第48話 強化の余地
「はじめまして、ユミナ・ブルークイーンです。もしかして、私の神級スキルについての話を聞きに来た、みたいな感じですか……?」
ユミナはウラナさんに対してやや不安げな表情を向けている。
「ユミナ、そんなに怯えなくて大丈夫だよ。この方は悪い人じゃない。神級スキルの研究をしてくれてる人だから」
僕が声をかけると、ユミナは安心したようにほっと息をついた。
「リューオさんがそう言ってくれるなら安心です、ありがとうございます」
「ユミナさんが言ってくださったように、研究の一環として神級スキル『超回復』についてお話を伺いたいと思っています。体の具合はいかがですか? 話をするのが難しそうでしたら後日出直しますが」
ウラナさんに問われ、ユミナは自身の体を見下ろした。
「取り敢えず大丈夫そうです。それに、神級スキルの研究って多分重要なものですよね? なるべく早く事を進めた方がいい気がするので、今ここで必要なことは話し合っておきたいです」
「素晴らしい心遣いですね、感謝します」
口角を上げるウラナさんは、言葉通りかなり嬉しそうだ。ウラナさんは椅子に腰を下ろし、釣られて僕も近くの椅子に座った。
「ではお言葉に甘えて、お話を聞かせてもらうことにしましょう。2週間前の6階層襲撃事件の際、ユミナさんは神級スキル『超回復』を覚醒させたと聞いています。その時の様子を教えていただけますか? 思い出せる範囲で大丈夫で、ゆっくりで大丈夫ですから」
うーん、と声を漏らしながらユミナは腕を組んだ。
「さっき目を覚ましてから2週間前のことを思い出してたんですけど、未だに不思議というか、突拍子もない感じがしていまして……それでも大丈夫ですか?」
「勿論です。覚えてる事を包み隠さず話してもらえると嬉しいです」
ウラナさんに言われ、そこで話す決心がついたのか、よし、とユミナは声を漏らした。
「分かりました。では、取り敢えず覚えてる事を全て話しますね。2週間前に6階層へ行く前の私は、すごくネガティブで、自分を肯定することが苦手で、自分を否定してばかりだったんです。実験も全然上手くいかなくて……でも、そこでキュオルさんが私を優しく励まして、受け止めてくれたんです」
「キュオル本人からも話を聞いています。キュオルの言葉が琴線に触れたそうですね」
「はい。私にしか出来ないことがある、少しずつ変わっていけばいい、って言ってもらえたことが本当に嬉しくて……それで初めて私は、自分をほんの少しだけ肯定出来た気がしました。その瞬間、なんていうかな……体に稲妻が走った、とでもいいましょうか、そんな衝撃を感じたんです」
「稲妻?」
「はい。あ、いや、この表現が正しいか分からないですし、その衝撃はほんの一瞬だったんですけど……」
自分の発言に自信が持てなくなったのか、ユミナは体をもじもじさせている。
稲妻が走った、か。たしか僕が初めて神級スキル『武器錬成』を覚醒させた時は、頭痛と、あと全身に不思議な負荷がかかった。それと似ているといえなくもない。
「不安がらなくて大丈夫ですよ。とても参考になってます。その不思議な衝撃を感じた後に、神級スキル『超回復』を覚醒させたということですか?」
ウラナさんから問われたユミナは小さく頷きを返した。
「さっきの衝撃は何だったんだろう、気のせいだったのかな、と思ってたら、突然頭の中で声がするようになったんです。『開眼に必要な量のストレス値の蓄積と自己肯定感の向上を達成した』って言われたんですけど意味が分からなくて、幻聴だと思って無視してました。でも、いつまで経ってもそれが収まらなくて……」
「頭の中で声がする、というのはリューオさんと共通していますね。そして、ストレス値の蓄積と自己肯定感の向上……ストレス値の蓄積が神級スキル開眼のトリガーになるのか……いや、それとも……」
ユミナの話を聞きながら、ウラナさんは独り言を交えつつノートにメモを取っている。文字を書くスピードがものすごく速い。
「その後八鬧が現れて、ピンチになって、その間も頭の中でずっと変な声が聞こえていて……混乱しながらも、謎の声が『俺の力を使えばなんとかなる』って言ってたのが気になってました。その後リューオさんが私を安全圏まで連れて行ってくれて、リューオさんに色々なことを打ち明けて、武器の錬成に至ったという感じです」
「なるほど……やはり不思議な現象ですね……神級スキルには意思がある……その意思はスキルの持ち主の利益を最大化させるために働く……? なるほど……」
ウラナさんはペンを走らせながら、ぶつぶつと呟いて思考を巡らせている。会話が止まったように見えたので、僕は気になってたことをユミナに聞いてみることにした。
「ユミナ、僕からも質問いいかな?」
「勿論です」
「ユミナの神級スキルは、『俺の力を使えばなんとかなる』って言ってたんだよね。それを聞くに、神級スキルの喋り方は男っぽいように思えたんだけど、そこのところはどうかな?」
「あ、はい、そうですね。一人称は俺ですし、なんというか、気の強い男性って感じがします。神級スキルに性別があるというのもおかしな話ですが」
