第二十一話 鬼龍寺鉄馬と相棒の別れ
神殿内を一通り説明してもらった後、俺とアルフォニカはカリーナさんに案内されてに今日泊ることになる一室に通されていた。
いや、説明と言ってもずっと昔に作られたという豪奢なステンドグラスやシャンデリア、壺や絵画の調度品、そしてアルフォニカと、アルフォニカの父親だという大精霊スラヴァを模した石像を見せてもらったり――まあ、いわゆる神殿の有名どころを見せてもらった程度。
神官が行き来する奥には通してもらえず、用意してもらった部屋も来客用の部屋である。
ただ、流石はこの大陸で一番有名な宗教――宗教という扱いで正しいのかは難しい所だが――なだけあって、その客間も俺が知る街の宿とは全然違う高級な造りに思えた。
壁にはなんだか偉そうな男性が掛かれた絵画が掛けられ、窓には金刺繍が施されたレースのカーテン。
花瓶にも宝石が鏤められており、それ一つでも売れれば数年は遊んで暮らせるくらいの額になるのではないだろうか。
他にもクローゼットやベッド、ソファに本棚まで。見たことも無いような高級感のあるオーラを放っていて、とてもではないが気持ちが落ち着かない。
『どうしたの、ソワソワしたりして?』
「いや、なんというか……」
アルフォニカの問いかけに、落ち着かないと正直に言うのもどうかと思って言葉を濁していると、この部屋まで案内してくれたカリーナ姫が俺の荷物をテーブルの上へ静かに置いた。
たったそれだけで、こう、なんというか緊張が増してしまう。
案内されている時はずっとテッドへ付きっきりだった彼女。
王都まで来る間に何度かカルサのおっさんから聞いていたが、この国のお姫様は本当にテッドへべた惚れで、それはもう人目が無ければ腕に抱き着いて甘えていたのではないだろうかと思うくらいのベタベタっぷりだった。
うん。正直に言おう。
嫉妬する気も起きないくらいで、見ている方が胸やけを起こしてしまいそうだった。
あと、それを間近で見せつけられたカルサのおっさんは……こう、なんというか。
こっちはこっちで見ていて面白いくらい百面相をしていたけど。
「お荷物の方はこちらに――ほかに何か入用の物がありましたら、お取り寄せいたしますが?」
「あ、いえ。お気遣いなく。あとはこちらの方で……えっと、何とかしますから」
「いえいえ。王都まで長旅でございましたでしょう? 雑事は神殿の人間に任せて、お休みくださいませ」
「いやいや。そういうわけにも……」
「そうおっしゃらず。あ、わたくしが王族の物だからと遠慮なさっておられるのですか?」
そう言われて言葉に詰まると、カリーナ姫は優雅にドレスのスカートを摘まみ、綺麗な一礼。
作法とか、そういうものに縁のない生活を送ってきたけれど、たっつぉれだけの動作で彼女は『本物』なのだと感じた。
いや、なにが『本物』なのかと聞かれると困るけど。
部屋に置かれている高級感のある調度品以上に高貴なオーラを放っているというか。
田舎育ちで礼儀作法を身に着けていない俺でも絶対に手が届かないと理解できてしまうというか。
『ありがとう、お姫様。こっちはこっちでやるから大丈夫よ』
「そうでございますか。扉の前に使用人を置いておきますので、御用がありましたら及びつけください」
『ええ、分かったわ。それと、テッド……テオドアとアーリシャを呼んできてもらえるかしら?』
「畏まりました」
そう言って一礼すると、カルサのおっさんと同じ顔をした美女は、何度見ても慣れない優雅な一礼をして退室していった。
その際にも、ドアの開閉音は最低限の小さなもの。その辺りにも教育が行き届いているようだ。
「ぷはあ……疲れた」
『情けないわねえ――テツマったら田舎者ぉー』
「否定はしないよ、ちくしょうめ。だって、この国のお姫様が部屋に案内してくれて、荷物持ちまでしてくれたんだぞ? 精神的に疲れるわ」
『まっ、口が悪い子だこと』
お姫様が居なくなったからか、いつも以上に砕けた口調になるアルフォニカ。
神殿を案内されている間は大人しかったから、その反動だろう。
その軽口を聞きながら、今まで感じたことのない柔らかさのベッドへ腰を下ろし……あまりの柔らかさに、そのまま後ろへ倒れてしまった。
「すっごいな、ここ。なんだか、普通に仕事をしているだけじゃ一生利用できないくらい高級そうなんだけど」
