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第5話 武器さえあれば

【ミラエル視点】

 

 不安。悲しみ。焦り。

 ミノタウロスめがけて投擲アイテムを投げる私の心は、今にも押し潰れそうだった。


(最高級の素材を、最高級の職人が手がけた、この世で5本の指に入る性能を誇る愛剣が、まさかミノタウロスの攻撃でへし折られるなんて……)


 悲しみに暮れる私の前で、同僚のノルドが戦っている。劣勢だ。目の前のミノタウロスの様子がおかしく、攻撃力や俊敏性、防御力が異常に高い。加えて、私の武器が破壊されてしまったせいで、私が思うように戦えずノルドへの負担が増している。

 このままじゃまずい。このままじゃ全員死ぬ。私が……序列2位、聖帝騎士団団長の私が何とかしなきゃ。そう思ってるのに、破壊された剣では戦えない。悲しみで心が押し潰されそうになる。

 悔しい。私のせいだ。私がしくじったのが悪いんだ。私はしくじっちゃいけないのに。強く、美しく、完璧な騎士団長じゃないといけないのに……。心が痛い。涙がこぼれる。戦闘中だと分かっているのに、涙が止められない。


 その時。リューオ・アルブレードと視線が合った。夜の街をふらふらと彷徨っていた男。この私と、「友達になろう」と言ってくれた、初めての男。Dランク冒険者とは到底思えない動きを見せた、不思議な冒険者。そして……この世で唯一の、神級スキルの持ち主。

 SSランク冒険者、そして騎士団長という立場を忘れ、私は会ったばかりの不思議な冒険者に縋った。リューオに救いを求めた。助けてほしいと願った。


「グ“グ”ガ“ア”ア“ア”!!!!!!!」


 殺気、そしてミノタウロスの絶叫。私は瞬時にその場から飛び退き、ミノタウロスの奇襲を回避する。危なかった。ほんの少しでも回避が遅れていたら、私は致命傷を負っていたことだろう。


「ミラエル様に手を出すな、この化け物が!!!」


 ノルドがミノタウロスに突っ込み、再び戦いは激化していく。私も加勢したい。くそ、武器があれば……! 武器さえあれば……!


「ミラエルっっっ!!!!!」


 その時、リューオが私の名前を叫んだ。視線を向けると同時に風を切る音が聞こえ、私は反射的に飛んできた何かを右手で受け止めた。


 飛んできたのは、剣だった。飛んできた方向から、リューオが投げたのだと理解し、リューオが神級スキルで武器を錬成してくれたのだろう、と続けて理解する。


「っ……!?」


 漆黒の剣に触れた瞬間、全身に電流が走るような感覚に襲われた。剣に込められている魔力のあまりの多さに体が震える。

 この世界の武器の質は、使用されている材料の種類と質、作り手の技量、そして込められている魔力の量によって左右される。

 私は仕事柄、これまで様々な武器に触れてきたが、今手にしている剣は次元が違う。先程ミノタウロスに破壊された武器と比べても、段違いの魔力量だ。

 さらに、剣から私の体内に向けて魔力が逆流しているのか、全身の神経が急速に研ぎ澄まされていくのを感じる。ゾーンに入っているとでも表現するべきか。

 まさに、異次元としかいえない性能。これが、神級スキル『武器錬成』の力なのか。


(これなら……いける!)


「お前の相手はこの私だ! かかってこい!」


 涙を拭い、声を張り上げ、私はミノタウロスとの距離を詰める。

 ミノタウロスはノーモーションで連撃を放ってきたが、今の私にはその攻撃が止まって見えた。


(ホーリー)(ゴッド)(スラッシュ)!!!』


 スキルを発動させ、瞬きの間に放たれた8連撃は、ミノタウロスの体を豆腐の如く容易く斬り裂いた。


「ウ“オ”オ”……」


 ミノタウロスは苦しげに呻き、消失した。ほぼ同時に、大量の魔石がドロップする。

 私の愛剣をへし折り、ノルドを苦戦させるほど、異常なまでに強靭で硬い体を有していたはずなのに。あまりの呆気なさに呆然としてしまうが、リューオが倒れているのを確認した私は慌ててリューオの元へ駆け寄った。


「リューオ! どうした! しっかりしろ!」


 一足先に駆けつけたノルドが、リューオを抱き抱えて声をかけている。ノルドは駆け寄った私に気付き、私が手にする剣を見て目を見開いた。


「ミラエル様、その剣は……!」


「リューオが私にくれた。とんでもない性能を有している。この剣があったからミノタウロスに勝てた。この勝利はリューオと、ずっと踏ん張ってくれたノルドのお陰だ。本当にありがとう。私が不甲斐ないばかりに迷惑をかけたな。申し訳ない」


