第23話 殺せるものなら
「ミラエル! あの女性が探していた人です!」
「分かった!」
僕が叫ぶと、ミラエルは迷わず前方に駆け出した。行動が早い。慌てて僕も後に続く。
僕たちが探していた人は、身長150センチにも満たない少女だった。ミラエルの金髪のショートボブと比べて、少女は黒髪のウルフヘアのような髪型をしている。
少女は戦闘服、そして小型のナイフを身につけていた。僕たちと同じ冒険者だと一目で分かる。少女の戦闘服は所々が汚れていた。
そして……少女は、走りながら泣いていた。只事ではないのは一目瞭然だった。
「逃げられると思ってんのかゴラァッ! 観念しやがれ!」
少女を追いかけているのは、3人の男だった。屈強な体格、腕に入っている入れ墨、ヤクザのような怒声。戦闘服を着ているので冒険者のようだが、見た目からして普通の人間ではない。
「大丈夫か?」
ミラエルは走ってきた少女を受け止め、そのまま軽く抱きしめた。
「えっ……? あ、あなたは……?」
ミラエルに抱きしめられた少女は大きな目を見開き、驚きを露わにしている。
「何だてめえはっ!」
異常を察知したのか、3人の輩は足を止めた。ミラエルは「この娘を頼む」と言って少女を僕に引き渡し、一歩前に出る。
「私はミラエル・ソードフレアだ。聖帝騎士団の団長を務めている」
ミラエルは静かに、それでいて張りのある声で言った。空気が引き締まる。ついさっき女の子の言葉に顔を赤くしていた人と同一人物に見えない。
「ミ、ミラエル・ソードフレアだと……?」
「序列2位のSSランク……!」
「どうしてこんなところに……!」
男3人は驚きを露わにしている。これでおとなしく引いてもらえるのが理想だったが、残念ながらそうはいかなかった。
「……けっ! 騎士団の団長様が何の用だ? これは俺たちとそいつの問題なんだよ! 首を突っ込むんじゃねえ!」
リーダー格と思わしき、スキンヘッドの長身の男が一歩前に出て声を張り上げた。男は背中に大剣を提げている。
「聖帝騎士団は公共の安全と秩序の維持を活動理念としている。無論、犯罪の予防や鎮圧も仕事に含まれる。首を突っ込むのは当然だ」
「俺たちが犯罪者だとでも言いてえのか? 俺たちはただ、パーティーメンバーとの約束を守りたいだけなんだぜ? これのどこが犯罪なんだよ?」
スキンヘッドの男は気味の悪い笑みを浮かべている。
「お前たちとその娘は同じパーティーに所属しているわけだな。その割には、随分過激な鬼ごっこをしていたように見えたが」
「けっ! そいつが、払う予定の金を払わらねえから追いかけてただけっつーの! 約束を破ってるのはそいつだ! 俺たちは被害者なんだぜぇ? 」
スキンヘッドの男はげらげらと笑い、他の男2人も釣られていやらしく笑う。その反応で、僕はなんとなく状況を理解した。
「あの男の人たちに何をされましたか? 正直に話してください」
情報を得るべく、僕は少女に話しかけた。びくん、と肩を震わせる少女の表情には、驚きと怯え、そして悲しみが浮かんでいる。
「えっ……でも……」
「大丈夫です。僕たちは貴方の味方です。貴方を助けに来たんですよ」
先程よりも言葉に力を込める。すると気持ちが届いたのか、少女はぽつりぽつりと話し始めてくれた。
「以前パーティーを追放されて……途方に暮れていたらあの3人に声をかけられて、パーティーに入れてもらって……すごく嬉しくて、頑張ってたんですけど、段々変な要求をされるようになって……服を脱げ、とか、体で奉仕しろ、とか……それが嫌で、パーティーを辞めたいって言ったら違約金を請求されて……高額すぎてとても払えなくて……怖くて……逃げたんですけど……追いかけられて……」
少女は段々と涙声になり、頬を涙が伝った。ずきん、と僕の胸が痛む。
「極めて悪質なパーティーハラスメントだな。見過ごすことは出来ない」
ミラエルは冷たい声を発した。その声音には怒りの色が強く滲んでいる。
「ああ? 俺たちがそいつにそういうことをしたって証拠でもあんのかよ?」
スキンヘッドの男は勝ち誇った顔で言う。
