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殿下、いつでも婚約破棄してくださって大丈夫です!  作者: krm


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11/16

11話 殿下、討伐って何をするんですか?

翌朝。

朝食を食べ終えた僕は、いつものように幸せな気分で椅子にもたれていた。

焼きたてのパンに、果実のジャム。今日の朝食も最高だった。

最後の紅茶を飲み干したところで、殿下がふいに言った。

「……今日から、魔獣討伐に同行してもらう」

「えっ?」

パンくずを口元につけたまま顔を上げると、殿下がまっすぐ僕を見ていた。

(魔獣討伐……あ)

脳裏に、数日前の王様の説明がよみがえった。

魔力の適性を見るために魔獣討伐に同行すること。そして——魔獣は食べられないという、地味に衝撃だった事実。

「……その、前に王様から聞いた、あの魔獣討伐ですよね?」

確認するように言うと、殿下は小さくうなずいた。

「そうだ。魔力の適性を確認するには、実際に魔獣の魔力に触れるのが一番早い。王家に関わる者は、一度は確認しておく必要がある」

「ふむふむ……」

うなずきながら、頭の中では別のことを考える。

(――魔獣は食べられないって言ってたけど、誰も食べたことがないだけ、って可能性はないのかな……もしかしたら、食べられる魔獣もいるかもしれないよね……?)

そんなことを考えていたら、殿下の視線が突き刺さった。まるで心を読んでいるかのように、じっと見てくる。

「……何か企んでいるな」

「な、なにも!?ただ……えっと、魔獣って見たことないなーって思ってただけです!」

殿下は小さくため息をつきながらも、どこか楽しそうに口角を上げた。

「準備を整えておけ。昼には出発する。同行者の中には王城の魔導師や騎士団もいるから、危険はない」

「はい!」

殿下の言葉に、素直にうなずく。

(魔獣討伐かぁ……)

なんだか遠足みたいで、ちょっとわくわくしてきた。


馬車は昼下がりの街道を、ゆるやかに進んでいた。

窓の外では、金色の麦畑が風に揺れている。遠くで小鳥の声がして、魔獣討伐への道は、のんびりした旅行みたいだった。

「……殿下、あの雲、パンみたいですね」

「パン?」

「ほら、あの丸っこくてふわっとしたやつ。ちょっと焦げ目がついたクロワッサンに見えませんか?」

殿下はちらりと窓の外を見やってから、小さく息をついた。

「……お前は本当に、食べ物のことばかりだな」

「そんなことないですよ!ちゃんと魔獣のことも考えてます!」

「どんなふうに」

「もし倒したら、毛皮はどう使うのかなーとか、牙は飾りになるのかなーとか……あっ、そうするとお肉が残るから――」

「おい、やめろ」

低い声で止められる。

けれどその表情は、怒っているわけではなく、呆れ半分、諦め半分の優しい色をしていた。

「……まあ、お前が普段通りなのはいいことだ」

「え?」

「変に気を張っているより、食べ物の心配をしている方が、お前らしい」

そう言って、殿下はふっと目を細める。その表情が思ったより柔らかくて、僕はぱちぱちと瞬きをした。

「じゃあ、やっぱり食べても――」

「それとこれとは別だ」

「えぇ……」

がっくりと肩を落とす僕の隣で、殿下がふと窓の外へ視線を向けた。

「……この辺りは、かつて魔獣の群れが棲んでいた地だ。今は討伐によって数が減ったが、まだ痕跡が残っている」

「へえ……そうだったんですね」

窓の外を眺めながらうなずく。木々の隙間に見える地形は、確かに少し荒れているようだった。

「今回の討伐対象は、グレイヴウルフという魔獣だ。通常は脅威ではないが、魔力に反応して凶暴化することがある」

「じゃあ、魔法を使う時は気をつけなきゃですね」

「そうだな。俺から離れるな」

そう言ったあと、殿下はごく自然な口調で続けた。

「お前は俺が守る」

あまりにも当たり前のように言われて、一瞬、言葉の意味がうまく理解できなかった。淡々とした声色なのに、その一言だけが妙に胸に残る。

(……殿下って、こういうところ、さらっとかっこいいんだよなぁ)

そう思った瞬間、急に落ち着かなくなる。誤魔化すみたいに視線を逸らしていると、殿下がこちらを見た。

「……顔が赤いな」

「えっ!?い、いやっ、違います!なんでもないです!」

慌てて否定すると、殿下は一瞬だけ目を細めた。

「そうか」

それだけ言って、殿下は前へ視線を戻す。けれど、ほんの一瞬だけ口元がやわらいだのを、見逃さなかった。その横顔を見ていると、胸のあたりがなんだかくすぐったくなる。

(こうして一緒にいる時間にも、慣れてきた気がする)

最初は、緊張して、距離が近いだけで落ち着かなかったのに。今は、殿下がそばにいることが、むしろ自然に感じられる。そして、居心地がいい。

……けれど。

(あれ、このままで……いいんだっけ……)

ふと胸の奥に、引っかかるものが残った。殿下の隣が心地いいと感じるほど、ここから離れられなくなっている気がして。

答えの出ない考えから逃げるように、僕は窓の外へ視線を向けた。

その時、森の上空を黒い影が横切る。

一羽、二羽――いや、もっとだ。翼の大きな鳥たちが、低く円を描くように飛んでいた。

「……ん?殿下、なんか鳥がいっぱい飛んでますね」

なんとなく気になって声をかけると、殿下は窓の外へ視線を向けたまま、わずかに眉を寄せる。

「……森が騒がしいな」

低く落ちた声に、穏やかな空気が少しだけ張りつめた。

(どうしたんだろう……?)

首を傾げる僕をよそに、殿下はしばらく窓の外を見つめていた。

——その違和感がただの気のせいではなかったと知るのは、もう少し後のことだった。

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