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秘密組織と浮遊島6

 細い風の音に潮が混じる。


 もうすぐで、俺の勝ち。

 呆気なかったな。意外と。


 その殺風景な建物の天辺(てっぺん)。オレオツァエは胡座(あぐら)をかいて時が過ぎるのを待っていた。

 通常の階段は15階建てのうち14階までしか通じていない。そこからエレベータで15階へ上がり、展望室へ行くための細いハシゴを登った先が、この屋上だった。

「屋上だって、建物の一部だからね。アズ=ウトルシュは頭が固そうだし、気づかないんだろうけど。」

 そもそも15階まで辿り着く事は難しい。エレベータはランダムな階に動くように設定してある。全く来れなくしてあるとズルいので、あくまで各階等確率で降りられる仕様にはしてあった。ただ、うっかり途中のフロアに当たると、7階のホールの様にいちいち鍵がかかる仕組みで、その鍵も一回開閉ごとに形が組み変わるようにしてある。要するに、15階までダイレクトに辿り着けないと、メチャクチャめんどい。

「少しはゲーム性出してあげたんだけどな。この時間まで来ない事考えると、だいぶ迷ってそうだな。」

 運良く15階についても、屋上まで上がることを思いつかなければ何も見つけられない。気付いたところで、ハシゴは普段は室内の天井懐に収納されており、リモコン操作で降ろさなければならない。リモコンは15階の室内ではなく、7階ホールに隠してあった。屋上に上がってこちらからハシゴを収納してしまえば、そうそう分かるものでは無い。「鍵」はかかっていないのだから、ギリギリセーフ。

 オレオツァエは腕時計をチラリと確認すると、伸びをして手摺(てすり)の方へ向かっていった。

 ここからの景色は素晴らしい。浮遊する真珠島のほぼ中央に立つ、島内で一番高い建物の天辺だ。遠くに半島の影と、広々と伸びる水平線を見渡して、息を吐いた。手摺に背中を預けて、空を見上げる。

「あーあ、もう少し楽しめるかなと思ったのに。つまんない。新城新(しんじょうあらた)も使えないし。」

「新は道具じゃないからな。」


 !?


 ガシャンッ


「あ…?」

 気付いた時には手遅れだった。

 空を背にしたはずの両肩に、銀糸の手がかかっている。振り返ると、手摺を境にした外壁側の狭い縁に、アズが立っていた。オレオツァエの肩をしっかりと掴んでいる。

「まって、まてまてまてまて。待てよ。なんでそんなとこにいる?」

 オレオは屋上の入り口へ頭を戻した。

「ずっと見張ってたんだぞ入り口は…?いつの間に潜り抜けた??」

「2時間と48分くらいだな。私の勝ちだろう。」

 アズは、トンとオレオの肩を軸に飛び跳ねると、白衣の正面に着地した。オレオの額から、嫌な汗が(にじ)む。

「え…俺、まさか負けた?は?嘘でしょ?」

「各階毎に警備マシンを配置してたのにはヤラレたな。おかげでかなり時間がかかってしまった。」

 相変わらずアズは人の話を聞かない。いや、耳には入っているはずだが。オレオは首を振りながら口をパクパクさせている。疑問符と、聞きたいことが山ほどあった。ようやく一つを絞り出す。

「各階ってことは、全部倒してきたのか?14階まで?」

「いや、」

 アズが首をすくめる動作をした。

「10体くらい倒したところで、キリがないと思って、階段を使うのをやめた。」

「じゃ、エレベータで?まさかまっすぐ上まで上がってきたのか?」

「エレベータは使っていない。」

 警備マシンは階段を(ふさ)ぐようにゾロゾロと出てきたのだった。かといって、前回の侵入経験からエレベータは信用できない。

「は?その二つ使わないでどうやって上がって来たんだよ?」

「さっき見た通り。そこから。」

 アズが指差したので、オレオは振り返った。手摺と、綺麗な景色が広がっていた。

「まさか、空とか飛べたりしたの?チートなの?」

「飛べるわけないだろう、オグじゃあるまいし。登ってきたんだよ。」

「は???」

 壁を?

 ダンッ、と床を蹴ってオレオツァエが怒鳴った。

「何階あると思ってんだよ!?十分チートだろ!アリエナイ!!」

「建物は壊しちゃいない。ちゃんと開く窓を見つけてそこから上がった。禁止は、されてなかったはずだが。」

 オレオツァエは、めまいを覚えた。そのまま手摺にもたれかかると、もう一度空を見る。

「そうだった、コイツラに、というかアンタに常識なんてあるわけなかったんだった…。」

「さ、約束通り捕まえたぞ。新の居場所を教えてもらおうか。」

 アズに言われて、オレオは首だけ起こした。

「嫌だと言ったら?」

「この建物を今ここで完膚(かんぷ)なきまでに破壊する。当然お前のラボも、お気に入りの手品道具一式も、灰燼(かいじん)()す。」

「…そんなことしたら新城新も巻き添え食うかもしれないのに?」

「新は第6象限の地球人だ。何とでもできる。」

「ごめんなさい、やめてください。」

「分かればいい。」

(コイツ、本当に常識ない。)

