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28歳の最強お姉さん冒険者は、自己肯定感ゼロの俺を放っておけない  作者: 慈架太子


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97:魔物災害

 空が裂けていた。


 黒い門は都市の中心で脈打ち、まるで巨大な心臓のように空間を震わせている。


 崩れた石畳。


 浮遊する建物。


 上下の感覚を失った街路。


 悲鳴。


 泣き声。


 血の臭い。


 東都市ヴァルゼアは、もはや都市の形を保っていなかった。


 そして。


 門の奥から、何かが這い出てくる。


 巨大な爪。


 黒い外殻。


 赤い目。


 人間より大きい。


 いや。


 家屋ほどもある。


 魔物。


 しかも一体ではない。


 次々に。


 次々に。


 黒い門から溢れてくる。


「魔物災害だ……!」


 兵士の叫びが響く。


 空気が一気に凍りついた。


 通常のダンジョン氾濫とは違う。


 数がおかしい。


 質がおかしい。


 何より。


 “空間を越えて来ている”。


 レインは喉が震えた。


 鑑定が勝手に発動する。


【奈落獣グラヴァス】


【危険度:A級】


【空間適応種】


【通常兵器無効化傾向】


 さらに。


【群体反応確認】


【災害認定推奨】


 レインの顔色が青くなる。


「セレナさん……まずいです」


「見れば分かる」


 セレナは超大型大剣を肩へ担いだ。


 銀髪が風に揺れる。


 傷だらけの身体。


 それでも。


 立つ姿は圧倒的だった。


「レイン」


「……はい」


「逃げる準備もしなさい」


「え?」


「最悪、私が残る」


 レインの呼吸が止まる。


「嫌です」


「嫌でも聞きなさい」


 セレナの目は真剣だった。


「これは都市級災害よ」


 魔物が咆哮する。


 空気が震える。


 遠くで建物が吹き飛んだ。


「人を守るっていうのはね」


 セレナは前を見たまま言う。


「全部助けることじゃない」


 レインは唇を噛んだ。


 分かる。


 理解できる。


 でも。


 納得したくない。


「……僕は」


「うん」


「セレナさんを置いて逃げません」


 セレナが少しだけ笑う。


「本当に面倒な子ね」


 その瞬間。


 魔物の群れが突撃してきた。


 石畳が砕ける。


 兵士たちが吹き飛ぶ。


「ぎゃあああ!」


「盾を!」


「止まらない!」


 巨大な奈落獣が前線を食い破る。


 牙。


 爪。


 膂力。


 全部が異常だった。


 セレナが踏み込む。


 爆炎。


 火属性身体強化。


 地面が陥没する。


「下がりなさい!」


 超大型大剣が振り下ろされる。


 轟音。


 一撃で奈落獣の上半身が消し飛ぶ。


 周囲の空気が熱で歪んだ。


 兵士たちが息を呑む。


「S級……!」


「化け物かよ……!」


 だが。


 数が多い。


 多すぎる。


 次の瞬間。


 三体同時に飛びかかる。


 セレナが迎撃。


 火花。


 爆発。


 衝撃波。


 建物が吹き飛ぶ。


 それでも一体が抜けた。


 兵士へ迫る。


 レインが動いた。


「風壁!」


 暴風が炸裂。


 奈落獣の軌道がズレる。


「水縛!」


 水の鞭が脚へ巻きつく。


 だが。


 一瞬で引き千切られた。


「っ……!」


 強い。


 強すぎる。


 レインの額から汗が流れる。


 怖い。


 逃げたい。


 身体が震える。


 吐きそうだった。


 それでも。


 兵士の子供くらいの年齢の新人が、腰を抜かしているのが見えた。


 レインは剣を握る。


 走る。


「どけぇぇぇ!」


 自分でも驚くほど大きな声だった。


 片手剣を振る。


 奈落獣の爪と衝突。


 骨が軋む。


 吹き飛ぶ。


 地面を転がる。


 痛い。


 肺が潰れそうだった。


 でも。


 新人兵士は助かった。


「に、逃げろ!」


 レインが叫ぶ。


 兵士は泣きながら走った。


 奈落獣が再び迫る。


 死ぬ。


 そう思った瞬間。


 炎が世界を裂いた。


 セレナだった。


 奈落獣が爆散する。


 肉片が燃える。


「無茶しない!」


 セレナがレインを引き起こす。


「ご、ごめんなさい……」


「謝る前に立ちなさい!」


「……はい!」


 レインは震える脚で立った。


 その時。


 都市中央で爆発が起きる。


 黒い門がさらに広がった。


 空が歪む。


 重力が狂う。


 建物が吸い込まれていく。


「まずい……!」


 レインの鑑定が叫ぶ。


【空間崩壊進行】


【都市消滅予測】


【残り時間:推定三時間】


 レインの血の気が引いた。


「セレナさん!」


「なに!」


「この街、消えます!」


 一瞬。


 セレナの顔が止まった。


 でも。


 すぐに切り替わる。


「避難誘導!」


 声が響く。


「全員、西区へ逃がしなさい!」


 兵士たちが動く。


 恐怖で固まっていた空気が変わる。


 レインはその姿を見る。


 この人は。


 本当に強い。


 力だけじゃない。


 絶望の中で、人を動かせる。


 それがS級。


 その時だった。


 瓦礫の下から泣き声が聞こえた。


「お母さん……!」


 子供。


 レインは即座に走る。


 瓦礫へ手をかける。


 重い。


 動かない。


 筋力が足りない。


 レインは歯を食いしばる。


「くっ……!」


 魔力を流す。


 土属性。


 石操作。


 瓦礫が少し浮く。


 でも制御が乱れる。


 空間が歪む。


 視界が揺れる。


 鼻血が落ちた。


「レイン!」


 セレナが来る。


 二人で瓦礫を持ち上げる。


 中から小さな女の子が出てきた。


 泣いている。


 足を怪我していた。


 セレナが抱き上げる。


「大丈夫」


 優しい声だった。


「もう大丈夫よ」


 女の子が泣きながらセレナへ抱きつく。


 レインはそれを見ていた。


 この人は。


 こんな顔もするんだ。


 戦場では鋭いのに。


 子供へ向ける目は、驚くほど柔らかい。


「レイン」


「はい」


「西区へ連れて行って」


「でも」


「私は前線を止める」


 レインは反射的に首を振る。


「一人じゃ無理です!」


「分かってる」


「なら!」


 セレナは少しだけ笑った。


「頼ってるのよ」


 レインの言葉が止まる。


「え……?」


「聞こえなかった?」


 銀髪が揺れる。


 火花が散る。


「あなたが必要」


 胸が熱くなる。


 怖い。


 苦しい。


 でも。


 それ以上に。


 嬉しかった。


 生まれて初めて。


 自分が“必要だ”と言われた。


 役立たずじゃない。


 気持ち悪い人間じゃない。


 逃げるだけの弱虫じゃない。


 セレナが、必要だと言った。


 レインは震える拳を握る。


「……はい」


 声はまだ弱かった。


 でも。


 前より少しだけ。


 芯があった。


 その瞬間。


 門の奥から。


 さらに巨大な影が現れる。


 空を覆うほどの巨体。


 都市全体が震えた。


 兵士たちの顔が絶望に染まる。


 そして。


 セレナは笑った。


 獰猛に。


 戦場の女として。


「……いいわ」


 超大型大剣へ炎が集まる。


「災害なら、叩き潰す」







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