血の契り
村のかがり火が見えて来た頃だった。
突然、さっきの小屋のあたりが光に包まれ、雷が落ちたような爆音が轟く。そして森に響く不気味な咆哮。
暗い森の上へと鳥が一斉に飛び立った。
嫌な予感がする。何かいる……
音が聞こえる。それにこの地響き……一体なんだ?
重たい何かが木をなぎ倒しながらこっちに向かってくる。
抜剣して構えた。
来る。見えた。あれは――、
あの顔は、あの光は…………
ロニ子とロニエか……?
「ユ……ウ……シャ…………サ……マ」
「タ…………スケ……テ…………」
「――――っ! おい、お前ら、生きていたのか?」
「ファウスト君! 避けて!」
ネメシアの声だ。こっちに来たのか。
俺はネメシアに押し倒された。
「何すんだ! 待ってろ! 今引きずり出してやるからな!」
「違うわ! それはキマイラよ!」
「違う? 何言ってんだ、お前。そこにいるだろ! お前は見えないのか……?」
「もう、彼女たちはいないの、死んじゃったの」
「いや、そこにいるだろう! おい!」
「もう、いないの……! あれは2人の体と核の抜け殻……あれは――ただの魔物よ……」
そんなはずはない! だって、あいつらの顔をしているじゃないか。あいつらの気配だってするぞ。あの、姉妹だ。普段は俺を警戒して無口だったけど、笑わせようとして俺が放つ、くだらない冗談に時々クスッと笑う、あの姉妹だ。間違いない。目の前にいるじゃないか!
左頬に鋭い痛みが走った。耳鳴りがする。
「顔を上げて、目を逸らさない。私の目を見なさい。もうロニ子とロニエは死んだの。あの2人はもういないの。しっかりしなさい!」
容赦無く俺の頬を再度引っ叩く。痛みと破裂音のような鋭い音が同時に俺の耳を襲う。
「何度だってぶつわよ。君が帰ってくるまで。ぶつ方だって、痛いんだから……」
また俺を引っ叩く。
「痛い……痛いって」
「いつまでいじけてんの! いい加減、気持ちを切り替えなさい!」
彼女の怒ったような、でもそれでいて優しく気遣ってくれているような澄んだ目を見て、俺は正気に戻った。
「……すまない、取り乱した」
「いいわよ。あなたも私の頬を打って。右の頬を打たれたらなんとやらってやつ。それでチャラよ」
「え、いや、今のは俺を助けてくれるために」
「いいから! 早く!」
「お、おう……」
俺は左右の掌でネメシアの両頬をビンタした。
「痛ったーい!」
「だからやめようって……」
俺は気がついた。屈んで俺の前に座っている彼女の肩から血が流れていた。
「その傷は……」
「かすり傷よ。後ろのアイツにやられたの。早く立ちなさい!」
「ごめん……」
「いいのよ。それよりあれ、なんとかしないと」
異形だ。いろんな人間の体がぐちゃぐちゃになっている。
それにあれは、子どもたちの意識か?
「ア…………ソボ……ボク…………ト」
個体名アンデッドナベリウス(器キマイラ)、レベルは40か。差は倍近いが、油断しなければ勝てない相手ではない……かな。
「まずはその傷を治せ。俺が倒す」
「これくらい平気よ」
「強がるな。血が止まってないぞ。そのせいで死なれたら俺が困る」
「その程度で死なないわよ。でも、わかったわ」
ネメシアは戦いになると気が強くなるんだな。前の俺と同じだ。
さて、どう倒そうか。周りは木だ。図体のデカいアイツには動きづらいはずだが、木もなぎ倒して走って来たからな。
それに首が4つか。あの1体は、さっきの神官か?
吐き気がする。まずはロニ子とロニエの首から斬り落とす!
「ごめんな、2人とも」
俺は右の木に向かって走り、そのまま木を壁にして勢いをつけて斬り込んだ。3人の首が地面に落ちる。
効いた、か? ナベリウスの切り口がすぐに塞がっていく。自己修復能力が高いのか? それともアンデッドだからか?
