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剣の師匠

 


 剣の稽古の時、先生は――、


 人が変わる。


 まるで何10歳も若返ったように、だ。



「遅い! 遅い、遅い、遅い!!! もっと速く動かんか!」



 木剣で模擬戦をしている時だ。

 歳を感じさせないような俊敏さと力で俺の剣を振り落とす。

 ――というより全く衰えていないと思う。


 それに稽古中の先生は――、


「剣の流れが見えてくるはずだ。隙を感じろ! フットワーク!」


 口調も変わる。


 剣の流れ? 隙……? 何だっけ……?


「足が止まっておる!」


 とそのまま倒される。


 はっきり言って、めちゃくちゃ怖い。

 騙された気分だ。

 もしかすると、いや、もしかしちゃってカルトってこんな感じなのか?


「ひいいいい!」



 稽古中、俺は上半身裸で裸足になっている。

 服は1着しかないし、あってもなくても同じだ。破れないように剣の稽古中は脱いでいる。


 休憩中、水を飲んでいると、先生は俺の戦い方とディスアキアとの関係について聞いてきた。


「ファウスト、勇者との戦いの様子から察するに、お前さん、皇女殿下に剣を教えてもらっておったのか?」

「はい」

「なるほど。本当に必要最低限だけを、短い期間で詰め込んで教えたという状態じゃな」


「そうですね、あまり悠長に教えている時間はないって言われましたし」


「やはり、お前さん、対人戦はあまりしてこなかったな? あの勇者との戦いもまるでなっとらん。対魔物戦の基本はできておるようじゃが、まあ、それもまだまだじゃな。もう1度、基礎の基礎から始める。アレンシュタイン流の基本を全て伝授しよう」



 ということで、また真剣での素振りから始まった。

 素振り。毎日素振りだ。


 剣の振り方にも変な癖がついていたらしい。


「お前さん、先日の戦いで剣を折っていたな。自分が死んでいたのを反省していないのか。剣が悪かったのもあるかもしれんが、達人はどんな武器でも、最高の威力を引き出す。そんな振り方斬り方じゃ剣が折れる」


 そうして俺の剣の振り方を見てくれていた先生は、

「ふむ、お前さんの手にはこの長さの剣は合っていないようだな。両手で握る方が扱いやすいか?」

「そうですね。片手でも両手でも、両方出来れば一番いいです」

「だったら片手半剣が良いだろう。用意しておこう」

 ととりあえずは柄を取り替えてくれた。



「お前さん、相手を前にして、本当にそんな剣の振り方をするのか? 本当に今までモンスターと戦ってきたのか? そんな斬撃で自分より強い相手を倒せると思っているのか! ただただ無闇に素振りするだけなら、やめてしまえ。意味がない。筋肉をつけたいだけなら薪を割れ!」


 と怒鳴られる。

 そして先生は本当に薪を持ってきて、それを空中で斬って割ることになったが、なかなか2つにきれいに割れない。

 叩き落としてしまうか、途中で刃がピタリと止まり挟まってしまう。


 俺の素振りのどこがいけなかったのか、さっぱりわからない。


 わからないから後で教えを乞うと、こう言われた。


「目の前に本当に相手がいると思って、本気で一撃一撃を振るんだ。それに腕だけで振るな。全身のうねりを利用しろ。そうすればほんの少しの力で十分ものは斬れる。そして普段から意識するその一撃が、自分を救い、守りたいものを救う」



 そうしてしばらくすると、徐々に薪を空中で割れるようになってきた。


 そうすると次は、先生が薪を放ると同時に、左、右、上、下と言って、切る方向を惑わしてきた。これがまた、かなり難しい。集中していないと、空振るし、先生の行った方向につられてしまう。


