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第3話 私は君を

 こうしてダンジョンに足を踏み入れた僕たちは、ミラエルの提案で改めて自己紹介をした。


 1人目。ミラエル・ソードフレア。序列2位のSSランク冒険者。聖帝騎士団所属。めちゃくちゃ美人。巨乳。スキルは金級の『聖剣』……圧倒的な攻撃力で、近接戦闘では無類の強さを誇る。

 2人目。ノルド・ラローア。序列47位のSSランク冒険者。聖帝騎士団所属。背が高いマッチョ。スキルは金級の『鏡撃』……相手の攻撃を反射出来る。

 3人目。僕、リューオ・アルブレード。序列は不明のDランク冒険者。フリー。スキルは白級の『武器強化』と……神級の『武器錬成』(?)。特筆事項なし。


「はあ……」


「どうして浮かない顔をしてるんだ?」


「天下の騎士団所属のSSランク冒険者2人に囲まれたらこうなりますって……」


 自己紹介を終えた後、問いかけてきたミラエルに対して僕は気のない声で返す。


 E、D、C、B、A、S、SS。これが冒険者ランクだ。Eが最低、SSが最高。試験をクリアしてライセンスを取得した冒険者はEランクからスタートし、実績を積み重ねていくことで上のランクを目指す。このランクが冒険者としての『格』に直結するといっても過言ではない。

 僕は下から2番目のDランク。対してミラエルとノルドは最高のSSランク。冒険者としての格が違う。自己肯定感が下がり、浮かない気持ちになるのも致し方ない。そんなことを話すと、「困った男だ」とミラエルに言われた。


「君は神級スキルの持ち主なんだから、自分を卑下する必要はないだろう」


「そう言われましても……未だに何が何だかさっぱりで……」


「まあ、多少強引なのは申し訳ないと思ってるぜ。とはいえリューオは、追放されたからフリーの冒険者なんだろ? 報酬はたんまり弾むから、ここは一つ、俺たちに協力してくれよ」


 ノルドはそう言い、ぽんと僕の肩を叩いた。第一印象はちょっと怖そうな人って感じだったけど、意外と気さくな人っぽい。


「まあ、ここまで来ちゃったので出来る限り頑張りますよ」


「よしよし。あ、そうだ、その武器錬成とやらを今見せてくれよ。興味があるんだ」


「え、見せてくれと言われましても……」


《明確な目的のない闇雲な力の行使は禁じられています。武器錬成は行いません》


「え?」


 突然、僕の頭の中で声が響いた。さっき街の中で聞こえたのと同じ声だ。


「どうした?」


 ミラエルがきょとんとした表情を浮かべている。


「いや、なんか、声が……」


「声?」


「頭の中で声が聞こえるんですよ。中性的というかなんというか……その声が、武器錬成は出来ません、って言ってます。何なんですかね、これ」


「「……」」


 ミラエルとノルドは口を閉じ、僕に憐れみの視線を向けてきた。


「ちょ、ちょっと待ってください! 何ですかその目は! 僕が嘘をついてるとでも思ってるんですか! 本当に声が聞こえるんですよ!」


「いや、そう言われてもな……ミラエル様はどう思われますか?」


「ふむ……よく分からないな」


 2人は尚も僕に訝しげな視線を向けている。なんとかならないものか。


(ちょっと、あの、その声は何なの!? 変な奴だって疑われてるんだけど!)


《私は神級スキル『武器錬成』です。リューオ様は変な奴ではございません。2人の認識が間違っています》


(会話出来るの!? 何なんだよこれ……えっと……なんか、2人にこの声が聞こえてるって分かってもらう方法はないかな?)


《ありません》


 がくっ、と僕は肩を落とした。意外と冷たい。


「どうした? 大丈夫か?」


 ミラエルは心配そうな表情を浮かべている。僕の奇行を目にして、不安になっているのだろうか。


「グゴオオオオオオオ!!!!!」


 その時、前方から叫び声が響いた。一本道の真正面から、一体の魔物が僕達に迫ってきている。

 身長2メートルほどの、人型の魔物だ。銀色の金属のようなものを全身に纏っている。アイアンゴーレム。たしか……Cランクの魔物だったはずだ。

 ちなみに、ダンジョンに出現する魔物にも冒険者ランクと同様にE、D、C、B、A、S、SSのランクづけが為されている。ミラエルとノルドというSSランク冒険者がいる以上、負けることはありえない相手と言えるが、油断は禁物だ。