 オレオはぐったりと手摺にもたれかかった。

「ちょっと待ってね」と一言呟くと、オレオツァエは白衣のポケットから携帯型の端末を取り出した。カタカタといくつか操作すると、パクンと閉じてポケットに収める。

 ふぅ、とため息を落とすと、背筋を伸ばしてクルリと手摺に飛び乗った。

「あーあ。アンタってお人好しだよな。」

「どういう意味だ?」

 アズが小首を傾げたのを見て、オレオの顔がぐしゃりと歪んだ。

数人(かずと)と俺がペアになった時も、アンタがその坊ちゃんとペアになった時も思ったけどね。」


 オレオは、両腕を建物の外に向かって伸ばす。


「新城新の場所、教えてあげるよ。約束だからね。でも、」

 パン、とオレオが叩いた手を広げると、腕の動きに沿うように黒い扉が開いた。



「タダで返すくらいなら、もういらない。」

 扉から何かが落下する。

 頭から、真っ逆さまに。



「ほら、早く追いかけないとじめッ…ぐッ…!?」

 オレオが開けた空間から新が落下を始めたのと、アズが踏み出したのはほぼ同時だった。踏み込みの勢いそのままに、振り返ったオレオの鳩尾(みぞおち)を左腕でさらうと、手摺の裏を目一杯蹴り飛ばして地面に向かって飛び降りた。

「馬鹿野郎!!こんなことしたら俺もアンタも…!!!」

 オレオの悲鳴が終わる前に、アズの左手が新の首根っこを掴んだ。抱えられているオレオの身体も弓形(ゆみなり)に舞う。アズが空いた右手を地面に向けてかざすと、白い光が世界を包んだ。


 ドッ…!


 反動で黒い建物の一角にアズのブーツが刺さった。1階分の壁を削って落下を続け、真下のガラス窓を粉々に砕いてフロアに滑り込む。


 ガッシャァァァアアア


 タイル地の床をガリガリに削りながらオレオを右手に掴み直すと、勢いに任せて正面の壁に叩きつけた。



 軽度の崩落。

 瓦礫(ガレキ)と埃が散る。


 ややあって視界がほんの少し開けると、そこには壁にめり込んで項垂(うなだ)れる白衣。

 (すす)けてしまって、もはや白くはない。

「ぐ…、」

 パキパキと造営材の破片を()き散らしながら、オレオはようやく身を起こした。

「むちゃくちゃやりやがる…派手に壊しやがって…。」

 頭にかかった埃を払う。顔を上げると、砂煙(すなけぶり)の中に銀色がそっと立っていた。

「今度こそ間に合った。」

 左の小脇に、ぐったりとした新を抱えている。

「…オレオ、自分がしたことの、意味は分かるな?」

 今までに聞いたことのない、冷えた声音だった。オレオはふらつきながら立ち上がる。

「アンタだってさっき、巻き添えにしようが構わないとか、いってたでしょ…。」

 白衣は背中から、半月斧(バルディッシュ)を取り出すと肩に担いだ。

「巻き添えにするとは、一言も言った覚えはない。何とでもできる、と言っただけだ。」

 アズが一歩前に出た。

 オレオは咄嗟(とっさ)に半月斧を構える。ふと気付いて割れた眼鏡を外すと、無造作に放り投げた。

 アズはゆっくりとした動作で、さらに一歩踏み出す。

「私は今、ものすごく、怒っている。」

「見たらわかるよ。アズ=ウトルシュ。」

 銀糸が半月斧の射程に入ると同時に、オレオはそのポールウェポンで横薙(よこな)ぎに斬りかかった。


 ガギッ


 鈍い音が響いて、半月斧の動きが止まった。

 刃を、銀糸の右手がガッチリと摘んで止めていた。

「ご冗談を…。」

 オレオの額から、汗が一筋流れた。

「お前に聞きたいことがある。」

 そう言いながらアズが右手にそっと力を込めると、半月斧の刃にビシビシと罅割(ひびわ)れが走った。

「何でも()いてよ。答えられるかは分からないけどね。」

 オレオが柄を押しても引いても、半月斧はビクともしなかった。罅割れから小さな金属粉がこぼれ落ちるばかり。

 銀のマスクから低い声が漏れた。

「新を返してもらおうか。」

「もう抱えてるじゃない?」

「中身の話をしてるんだ。」

「…。」

 オレオは、目を細めた。

「残念だけどね、それはできない。俺にもその子は起こせない。」

 アズが指先の力を強めた。罅がまた一つ進行する。白衣は少し眉をひそめると、フゥと一つ息を吐いた。

「嘘は言っていない。起こすのには鍵が要るんだ。俺は今、それを持ってない。」

「誰が持ってる?」

「ハル…。」

 しばらく二人の間で視線の争いがあった。外から銀糸のマスクの下は目視できないので、実際には視線が合っているのかどうかは分からない。

「質問を変えよう。」

 マネキンのようなヒーローマスクが話を続ける。

「数人を解放しろ。」

「それは質問じゃない。」

「私がこうして"参加"してしまった以上、数人はもう無関係だ。民間人を巻き込むのは、ルール違反だろう。」

 くっ、と小さな笑い声がこぼれた。

「俺のペアだよ?」

 オレオが無表情のまま呟いた。無表情ではあるものの、目の奥が薄っすらと喜色を帯びて見える。


 ドサリ


「あ?」

 突然銀マスクが左脇の新を床に落とした。丁寧に扱う気はないらしい。

 アズは左手で腰のポーチを探ると、スルスルとケーブルを引き出した。ケーブルの先端はマイクのジャックよりも鋭利な針状になっている。


 細く尖ったジャック先端を少し見つめると、マスクがポツリと呟いた。


「大人しくしてれば、私で済んだのに。」


「は?」

 アズは右手で半月斧の刃を摘んだまま、スイと一歩前に出ると、ケーブルをオレオの首筋に接続した。


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