第43話 教祖様 その2
※タニのパートが続いたので、ここから少しずつヤマのパートに移行していきます。
※時系列でいうと、43話は42話の終了時点より前の話になります。次の44話は42話の続きになります。
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【フェアード教団視点】
時は遡り、6階層で起こった事件から5日が経過した日のこと。フェアード教団の司令部の一角、四方に本棚を構える部屋の中に、2人の人間がいた。
1人は、椅子に座って本を読む男。そしてもう1人の女は、その男の後ろで、怯えながら報告書を読み上げている。女の名前は、グルムだ。
「……以上が、5日前の襲撃作戦についての報告事項になります」
一通り読み終えたグルムは大きく息を吐き、男の背中を見つめている。
九重塵羅の一角である八鬧と、複数の戦闘員をダンジョンの6階層に出撃させる。教団の理想を実現するべく、リューオ・アルブレード、ミラエル・ソードフレア、ユミナ・ブルークイーンの3名を半殺しにして捕獲、連行する。
これが襲撃作戦の概要だった。3名の捕獲、連行が作戦の最大の目的だったのだ。しかし結果は、3名の連行は叶わず、逆に八鬧を殺されてしまった。作戦は……紛れもない失敗に終わった。
その失敗の責任を取るべきは、当然自分だとグルムは思っていた。出撃の細かなタイミングなど、襲撃作戦に関する様々な権限を与えられていたのだから、責任を取るのは当然だ、と。
仮に今、男に自殺を命じられたら即座に実行するつもりだった。それ程までにグルムは男を崇拝していたのだ。
「グルム。君は、今回の襲撃作戦の結果をどのように受け止めている?」
男が沈黙を破った。グルムは顎に右手を当てて考え、「……失敗だと思います」と低い声で言う。
「そう思う理由は?」
「作戦の目的を何一つ達成出来ませんでした。加えて八鬧を失ってしまいました。……教祖様、全ての責任はこの私にあります。お望みとあらば今すぐにでもこの命を以て失敗の償いを……」
「物事は複数の側面から見るべきだ」
グルムは息を呑んだ。先程まで椅子に座り、本を読んでいたはずの男が、一瞬でグルムの目の前に移動し、グルムの口を右手で塞いでいたのだ。
「っ……!」
「3人の連行の失敗。八鬧の死亡、喪失。それはあくまで1つの側面に過ぎない。私は、今回の襲撃作戦は成功したと思っている。八鬧は実に素晴らしい働きをした。彼のお陰で我々はまた一歩、理想の実現に近づいたんだ」
男の表情から、感情を読み取ることは出来ない。整った顔立ちはどこか人工的で、底知れぬ狂気を秘めているように見える。グルムはそんな男に体を委ねていた。
「この新聞を読んでみるんだ、グルム」
いつの間にか男の手には1部の新聞が握られていた。差し出された新聞をグルムは恐る恐る受け取り、文字の羅列に目を通していく。
「……! これは……!」
グルムの瞳が大きく見開かれ、興奮で頬が赤みを帯びていく。「襲撃作戦は成功、と言ったのはそれが理由だよ」と男は笑みを讃えながら言った。
「ずっと前から多くの人々は、この世界に対して『不平等だ、理不尽だ、間違ってる』という感情を少なからず抱いていた。しかしその感情は抑圧され、封殺され、世の中に明確な形となって顕現することは無かった。しかし、今回の襲撃作戦でようやく潮流が変わった。八鬧の死がトリガーとなったんだ。 抑圧されていた負の感情が徐々に集合していき、1つの形を為そうとしているんだよ」
「……教祖様……すごいです……やはり教祖様は、この世界を正すことが出来る救世主です……!」
グルムは感動のあまり涙を流し始めた。男はふっと頬を緩め、グルムの頭に手を置いて優しく撫でる。
「今はまだ、小さな不協和音にすぎない。しかしその不協和音は徐々に大きくなっていき、やがて誰にも止められないほどの強大な力となる。そしてその力を用いれば、この狂った世界を破壊出来る。私はそれを確信している。フェアード教団に追い風が吹き出した今こそ、追撃の手を緩めずに次々と行動に打って出る必要があるんだ」
「私は、私に救いの手を差し伸べて下さった教祖様に全てを捧げる所存です。何なりとお申し付けください」
グルムはこぼれ落ちる涙を拭う素振りを見せず、男に対して恍惚の表情を向けている。男は満足げに頷き、「これからフェーズ2に突入する」と言った。
「八鬧が作った流れを加速させるために、九重塵羅を惜しげもなく投入するんだ。すぐに出撃出来るのは?」
「三蠱と六愧でしたら、1週間以内に出撃させることが可能です。その他の兵器の開発も順調です」
「分かった。ではその2体を出撃させ、当初の手筈通りに進めるように」
「承知しました。必ず期待に応えてみせます」
グルムは一礼し、自信に満ちた表情を浮かべながら部屋から出て行った。男は椅子に腰掛け、読んでいた本に再度視線を落とす。
「ここまでは想定通り……勝負はこれからだ」
そう漏らす男の顔には、歪んだ笑みが浮かんでいた。
※第44話は2026年5月15日の午後9時10分に投稿します。お楽しみに
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