竹馬の馬との再会
村から抜けて、とりあえずは野宿できる場所を探して歩いている。
「ねぇ、さっきは何であんなこと言ったの?」
「どんなことだよ?」
「偽者だとか何とか」
「……」――気を使ってくれているのか? ただの偽善だ。
「顔、辛そうだったよ。泣き出しそうな顔をしてた。それでいて、すごく怒ってた」
「……」
「少しだけわかるよ、君の気持ち。私も1人だったら君と同じ方法で解決してたから。でも私たちは2人だよ。2人だったら1人でできないこともできるようになる。私考えてたの。どうしたら良いかなって。結局思いつかなかったけど。これから一緒に考えようよ」
「だったらわかるだろ。あの状況じゃアレが最良の選択肢だった。人ひとり増えたぐらいで何も変わらん」
「そんなことないよ。君と私のコンビなら、どんな問題でも解決できる」
「うるさいな、俺を知ったような口をきくな。アレでよかったんだ」
「……知ってるよ、君が魔物を村に近づけないように戦ってたの、私を庇ってくれたの。ミルルちゃんの家族を私たちが助けて、魔女だと疑われるとあの村にはいられなくなるから、疑いを晴らすためにあんな風に言ったんでしょ。私、ちゃんと見てるよ。だから君も私をちゃんと見て」
そう言い、ネメシアは俺の袖を引っ張り立ち止まる。
確かによく見ている。バレバレってことか。
「お前だってすごく辛そうな顔をしてたぞ」
「私なら平気よ。庇ってくれなくても、もう慣れたから」
まぁ、さっきのあの顔からすると強がってるな。
「まぁ、きっちり解決したしいいだろ」
「でも、あんな、君が辛い思いをして……」
「そんなことはない。普通だ」
「嘘。嘘をつく時は私の目を見て言いなさい。受け止めてあげるから」
澄んだ瞳に俺の意識が吸い込まれていく。これ、魔法か?
「確かに、ちょっと……だけど、別に良いだろ。俺の勝手だ」
「ちょっと何なのよ?」
「……ちょっと嫌だったけど、だ」
「もう、やっぱり嫌だったんじゃないの。それに偽者だなんて……別にあんな言い方しなくてもいいのに。君は、何者になりたいの? そんな自分を犠牲にするようなやり方じゃ、何者にもなれないわ」
「自己犠牲? ……そう見えたのか。そんな立派なものじゃない。犠牲にする様なものなんて俺にはないからな。俺は俺のイメージを利用しただけだ。それに俺は……別に何者にもならなくていい。俺は強くなる、それだけだ」
強くなって、悪魔教を潰す。世界も潰す。それだけだ。
「そうは言ってるけど、辛そうだった。君は傷ついていた」
「俺が傷ついても、誰も傷つかない。現に助かった。万々歳だろ」
「そんな風に自分を犠牲にして、心をすり減らしてたら、いつかは闇にのまれる。いつか壊れちゃうよ……」
「だからしてないって――」
ネメシアは小声で自身に向かって呟くように俺に諭す。
これは、先生にも言われた。いずれ、闇に乗っ取られる、と。
逆に俺も自分に向かって言い諭す。
「うるさいな。俺には仲間がいないからな。こうやってやるしかないんだ。これに慣れていかないといけないんだ。そうやって強くなって、生きていくんだ」
「ひどいよ」
俺たちはまた歩き出す。少し歩いてネメシアがまた口を開いた。
「『仲間がいない』って、君はもう私と契約したんだよ」
「……さっきはお前も助ける対象だったんだよ。それにまだ――」
「下を向かない」
俺の背中をバシンと叩く。
「いてっ」
「私が君の仲間じゃん。相棒!」
「……」
その時、森の奥から動物のやってくる気配がした。
「アニキー! やっと見つけました。この2ヶ月、一体どこに行ってたんですか? こっちですよい!」
あの喋る馬が森の奥から闊歩闊歩と駆けてくる。
「おお、お前か! 久しぶりだな。元気にしてたか?」
旧友との再会に胸が躍った。旧友とは言っても2ヶ月ほど前に1度会っただけだが。
「え、なになに?」
「やっぱりお前には聞こえないのか?」
ネメシアはわけがわからないというように、キョロキョロしている。
「何がよ?」
「こいつの声だよ」
「え? この馬、喋れるの?」
「ああ……ほほう。そうか。こいつはな、俺だけと話せる馬なんだ」
俺は得意げに自慢する。
「へー、そぉなんだ」
「なんだよ、その興味なさそうな返事」
「だって、ただの馬にしか見えないもん。怪しー」
俺を光る目でじーっと見つめてくる。
「でも君のこんなに明るい声、久しぶりに聞いたよ」
「お前もな」
「そ、そう?」
「ずっと辛気臭い顔してたぞ」
「そ、そんなことないわよ。それよりこの馬は……?」
「俺はてっきり魔法の猫とか妖精の類かと思っていたんだが」
「違うわね。でも少し魔法の痕跡が――」
「アニキ、まだこの指輪持っててくれたんですね!」
「ああ、ほら」
「嬉しい限りですぜ! あ、アニキ、そういえば野営地、決めましたか?」
「いや、まだだけど」
「向こうにいい場所があったんですよい! 今晩はそこに泊まりましょうや!」
「おお、そうなのか! わかった。案内してくれ」
俺たちは馬の案内について行った。
ネメシアが突然、静かになった。様子がおかしい。気分が悪いのかもしれない。あんな怪我もさせてしまったし……
「おい、さっきから元気ないぞ。大丈夫か? 少し休むか? こいつの背中に乗せてもらえよ。今日は朝からずっと移動だったからな。それに……」
「大丈夫、だから」
「本当か?」
「ええ」
「アニキー、もう少しです」
「おう」
雨がポツリポツリと降ってきた。
「着きましたよ、アニキ。――――いえ、魔女殺しの勇者さん」
「え……?」




