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第4話 異常

「そんな……馬鹿なっ……!」


 ノルドが驚愕の表情を浮かべながら声を絞り出す。

 ミラエルの動きが速すぎるあまり、武器強化をかけるのが間に合わなかった。しかし、その事実を差し引いてもミラエルの武器は超一級品。ミノタウロスの攻撃如きで破壊されるなんてありえない、はずだったのに。


「くっ……! 早く逃げろっ!」


 ミラエルは武器が破壊されたことに対して驚きを見せつつ、攻撃を回避しながら背後の冒険者に声を張りあげる。その声に従い、傷だらけの冒険者たちは脱兎の如く走り去って行った。


「ウ“グ”ガ“ア”ア“ア”!!!!!!!」


 ミノタウロスは絶叫しながら次々と拳を繰り出す。剣を破壊されたミラエルは攻撃を回避する以外術がない。


「リューオ、お前は今すぐ逃げろ! これは異常事態だ! 何かがおかしい! ここは俺が何とかする!」


 ノルドは叫び、僕の返事を待たず猛然とミノタウロスとの距離を詰める。


「ミラエル様に手を出すな! お前の相手はこの俺だ! 」


 ノルドは叫ぶと同時に、黒い石ころを発現させてミノタウロスめがけて投げた。『ブラックストーン』、魔物に極小のダメージを与えつつ、ストーンを投げた冒険者に注意を引きつけるアイテムだ。

 案の定、ミノタウロスのターゲットはミラエルからノルドに移り、ノルドめがけて攻撃が繰り出される。待ってましたとばかりにノルドは剣を構えた。


最大(フル)(ミラー)対抗(カウンター)!!!』


 ノルドの剣から眩い光が放たれたかと思うと、轟音とともに攻撃を放ったはずのミノタウロスが後方に吹っ飛び、強い衝撃波で空気が震えた。

 攻撃を反射するノルドのスキル、『鏡撃』の技の効果だ。金級スキルに相応しい、とんでもない能力。これなら倒せただろう……と思った僕の前で、ミノタウロスは天高く雄叫びをあげた。倒せてない。黒い体の所々を赤く光らせ、猛々しいオーラを放つミノタウロスを前に、僕の背筋がさーっと凍った。


「何だこれ……なんかおかしくない……?」


 思わず僕の口から呟きが漏れた。

 ミラエルは序列2位。しかし序列1位の冒険者はここ1年ほど消息不明らしく、加えてミラエルのスキルの方が分かりやすくてインパクトがあることから、なんとなく世間的にはミラエル=最強というイメージが定着しているのだと、ここに来る途中ノルドが説明してくれた。

 そして道中での戦いぶりを見るに、ミラエルは最強と呼ばれるに相応しい強さを有している。そんなミラエルの武器がミノタウロスによっていきなりぶっ壊されるなんて、やっぱりおかしい。何か裏があるはずだ。


《リューオ様の言葉通り、この状況は異常です。目の前のミノタウロスは通常の状態ではございません》


 その時僕の頭の中で声が響いた。その言い草から、この声の主は何か知っているのではないか、と僕は推測した。神級スキル云々は未だによく分からないが、頼れそうなものは頼ってみよう。


(通常の状態じゃないってどういうこと? 貴方は何を知ってるの?)


《見たところ、ミノタウロスの力や俊敏性、体の硬化力、凶暴性が通常と比べて異常に増長しています。それ故にミラエル・ソードフレアの武器が破壊されたと推測します》


(何で増長してるの? その増長を今すぐ解除する方法はない?)


《外部から何かが加えられたような痕跡は微かに見受けられますが、詳細な理由は不明です。解除の方法も不明です》


(いい加減にしてよ! 不明不明ばっかじゃ何も解決しないじゃないか!)


