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28歳の最強お姉さん冒険者は、自己肯定感ゼロの俺を放っておけない  作者: 慈架太子


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115/119

115:ネクロマンサー討伐

 雨が降っていた。


 冷たい。


 灰色の空から落ちる雨は、血の臭いと腐臭を街中へ広げていく。


 南門前。


 死者の軍団が押し寄せていた。


 崩れた兵士。


 焼けた魔導士。


 半壊した騎士。


 そして、腐敗した魔物。


 その中心。


 一人の少女。


 十四歳ほどの小さな身体。


 崩れた片腕。


 虚ろな目。


 古びた訓練剣。


 セレナの弟子だった少女。


 レインは息を呑んでいた。


 周囲の兵士たちも動けない。


 死者は怖い。


 でも。


 知っている顔はもっと怖い。


 少女はゆっくりと剣を持ち上げる。


 壊れた関節が嫌な音を立てた。


「……せん、せい」


 その声は。


 生きていなかった。


 喉の奥から無理やり絞り出されたような音。


 聞いているだけで胸が痛む。


 セレナは静かに前へ出た。


 超大型大剣を肩に担ぐ。


 炎が揺れる。


 赤い火。


 いつもより静かな火だった。


「レイン」


「……はい」


「周囲の死霊、止めて」


「この子には近づかせない」


 レインは一瞬迷う。


「でも……」


「これは私の役目」


 セレナは前を向いたまま言った。


「ちゃんと終わらせる」


 レインは唇を噛む。


 怖い。


 吐き気もする。


 雨に濡れた死体の臭い。


 腐敗。


 空気。


 全部嫌だった。


 でも。


 逃げない。


「……わかりました」


 彼は剣を抜く。


 震えていた。


 今でも。


 でも。


 足は止まらない。


「風壁!」


 風属性魔法。


 暴風が左右へ広がり、死霊群を押し返す。


 さらに。


「土壁!」


 地面が盛り上がる。


 巨大な壁。


 死霊たちの進行が止まる。


 その瞬間。


 セレナが動いた。


 爆発的加速。


 地面が砕ける。


 一瞬で少女の前へ。


 少女の剣が振られる。


 速い。


 死体とは思えない。


 セレナは受けない。


 紙一重で躱す。


 火花。


 大剣が横薙ぎに振り抜かれる。


 だが少女は飛ぶ。


 後退。


 異常な動き。


 骨が軋む。


 無理矢理動かされている。


 セレナの目が細くなる。


「……操ってるわね」


 レインも気づく。


 鑑定。


【高位遠隔死霊操作】

・術者接続中

・感覚共有

・視界共有


「セレナさん!」


「後方から操作されてます!」


「距離は!?」


「……二キロ以上!」


 兵士たちがざわつく。


 そんな距離から死霊を操作している。


 異常だった。


 セレナは舌打ちする。


「厄介ね」


 その瞬間。


 少女の身体が膨れ上がる。


 黒い魔力。


 腐敗魔力。


 爆発。


 セレナが後退。


 黒煙。


 その隙に死霊群が一斉に動く。


「来るぞ!!」


「迎撃!!」


 兵士たちが叫ぶ。


 だが。


 数が多すぎる。


 数千。


 しかも死霊。


 止まらない。


 恐怖もない。


 痛みもない。


 レインは震える手で剣を握った。


「っ……!」


 怖い。


 逃げたい。


 今すぐ。


 でも。


 逃げたら終わる。


 彼は魔力を練る。


 膨大な魔力。


 無限に近い奔流。


 制御が難しい。


 今でも。


 油断すると暴走する。


 それでも。


「氷牢!」


 地面から巨大な氷壁。


 死霊数十体を一気に封じ込める。


 さらに。


「水縛!」


 水の鞭が死体を拘束。


 動きを止める。


 レインは歯を食いしばる。


 制御。


 制御。


 制御。


 膨大な魔力が頭を焼く。


 吐き気。


 視界が揺れる。


 でも。


 止める。


 その時。


 死霊の一体が飛び込んできた。


 近い。


 腐った顔。


 空洞の目。


「っ!!」


 レインは反射的に後退する。


 怖い。


 身体が拒絶する。


 だが。


 その瞬間。


「下がらない!」


 セレナの声。


 轟音。


 炎の斬撃が死霊を消し飛ばす。


 彼女はレインの前に立つ。


