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28歳の最強お姉さん冒険者は、自己肯定感ゼロの俺を放っておけない  作者: 慈架太子


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95:死霊使い

 反撃は成功した。


 従魔の軍勢は崩れ、基地防衛線は押し返された。


 空を覆っていたワイバーンも半数以上が討伐され、残りは森へ逃げ込んだ。


 兵士たちは歓声を上げている。


 助かった。


 生き残った。


 その安堵が、戦場全体へ広がっていた。


 だが。


 セレナは剣を下ろさなかった。


 銀髪が風に揺れる。


 切れ長の目が暗い森を見ている。


「……まだ終わってない」


 隣でレインが息を整えていた。


 鼻血。


 激しい頭痛。


 視界も少し歪んでいる。


 それでも立っていた。


「分かるんですか?」


「嫌な静けさなの」


 セレナの声は低い。


「勝った後の空気じゃない」


 レインも索敵を広げる。


 広範囲探索。


 魔力感知。


 空間反応。


 膨大な情報が頭へ流れ込む。


 痛い。


 脳が焼けそうだ。


 でも。


 レインは気づいた。


「……死体」


「え?」


「多すぎる」


 戦場には大量の死体が転がっていた。


 魔物。


 兵士。


 冒険者。


 全部。


 まだ魔力が残っている。


 その瞬間だった。


 地面が動いた。


 兵士の一人が悲鳴を上げる。


「なっ……!?」


 死体の腕。


 それが兵士の足を掴んでいた。


 腐った指。


 濁った目。


 死んだはずのオークが立ち上がる。


「アンデッド!?」


 次々と死体が起き上がる。


 兵士。


 魔物。


 全部。


 壊れた肉体を引きずりながら立ち上がる。


 戦場が凍った。


「冗談でしょ……」


 冒険者の顔が青ざめる。


 死体が増える。


 数が多すぎる。


 さっきまで仲間だった人間まで起き上がっている。


 セレナの顔が険しくなる。


「死霊使い……!」


 レインの鑑定が反応した。


【死霊支配】


【魂残滓利用】


【恐怖増幅】


【高位闇属性】


 レインの喉が鳴る。


「これ……ゲートイーターとは別です」


「別?」


「はい……誰かいます」


 その瞬間。


 森の奥。


 黒いローブの人影が現れた。


 細い。


 異様に白い肌。


 長い黒髪。


 男か女か分からない中性的な顔。


 その目だけが赤かった。


「ふふ……」


 声は静かだった。


 なのに戦場全体へ響く。


「よく壊してくれたね」


 死霊使いが笑う。


「素材が増えた」


 兵士たちが震える。


 死体を“素材”と言った。


 それだけで理解できる。


 まともじゃない。


 完全に壊れている。


 死霊使いの周囲へ黒い霧が集まる。


 そして。


 兵士の死体が一斉に動いた。


「う、うわああああ!!」


 悲鳴。


 混乱。


 戦線が崩れる。


 セレナが飛び出した。


 炎が爆ぜる。


 巨大な火柱がアンデッドを焼き払う。


 しかし。


 死体は止まらない。


 焼けながら動く。


 肉が剥がれながら前進する。


「最悪ね……!」


 セレナが舌打ちする。


 レインは震えていた。


 怖い。


 本能的に嫌悪感がある。


 死。


 腐臭。


 壊れた人間。


 全部が無理だった。


 吐きそうになる。


 だが。


 その中で。


 一人の少女兵士が泣いていた。


「お、お兄ちゃん……」


 アンデッドになった兄。


 それが少女へ向かって歩いている。


 もう理性はない。


 でも。


 顔だけは人間だった。


 少女は剣を落として泣いている。


 動けない。


 斬れない。


 その瞬間。


 レインが動いた。


 風魔法。


 加速。


 地面を蹴る。


 アンデッド兵士の前へ滑り込む。


 片手剣。


 一閃。


 首を落とす。


 少女が崩れ落ちる。


「ごめんなさい……!」


 レインが息を切らしながら言う。


「ごめん……なさい……」


 少女は泣きながら頷いた。


 レインは理解していた。


 これは救済じゃない。


 でも。


 このまま襲わせる方が残酷だった。


 死霊使いがレインを見る。


 赤い目が細まる。


「優しいね」


 レインの身体が強張る。


「君みたいなの、大好きだよ」


 嫌悪感。


 寒気。


 全身が震える。


 死霊使いは笑っていた。


「壊し甲斐がある」


 その瞬間。


 大量の黒霧が動いた。


 地面から巨大な影が立ち上がる。


 巨人。


 いや。


 死体を繋ぎ合わせた異形だった。


 腕が六本。


 顔が複数。


 肉塊。


 兵士たちが絶望する。


「……化け物」


 セレナが前へ出る。


「レイン」


「はい」


「私が前を止める」


 炎が膨れ上がる。


「あなたは死霊使いを探して」


「でも!」


「大丈夫」


 セレナが笑った。


 疲れている。


 傷だらけ。


 それでも。


 立っている。


「最強のお姉さんを、少しは信じなさい」


 レインの胸が熱くなる。


 怖い。


 でも。


 セレナがいる。


 それだけで前を向ける。


「……はい」


 レインが索敵を広げる。


 死霊使い。


 位置。


 魔力核。


 見つける。


 すると。


 違和感。


「……地下?」


 死霊使いの本体は別にある。


 今見えているのは分身体。


 レインの顔色が変わる。


「セレナさん!」


「分かった!」


 セレナが即座に動く。


 巨大剣。


 炎の斬撃。


 地面ごと叩き割る。


 爆発。


 地面が崩壊する。


 地下空間が露出した。


 そこに。


 無数の死体。


 魔法陣。


 巨大な黒水晶。


 そして。


 本物の死霊使いがいた。


「見つかったか」


 初めて笑みが消える。


 レインは震えていた。


 怖い。


 本当に怖い。


 でも。


 逃げなかった。


 セレナが横へ立つ。


 自然に。


 当たり前のように。


「行ける?」


 レインが小さく息を吸う。


「……はい」


「なら行くわよ」


 二人が並ぶ。


 死霊使いが嗤う。


「面白い」


「恋人ごっこかな?」


 セレナの顔が冷える。


「気持ち悪い男ね」


 炎が爆ぜた。


 レインの魔力が震える。


 戦場の空気が変わる。


 そして。


 二人は同時に踏み込んだ。







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