ナベリウスが自分の一部だった首を踏みつぶす。腐っているのか、嫌な音を出して潰れた。
「ア……ソ……」
手足の触手が伸びて襲って来た。斬り落として防いでも全く効いていない。動きは遅いが、やりにくい相手だ。今までのモンスターの中で一番気持ち悪い。
命で弄び、こんな残酷な魔物を生み出す悪魔教がますます嫌いになる。
「光っている魔女の核の部分を狙えばいいんじゃないかな」
「それは俺も思っていた。だけど周りの腐肉が邪魔だな。再生能力もあるし」
最も効きそうなのは、先生に習った剣技で一番速い基本突き技4連撃だな。
先に周りにある邪魔な手足を斬り落とす。斬る感覚もどこか手応えがない。まず、生き物を斬っている気がしない。密度の薄いスカスカの骨を叩き斬っている感じだ。
上部に付いてある魔女の核。
よし、ここだ――。この部分に再生速度も間に合わないくらいの速さで肉をえぐり、剣を突き立て核を突き破るんだ。身体と手首の捻りを利用し、最小限の剣の引きと突きの動きを連続させる。今なら、いける。
俺は思い切り剣技の型をぶつけた。
――なに!?
いきなり核の周りの肉が増殖した。しかも、他の部位とは比較できないほどに硬い。やりようによっては切っ先が欠けるかもしれない。
右から触手が飛んでくる。くそ!
斬って飛び退きつつ、再度斬り込むも、また増殖を繰り返して防がれる。
これは時間がかかりそうだな。早くしないと、ミルルの親父がまずい。
その時、周りから魔物の気配がした。どんどん集まってきている。狼とその他とあとは……キュクロプスまでが出て来た。
「おいおい、それはないって……」
こんな時に限って……
すると突然、ナベリウスはキュクロプスに触手を伸ばし、食べ出した。
音が……光景がかなりグロテスクだ。口とも思えない部位から触手が伸びてきてあのキュクロプスの巨体を引き裂き、そのまま千切ったものを運び入れる。
目の端で捉えたその光景をよそに、その他の魔物は俺に襲いかかって来た。
「まずいな。おい、ネメシア、ロザリオを持って村へ行ってくれ」
「君はどうするの……?」
「俺はここでこいつを倒す。流石に時間がかかりそうだから、これだけお前に頼みたい。持っていって小屋を後で見せて無実を証明するだけだ。できるか?」
「私もここで戦うわ。この数は無理でしょ。契約して協力しましょ!」
「ここは大丈夫だ。早く――」
と言いながらロザリオを取り出す暇がない。魔物が多すぎる。かなり時間がかかりそうだ。
「おいおい、こいつレベル上がってるじゃねぇか……」
ナベリウスは捕食してからレベルが42になっていた。ぶっちゃけ、この数はやばい。相手にしきれないのもあるし、何より際限なく喰っているから、強くなっていっている。触手もさっきより硬くなった気がする。もうレベル23の俺との差は倍に近い。
狼3匹が一斉に飛びかかって来たのを一振りでなぎ払い、他のモンスターも刺し殺す。
そしてナベリウスの正面からの触手攻撃をそのまま2つに斬る――――
――硬い!