「呼吸!」


「……は、はい!」


「怖がるのはいい!」


「止まるな!」


 レインは息を吸う。


 震える。


 でも。


 立つ。


「……っ」


 彼は再び魔力を練る。


 その時だった。


 鑑定が反応。


【空間座標固定】

・地下接続

・死霊制御本体

・大型術式展開中


 レインの目が開く。


「地下……!」


「セレナさん!」


「地下にいます!」


「南門地下水路です!」


 セレナが即座に反応する。


「数は?」


「一人」


「かなり強いです」


「なら十分」


 セレナは笑う。


 獰猛な笑み。


 久しぶりに見る。


 本気のS級冒険者。


「レイン」


「はい」


「道作れる?」


 彼は頷く。


「やります」


 レインは両手を地面につける。


 土属性。


 魔力集中。


 膨大な土が震える。


「土穿!」


 轟音。


 地面が砕ける。


 地下へ続く大穴。


 兵士たちが絶句する。


 レインは膝をつく。


 魔力制御の反動。


 吐血。


「ごほっ……!」


 セレナが支える。


「無茶しすぎ」


「でも……」


「よくやった」


 その一言だけで。


 レインは少しだけ呼吸できた。


 セレナは穴を見下ろす。


 暗い地下。


 腐臭。


 魔力。


 濃い死霊の気配。


「行くわよ」


「……はい」


 二人は地下へ飛び降りた。


 地下水路。


 暗闇。


 腐った水。


 無数の死体。


 壁一面の魔法陣。


 中央。


 一人の男。


 痩せた老人。


 黒衣。


 濁った目。


 大量の死体に囲まれている。


 ネクロマンサーだった。


 男は笑う。


「おお」


「来たか」


「炎の女王」


 セレナは無言。


 大剣を構える。


 ネクロマンサーはレインを見る。


「ほう」


「面白い魔力量だ」


「器か?」


「やめろ」


 レインは低く言った。


 男は笑う。


「何を?」


「死者を使うのを」


「人を壊すのを」


 ネクロマンサーは肩を竦める。


「死とは資源だ」


「終わった肉」


「再利用して何が悪い」


 空気が凍る。


 レインの顔が歪む。


 怒りだった。


 怖さより先に。


 怒りが来た。


「……ふざけるな」


 ネクロマンサーは笑う。


「若いな」


「人はいずれ死ぬ」


「なら使った方が有意義だ」


「英雄も兵士も」


「民も」


「全て平等に道具になる」


 セレナが前へ出る。


 静かに。


「その子の名前」


 ネクロマンサーが目を細める。


「ん?」


「私の弟子の名前」


「言ってみなさい」


 男は笑う。


「知らんな」


 その瞬間。


 空気が爆発した。


 セレナが消える。


 超加速。


 一瞬で間合い。


 ネクロマンサーの防壁が展開。


 黒い障壁。


 だが。


 炎の大剣が。


 それごと叩き割る。


 轟音。


 地下全体が揺れた。


「ぐっ!?」


 男が吹き飛ぶ。


 セレナの目に怒りが宿る。


「名前も覚えてないのに」


「死者を使うな」


 炎が膨れ上がる。


 地下空間が赤く染まる。


 ネクロマンサーが叫ぶ。


「死霊兵!!」


 大量の死体が動く。


 だが。


 レインが前へ出る。


「光刃!」


 無数の光。


 死霊を貫く。


 さらに。


「浄化!」


 白い光が地下を覆う。


 死体が崩れる。


 ネクロマンサーの顔色が変わる。


「光属性……!?」


 レインは震えていた。


 今でも怖い。


 気持ち悪い。


 死体なんて見たくない。


 でも。


 逃げない。


「あなたは」


「許しません」


 ネクロマンサーが魔力を放つ。


 闇。


 死霊。


 呪詛。


 だが。


 セレナが前へ出る。


「レイン」


「はい!」


「終わらせるわよ」


 彼女は笑った。


 少しだけ。


 悲しく。


 でも。


 前を向いて。


 炎の大剣を振り上げる。


「燃えなさい」


 轟炎。


 地下を埋め尽くす炎。


 死霊も。


 呪いも。


 黒い魔法陣も。


 全部焼き尽くしていく。


 ネクロマンサーの絶叫が響く。


 そして。


 火が消えた時。


 そこにはもう。


 何も残っていなかった。







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