「ぐっ……! 何なんだこいつはっ……!」


 ノルドの声が聞こえ、視線を向ける。ノルドは単身、ミノタウロスと死闘を演じていた。

 

 序列47位のSSランク冒険者に相応しい剣捌き、そして金級スキル『鏡撃』。それらを駆使しても、様子のおかしいミノタウロスとの戦いは互角、もしくはやや不利にすら見えた。ミノタウロスの体が異常に硬いのか、ノルドの攻撃が当たっても弾かれてばかりでダメージになっているようには見えない。

 ミラエルはなんとか加勢しようと、投擲アイテムを発現させてはひたすら投げているが、それらのアイテムの威力は雀の涙。いくら序列2位の騎士団長とはいえ、武器が破壊されていては出来ることが殆どない。故に1人で戦うノルドに負担が偏り、ますます戦況が苦しくなっていく。


「おいリューオ! 逃げろと言っただろうが!」


 ノルドは一瞬僕に視線を向け、叫び、再び死闘にその身を投じる。

 その言葉に黙って従うほど、僕は馬鹿でも臆病でもない。成り行きとはいえ、今この瞬間、ミラエルとノルドは僕の仲間だ。異常なミノタウロスによって仲間が危険に晒されているのを、見過ごすことなんて出来るわけない。


 その時。ミラエルと視線が合った。ミラエルは泣いていた。大粒の瞳から涙をこぼし、僕に縋るような視線を向けていた。騎士団長の涙を前に、どくん、と僕の心臓が脈打つ。


「……なんとかしなきゃ」


 声が漏れる。このままじゃ駄目だ。このままだと、異常なミノタウロスに全員殺される。折角、僕を認めてくれる人と出会ったのに、ここで死ぬなんて絶対に嫌だ。

 何でもいい。何でもいいから、この状況を打開するために動くんだ!


(貴方は神級スキルなんでしょ! この状況をなんとかしてよ! お願い!)


《承知しました。あのミノタウロスを倒すためには、かなり高レベルな武器を錬成する必要があります。リューオ様には相応の負担がかかり》


(何でもいいから早くしてくれ! 時間がないんだ!)


《承知しました。1.6秒で<覇王剣ラグナロクアーツ>の錬成が完了します》


 その時、全身に強い衝撃がかかり、同時に頭が割れんばかりの頭痛、さらには強烈な倦怠感が僕を襲った。おまけに視界が少しずつ暗くなっていく。これが、相応の負担というやつか。


「ぐうう、苦しい……!!!」


《<覇王剣ラグナロクアーツ>の錬成が完了しました》


 声が響いた時には、僕の右手に一対の黒い剣が握られていた。軽い。本当にこの剣の性能が良いのか、とかそんなことを考えてる暇はない。


「ミラエルっっっ!!!!!」


 黒く染まっていく視界の中、僕は全力でミラエルの名前を叫び、錬成されたばかりの剣をミラエルめがけて思い切りぶん投げた。


「ぐっ……ううう……!」


 苦しさのあまり、立っていることすらままならない。僕は地面に倒れ込んだ。これが武器錬成の代償なのだろうか。


 消えゆく意識の中、最後に僕の視界が捉えたのは、僕が錬成した剣を手に舞うミラエル、そして豆腐のように容易く斬り裂かれるミノタウロスの姿だった。


※第5話は2026年4月8日11時20分に投稿します。お楽しみに。

この作品には剣が幾度となく登場しますが、皆さんは剣や刀は好きですか? 自分は刀、特に日本刀が大好きです。小さい頃にるろうに剣心の実写版の映画を観たことで、日本刀の虜になった記憶があります。その嗜好は修学旅行のお土産にもバッチリ反映されていまして、小学校の修学旅行では短い木刀を、中学校の修学旅行は長い木刀を、高校の修学旅行では模造刀を購入しました。ちなみにるろうに剣心で好きなキャラクターは四乃森蒼紫です。長い刀と短い刀の二刀流がかっこいいんですよ……! 

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