「なるほど。実は僕の神級スキルは、どっちかっていうと女性っぽい喋り方なんだよね。一人称は私だし」
「え、そうなんですか!? なるほど……なんだか不思議な感じがしますね……え? 次の戦いはいつ、ってちょっと待ってよ。私は目が覚めたばかりなんだから、すぐに戦いには行けないよ……」
僕と話している途中、突然ユミナは虚空に視線を向け、右手で頭を押さえながら独り言を言い始めた。
普通の人からすれば奇怪な光景に見えるだろうが、神級スキル持ちの僕には分かる。ユミナは今、頭の中で神級スキル『超回復』と会話をしているのだろう。
「ウラナさん、ユミナは今頭の中で神級スキルと話してるんだと思います」
補足するように僕が説明すると、ウラナさんは「なるほど」と呟きながら何度も頷いた。
「非常に興味深いですね。リューオさんの『武器錬成』といいユミナさんの『超回復』といい、スキルにも関わらず意思を持っているように見えます。その辺りも研究が必要ですね。では、改めてユミナさんの神級スキルの能力について伺いたいのですが、『武器錬成』の錬成の消耗を回復させることが出来る、という認識で正しいでしょうか?」
「恐らく正しいと思います。ただ、それ以外にも色々なことが出来る可能性がある、らしいです。よく分からないですけど……」
「分かりました、ありがとうございます。そしてここからが重要なのですが、ユミナさんの神級スキル『超回復』の強化の余地についてお話を伺いたいです」
ウラナさんは姿勢を正し、ユミナに質問をぶつけた。
「強化の余地、ですか?」
「はい。今後、フェアード教団との戦いが激化していくことが予想されます。戦いを有利に進めるためには、強力な神級スキルの力をいかに有効活用するかが重要だと私は考えています。ユミナさんの神級スキルの力がより強くなるかどうか、が気になっておりまして」
「ちょ、ちょっと待ってくださいね。神級スキルが何か言ってますので」
ユミナは言い、右手を頭に当てた。うんうん、と小さく頷いている。
「スキルの持ち主、つまり私が基礎体力や身体能力を向上させることで、より長く、より強く、より効果的に神級スキルを使えるかもしれないらしいです」
「なるほど。6階層襲撃事件の際、ユミナさんは一度神級スキルの力を使った後に意識を失いましたが、それを防げるようになるかもしれない、と」
「その通りだ、と神級スキルが言ってます」
なるほど……とウラナさんは言葉を漏らした。何度も強く頷いている様子からして、どうやらウラナさんは手応えを掴んでいるようだ。
「リューオさんはどう思われますか? 今のユミナさんの言葉について」
ウラナさんは僕に視線を向ける。
(どう思う?)
《正しいと思います。リューオ様が基礎体力や身体能力を向上させれば、私をより効果的に活用出来るでしょう》
神級スキルの返答をそのまま伝えると、「ありがとうございます」とウラナさんは満足げな表情を浮かべた。
「非常に有意義な情報を提供してくださりありがとうございます。いただいた情報を元に研究を進めていこうと思います。今日はこの辺で終わりにしますね。協力ありがとうございました。ゆっくり休んで体を回復させてください」
ウラナさんは深々と頭を下げた。
「いえ、こちらこそありがとうございました」
「ユミナ、大丈夫? 色々なことが起きたけど、疲れてない?」
小さく頭を下げるユミナに僕は思わず声をかけた。
八鬧の出現。まさに晴天の霹靂としかいいようがない、神級スキルの覚醒。武器を錬成するための命を賭けた大博打。2週間前のユミナに降りかかった一連の出来事は、まさに激動の一言に尽きる。故に心配になった僕は声をかけてみたのだが、
「大丈夫です」
予想に反してユミナはきっぱりと言い切った。
「勿論未だにびっくりしてます。この私が、伝説とか御伽噺とか言われてた神級スキルを使えるようになったなんて、今でも信じられません。でも、自分の武器が1つ増えたと思うと、なんだか嬉しくなるというか、力が湧いてくる感じがするんです。無理矢理にでもそうやってポジティブに考えることにしました。その方が、キュオルさんが喜んでくれると思ったので」
晴れやかな笑顔を浮かべるユミナは、以前の自分に自信が持てないユミナとは別人のように見えた。
◆
こうしてユミナが目を覚まし、僕とユミナの神級スキルについての研究が本格的に始まった。同時に僕とユミナは基礎体力と身体能力を向上させるべくトレーニングに勤しむこととなった。
ウラナさんをはじめとして研究者の方々は非常に優秀で、研究の中で幾つもの新しい知見を得ていた。
そして研究開始から3週間後、得られた知見を元に、ダンジョンに赴いて更なる研究に取り組もうとする中で、事態は大きく動き出すことになる。
※第49話は2026年5月20日の午後7時50分に投稿します。お楽しみに。どんどんヤマのパートに入っていきます。
ロッテ敗北……明日は勝ってください!
マリーンズファイティン!




