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28歳の最強お姉さん冒険者は、自己肯定感ゼロの俺を放っておけない  作者: 慈架太子


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3:「なんで冒険者やってんの」



 城壁の外は、冷たい風が吹いていた。


 湿った土の匂い。


 遠くの森から聞こえる魔物の鳴き声。


 都市国家レグナードの外は、安全とは程遠い。


 だから普通、新人は一人で来ない。


 ましてや。


「遅い」


「……す、すみません」


 レインみたいな人間は。


 セリナは振り返りもせず歩く。


 長い脚。


 大剣。


 迷いのない足取り。


 対してレインは、必死だった。


 地面はぬかるんでいるし、

 装備は重いし、

 そもそも体力がない。


 少し歩くだけで息が上がる。


「はぁ……っ、は……」


「体力ねぇな」


「……」


「死ぬぞ、そのままだと」


 正論だった。


 レインは言い返せない。


 悔しい。


 でも、本当に弱い。


 自分でも分かっている。


 セリナはそんなレインを横目で見て、鼻を鳴らした。


「……で」


「は、はい」


「なんで冒険者やってんの」


 その言葉に、レインの足が止まりかけた。


 答えられない。


 いや。


 答えたくない。


 セリナはその沈黙を急かさない。


 前を歩きながら待っている。


 やがてレインは、小さく口を開いた。


「……働かないと、生きていけないから」


「他は?」


「……」


「工場」

「荷運び」

「店員」

「色々あるだろ」


「……無理、でした」


 声が小さい。


 情けないくらい。


「人と喋るの苦手で……」


 視線を落とす。


「よく、怒られて」


「遅いとか」

「気持ち悪いとか」

「ちゃんと喋れって」


 言っていて、自分でも惨めになる。


 でも。


 セリナは笑わなかった。


「で、冒険者?」


「……一人でもできるって、聞いたから」


 実際は違った。


 冒険者も人付き合いだらけだ。


 パーティ。

 連携。

 交渉。

 報告。


 レインは全部苦手だった。


「でも」


 レインは拳を握る。


「強く、なれれば……」


「……」


「変われるかなって」


 風が吹く。


 セリナは少しだけ目を細めた。


「アンタさ」


「……はい」


「強くなりたいのか」


「え……?」


「それとも、逃げたいのか」


 レインの呼吸が止まる。


 図星だった。


 強くなれば、

 馬鹿にされないと思った。


 強くなれば、

 嫌われないと思った。


 強くなれば、

 一人でも平気になれると思った。


 でも本当は。


 怖かっただけだ。


 弱い自分が。


 誰にも必要とされないことが。


「……分かりません」


 絞り出した声。


 セリナは少し黙った。


 やがて。


「ま、最初はそんなもんか」


 あっさり言った。


 レインが顔を上げる。


「え……」


「理由なんて後から付いてくる」


 セリナは前を向く。


「生き残ってるうちにな」


 その時だった。


 ガサッ――。


 草むらが揺れる。


 レインの身体が硬直した。


 セリナは止まらない。


「三匹」


「……え?」


「右二、左一」


 次の瞬間。


 飛び出してきた。


 ゴブリン。


 昨日と同じ。


 醜い緑色の肌。

 錆びた短剣。

 獣みたいな目。


 レインの喉が詰まる。


 怖い。


 昨日の感覚が蘇る。


 手が震える。


 呼吸が浅くなる。


「っ……」


 だが。


「前出ろ」


 セリナの声。


「え……」


「戦え」


「む、無理です……!」


「死ぬぞ」


「……っ」


「冒険者やるなら、逃げるだけじゃ終わる」


 セリナは大剣を抜かない。


 レインを見るだけ。


 試している。


 そう分かった。


 ゴブリンが迫る。


 近い。


 怖い。


 逃げたい。


 でも。


 レインは震える手で剣を握った。


 足が動かない。


 それでも前を見る。


 ゴブリンが飛びかかってきた。


「ぁ……ッ!!」


 レインは滅茶苦茶に剣を振るった。


 ガキンッ!!


 運良く弾く。


 だが姿勢が崩れる。


 終わった。


 そう思った瞬間。


 ドンッ!!!


 横から衝撃。


 セリナの蹴りだった。


 ゴブリンが吹き飛ぶ。


「立て」


 低い声。


 レインは息を飲む。


「まだ死んでねぇ」


 残り二匹。


 セリナはまだ剣を抜かない。


 レインを見る。


「やれ」


「……っ」


 怖い。


 本当に怖い。


 でも。


 逃げたくなかった。


 この人の前でだけは。


 レインは叫びながら前へ出た。


 不格好だった。


 剣筋も滅茶苦茶。


 泥だらけ。


 情けない。


 それでも。


 必死だった。


 数分後。


 三匹のゴブリンは倒れていた。


 レインは膝をつく。


「はぁ……っ、は……」


 吐きそうだった。


 怖かった。


 全身が震えている。


 そんなレインを見下ろしながら、

 セリナはようやく大剣を肩に担いだ。


「……まぁ、悪くねぇ」


 レインが顔を上げる。


「え……」


「腰抜かして泣くかと思った」


「……」


「少なくとも、逃げはしなかったな」


 それだけ言って、

 セリナは歩き出す。


 レインは慌てて立ち上がった。


 その背中を追いながら。


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 胸の奥に火が灯るのを感じていた。








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