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28歳の最強お姉さん冒険者は、自己肯定感ゼロの俺を放っておけない  作者: 慈架太子


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56:初連携

 朝靄が街を覆っていた。


 グランゼイル東門。


 石造りの門の前には、既に多くの冒険者が集まっている。


 荷車。


 武器。


 怒号。


 革鎧の軋む音。


 巨大魔物討伐依頼――それは街全体を動かすほどの大型任務だった。


 対象は《大喰らい》。


 森の奥に現れた大型魔獣。


 全長十メートル超。


 分厚い外皮。


 異常な再生力。


 そして何より、人を喰う。


 既に商隊三つが壊滅。


 村が一つ消えた。


 放置できない。


 だからギルドは大規模討伐隊を編成した。


 A級冒険者。


 B級パーティ。


 騎士団。


 そして。


「S級《紅蓮》セレナ」


 誰かが呟く。


 空気が変わる。


 門前に立つ銀髪の女。


 長身。


 超大型大剣。


 火傷跡。


 無駄のない身体。


 ただ立っているだけで、周囲の冒険者たちが道を開ける。


 強者の圧。


 レインはその隣にいた。


 胃が痛い。


 視線が痛い。


「あれ誰だ?」


「新人?」


「なんでS級の隣に……」


「愛人か?」


「いや、弱そうすぎるだろ」


 笑い声。


 レインは俯く。


 胸が冷える。


 いつものことだ。


 慣れている。


 でも。


 やっぱり痛い。


 その時。


「レイン」


「……はい」


「顔上げて」


 セレナが言う。


「隣歩くなら、下見ない」


 レインは少しだけ顔を上げる。


 怖い。


 でも。


 逃げたくなかった。


 セレナはそれ以上何も言わない。


 それが少しだけ救いだった。


 ギルド職員が地図を広げる。


「目標は《灰哭きの森》中央部!」


「討伐隊は三方向から包囲!」


「セレナさんを主軸に前線を突破する!」


 ざわめき。


 誰も異論を言わない。


 セレナが前線にいる。


 それだけで生存率が変わるからだ。


 レインは地図を見る。


 森。


 地形。


 川。


 崖。


 魔力反応。


 鑑定が動く。


 頭の中に情報が流れ込む。


 多すぎる。


 痛い。


 でも。


 以前より整理できていた。


「……東側」


 小さく呟く。


「ん?」


 セレナが見る。


「東側の地盤、崩れてます」


「たぶん大型が通った」


「……ほう」


 セレナは地図を見る。


「ここか」


「はい」


「踏み抜けば落ちます」


 近くの冒険者が笑う。


「新人が何言ってんだ」


「鑑定士ごっこか?」


 レインは黙る。


 その瞬間。


 セレナが視線だけで男を見る。


 空気が凍った。


 男は黙る。


「……確認する」


 セレナはそれだけ言った。


 討伐隊は出発した。


 森の空気は重い。


 湿っている。


 腐葉土。


 血。


 獣臭。


 巨大な木々が陽光を遮っていた。


 レインは周囲を見続ける。


 索敵。


 魔力反応。


 足跡。


 呼吸。


 恐怖で吐きそうだった。


 それでも見る。


 見続ける。


 セレナは前を歩いていた。


 巨大剣を肩に担ぎながら。


 強い。


 本当に強い。


 背中だけで分かる。


 死線を何度も越えてきた人間の歩き方だった。


「止まって」


 レインが言った。


 全員が見る。


「……何だ?」


 騎士団員が苛立つ。


 レインは震えながら前を見る。


「前方」


「土の下」


「います」


 空気が変わる。


 セレナは即座に叫ぶ。


「散開!!」


 次の瞬間。


 地面が爆ぜた。


 巨大な牙。


 土煙。


 黒い甲殻。


 地中型魔獣グランドイーター


 大型。


 速い。


 騎士が一人、反応できない。


「っ!」


 喰われる。


 その瞬間。


 轟音。


 紅蓮。


 セレナの剣が魔獣の頭部を叩き潰した。