「ミノタウロス討伐の前の肩慣らしといこうか」


 ミラエルは言い、静かに抜刀した。銀色の刀身、柄、鍔が光を反射している。序列2位の騎士団長に相応しい、極めて質の高い武器であることは一目瞭然だった。

 抜刀したミラエルを見て、僕も集中力が高まっていく。ここがダンジョンであり、僕も冒険者の端くれである以上、仕事はしっかりしなきゃ。


「僕は今まで通りの立ち回りをします。武器強化をかけておきますね。まず僕が先陣を切るので、あとは2人にお任せします」


 僕は素早く武器強化のスキルを発動させ、ミラエルとノルドの武器に魔力を注入して強化する。その後抜刀して勢いよく駆け出した。ノルドの叫び声が背中にぶつかった気がするが、振り返ることはしない。

 気炎万丈にいた際、僕は状況に応じてあらゆる役割を強いられていた。その中でも特に多かったのが、まさに今のように先陣を切って突っ込み、初撃を与えて後ろの仲間に繋ぐ役割だ。

 ちょっとでもしくじれば、それは討伐失敗に直結し、その場合責任は僕に押し付けられる。そしてシャーベたちに怒られる。それが嫌で僕は必死に腕を磨いた。今までやってきたことをここでやればいいだけ。それほど難しいことじゃない。


「ふうう……」


 息を吐きながら剣を握る手に力を込めると、スキルが発動して僕の武器が強化される。アイアンゴーレムは僕に狙いを定め、突進の勢いのまま大ぶりのパンチを放ってきた。


(単純な攻撃……避けられる!)


 僕はぎりぎりまでパンチを引きつけ、寸前で攻撃をかわした。そして回避と同時に、アイアンゴーレムの両足に斬撃を叩き込む。人間でいうアキレス腱に近しい箇所に攻撃を加えれば、アイアンゴーレムの動きが鈍ることを今までの経験から知っていた。

 僕が手にする安っぽい武器の斬撃でも、武器強化によってそれなりの威力にはなる。僕はそのまま駆け抜け、アイアンゴーレムの間合いから抜け、振り返った。


「グゴオ……!」


 案の定、アイアンゴーレムはくぐもった声をあげながら、地面に片足を着いて動きを止めた。これでいい。動きが止まるのは一瞬だが、後は2人が仕留めてくれるだろう。パーティーで重要なのは役割分担。僕の仕事はここまでだ。


「はっ!!!」


 気合一閃、ミラエルは猛然と距離を詰め、瞬きの内に強烈な連撃を放った。圧倒的な威力の斬撃を喰らい、アイアンゴーレムの体があっという間に粉々になる。


「す、すごい……さすがですね!」


 アイアンゴーレム討伐に伴う魔石がドロップするのを片目に、僕は素直に称賛の言葉を口にした。序列2位の冒険者に相応しい、美しい剣技だった。


「どういうことだ?」


「へ?」


「今のはどういうことだ、と聞いている」


 ドロップした魔石には目もくれず、ミラエルはすたすたと僕に歩み寄って言った。あれだけの剣技を披露したにも関わらず、ミラエルの息は全く乱れていない。


「どういうことだ、と言われましても……今までやってきたことをやっただけで……あ、勝手に動いたのがまずかったですか? すいません……Dランクの僕が出しゃばるのは間違ってましたかね……?」


「違う。今の君の動きだ。どう見てもDランク冒険者の動きではない。Sランク……いや、SSランク冒険者に匹敵する動きだったぞ。一目見た時から只者ではないと思っていたが、まさかここまでとはな」


「はい? な、何を言ってるんですか?」


 急によく分からない冗談を言われて、僕は混乱した。空気を和ませるためのボケ? いや、ミラエルの表情は真剣そのものだ。


「ノルド、今のリューオについてどう思う?」


 遅れてやってきたノルドにミラエルは視線を向けた。


「動きはSSランク冒険者のそれですね。そして、武器強化の効果もすさまじい。武器に注入された魔力の多さで手が震えましたよ。白級スキルのそれとは思えません。……おいリューオ、冒険者ランクの詐称は重罪だと知らないのか?」


 ノルドは僕に鋭い視線を向けてくる。思わぬ展開になり、「ちょっと待ってくださいよ!」と僕は慌てて声を出した。


「さっきから何を言ってるんですか! 僕はDランク冒険者です! からかわないでください!」


「からかってるのはそっちだろう!」


「落ち着け、2人とも」


 僕とノルドの間にミラエルが静かに割って入る。


「リューオ。繰り返しになるが、先程の君の動きはDランク冒険者のそれではなかった。私は、友達である君のことをもっと知りたい。簡単に、今までの冒険者としての経歴を教えてくれないか?」


 序列2位の騎士団長に真正面から「君のことをもっと知りたい」と言われ、僕の心臓が俄かに脈打ち始める。その程度の言葉でドキドキしてしまうのは、女性経験の少なさ故だろうか。