「集中だ。それだと相手のフェイントに引っかかる」


 そして構えが崩れると、


「脇を閉めろ」と杖で肘と脇腹を小突かれる。


「次は突きで割ってみろ」

 斬って割れる様になると、突き技でも同じように練習した。

 そして同時に放られる薪の数も増えていった。


 そして体術。これはディスアキアとしたことがある訓練だ。

 話の内容と教え方から察するに、ディスアキアの師匠は先生かもしれない。


「体術は剣術の基礎になる。体術無くして剣術無しだ。さぁ、来なさい」


 俺は丸腰の先生に向かって剣を振る。

 素手でどうやって人間相手を倒すか、身を以て教えられる。


「うぉあああ! 痛って……」


 痛みには耐性がついてきたと思ったけど、やっぱり痛い。


「受け身だ! 受け身をとらんかい!」

 最初は我慢できる。だが、続けていくとやっぱり痛い。


「お前さん、素手で魔物を倒せるのか? 無理なら剣を離すな!」


 突き蹴りの練習の時も構えと立ち方を1から教えてもらった。


「違う! 指の付け根の前足底で立つんだ。かかとは地面につけず、葉っぱ1枚分浮かせろ。棒立ちするな。重心を意識して足を止めるな。腰を落とせ。はい次!」


 激しくはないが、地味に辛かった修行がある。異国のヨーガという修行だ。

「身体が硬すぎる。今まで何をやっていたんだ」

 ヨーガでは何かのポーズを取りながら呼吸を止めてはいけない。

「呼吸を続けろ」

「この状態では、ちょっとむ――」


 時間がないからと体を痛めない程度に強制的に伸ばされる。


「凝り固まった身体中のマナの循環を促すのだ。体側を伸ばして呼吸すると肝臓機能が良くなり、さらに普段使っていない肺の部分にまで空気が入り込む。そうして肺活量を上げる。森を走りこむだけではだめだ。はい、全部吐き出せ!」

「コォォ……」

「もっとじゃ」


 吐き出してますって……


 森で瞑想の修行もあった。切り株や川の上の岩に座って眼を瞑る。


「生きとし生けるものにはマナが流れている。植物や動物にもだ。心を(しず)めて自分のマナと森のマナを感じろ」

「はい!」

「心とマナは繋がっている。心が汚れ(けがれ)ると、マナも汚れる。悪意ある者のマナは禍々しくドス黒い。お前さんは禍々しい悪魔のマナが流れてきたら、自らのマナで封じないとダメだ。魔女の補助もないお前さんは早く自身の力でマナを扱えるようになれ」

「はい!」

「だからまずは精霊の気配を感じ取れるようになれ」

「ど、どうやったら感じ取れるんですか……?」

「心を鎮めて森と一体になれば、自然と感じられるようになる」


 とだけ言い残して先生は小屋へ帰った……

 いや……無理だろ……


 ディスアキアとの稽古も確かにキツかったけど、夜だけだった。

 今は、それが1日中続いている。


 へばるとこう言われる。――「男なら立て!」

 ディスアキアにも言われた言葉だ。


「皇女殿下は、女でも男より強かったぞ!」


 稽古は正直辛かった。ただ、復讐の2文字に突き動かされていた。


 強くなってやる。強くなって、見返してやる。

 頑張れ、俺。


 唯一の救いは、妖精が助けてくれることだ。

 この小屋の周辺は先生に恐れをなしてモンスターは寄ってこない。そして結界も張ってあるらしい。

 でも先生と仲の良い妖精が最奥の妖精の森から時に訪れ、俺たちの稽古を参観する。


「ファウストくんガンバレー!」


 生まれて初めての可愛い女の子からの黄色い歓声に内心ニヤニヤしてしまう。

 この俺が? 応援されてる?

 ――あまりの過酷さに、少しまいっていたのかもしれない。


 妖精の外見は、子供だ。羽のついた人間の子供。

 白い髪をしているらしい。名前はバンシーだ。俺の視界でも同じく白色だ。

 バンシーは怪我の治療をしながら俺に色々とアドバイスをくれる。


「イテテテ……」

「ほら、動かない。ファウストくんは周りが見えていないねー。ディーさんばっかり見てて、わたしが攻撃しても多分防げないよー。しっかり周りにも注意を払って。集中と分散の程よいバランスが大事なの」

「わかった……」

「わたし、ディーさんに頼まれて、時々後ろをすれすれに飛んでたんだよ。ファウストくん気付かないのかなーって、ずっと笑ってたんだからー」


 とバンシーが静かに俺を笑う。


「ファウストくん、戦う時いっつも力み過ぎだねー。もっと力を抜いていいよー」


 と俺の至らない点をいつも教えてくれる。

 妹ができたみたいだ。

 集中と分散、これは矛盾しているようで、実はこれこそ強者と弱者の違いの1つらしい。

 ちなみに、ディーさんとは妖精の間で呼ばれている先生のあだ名だ。



 食料は自分で採らないといけない。

 つまり、肉を食いたきゃ狩れってことだ。


 経験がないこともなかったが、いつも美味そうな草食系には逃げられてしまうから、活きの良い、俺を攻撃してきて、かつ食べられそうなモンスターばかりを狩っていた。

 先生はそれを見かねて、狩りの初歩を教えてくれた。


 森の中で音を立てない歩き方、肉の捌き方、火の簡単な起こし方、串に使える枝や苦い樹液の処理の仕方、内臓の始末の仕方などなど、今まで知らないことばかりだった。


 命を奪うことの責任についても、毎回口酸っぱく注意された。先生は魔物すらも無闇に殺すなと言う。先生は無宗教だが、変わった考え方の持ち主だった。


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