第22話 幼さ故
「……!」
ミラエルの視線が俄かに鋭くなった。
「それは本当なのか?」
「神級スキルが今まで嘘をついたことはないので、恐らく本当かと……」
《私は嘘をつきません》
頭の中で神級スキルが毅然とした口調で言う。
「嘘はつかないそうです。とりあえず信用していいと思います」
「分かった。それで、その人はどこにいる? すぐにその人と接触し、私たちに協力してもらえるようにしたい」
ミラエルの口調に力が込もる。当然だろう。仮にその人が僕たちの仲間になってくれれば、『武器錬成後の消耗』という大きな問題が解決に向かうかもしれないのだ。
「聞いてみますね」
(その人は今どこにいるか分かる?)
《あいにくですが、私は探索能力や索敵能力を持ち合わせているわけではありません。 そのスキルを持つ人間の存在をうっすらと感知しているにすぎないので、正確な位置を申し上げることは出来ません。申し訳ありません》
こころなしか、しょんぼりしたような声音に聞こえる。初めて神級スキルを開眼した時と比べて、明らかに感情が豊かになってる気がするんだよな……。
(謝ることはないよ。うーん……どうすればその人の位置が分かるようになるかな?)
《その人間のスキルの、気、とでもいいましょうか、そのようなものを現在感知している状況です。その気が濃くなったか否かを感知することはなんとか可能です》
(なるほど。じゃあひたすら動き回って、その都度神級スキルに、気の濃さ? みたいなのを調べてもらって、場所を探し当てればいいわけだ)
《それが最善だと思われます》
(よし、それでいこう)
「神級スキルは、その人に近づいてるかどうかがなんとなく分かるそうです。この辺りを探し回ってみましょう」
「分かった」
こうして、王都の巨大な大通りで人探しが始まった。ひたすら歩き回り、その都度神級スキルに「その人に近づいてるかどうか」を聞き、返答を元に再び歩く。その繰り返しだ。
さしもの神級スキルも専門外のことになると大変なのか、「……もう少しだけ時間をください」「東……いや、北……? あ、北東。北東です。北東に向かってください」などと言っており、普段とは打って変わってどこか苦戦している様子だ。
とはいえ、ここは頑張ってもらうしかない。誰が何のスキルを持ってるかなんて、見ただけじゃ分からないからね。頑張れ、神級スキル!
「ねえねえ、ミラエル様がいるよ」
「パトロールか?」
「相変わらず美人だなぁ」
「横の男は誰だ?」
すれ違う人々の声が聞こえてくる。大通りを徘徊する男女。さらに片方は序列2位の美しい冒険者、ミラエル・ソードフレア。人の目を引かないわけがない。
「すみません、時間かかっちゃって。神級スキルが苦戦しているみたいで……」
「構わない。視線を向けられるのは慣れっこだからな」
「あ、ミラエル! ミラエル・ソードフレア!」
その時、聞き慣れない明るい声が飛び込んできた。どうやら通りかかった子供が発した声のようだ。視線を向けると、10歳くらいの女の子が目を輝かせてミラエルを見つめていた。
「本に書いてあった強い人! ね〜ママ、ミラエル・ソードフレアがいるよ〜!」
「ちょ、ちょっとモリー! すみません、うちの娘が失礼なことを……!」
母親らしき人が慌てて女の子を手で制し、ミラエルに向かってぺこぺこと頭を下げる。
「謝ることはない」
ミラエルはそう言うと、すたすたと女の子の所へ歩み寄った。
「こんにちは。私のことを本で知ってくれたのかな?」
柔らかな笑みを讃えながらミラエルは言う。ミラエルのファンと思わしき女の子は感動したのか、「わ〜!」と嬉しげに声をあげた。
「本物! 本物のミラエル・ソードフレアだ! 話しかけられちゃった!」
「ふふふ、君は元気がいいな。実にいいことだ」
「本! 本にミラエル・ソードフレアのことが書いてあったの! 強くて美しい冒険者、って! その本を読んで、私もミラエル・ソードフレアみたいになりたいって思ったの!」