『でしょうねえ。この神殿、かなり昔からあるし』
「ふうん」
『お父様がまだご存命だった頃に建てられた建物なのよ? ベッドとも、それに合わせた特注品。古い物を永く大切に使った、年代物』
いやいやいや。
今さらっと言ったけど、なに、アルフォニカのお父さん……大精霊スラヴァ――様がご存命だった頃って。
「え、っと……俺の利き間違いだったら物凄く申し訳ないんだが……」
『お父様の事? もうこの地上には居ないわよ、何百年も前に――ドラゴンと相打ちになられたから』
「それって、そんなにあっさりと言う事?」
『だって、何百年も昔よ? 私の中では、もうとっくにケジメというか、なんというか。気持ちの整理はついているし』
「そ、そうか……」
いや、お前が良くても初めて聞く俺からすると物凄く返事に困る話題なんだが。
……そんなこっちの心情など気にしていないのか、それともあまりツッコんでほしくないのか。アルフォニカはいつものようにフヨフヨと宙に浮いたまま、窓の方へ移動して外を見る。
『王都の街並みも、ずいぶん変わったわね』
「その――大精霊様がドラゴンと戦った時と?」
『ぷっ。テツマが大精霊様だって――似合わないからスラヴァの方で良いよ。お父様も、霊格はどうあれ、そんなに偉ぶるような精霊じゃなかったし』
「じゃあ、スラヴァ様で」
『……だったら私もアルフォニカ様って呼んでいいよ?』
「それはちょっと……」
『なんでよ!?』
お前はその……そんなに偉い精霊には見えないし。とは言わないでおく。
拗ねて黙られたら、こっちの気が落ち着かない。何せ今まで利用したことが無いような高級品ばかりが置かれた客室なのだ。
この部屋に居るだけで、精神的な疲れを感じてしまう。
こう、何かして調度品を壊してしまわないだろうかとか。ベッドで寝返りを打ってシーツを傷物にしてしまわないかとか。
そこまで考えて、安宿の感覚でそのままベッドへ横になったけど、自分がまだ簡素な鎧防具を身につけたままだったことに今さらながら気が付いた。
ゆっくりと起き上がると、とりあえず防具などを外して荷物と一緒にテーブルの上へ置く。
そして、ベッドのシーツに傷が無いかを確認してしまった。
『何してるの?』
「いや、鎧でシーツに傷がついてないか心配になって」
『庶民過ぎる……』
アルフォニカが呆れて、次にクスクスと楽しそうに笑った。
むう。
『そんな事よりゆっくりしようよ』
「お前はそれでもいいだろうけどさあ」
俺は気持ち的にゆっくりできないよ。というか、何度も言うが落ち着かない。
「そう言えばさ」
『ん?』
落ち着かないままベッドへ横になることも出来ず、部屋の中を一通り見て回ってから窓から外を眺めるアルフォニカの傍へ椅子を持っていって座る。
うん。
とりあえず、知っている人間……というより、精霊の傍が一番落ち着くことに気付いたのだ。
「お前が子供の頃から親を大切にしろとか、もっと家を手伝えとか言っていただろ?」
『そうだっけ?』
「そんな事を言っていたよ、お前は。それってさ――」
記憶は曖昧だけど、似たような意味のことを言われていたのは覚えている。
それって――アルフォニカのお父さんはもう死んでいるから、言っていたのだろうか。
そう聞こうとして、それは聞いて良い事なのかと口を噤んでしまった。
なんだか、それは大切な事のように思えたのだ。
もしかしたらアルフォニカ自身が父親に対して何かしらのやり残したことがあるのか、とか。それを俺に重ねていたのか、とか。
ただの人間と大精霊の娘じゃ立場とか考えは違うだろうから、俺なんかがそれを聞いて良いのかと考えていると、ドアがノックされた。
「アルフォニカ様、お呼びですか?」
「テオドアです。カリーナ姫からお呼びだと聞いたのですが」
『あ、うん。どうぞ、入って入って』
……俺が返事をするより早く、アルフォニカが二人を招き入れた。
『意気地なし』
ただ、二人に聞こえないように耳元でそう呟かれると、やっぱり聞いた方が良かったんだろうなあ、と。
ちょっとだけ後悔。
そして、肩を落とす俺を見て、アルフォニカは楽しそうに笑った。
「おや、お仲が宜しいようで」
『はいはい。それよりさっさと本題に入りましょう、二人とも――』
「あら。お別れの言葉はお済みに?」
別れ?
