』

「13階より上にはザスロはありませんね?」

『ないな。その階が反応の最上階や。』

 建物外周部を弓なりに巡る。廊下を駆け続けると行き止まりに辿り着いた。右手に窓、左手に壁、正面に白いドアがある。黒い壁の中でそのドアは明らかに異様だった。住宅の玄関についていそうなごくありふれた洋風ドアで、(ひね)るタイプの真鍮(しんちゅう)色のノブがついている。この建物にこれ程そぐわないものもない。

 一本道だったのでこのフロアにはこの大部屋と階段室しかない様だ。迷わずノブに手を伸ばす。

『複雑なようならコピーに協力するで。』

「いえ、鍵がかかっていません。」

 だだっ広い円形をした真っ白な部屋だった。天井はさほど高くないが窓も灯具も無いのに仄明るいためか圧迫感はあまり無い。今入って来たドアの他は、部屋の中央に唐突に生えたエレベータの操作盤(腰位までの高さの円柱が床から生えている)と、そこかしこに並んだドアしかない。そう、壁が無いのに床からドアが生えている。その数ザッと20枚くらいだろうか。向きはバラバラだがすべてのドアが入り口と同じ真っ白な洋風ドアで、個性が無いのが却って異様さを引き立てている。

「予想だとここは、キヴァトの部屋ですかね。」

『その悪趣味さは十中八九そうやろな。ザスロらしきもんは何か置いてある?詳細が視えんかった所の一つやな。』

「ドア…は少なくともリストには無いですよね。」

 ここへ来る前に可能な限りザスロの位置と外観について透視をし、リストを作成してきていた。イクスとリラシュで協力することで現場の透視・解析をしながら(ザールゥク)に問い合わせをするという荒業を試した所、幾らかは具体的な形状まで把握ができた。一部よく分からないものも含まれていたので完全ではないが、効率は跳ね上がっている。ザールゥクの有無の差は非常に大きい。

 視れなかったものは恐らく“依代(よりしろ)”ではないか、という結論に至っていた。ヴァルルカンはヌリエラやオレオのように依代を媒介(ペア)に降りてきている者が多い。そして依代はザスロである確率が高い。

『移動した可能性もあるな。イクスの透視時点でキヴァトがその部屋に居た、っちゅうことかも知れん。』

教授(キヴァト)は海外に居るという話では無かったですか。」

『いつの間にか帰国したのか、もしかしたら第4通って移動ができるんかも知れやんな。「どこでも」っちゅうワケちゃうやろけど、自分の部屋なら一時帰宅できるルート作ってある可能性は高いと思うで。』

「転送要らずですね…。」

 フェチケの持つ転送システムも異常に便利なことは間違いないが、キヴァトの能力はそれと比較しても破格である。決して戦闘向きではないがサポート役としてはリラシュとはまた違った恐ろしさがある。


 ガチャ


 ノブの回転する音に気づいてアズはすかさずそちらへ駆け寄った。部屋の片隅で一枚のドアが(きし)みを上げると、見慣れたスーツ姿が現れる。そのドアめがけて爪先を差し込んだ。

「は…?」

 両の目が離れていてどことなく(ねずみ)を連想させる禿頭(とくとう)の老人だ。声だけが妙に若い。

「なん、…おい、待て、アラートは受けてねぇぞ!?」

「故障してるんじゃないか。」

「そもそも何でまだ居るんだ!オレオを落として帰ったはずじゃ…」

「忘れ物があってな。ちょっと取りに戻ったんだ。」

 アズがドアに手を掛けると、キヴァトは慌てて引っ込んだ。離れた場所で別のドアが開く。

「自宅みたいな気軽さで言うんじゃねぇよ。」

「そんなに急いで逃げることないだろう。」

「あの女は居ねぇだろうな!?」

 キヴァトは頭だけドアから伸ばしてあたりをギョロギョロ見渡した。相当リラシュがトラウマらしい。


 ドガァァッ!!


 アズが手近なドアを一枚蹴破った。吹き飛んだドアが隣の一枚にぶつかって二次被害が発生している。

「オイ!?」

「とりあえずこの部屋のドアを閉じておく必要がありそうだなと。」

 言いながら次々に蹴破り出す。

「待てって!何か探しに来たんだろう!?」

 4枚目のドアが吹き飛んだ所でアズが動きを止めた。

「手伝ってくれる気でもあるのか?」

「モノによるが…ああ待て!モーション入るんじゃねえよ!何探しに来たってんだ!」

「オレオから聞いたんだが、(あらた)を起こすのに鍵が要るらしいな。」

 キヴァトがドアから出て来て頭をつるりと()でた。前髪をかき上げようとしたのかも知れない。

「はん、そういう事ならハルに聞いてくれ。島内にはねぇよ。」

「ハールディの所にはオグが行っている。」

「ならソッチで交渉なりしてもらうんだな。鍵はハルの管轄だからな。」

「難航している。」

「ギャハ!だろうな。因みにオレのとこ来られても何も出せねぇぞ。アノ女の影響下んなったせいでよぉ、色んな権限なくなってるからな。」

 盛大な舌打ち(さえずり)が聞こえた。行き場のない怒りを(ヒシ)と感じる。

「この間の坊ちゃん達の送迎みたいに直接影響のない活動だったら手伝ってやれないこともねぇけどな。」

 キヴァトが(ふところ)から携帯電話を取り出した。携帯まで白い。

 視線の()れた隙をついて、アズは咄嗟(とっさ)に距離を詰めるとそのドアの隙間に片足を挟む。キヴァトの表情がザッと(くも)った。

「お前はどこの取り立て屋だ!!」

 必死でドアを引っ張るキヴァトだが、足が挟まっている以上ドアが閉まることはない。アズは戸板に手をかけてグイと引っ張った。容赦なく開くドアに背を向け、キヴァトは奥へと駆け出す。