 火炎が炸裂する。


 森が揺れた。


 圧倒的。


 A級冒険者たちですら息を呑む。


 レインは後退る。


 怖い。


 強すぎる。


 セレナは振り返る。


「位置、分かる?」


「……は、はい」


「なら見ろ」


 短い指示。


 レインは頷く。


 鑑定。


 魔力。


 地中振動。


 流れ。


 見える。


 以前より。


 少しだけ。


「左!」


 地面が割れる。


 冒険者たちが避ける。


「後方二体!」


「右から来ます!」


 セレナが動く。


 巨大剣。


 火炎。


 踏み込み。


 破壊。


 一撃ごとに大型魔獣が吹き飛ぶ。


 強い。


 圧倒的に。


 けれど。


 レインは気づき始めていた。


 セレナは万能じゃない。


 囲まれれば危険。


 死角もある。


 疲労もする。


 だから。


 支える必要がある。


「前方、木!」


 セレナが即座に跳ぶ。


 次の瞬間。


 巨大な尾が木を粉砕した。


 もし遅れていたら直撃だった。


 セレナが地面に着地する。


 その目が少し細くなる。


「……助かった」


 レインは息を呑む。


 初めてだった。


 セレナに感謝された。


 その時。


 別方向から悲鳴。


「ぎゃああああ!!」


 若い冒険者が転ぶ。


 グランドイーターが迫る。


 間に合わない。


 セレナも距離がある。


 レインの身体が動く。


「風……!」


 魔力が暴れる。


 多すぎる。


 制御できない。


 怖い。


 でも。


 止まれない。


「風壁!」


 暴風。


 轟音。


 空気が爆ぜた。


 巨大な風圧が魔獣の突進を逸らす。


 森の木々が折れる。


 レインは吐血した。


「がっ……!」


 膝をつく。


 魔力が身体を壊す。


 痛い。


 視界が揺れる。


 でも。


 助かった。


 若い冒険者が生きている。


 セレナが駆け寄る。


「レイン!」


 その声。


 怒鳴りではない。


 本気で焦った声だった。


「無茶するな!」


「……すみません」


「謝るな!」


 セレナはレインの身体を支える。


 熱い。


 力強い腕。


「ヒール……!」


 光魔法。


 未熟。


 弱い。


 でも傷が少し塞がる。


 セレナが目を見開く。


「光属性も……?」


「……少しだけ」


 レインは息を切らす。


「勝手に……増えて」


 セレナは一瞬黙る。


 その目が真剣になる。


「本当に化け物ね、あなた」


 レインは苦笑した。


「よく言われます」


「褒めてる」


 その時。


 森の奥から咆哮が響いた。


 空気が震える。


 木々が揺れる。


 全員の顔が変わる。


 本命。


《大喰らい》。


 来る。


 騎士団長が叫ぶ。


「陣形を組め!!」


 冒険者たちが武器を構える。


 緊張。


 恐怖。


 汗。


 セレナは立ち上がる。


 巨大剣を握る。


 その横で。


 レインも剣を抜いた。


 安物の片手剣。


 震える手。


 弱い身体。


 怖い。


 本当に怖い。


 逃げたい。


 吐きそうだった。


 でも。


 セレナが隣にいた。


「レイン」


「はい」


「見える?」


 レインは目を閉じる。


 鑑定。


 魔力。


 地形。


 殺気。


 流れ。


 そして。


「……左脚」


「再生、遅いです」


「首は硬い」


「口の中、柔らかい」


 セレナが笑った。


 獰猛に。


 戦士の顔で。


「十分」


 そして。


 巨大な影が森を割って現れた。


 全長十数メートル。


 黒い外皮。


 裂けた口。


 無数の牙。


 血の臭い。


 絶望みたいな存在感。


 誰かが震える。


 誰かが後退る。


 でも。


 セレナは前へ出た。


 レインも一歩踏み出す。


 怖い。


 それでも。


 初めてだった。


 二人の呼吸が。


 少しだけ噛み合ったのは。







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