部屋に入ってきた赤毛の外見は幼い神官長の言葉に、椅子から立ち上がって頭を下げる事も忘れ、宙に浮いたままのアルフォニカを見た。
その後ろには身長が高いテッドと、猫型の契約精霊フィオカの姿。テッドの身長が高いから、アーリシャさんの小ささが際立っている。
神官長の法衣を着ていても、子供というか幼女にしか見えないが……それは口に出してはいけない事だろう。
気にしないように、小さな咳払いをする。また、アルフォニカに笑われた。
たぶん、俺の内心なんて気付いているんだろうな。
『……別れっていうほど大層なものじゃないと思うけど』
「そうですか?」
話が全く見えないのでテッドの方を見ると、こっちは申し訳なさそうな顔をして俺を見て――視線を逸らした。
なんだろう?
「どういう事なんですか、アーリシャさん?」
「そのご様子だとまだお聞きになられていないようですが……まさか、わたくしに説明させようという魂胆ですか、アルフォニカ様?」
アーリシャさんが咎めるような半眼をアルフォニカへ向けると、当のアルフォニカは下手糞な口笛を吹いていた。
とても大精霊の娘とは思えない仕草である。まあ、俺がよく知るアルフォニカらしい反応と言えば、それまでだが。
「どういう事なんだ、アルフォニカ……やっぱり様付けをした方が良いのかな、神殿の中だと?」
「ご自由に。ただ、信徒達はあまり良い顔はしないかと」
今さらの質問をすると、アーリシャさんがクスリと笑った。
神殿内を案内してもらう時に何度か感じていた視線は、きっとそれだろう。
アルフォニカと呼び捨てにするのは、確かに精霊信仰の信者からすれば『神の娘』を呼び捨てにする暴挙にしか感じないだろうし。
今さらながらそのことに気付き、ため息。
緊張していたとはいえ、もう少し周りに注意するべきだったと。
『いや、呼んだら本気で怒るからね?』
「なんでさ」
と、つい呟いてしまった。途端、アルフォニカの表情というか、目。目が、今までにないくらい吊り上がったように見える。
実際にはそんなに変化はないのだろうけど、その雰囲気というか、ちょっと本気で怖い。
「わ、分かったから。呼ばないよ、いつも通り呼ぶから――アルフォニカ」
『宜しい。テツマは変に気を使わなくていいのよ。カリーナもそうだけど、変に気を使われて特別扱いされるのって、逆に物凄く疲れるんだから』
そんな事を言われても……それこそ、それは偉い人特有の悩みとしか言いようがない。
俺にはきっと、一生理解できない類の問題だ。
……と言っても、そんな単純で普通の答えじゃ納得しないんだろうけど。
「まあ、いいや。それで、えっと……本題? 別れがどうとか」
「テオドア様には先ほど説明いたしましたが――先日、ドラゴンを退ける方法を教師アロンソが発見いたしました」
「それは……えっと、凄いですね。さすがテッドのお父さん」
どう言っていいか分からず、とりあえず褒めてみる。
アーリシャさんの後ろで、テッドが苦笑いを浮かべた。
「話しやすいように話して大丈夫ですよ。面倒な話ではございますが、わたくしも『特別扱い』されるのは少々苦痛でして」
『ちょっと、それって私がさっき言ったことじゃないー』
あー、もう。緊張感がないなあ、うちの精霊様は。
見た目幼女な女の子に唇を尖らせるな、唇を。子供かお前は、とツッコみたくなる。
「それで、その――ドラゴンを倒す方法にアルフォニカが関わっているという事で?」
「はい。既に一度拝見なされたとの事ですが……アルフォニカ様に、テオドア様へ憑依していただくことになります」
「あ」
そこまで言われると、俺でもおおよその内容は予想できた。
フィオカを憑依してもモンスターを圧倒したテッドだ。
武器が万全だったら一人でも大丈夫だったのではないだろうかという戦闘力を思い出す。
そのテッドが大精霊の娘であるアルフォニカを憑依したら……それはもう、物凄いことになるのではないだろうか。
……そう思ってアルフォニカを見るが、長く一緒に居るけど、こいつってそんなに凄い精霊なのかなあ、と。一瞬思ってしまった。