俺は吹っ飛ばされた。
受け身だ、受け身をとれ! 転がりながら木にぶつかった。
「ぐっ――」
斬れなかった。硬い。核の周りの肉と同じだ。
剣は? よし、折れていないな。
「ファウスト!」
戦いながらネメシアが叫ぶ。
「このくらい平気だ。俺はもっとひどい怪我だってしてきた」
「怪我もそうだけど、怪我のことだけじゃない。このままだと私たち死ぬわ」
「そんなことはない。戦い方によっちゃ倒せる。だからお前はこれを」
俺はロザリオを取り出し、ネメシアの方へ投げた。
「ダメよ」
「早くいけ!」
「君、この戦力差を見て言ってるの? 確かにナベリウス1体なら倒せるかもしれない。けど、この状況を見なさい」
「理解して、言っているんだ」
「……」
俺は俺自身の為に、大事な場面ではもう誰も頼らない。頼るといつか裏切られるからだ。頭じゃない。もう体がそう覚えているんだ。拒否しているんだ。受け入れられない。
「お前はお前がミルルを助けたいから行動しているんだ。だから早く行ってやってくれ」
「違うわ! 私は、あなたも助けたい。あなたを助ける為に来たのよ」
「嘘つけ! お前らはいつもそうだろ。善人面して『助ける』、『育ててやる』、『信じてください』とか言って、結局俺を裏切るんだ。はめるんだ。だから俺は1人で、強くなる! だからこの局面も、俺が1人で乗り切る。そうしないと、これからは生き残れない」
俺は襲って来たモンスターを束で叩き斬る。
帝都では、信用した俺が悪かったんだ。自分のことは自分で面倒を見ないといけない。魔物に囲まれても、だ。全部自己責任だ。
「もう。どれだけひねくれているの、君は」
ネメシアはため息を吐きながら魔法を放ち、魔物を倒す。
「ちょっと黙りなさい……私は君を裏切らないよ。絶対に裏切らない」
その真っ直ぐな瞳。
俺は白黒の夜空を見上げる。もう真っ暗だ。昼よりも雲が薄い。その雲の間に見えた月から降り注ぐ淡い光が俺と、彼女を照らす。
ずっと目障りだと思っていた。灰色の世界で彼女の目だけが輝いて見えるからだ。あの輝きはまるで、「私を見ろ」とでも言っているかのようだ。
仮定の話だ。
俺がもし信じてみて、それで裏切られたら、もう俺は俺じゃなくなると思う。
――人を、信じてみなさい。
先生はそう言っていた。
無理だ。無理だよ、怖い。裏切られるのが怖い。またあの目で見られるのが怖い。ローランのあの可愛い顔から発せられる俺を貶める言葉。サヴォナローラのあの俺を騙して高らかに笑ういやらしい目つき。それに――、利用価値の無いやつを見る目。
思い出しただけで、胸が苦しくなる。
灰色の世界、これは呪いだ。自分が無知で、非力で、世界に対して何の働きかけをしようとしなかった、助けると言いながら守ってやれなかった俺への呪い。
この灰色の、色のない世界で、ひとりぼっちで生きていけということだ。
でも、怖いけどそっちの方が楽かもしれない。裏切られることがないから。
「危ない!」
俺はネメシアに突き飛ばされ、我に帰った。
「なっ」
音が止まった――
ネメシアは――彼女は狼の魔物に集られ、喰われていた。必死にもがいて抵抗しているが、数が多い……
――――ッ!
鼓動が一気に加速する。身体が勝手に駆けた。
俺はすぐに全ての狼を斬り殺すが……
身が、肉がえぐられている……いくつかの噛み跡は深いのか、血がどくどくと流れ出てきていて痛々しい。灰色の視界でも黒色に見えるくらい濃い血だ。早く止血しないと……
俺は持っていた清潔なはず、の予備の服をそのまま割いて巻いた。
「おい、ネメシア! しっかりしろ!」
「あれ……、心配してくれてるの……? 自己責任じゃなかったっけ?」
「おい、傷は治せるか?」
「ちょっと痛いけど、治せる……イタタ……」
「すまない……本当にすまない」
「だから言ったでしょ……私は君を裏切らないって。命だって、懸けられるんだから……」
「もういい、早く治せ」
「君が私と契約してくれるなら、治す」
「……え?」
「契約、して。私は証明したよ。裏切らないって」
うっ、と顔をしかめる。すごく痛そうだ。
「だから君も私を信じて」
「……」
迷っていた。
襲ってくるモンスターに数匹ナイフを投げて倒す。