おかっぱ頭の女の子は明るい口調で言葉を続ける。興奮のあまり少し頬が赤くなっているのがなんともかわいらしい。
ミラエルを題材にした本があるのか、初めて知った。言われてみれば、圧倒的な美しさと強さを兼ね備えるSSランク冒険者のミラエルは、本の題材としては極めてうってつけだろう。
「そうか。私みたいになりたい、と言ってもらえるのは実に光栄なことだ。ありがとう」
聖母のような笑みを讃えながら、ミラエルは女の子の頭を優しく撫でた。女の子、そして女の子の母親はとても嬉しそうだ。
そういえば、以前ノルドが「市民の何気ない日常を守ることも、聖帝騎士団に課せられた仕事の1つ」と言っていた。
フェアード教団はネミアたちに手を出した。教団の凶行が加速すると仮定した場合、市民に危害を加える可能性だってあるだろう。
市民が、目の前の女の子が、教団によって理不尽な目に遭うことはなんとしてでも阻止する必要がある。もっと頑張ろう、と僕は決意した。僕はミラエルの友達であり、聖帝騎士団の一員なんだから。
「ねえねえ! 質問があるの!」
「何だ? 私に答えられることは何でも答えるぞ」
「その男の人のこと、好きなの? その人と付き合ってるの? 教えて!」
突然、本当に突然、女の子が無邪気な笑顔を浮かべながら言った。こういうことを平気で言えてしまうのは幼さ故だろうが、その爆弾発言によって僕とミラエルが同時に赤面したのは言うまでもない。
「モリー! そんなことを言ったら失礼でしょ! ミラエル様とあの男の人に謝りなさい!」
「え〜なんで? 何が失礼なの?」
「失礼だから失礼なの! すみません、本当にすみません……!」
母親はぺこぺこと謝り、女の子を引きずるようにしてその場から立ち去っていった。残された僕とミラエルの間に、恥ずかしさと気まずさが混ざった空気が流れる。
「ま、全く……子供の言動は予測不能だな……」
ミラエルは頬を赤く染め、視線を逸らしながら呟く。ミラエルの恥じらいの表情は、なんかえっちだ。思わず見入ってしまう。
《お楽しみのところ恐縮ですが、探している例の人間がこちらに向かって接近しています。北東に移動してください》
突然神級スキルの声が飛び込んできた。何がお楽しみじゃい……って、めっちゃ重要な情報じゃんそれ!
「ミラエル、北東に移動しましょう! 例のスキルを持つ人が接近してるみたいです!」
「わ、分かった!」
僕たちは神級スキルの声に従い再び歩き出した。よかった。さっきの空気が続いていたら、恥ずかしさやらなにやらでおかしくなっていたかもしれない。
歩き、路地に入り、歩き、気付いたら人気の少ない路地裏に移動していた。先程までいた大通りとは打って変わって周囲は薄暗い。
「本当にその人がここに来るのか……?」
ミラエルは周囲に視線を向け、訝しげな表情を浮かべている。
神級スキルを信じてここまでやってきたが、そう言われるとなんだか不安になってくる。神級スキルに話しかけようとした、その時。
「もう許してください! お願いです!」
「うるせえっ! さっさと金を払えって言ってるだろうがっ!」
女性の叫び声、そしてドスの効いた男性の怒鳴り声が聞こえた。次の瞬間には、前方の曲がり角から1人の少女が姿を現した。
《いました。前方の女性が、我々が探していた人間です。あの女性の持つスキルによって、武器の錬成に伴う消耗を減少させることが出来ます》
※第23話は2026年4月26日15時10分に投稿します。お楽しみに
昨夜、妹とポケモンカードで3回戦い、2勝1敗でした!
カード勝ち越し! まりほー!
ポケモンカード楽しいです! 対戦で得た発見、反省を活かして今日カードを買いに行き、明日ポケモンカードの非公式の大会に参加します(唐突)!
五月雨前線ファイティン!