『ふふん。私って実は凄いのよ?』
「その凄い所を見たことが無いからなあ……」
『…………』
素直な感情を言葉にすると、黙ってしまった。
拗ねた――というよりも、何事か考え込んでいるかのよう。たぶん、今まで俺と過ごしてきて、その『凄い』というのを見せた場面を思い出そうとしているのかもしれない。
ただ言わせてもらうと。そんな時は一度も無い。
どれだけ考えても、思い出せないはずだ。
「そうですね。テツマ様にとっては、アルフォニカ様の能力は無意味でしょうから」
「無意味?」
「テオドア様からお聞きしておりますが、テツマ様は体内の魔力を利用して魔法を行使なさっておられるのだとか」
「……えっと。はあ」
そんな感じだとは思う。
自分がどうしたいかを考えれば、自然と魔法が使えた。
石を浮かせたいと思えば石が浮き、火を起こしたい、氷を作りたい、水が欲しい。
そう考えて、頭の中で想像すれば、それが現実になる。
それが魔法だ。
それは、アルフォニカが見えるようになってからずっと使ってきた魔法。俺の生活の一部。
「ですが、それは正式な魔法ではありません」
「…………んん?」
「この世界における魔法という概念は、魔法使いが契約した精霊へ魔力を渡し、その魔力の量に応じて精霊が魔法を行使するというものです」
「はあ」
それと、俺の魔法と何の違いが?
分からなくて首を傾げると、テッドが困ったような顔で俺を見ていた。目が合うと、それに気付いたアーリシャさんもテッドを見る。
あれは、説明を丸投げするアルフォニカと同じ顔だ。
「子供の頃から思っていたけど、テツマってアルフォニカ様に魔力を渡していないよね?」
「……そうなの?」
『うん』
ついアルフォニカ本人に聞くと、あっさり頷いていた。
そうだったのか。
「あれ? じゃあなんで、俺って魔法が使えるの?」
「考察は得意ではありませんし、アロンソもその理由にはたどり着けなかったそうですが……一つ、思い当たることが」
「…………」
「テツマ様、貴方様は人間でありながら精霊に似た能力をお持ちなのでしょう。自然界に干渉する、とでも言いましょうか」
なんだか格好良いなと場違いに考えたのは、もちろん現実逃避からだ。
なにせ、全く身に覚えがないのだから。
自然界に干渉するなんて大層な事をしたつもりは無いし、自分にそんな能力があるだなんて思えない。
なにより――。
「俺、普通の人間なんだけど?」
「普通の人間にアルフォニカ様は靡きませんよ」
『ちょっと』
アルフォニカが文句がありそうな声で口を挟む。アーリシャさんは楽しそうに微笑んで、俺を見た。
「まあ、テツマ様の能力の考察はさておき――本題は別に」
「あ、はい」
随分と話が逸れてしまったが、その言葉に居住まいを正す。
椅子に座ったまま背筋を伸ばしてアーリシャさんを見ると、彼女も俺の目を正面から見つめ返してきた。
……正直、こうやって見つめられると、内面を見透かされているようで気持ち悪い。いや、失礼だとは思うけど。
「テツマ様にはアルフォニカ様と契約を切っていただきたく思います」
「あ、そういう」
やっぱり、という気持ちがあった。
ドラゴンを倒す。
そのために、アルフォニカとテッドが契約をする。
この話が始まってからずっと、心のどこかで感じていたこと。
でも、改めて言葉にされると……なんというか。
「…………」
アルフォニカを見上げると、彼女も俺の方を見ていた。
『なに情けない顔をしているのよ? まるで、棄てられた子猫みたい……あ、猫はもっと可愛いか』
「おい」
そして、いつも通りの軽口。
でも、ちょっとキレが無いように思う。あと、元気も。
「一時的なものだよ。ドラゴンを倒すまで――どうかな、テツマ?」
「それって、俺の意見も聞くのか?」
「もちろん。テツマとアルフォニカ様が嫌なら、僕はフィオカと行く」
その言葉にフィオカへ視線を向けると、テッドの肩に座る猫の精霊は決意の固まった瞳で頷いた。
……はあ。
「その、さ。テッドがフィオカと一緒に戦った場合、勝ち目は?」