「お前、わ――、」
俺は逡巡し、思いとどまった。
「わざと喰われたんじゃないか?」そう言おうとした。
だがそれだけは言ってはいけない気がした。
彼女の信頼を、命を踏みにじる言葉だ。俺が彼女を裏切ることになる。自分の身を挺して俺を助けてくれた彼女に対して、失礼なんてこと以上に、失礼極まりない。人間をやめる、それに等しい行為だ。
こんな痛々しい姿になってまで、俺を裏切らないと証明する彼女……
倒れているネメシアは俺の腕を引っ張りその目に涙を溜めている。
「私、誓ったの。命を賭して君を助けるって、誓ったの。だから、信じて」
――命を懸けられる、か……こんな俺にそう言ってくれるのか。
彼女だけは、少しだけ、信じてみても、頼ってみても、良いのかもしれないな……
「わかった。お前を信じる。契約をしよう」
ネメシアは顔を綻ばせ、その瞳からはついに涙が溢れて来た。
「よかった。信じてくれた……」
彼女は俺が言いかけた言葉に気づいていたのかもしれないな。
そして契約書を取り出した。その瞬間――、
「くそ!」
俺はネメシアを抱えて飛び、ナベリウスの触手から逃れた。だが、契約書が、破かれてしまった。そのまま彼女を背に抱えて走り出す。
「おい、どうする……?」
「やっぱりこうなったんだ……」
「え?」
「ううん、大丈夫。契約書がなくても、昔のやり方で契約できる」
「わかった。どうすればいい」
「お互いの傷口と傷口を押し当てて、いろいろ契約内容を唱えるの。何か条件とかはある? 一緒に考えましょ」
「そんな暇はない!」
俺はネメシアを背中に抱え、攻撃を避けながら走り回っている。
「あはははは! そうね。だから簡易版! 私の言うことをそのまま復唱
してね」
そう言い、ネメシアは後ろから俺の顔の前に右手を伸ばしてきた。
こいつ、ちょっとハイになってるかもな。
「さ、君も傷口を私の傷口に当てて」
「わかった」
左の手のひらを少し切り、言われた通りにする。
「いたい。ちょっと、揺らしすぎ! もっと優しくしてよ。痛いんだけど!」
「仕方ないだろ! 避けながらなんだから」
「もう、いくよ! 我、汝と血の契りを結ばん」
急に真剣な声色になる。俺は復唱する。
「我、汝と血の契りを結ばん!」
「「――――ッ!」」
その瞬間、傷口から全身へと暖かい何かが流れてきて広がった。そして全身を巡る血が、煮えたぎるように熱くなる。足の爪先から、頭の頂点まで、全部だ。
静寂が俺を支配した。聞こえるのは、心音だけだ。
ドクン、ドクン、ドクン――、心臓が脈打つ。
「グッ――――!」
心臓が、痛い……! 締め付けられているようだ。この痛さ、うっかりすると攻撃に当たるか、ネメシアを背中から落としてしまいかねない。
鼓動が一気に速まり、心音がうるさいくらい耳に響く。
それにこれは、ネメシアの心音か? 俺の背中を激しく叩くようにして彼女の鼓動が伝わってくる。心臓同士がぶつかっている感覚だ。
最初はずれていたが、徐々に同じペースになっていく。
速い。心臓が爆発しそうだ。
反発し合うようにすれ違っている2つの鼓動が――――、
あぁ、重なった。そしてまたゆっくりと、重なったまま落ち着いていく……
前の奴隷契約と全然様子が違う。これは、もっと、痛くて重い。
「これで君と私は血の契りで結ばれたわ。感じない? お互いの意識を」
「ああ、感じる。これが、ネメシアなのか……?」
変な感覚だ。見ていないのに、彼女のレベルもわかるし、どんな状態なのか、そして彼女から静かに流れてくるマナや彼女の意識の存在すらも感じ取れる。暖かい、どこか包み込まれるような感覚だ。
それに、力が漲ってくる。
「実は一番重たい契約をしたから」
あはははと笑っている。
「おい、なんだそれ。ていうか、お前、これ毒だろ! こんな状態だったのか! 早く治癒魔法をかけろ」
「そうね。じゃあその間に、あいつらをやっつけといて」
「わかった」
俺はネメシアを背中から下ろし、両手で剣を構え、空気を吸い込む。
感じる。自分の中のマナの流れがわかる。どうやったらそれを利用できるのかも分かる。これは奴隷契約の時とは全然違う感覚だ。あれはこんなものじゃなかった。
ネメシアの体力が戻っていく。よかった。安心した。
