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第18話 弱さ

「え?」


 あまりにも予想外なことを言われ、僕は思わず驚きの声を漏らした。


「驚くのは分かる。ただ、あれは聖帝騎士団の団長として相応しくない行動だった。そしてリューオにも迷惑をかけてしまった。とても恥ずかしい。無かったことにしたいんだ」


 尚も僕に背中を向けたまま、ミラエルは言葉を紡ぐ。

 ミラエルと出会って約2週間が経過し、ミラエルがどういう人間か少しずつ理解出来ているつもりだ。ミラエルは馬鹿ではない。むしろかなり頭がいい。


 だからこそ僕は混乱していた。忘れる、無かったことにする、そんなこと出来るわけないと分かっているはずなのに、どうしてそんなことを言うんだろう?


(ねえ、どう思う? ミラエルは何を考えてるんだろう?)


《私からは何も言えません。これはリューオ様とミラエル・ソードフレアの問題です》


 神級スキルに話しかけるも、あっけなくつき返される。うーん、こういう時はどうすればいいんだろう……。


「……えっと、無かったことにするのは、ちょっと難しいかもしれません。忘れるというのも、多分無理です」


「……」


「でも大丈夫ですよ。ああいうことがあったからといって、ミラエルに対する気持ちが変わるとかそういうことは……」


「それじゃ私の気持ちが収まらないんだっ!!!!!」


 ミラエルは叫び、くるっと振り返って僕に視線を向けた。両方の拳を握りしめるミラエルの頬は赤く染まっている。


「私は聖帝騎士団の団長だ! その肩書きに相応しい行動をする必要がある! 人前で弱さを見せるなんて、あってはならないんだ! だからずっと抑えてたのに……リューオが目を覚ましたことで、感情が決壊してしまって……あの出来事は無かったことにしないと、私は前に進めないんだ! 頼む! 全て忘れて、無かったことにしてくれ!」


 1つ1つの言葉に感情を込めながら、ミラエルはゆっくりと、そして激しく言葉を紡ぐ。

 それを聞き、僕はようやく今のミラエルの状況を理解した。だけど……どうにも引っかかる。言おうか? ええい、言っちゃえ。


「えっと……気になったことが1つあるんですけど、言っていいですか?」


「気になったこと? あ、ああ、言ってくれ」


 僕の返答に虚をつかれたのか、ミラエルはやや動揺しながら言葉を返す。


「じゃあ遠慮なく。どうして人前で弱さを見せちゃいけないんですか?」


「な……何を言ってるんだ? 聖帝騎士団は、公共の安全と秩序の維持を理念とする誇り高き集団だ。私はその騎士団のトップなんだから、弱さを見せることなんてあってはならないだろう」


「どうしてですか? ミラエルが人前で泣くと何か支障があるんですか? 6日前にミラエルがああいうことをして、何かに支障が出たり誰かに迷惑をかかったりとか、そういうことはないと思うんです。騎士団の団長に相応しい行動をする、という心意気は素晴らしいと思いますけど、もう少し肩の力を抜いてもいいんじゃないですか? たまには感情を発散することも大事だと思うんです。それを踏まえて、6日前のことは忘れず、無かったことにもせず、お互いに受け入れて前に進むっていうのはどうでしょうか?」


 はっ、とミラエルは大きく息を呑んだ。ミラエルは目を見開き、両手で口を覆っている。

 ……まずい、調子に乗って喋りすぎたか? 思ったことを素直に言いすぎたかな……?


《名演説ですね、さすがリューオ様です》


 神級スキルがそう言ってくるも、からかってるとしか思えない。


「……い、いいのか……? これからは、人前で感情を抑えたり、我慢したりしなくても、いいのか……?」


 ミラエルの声は、ほんの少しだけ震えていた。


「あ、えっと、いいと思いますけど、時と場所は選んだほうがいいかもですね。騎士団の団長としての立場もありますし……そうだなぁ……僕だったらいつでも受け止めるので、僕に対して色々と発散するのがいいんじゃないでしょうか。話を聞くくらいならいつでも出来ますし、全然迷惑じゃないです。あと、僕とミラエルは友達同士ですからね。困った時は助け合いましょう」


「っ……!!!」


 ミラエルは再び息を呑んだ。そして、やや色白の頬を、一筋の涙が伝う。

 驚く僕の前でミラエルは一歩、また一歩と足を踏み出す。そして次の瞬間、僕はミラエルに抱きつかれていた。


「えっ……!? ちょ、ちょっと……!」


「ありがとう……そう言ってくれて、本当に嬉しい……今まで、そんなことを言ってくれる人は……誰もいなかったから……」


 ミラエルは僕を強く抱きしめながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。


 僕の言葉が、ミラエルの琴線に触れたのだろうか。僕を相手に感情を発散して、それでミラエルの負担が少しでも減るのなら、それに越したことはない。めちゃくちゃかわいいミラエルと話せるのは嬉しいし。


 ……それはそれとして、今のこの状況はやばい。異性に、ましてやこんなにかわいくて美しい女性に抱きつかれるのは、とんでもなく恥ずかしい。心臓が破裂してしまいそうだ。

 いい匂いがする。ミラエルの体はなんだか温かくて、柔らかい。そして……っと、これ以上はまずい。僕が変な気を起こす前に、ミラエルに離れてもらおう。


「あ、あの、ミラエル、そろそろ離れて……」


「……リューオに対しては感情を発散していい、と言っただろう。しばらくこうする」


 ミラエルにそう言い切られてしまった。うう、そう言われると返す言葉がない。


 結局、ミラエルが僕から離れたのは約5分後のことだった。僕から体を離したミラエルは涙を拭い、えへへ、と照れくさそうに笑った。その笑顔の破壊力、やばい。


「ありがとう。思えば、他人に対してこういうことをするのは初めてだ。なんだかすっきりしたよ。これからも何かあったら発散させてくれ。勿論、リューオが感情を発散したい時は私が全部受け止めるからな」


「あ、はい、よろしくお願いします……」


 なんだか無性に恥ずかしさを感じ、僕は体をもじもじさせながら言葉を返した。

 全部受け止める、か……ほんの少しだけ、エッチな響きを感じたのは僕だけだろうか。


《思春期ですね》


 うるさいやい。


「よし、ではこの話はここで終わりにして、もう1つの話題に移ろう。ネミア王女を救出した件で、ハスブルク王家の方々がリューオにどうしても直接お礼を言いたいそうなんだ。王家に是非来てほしい、という連絡を受けている」


 すっ、とミラエルの雰囲気が一瞬で変わった。なんというか、女の子から騎士団の団長になったような、そんな感じだ。これがプロ意識というやつだろうか。


「お礼? いや、いいですよお礼なんて」


「既に知っているかもしれないが、冒険者ギルドは王家から多大な援助を受けている。王家の要求はなるべく受け入れたい。大丈夫、少し話をするだけだ」


「うーん……」


「頼むよ、私も一緒についていくからさ」


 ミラエルは言い、両手を合わせて上目遣いで僕を見つめてきた。


 ミラエルと2人で外出……つまり、デート? いやいや、僕たちは付き合ってるわけじゃないから、デートって表現はおかしいかもしれないけど……でもミラエルと2人か、悪い気はしないなぁ……。


「分かりました、では一緒に行きましょう」


《やっぱり思春期ですね》


 うるさいうるさい!!


※第19話は2026年4月22日11時50分に投稿します。お楽しみに

2026年4月23日(木)にZOZOマリンスタジアムで野球観戦をする予定なのですが、あいにくの雨予報(T . T)


新球場は絶対ドーム球場にしてほしいです! マリーンズファイティン!

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