「いえ、そんな、滅相も無い……!」


 ノルドは否定するも、その顔には汗が滲み、鎧の所々は汚れ、傷ついている。ノルドのお陰、というのは紛れもない本心だった。


「リューオは気を失っているのか?」


「恐らくそうです。脈はあるので安心してください」


 私は片膝をつき、リューオの顔を間近で眺めた。あどけなさが残る整った顔には大量の汗が滲み、やや苦しげな表情が浮かんでいる。


「……少し苦しそうだな」


「そうですね。……ミラエル様、その剣はリューオのスキルで錬成された、という認識で正しいですよね?」


「ああ。状況、そしてこの武器の性能から考えるに、そういうことになるだろうな」


「なるほど……今までは正直半信半疑だったのですが……その剣を間近で見て確信しました。神級スキルの『武器錬成』は実在し、そしてそのスキルの持ち主はリューオである、と。まさか、神級スキルの持ち主と巡り合えるとは……」


 ノルドはしみじみと言い、リューオを見下ろす。私はリューオの右手をそっと握った。私より僅かに大きいその手の皮膚は分厚く、ゴツゴツしていて、今までリューオが積み重ねてきた努力が滲み出ているように感じられた。


「本当にありがとう、リューオ・アルブレード。この恩は必ず返すからな」


「リューオのお陰で勝てたのはいいものの、ミノタウロスの様子がおかしかったのが引っかかります。あれはどう考えても異常ですよ」


「たしかにな……」


「「ウ“ウ”モ“ア”ア“ア”!!!!!!!」」


 その時、咆哮が轟いた。視線を向けると、前方から2体のミノタウロスが私たちの元へ接近してくるのが見えた。先程の戦闘の音を聞きつけたのだろうか。


「ノルドはここで待機して、リューオを守っていてくれ。私は今からあの2体のミノタウロスを狩る」


「しかしミラエル様、遠目から見る限りあの2体も先程と同様、様子がおかしいようです。1人で大丈夫ですか?」


 少し不安げなノルドに、私は笑みを向けた。


「心配するな。リューオがくれたこの剣を持っていると、何故か負ける気がしないんだよ」


 ノルドの返事を待たず、私は振り返って勢いよく駆け出した。

 剣から放たれる魔力が、私の全身を駆け巡っている。その影響で戦闘力が何倍にも向上しているのを肌で感じる。


「ウ“モ“オ”オ”オ“!!!!!!!」


「ウ“モ“ア”ア“ア”!!!!!!!」


 迫り来るミノタウロスを、私はきっと睨みつける。

 いつミノタウロス以外の魔物が現れるか分からない。リューオとノルドの安全を考えた場合、2体のミノタウロスと長期戦になるのは避けたい。

 最初の一撃に、全力を込める。一太刀で終わらせる。今の私には、リューオの剣を手にする私なら、出来る。根拠なき自信を胸に、私は走りながら剣を下段に構えた。


(ホーリー)(ソード)(サイクロン)!!!」


 2体のミノタウロスから放たれた攻撃を回避した瞬間に、体を回転させながら放った多対一専用の渾身のスキル攻撃。幾重にも折り重なった嵐のような斬撃は、2体のミノタウロスの体を粉々に斬り刻んだ。


「よし……! え、うそ……!」


 ミノタウロスの討伐を確認した私は、驚きのあまり声を漏らした。手にしていた剣が、光とともに消え失せてしまったのだ。


「そんな……錬成した武器は一定時間で消えてしまうのか……? いや、それとも……」


 私は顎に手を当てて思考を巡らせようとしたが、そんな場合じゃないとすぐに気付いた。ミノタウロス3体の討伐は完了した。リューオのこともあるし、すぐに帰還したほうがいいだろう。

 

 私はドロップした大量の魔石を急いで回収し、2人の元へ戻った。達成感と微かな興奮、迷惑をかけた申し訳なさを胸に秘めながら。


 

「武器を錬成するスキルか、なるほど」


 ミラエルが、リューオが錬成した武器で2体のミノタウロスと戦っていた様子を、ダンジョンの物陰から監視していた男が1人。


「改造ミノタウロスの試運転をしていたらこんな場面に遭遇するとは……。あの神級スキルは使える。フェアード教団の、教祖様の理想の実現に、あの小僧は役に立つぞ」


 黒いローブを纏う男は、戦いを終えて退避するミラエルたちを見て唇の端を歪めた。


「この腐った世界を正すための糧となれ、小僧」


 この騒動を機にフェアード教団の凶行は加速し、自身が苛烈な戦いの渦中に巻き込まれていくことを、この時のリューオはまだ知る由もなかった。


※第6話は2026年4月9日19時50分に投稿します。お楽しみに

つい最近、久しぶりに徹夜をしました。やっぱり徹夜はしんどいですね……(^_^;) やはり規則正しく睡眠をとるのは重要だと思います。そういえば、何故人間には睡眠が必須なのでしょうか? 進化の過程で睡眠が淘汰されてもおかしくないような気がするのですが……仮に睡眠を淘汰する技術を開発出来る人がいたら、ノーベル賞確定ですよね。もし睡眠を淘汰出来たら、代わりに生まれる時間で自分は何をするんだろう……麻雀かな(小説を書け)?

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