 魔石を回収した後(頑張ったから、と僕の取り分を増やしてもらえて嬉しかった)、13階層に向かいながら僕は今までの経歴を2人に共有した。田舎町で育ち、なんとかライセンスを取得して冒険者になった。シャーベたちのパーティーに加入するも、あらゆる役割や責任を押し付けられ、何かあったら罵られた。そしてついさっき、役立たずだと追放された……。


「……典型的なパーティーハラスメントだな」


 話を聞き終えたノルドが眉を顰めながら言った。


「ハラスメント? どういうことですか?」


「まあ、酷い行為ってことだ。普通のパーティーではそんなこと起きない。普通に自警団が逮捕するレベルだぞ、それ」


「え、そうなんですか!?」


 まさかそこまで酷い行為だったとは思わず、僕は目を丸くした。


「つまりリューオは、その酷いパーティーの中で揉まれて、頑張ってきた中で鍛えられ、無自覚の内にSSランク冒険者に匹敵する力を得た。その経験がトリガーになって神級スキルが覚醒した、加えて忙しくてランク昇格のことは頭になかった、と……なるほど、興味深い事例だな。後で騎士団の情報部に報告しておこう」


 ノルドは1人納得しているようだが、今まで散々リューオたちに役立たずだと罵られてきただけに、どうにもピンとこない。


《その認識が正しいです。その経験に伴い私が開眼しました》


 頭の中で声が響く。開眼した、と当たり前のように言われてもなぁ……。


「君にそんな役割を強いたその冒険者たちは愚かとしか言えないが、何より君を追放してしまったのが愚の骨頂だな。恐らく基本の実力が不足している故に、魔力量の認識や君の力の把握すらまともに出来ていなかったのだろう。はっきり言う。君レベルの冒険者は早々いない。私は君を追放したりなんかしない。君は大事な戦力であり、仲間であり、私の友達だからな」


 ミラエルは柔らかな表情で言い、ぽん、と僕の肩を叩いた。

 恐らくミラエルにとっては、何てことない発言にすぎないのだろう。しかし、その言葉は、今の僕に刺さった。刺さりすぎた。ミラエルは、パーティーから追放された僕を認めてくれた。追放したりなんかしない、とはっきり言ってくれた。それが何よりも嬉しかった。心がぽかぽかと温かくなった。



「そうだ、リューオが元いたパーティー、まずいんじゃないか? 色んな役割を担ってたリューオを追放したんだから」


 その後移動を続け、13階層まであと少しという所でノルドに声をかけられた。心なしか出発前よりも、ミラエルとノルドとの距離が縮まったように感じる。


「ああ……たしかにまずいかもですね。多分パーティーとして成り立たないと思います。追放だ、って言われた時は、もうしょうがないと思ってそういうことは主張しなかったんですが」


「自業自得というやつだ。君が気にすることじゃない。ざまあみろ、とでも思っておけばいいんだ」


 ミラエルは言い、にやっと笑った。これまたかわいい表情だ。


「無駄話はここまでにしよう。ここからはいつ戦闘になるか分からない」


 13階層に通じる巨大な扉に辿り着き、ミラエルは真剣な表情を浮かべた。僕、ノルドも武器を構えて応じる。


「陣形は先程確認した通りだ。では行こう」


 ミラエルが扉にそっと触れると、扉は音もなく動き始め、僕達は13階層へ足を踏み入れた。

 黒い岩壁に覆われた、広大な洞窟が広がっている。その空間の中で、それはすぐに視界に飛び込んできた。

 身長4メートルほどの、筋骨隆々の体。黒い体の至る所で筋肉が隆起し、所々が赤く輝いている。手には巨大な斧が握られている。そして牛の頭からは赤い角が2本。


「ウ“ウ”モ“ア”ア“ア”!!!!!!!」


 Sランクの魔物、ミノタウロスは、ちょうど僕達の目の前で咆哮をあげながら、逃げ遅れた数人の冒険者に攻撃を加えようとしていた。


「やめろっっ!!!」


 ミラエルの叫びが轟いた刹那、一陣の風とともにミラエルの姿が消えた。次の瞬間には、間に割って入り、冒険者を守らんとミノタウロスの攻撃を受け止めるミラエルの姿があった。


 序列2位、そして聖帝騎士団団長のミラエルが、ミノタウロスに遅れをとることはない。僕はそう思っていた。目の前で、ミラエルの剣がへし折れた、その瞬間までは。


*第4話は2026年4月7日午前7時40分に投稿します。お楽しみに。

神級スキルの声が聞こえる、という設定を入れた理由は、転スラで似たような設定があって真似してみようと思ったからです。皆さんは、小説家になろうで転スラを読んだことはありますか? 自分は本編を読了しておりまして、オチのつけかたがとても綺麗で感動したのをよく覚えています。転スラくらい爆伸びする小説を必ず書いてみせる!

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