「来いよ、コッチでなら相手してやらないこともねぇぞ!」

「いいのか?リラシュさんに何かされてるんだろう?」

「ギャハハ!オレもそこまで馬鹿じゃねぇよ。モチロン何かされない事もねぇんだろうがな、コッチにも相変わらず新城新の中身がある事は忘れてねぇからよ。」

 アズは無言で右手を持ち上げた。その(てのひら)が仄かな輝きを放つ。


 ズガァァァァ!!!


 白熱したエネルギィが溢れ、ドア枠を破壊しながら内部空間を焦がして走った。

 爆発にも近い強い風が周囲を駆けてドアの群れと木屑(きくず)を散らす。

「…外したか。」

「ゥオイ!てめぇいきなり打つ奴があるかよ!」

 振り向くと後ろ側のドアから頭半分だけ出している小ちゃいお爺ちゃんが見える。

「来い、と言われた気がしたが。それに禁止はされていないはずだ。」

「そういう問題じゃねぇ!相変わらず話ができねぇ奴だな。」

「ヴァルルカンから見たらフェチケは皆そうなんじゃないか。」

「そりゃお前、比べたら他の奴らがカワイソーだと思うぞ。」


 ドガァッ!


 アズがまた一つ跳ねてキヴァトの隣のドアを蹴破った。

「バカヤロー!ふざけんなよ!流石に見逃してはやんねぇからな!!」

 キヴァトは叫びながらドアに引っ込むと1番遠いドアから再び躍り出た。スーツの胸ポケットから名刺のようなものを取り出すなり周囲に投げ散らす。床に落ちるや一枚一枚が膨張し白いドアに展開していった。

「足止めさせてもらうぜ、アズ=ウトルシュ。」

 ドアが次々に開くと、中からはゾロゾロと人やらロボやらが出てきた。一部見たことのあるようなノッポとずんぐりも居るので、おそらくキヴァトの部下なのだろう。警備ロボットの色違いのようなものなどもある。ロボも合わせると10人くらいだろうか。

「まぁおたく、一人で毎度よう来るわ。」

「今度こそ見逃さんで、ワレ。」

 見た目こそ強面(こわもて)のお兄さん方で手には思い思いに武器をお持ちなのだが、アズと違って私服の地球人であるためどちらが不審かと言われると悩ましいシーンである。

 キヴァト自身はその様子を確認するとドアに引きこもった。


 ピコん


『完全にバレたな。少し早いけどまぁここまでは想定内や。作戦展開。ステージ2に入るで。』

 リラシュの合図を皮切りに、アズは駆け出した。周囲から一斉に人影が飛びかかる。


 ズガガガガ!


 銀糸の左腕で金属パイプのようなものを()なしつつ、頭上に降り注いだ銃火器類の弾を右手で払いのける。

 足払いが飛んできたのを跳躍して踏み付けると、身を縮めてから思い切り天井まで飛び上がった。

 その視界にレーザ光が映る。

 ギリギリのところで頬を(かす)めるビームを(かわ)し、天井板を足場に逆円錐型のロボット一台に鋭い蹴りを入れた。火花と破裂音が響く。

 爆煙の隙間から鎖が伸びて来る。反対からは刃渡りの長い剣のようなものも飛んできた。まだ複数台いるロボットから追加のレーザ照準器が射抜く場所を探ってきている。

「全部倒さなくてもいいですか?流石にこの数だと時間がかかりそうです。」

 出来る限り避けてはいるものの、降りかかる攻撃のいくつかは受けざるを得ない。一つ一つのダメージはさほどではないが蓄積すればいずれは行動に支障が出る。

 左腕で拳を受けた隙に、逆側の脇腹を鈍器が(えぐ)った。すぐさまその得物を蹴り上げて持ち主に拳骨を返すが、別の角度からも次々に攻撃が降り注ぐ。

 一対一なら無敵に近いアズだが、防御や回避は必ずしも得意な方ではない。速さだけならオグの方が上だし、イクスの水壁のようなものもない。

『依代は惜しいけどしゃーなしやな。置いてってええで。こっからは建物の破壊を許可する。』

 許可もクソも他人の拠点である。

 アズは手近なロボの残骸を片手で掴むと、水平方向に振り回した。周囲に(わず)かばかりの空間ができる。間隙(かんげき)を縫ってエレベータのある部屋の中央まで駆けた。

 右手は光を帯びている。


 キュンッ


 ズガァァァァアッッ!!!


 爆発音と共にフロアの床に風穴が開く。躊躇(ためら)うことなくその穴に身を投げた。アズにしてみれば壊していいのであれば他フロアへの侵入はそれ程難しい事ではない。

 まずは最もザスロが多く保管されている地下を押さえる。依代などはその後一つずつ拾っていくより無い。最悪は拠点ごとの破壊も視野に入れている。


 後はどれだけ早く辿り着けるか、だ。


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