「安心、か」
1人そう呟き、目の前の敵を見据える。多いな。
手前にも多くの魔物がいて、一番奥に更に図体のデカくなったナベリウスが屹立している。
「成長期かよ」
でも、わかる。俺のカンがこう告げる――今度は、貫ける。
そう思った瞬間、一瞬世界が止まってみえた。あの感じだ。全部見える。
こうなったら考えるな、動け。
足取りが軽い。素足でいるように、湿った土と落ち葉を踏む感触が歩行瞑想している時よりもより敏感に感じられる。
記憶を失っても無意識にできるまで叩き込んだ剣の足運び、無駄のない斬り方。モンスターのどこをどう斬ればいいのかも、わかる。呼吸と同じだ。
全て、斬り倒す。
ナベリウスも遅い。触手も簡単に避けられる。
さっきはマナの力がなかったからな。今度は本物の剣技を喰らわせてやる。
目標、核2つ。アレンシュタイン流剣技基本突き技4連撃。
――今だ、飛べ。
一瞬で4回の突きを繰り出す。自分でも驚くほど滑らかに身体が動いた。
腐肉は刺した感覚がない。まるで何もなかったかのようだ。だが手に残る、核の割れる感触。
「ロニ子、ロニエ、助けてやれなくて、ごめんな」
着地すると同時に、ナベリウスの体が崩れ、朽ち果てた。
なんか変な感じだ……不思議と高揚感が湧く。
これが、本来の魔女との契約の力。
従属でも隷属させるでもない、対等な契約。
「ぱち、ぱち、ぱち、っと。お疲れ様」
拍手してわざと声に出して言う。なんだか楽しそうだ。
「大丈夫か?」
「ええ、何とか。やっぱり強いね、君は。安心して背中を任せられるわ」
「言い過ぎだ。アイツは錬成に失敗したやつだろう。普通の魔物でこのレベル差だったらやられていた可能性が高い。何より悪魔特有のあの禍々しさがまったく感じられな――」
ネメシアが割って入る。
「もう、そこは素直に、ありがとう、でいいのよ。でもこれ、まさか下着……?」
さっき止血のために腕に巻き付けた包帯を見せてくる。
「……急ぐぞ」
俺たちは村へと駆け出した。
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キマイラが倒されるその光景を遠くからサヴォナローラ率いる悪魔教が、じっと漆黒の闇に隠れるようにして観察する。
「降魔のキマイラはやはり失敗しましたね、サヴォナローラ様」
ローランは少し残念そうな表情を浮かべ、自分より高い枝に立っている神官に次の指示を仰ぐ。
「構いませんよ。捕食本能があると判明しただけで十分です。それよりもあの2人のことですが、近くにある魔女の拠点まで泳がせましょう。いずれ向かうはずです」
走り去る2人を見つめ、そう告げる神官のその瞳には深い何かの感情と、そして自己の掌の上で繰り広げられるゲームに対する絶対的な優越感と僅かな傲りがあった。
「この人数だと少し劣勢なのでは?」
数の不利があるのではないかとローランは考えた。こちらは20人強の修道士しかいないが、あちらはそれ以上の魔女と、いくら弱いとはいえキマイラを倒したファウストがいる。
「いえ、問題ありません。今回の目的は捕縛ではありませんからね」
クックック、と遠くに去っていった勇者と魔女の方向を望みながら不敵に笑う。
「彼らはおそらく今後、魔女のレジスタンスを裏で援助しているアルテミア公国へと向かうでしょう。となれば妖精の森を通るはずです。そこまで安全な道のりを教えてもらいましょう」
今、悪魔教団は妖精の体を使って新しい実験をしているところだった。数人の精鋭とスパイを妖精の森に送って早ひと月だが、結界をようやく解けたところだ。しかしそこに至るまでの道程は人間である悪魔教徒にとって危険極まりない。危険種に指定されている魔物に襲われて捕縛部隊が全滅しかねない。
「欲しい。もっと新鮮な検体を大量に欲しい! 頼りにしていますよ、ローラン君」
自らの願望を叶えるためのパトロンであるサヴォナローラに対して要求することは一つ。
――力だ。それを得るためならばどんなことでもする。
「妖精の実験が成功すれば生身の人間にも悪魔を宿すことができるはずですからねぇ。あなたの求めるものも、もう手を伸ばせば届きそうですよ」
「全力を尽くします」