あまりにも憎たらしいが、少女の様子からして証拠を持ち合わせているようには見えない。悔しいが、目の前の3人を逮捕して裁くことは出来ないだろう。
「証拠はない。だが、お前たちがこの娘を拘束する権利もない。この娘は私たちにとって必要な存在だ。私たちの所へ来てもらう。お前たちには渡さない」
「えっ……?」
少女は驚いた様子でミラエルに視線を向けた。
「ふざけんな! 違約金を払ってもらわないと困るんだよ! そいつは俺らの同意なしに勝手にパーティーから抜けようとしてるんだからな! 明らかなルール違反だ! 俺らの同意なしにパーティーを抜けられない、って契約だからな! 金を払う義務があるんだよ!」
「この娘に体での奉仕を求めたお前らが、ルール違反を主張するのか。私からすれば、体の奉仕を求めるのもれっきとしたルール違反だと思うが」
「うるせえ! お前には関係ねえだろうが! さっさと失せろ!」
「失せない。ここで立ち去れば見逃してやる。痛い目に遭いたくなかったら、お前たちが失せろ」
ミラエルの声音がよりいっそう冷たさを増した。スキンヘッドの男は一瞬虚を突かれたような表情を浮かべた後、「ふざけんな!」と激昂した。
「クソアマが! ゴタゴタ言ってるとぶち殺すぞ!」
「面白い、殺せるものなら殺してみろ」
「てめえっ!!!」
ミラエルの返答で頭に血が昇ったのか、男は大剣の柄に手をかけ、力任せに大剣を薙ぎ払った。
動きは遅くないが、速いわけでもない。ミラエルは最小限の動作で攻撃をかわし、回避とほぼ同時に男の足を払っう。
体勢を崩す男の手首に即座に打撃を加え、打撃の痛みで男が剣を手放したと同時に、格闘技の投げ技の要領で男を地面に叩きつけた。
「ぐっ、うう……!」
地面に転がる男は苦しげに呻き、ミラエルはそれを氷のように冷たい目で見つめている。ミラエルが男を制圧するまで、4秒とかからなかっただろう。
「な、なんだこの女……! 化け物だ……!」
「逃げろっ! 格が違いすぎる!」
取り巻きの2人はそう言い残し、呆気なく逃げ去って行った。ミラエルに叩きのめされた男もよろよろと立ち上がり、その後に続く。ミラエルは追いかける素振りを見せなかった。
「君を苦しめていた奴らは私が追い払った。もう大丈夫だ。今までよく頑張ったな」
ミラエルは少女に歩み寄り、柔らかな笑みを浮かべた。
ミラエルの温かな言葉で感情が揺さぶられたのか、少女の大きな黒い瞳にじんわりと涙が滲む。そして少女はミラエルに抱きつき、わんわんと泣き出した。
少女が泣き止んだのは、それから約3分後のことだった。まずは自己紹介をしようということで、ミラエルが「改めて、私はミラエル・ソードフレアだ」と言った。
「聖帝騎士団という組織の団長を務めている。一応SSランク冒険者だ。スキルは金級の『聖剣』。これからよろしくな」
「え? 聖帝騎士団って、あの聖帝騎士団ですか? その団長、そしてSSランク……す、すごい……!」
少女は何やら感激している様子だ。よく見るとこの少女、めちゃくちゃかわいい。ミラエルと比べると顔の輪郭がやや丸めだが、顔立ちは極めて整っている。
「次は僕ですね。はじめまして、リューオ・アルブレードです。Dランク冒険者です。ミラエルと同じ、聖帝騎士団に所属しています。スキルは白級の『武器強化』と神級の『武器錬成』です」
「し、し、神級……? 神級スキルって、実在するんですか……?」
少女は驚きと困惑が入り混じったような表情を浮かべている。まあ、そうだよね。普通の反応だと思う。
神級スキルが実在することを分かってもらうため、ネミアの救出作戦の時と同様に低品質の武器を錬成してみせた。少女はとにかく驚きながらも、どうにか神級スキルの実在を信じてくれた。
「あ、最後は私ですね。は、はじめまして、ユミナ・ブルークイーンと申します、16歳です。スキルは黒級の『回復』です、よろしくお願いします……」
※本日もう1話投稿します。お楽しみに
今からポケモンカードの大会に参戦してきます!
ファイティン!