「十中八九、敗北いたします」
「でも、魔法学園の地下だっけ? 一度戦って、退けたんだよな?」
「相手が封印から解かれたばかりだったのと、カリーナ姫にカルサ様……封印の巫女が二人揃っていたことが幸いでした」
「それじゃあ」
「ですが、今度は完全に封印が解けております。そして――封印の巫女の能力にはお二人の寿命が関係しておりますので」
寿命……。
また、ため息。
「それじゃあ、その……前回の戦いで二人は……?」
「まだ大丈夫です。ですが……人並みには生きられないでしょうね」
簡単に、淡々と口にするアーリシャさんが信じられなくて、ついムカっとして睨みつけて……でも、それは無意味なんだと思い知らされる。
それはもう終わった事なのだ。
俺が居ないところで。
再会した時、カルサのおっさんが言っていたことを思い出した。
俺がいてくれたらよかったと。
そんな事を言われた。
あの時は意味が分からなくて……今なら分かる。
そんなに大した能力を持っているわけじゃない。俺は特別な人間じゃないって理解している。
それでもきっと――何かが出来た。アルフォニカが一緒だったら。
「二人は、その事を……?」
「気付いておられますよ。王の口から直々に説明されておられるはずです――それでも、国と民を守るためにお二方は戦場に向かいます。テッド様を支えるために」
大きく、深く、深く、ゆっくりと息を吐く。
だってさ。
それって、俺がどうこうできる問題じゃないじゃん。
フィオカの言葉だ。
魔力は無いが魔力を貯める器は存在しているテッドだけが、今の時代で唯一精霊を憑依させる事が出来る存在なんだって。
大精霊の娘であるアルフォニカを宿せるのはテッドだけで、そうしないとカルサのおっさんとお姫様が死んでしまうって言うんなら、俺にはもうどうしようもない。
最初から選択肢は一つっきりじゃないか。
「アルフォニカ」
『うん』
「行ってらっしゃい」
『わかったわ』
でも、そんなに悪く考える必要は無いんだろう?
「なあ、アーリシャさん」
「なんでしょうか?」
「アルフォニカがテッドと一緒に戦えば、勝てるんだよな?」
「はい。絶対に――ですね、テオドア様」
「絶対に勝つよ、テツマ」
「そっか」
じゃあ安心だ。
うん。
「なら、また戻ってきたら契約してくれるかな、アルフォニカ?」
『……どーしよっかなあ。こんなにあっさり契約を切るような人とはなあ』
「う……だってさあ。テッドも、カルサのおっさんも、お姫様も。それにこの国の人達も、見捨てるなんてできないって」
『ぷっ。なに、本気で焦ってるのよ? ほんと、テツマったら真面目過ぎ。そんなんじゃ心配で、目が離せないじゃない』
ぐぬ。
まだそのネタを引っ張るかよ……。
『しょーがないから、戻ってきたらまた契約してあげる』
「やっぱ、いーや。俺、もっと美人で気立てが良くて、優しい精霊を見つけるから」
『おい。ここは感動の別れを演出する場面でしょうが!? 大体、私より美人が居るわけないでしょ!?』
どこまで本気なのか分からない言葉に、笑ってしまう。
うん、いつも通り。これでいい。
「へっ。さっさと行ってこいって」
『戻ってくるまでに謝罪の言葉を考えておきなさいよ!? ちゃんと誤ってくれなかったら、契約してあげないからね!?』
「えーっと……それじゃあ、その。よろしくお願いしますね、アルフォニカ様」
『まったく。ほら、別の部屋に言って契約を済ませましょ。アーリシャも急いで』
「はい。それではテツマ様、数日中に問題は片付くと思いますので、それまでこの部屋を自由にお使いください」
最後に一礼して部屋を出ていくテッドとアーリシャさん。
残ったのは俺一人。
……寂しい。
「はあ」
まあ、あれだ。
テッドだし、カルサのおっさんとお姫様も居るし。この国の為だっていうから騎士の人達も一緒に戦ってくれるだろうし。
それでだめなら諦めるしかないさ。
それに……テッドなら勝てるって信じてる。
だから心配しなくていい。すぐに戻ってきて、全部が元通り。
そのはずなんだ。




