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28歳の最強お姉さん冒険者は、自己肯定感ゼロの俺を放っておけない  作者: 慈架太子


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58:背中を預ける

 森に熱風が吹き荒れていた。


《大喰らい》の咆哮。


 燃え上がる木々。


 焦げ臭い空気。


 討伐隊はまだ崩れていない。


 だが余裕もなかった。


 巨大魔獣は膝をついてなお暴れている。


 片脚を焼かれ。


 口内を裂かれ。


 それでも死なない。


 異常な生命力。


 化け物だった。


 レインは肩で息をしていた。


 肺が痛い。


 喉が焼ける。


 視界が滲む。


 魔力を使いすぎた。


 身体が追いつかない。


 それでも。


 前を見た。


 セレナが戦っている。


 一人で。


 血を流しながら。


 だから。


 目を逸らしたくなかった。


「レイン!」


 セレナの声。


「右!」


 反射的に鑑定を走らせる。


 魔力。


 地面。


 気配。


「下から!」


 地面が爆ぜる。


 新たなグランドイーター。


 討伐隊の側面へ。


 騎士団が反応できない。


 若い魔法使いが凍りつく。


 レインは剣を握る。


 怖い。


 でも。


 身体が動いた。


「風刃!!」


 暴風。


 未熟。


 荒い。


 それでも魔獣の目を裂いた。


 グランドイーターが怯む。


 その瞬間。


 セレナが踏み込む。


 一閃。


 炎の軌跡。


 巨大な首が飛んだ。


 鮮血。


 熱風。


 周囲が静まり返る。


 A級冒険者が息を呑む。


「今の連携……」


「新人が合わせたのか?」


「嘘だろ……」


 レインは聞こえないふりをした。


 余裕なんてない。


 セレナは振り返る。


「助かった」


 短い言葉。


 でも。


 以前より自然だった。


 レインは少しだけ頷く。


「……はい」


 その瞬間。


《大喰らい》が暴れた。


 巨木を薙ぎ払う。


 土煙。


 悲鳴。


 前衛が吹き飛ぶ。


 騎士団長が叫ぶ。


「陣形維持!!」


 維持できる状況ではない。


 恐怖が広がっていた。


 巨大魔物との戦いは、心を壊す。


 死が近すぎる。


 レインは歯を食いしばる。


 怖い。


 怖い。


 本当に怖い。


 でも。


 セレナがいた。


 銀髪。


 巨大剣。


 炎。


 傷だらけなのに。


 まだ前へ出る。


「……なんで」


 レインは呟く。


 セレナが聞き返す。


「ん?」


「なんで、そこまで戦えるんですか」


 セレナは少しだけ笑った。


「戦わないと、もっと後悔するから」


 その答えは簡単だった。


 でも重かった。


 セレナは続ける。


「怖いよ」


「毎回」


「死ぬかもしれないって思う」


「逃げたい時もある」


「でも」


「背中向けたまま生きる方が苦しい」


 レインは言葉を失う。


 その時だった。


《大喰らい》が口を開く。


 黒い光。


 魔力圧縮。


 周囲の空気が震える。


 騎士団長が顔色を変えた。


「まずい!」


「広域ブレスだ!!」


 逃げ切れない。


 範囲が広すぎる。


 討伐隊が凍りつく。


 セレナが前へ出た。


 巨大剣を構える。


「下がって」


「セレナさん!?」


「いいから!!」


 炎の魔力が爆発する。


 赤熱。


 熱波。


 彼女は真正面から受け止めるつもりだった。


 一人で。


 レインの胸が冷える。


 嫌だった。


 それが。


 凄く嫌だった。


「……嫌だ」


 自然に言葉が出る。


 セレナが一瞬振り返る。


「レイン?」


「一人でやらないでください」


 レインは震える。


 怖い。


 無茶だ。


 自分なんかが前へ出れば死ぬ。


 でも。


 それでも。


「僕もやります」


 セレナの目が揺れる。


「無理よ」


「無理でも」


 レインは前へ出た。


 足が震える。


 膝が笑う。


 吐きそうだった。


 でも止まらない。


 セレナの隣へ立つ。


「……馬鹿ね」


 セレナが苦笑する。


「はい」


「本当に馬鹿」


「知ってます」


 黒い光が放たれる。


 絶望みたいな熱線。


 地面を焼きながら迫る。


 レインは両手を前に出す。


「水壁!!」


 膨大な水。


 暴走。


 制御。


 無限魔力が荒れ狂う。


 巨大な水壁が生まれる。


 熱線と激突。


 蒸気爆発。


 轟音。


 森が白く染まる。


「ぐっ……!」


 レインの腕が裂ける。


 耐えられない。


 出力が大きすぎる。


 身体が壊れる。


 その瞬間。


 背中に熱を感じた。


 セレナだった。


 背中合わせ。


 炎の魔力が流れ込む。


「合わせて」


 静かな声。


「呼吸」


 レインは息を吸う。


 吐く。


 セレナの呼吸が背中越しに伝わる。


 熱い。


 強い。


 安心する。


「火を足す」


「水を維持して」


「はい!」


 二人の魔力が混ざる。


 蒸気。


 熱。


 風圧。


 巨大な白い壁が熱線を押し返した。


 討伐隊が目を見開く。


「押してる……!?」


「新人とセレナが!?」


 レインは叫びそうになる。


 辛い。


 苦しい。


 身体が千切れそう。


 でも。


 背中があった。


 セレナがいる。


 一人じゃない。


 それだけで、立てた。


 熱線が途切れる。


 爆発。


 蒸気が晴れる。


《大喰らい》がよろめいた。


 セレナが笑う。


 戦場の笑み。


「レイン」


「はい!」


「背中、預ける」


 レインの心臓が跳ねる。


 その言葉の重みを理解してしまった。


 S級冒険者。


 誰も信用しなかった女。


 裏切られて。


 仲間を失って。


 一人で戦い続けた人。


 その人が。


 今。


 自分に背中を預けると言った。


 レインは剣を握る。


 怖い。


 でも。


 逃げたくなかった。


「……はい」


「絶対守ります」


 セレナは少しだけ目を見開く。


 それから。


 本当に少しだけ。


 優しく笑った。


「頼もしい」


 その瞬間。


 レインの中で何かが変わった。


 まだ弱い。


 全然弱い。


 震えている。


 怖い。


 吐きそう。


 でも。


 ただ守られるだけでは終わりたくなかった。


《大喰らい》が再び咆哮する。


 巨体が迫る。


 セレナが前へ。


 レインが後ろへ。


 自然だった。


 まるで最初から決まっていたみたいに。


「左来ます!」


「分かってる!」


 炎。


 水。


 風。


 剣。


 連携。


 呼吸。


 戦場の中で。


 二人の距離が、確かに縮まっていた。







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