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旅立ち

 

 約2ヶ月だった。

 この小屋で俺が先生と猫とバンシーと過ごした期間は2ヶ月だった。

 長いようで短いような、短いようで長かった気がする。


 俺はこの小屋を後にしようとしていた。


 先生が俺の肩をがっしりと掴み、ゆっくりと言う。

「ファウスト、この短い期間でよく頑張った」


 本当に毎日、必死だった。

 手にできた豆が潰れても剣を振り続けた。

 拳にできたタコも変形するぐらい、土を込めた袋を殴ったし、モンスターも蹴りまくった。


「死にかけましたけど」

「そうだな」

「ほんとだよー。あの時は死ぬんじゃないかって、本気でそう思ったよー」

「瀕死の俺のために、バンシーは休まずに妖精の森まで命の泉の水を汲みに飛んで行ってくれたんだよな。バンシーは命の恩人だ」

「それを言うならディーさんもだけどねー」

「そうだな……」


 今までには無かった感情が湧いてくる。


 別れが、惜しい。



 先生が沈黙を破る。


「アレンシュタイン流の基本は全て授けた。多くはもう言わん。この2ヶ月で学んだことを、忘れるな」

「はい!」


「わたし達のことも忘れないでよね!」涙声だ。


「もちろんだ」


 先生が用意してくれた荷物から、細長い布に包まれたものを解く。


 一振りの剣だった。


「これはワシの息子が騎士見習いのころに使っていた剣だ。お前さんの手に合うよう、柄は片手半剣用に取り替えておいた。持って行きなさい」


 悪魔教団に殺された先生の息子さんが見習いの頃に使っていた剣。

 きっと何10年も前の物なのに、きちんと手入れがされていて、どれほど先生にとって大事なものだったかが伺える。


 これを授けてくれるなんて……


「ありがとうございます。大事に使います」


「ああ。だが、この剣だけでは物足りない時が必ずくる。その時は気兼ねせずに、弔ってやってくれ」


「わかりました」


「何か困ったことがあれば、アルテミア公国のアレンシュタイン家へ行ってこの手紙を渡しなさい。ワシの生家だ。この紙は魔法の紙だ。少しくらいの無理も大丈夫だ」と封をされた手紙を渡された。


「ありがとうございます」


「ワシはお前さんが復讐心に打ち勝つだろうと信じておるぞ、ファウスト。だからお前さんも人を、信じてみなさい」


「人を、信じる……善処します」

「そして、死ぬな。決してだ。ワシより早く死んだら、承知せんぞ」

「はい! 俺は死にません!」


 先生は力強く俺に頷き、俺も頷いた。


 いつもは無口な猫も、出てきて俺を見つめている。

「リヴァイアサンは悪くはない。理想郷(ユートピア)には近づくな」


 俺は手を振って返事をした。でも、どういう意味だ?


「2ヶ月間、お世話になりました!」


 そうして俺は小屋を後にした。


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