↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28歳の最強お姉さん冒険者は、自己肯定感ゼロの俺を放っておけない  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/119

109:総力戦線

 ヴァルゼア防衛戦から三日後。


 都市は、戦争の街になっていた。


 崩れた外壁。


 焼け焦げた石畳。


 仮設の治療所。


 炊き出しの煙。


 夜通し動き続ける鍛冶場。


 そして、絶え間なく届く報告。


「東部国家ラインベル、第三都市陥落!」


「南方海洋国家、港湾部壊滅!」


「北方で超大型魔物群確認!」


 ギルド本部の大会議室には、各国の代表が集まっていた。


 王国軍。


 冒険者ギルド。


 魔導院。


 商業連合。


 貴族。


 傭兵団。


 皆の顔に疲労が浮かんでいる。


 世界規模災害。


 もはや隠しようもなかった。


 そして、その会議室の隅で。


 レインは縮こまっていた。


「…………」


 完全に場違いだった。


 豪華な机。


 偉い人たち。


 怒鳴り声。


 重苦しい空気。


 胃が痛い。


 本気で帰りたかった。


「レイン」


 隣から声。


 セレナだった。


 長い脚を組み、椅子に深く座っている。


「吐きそう?」


「……はい」


「でしょうね」


 セレナは小さく笑った。


「でも逃げない」


「……はい」


「偉い」


 その一言だけで、レインは少しだけ呼吸が楽になる。


 会議は荒れていた。


「都市単位で切り捨てるべきだ!」


「防衛線を縮小しろ!」


「もう保たん!」


「誰が前線を維持する!」


「S級冒険者を各地へ分散しろ!」


 怒号。


 責任転嫁。


 恐怖。


 皆、限界だった。


 そんな中。


 セレナが机を軽く叩く。


 静寂。


 彼女が口を開いた瞬間、空気が変わる。


「喚いても魔物は減らない」


 冷静な声。


「必要なのは、現実的な防衛」


「現在、各国は連携不足」


「輸送崩壊」


「情報遅延」


「戦力運用の重複」


「全部無駄」


 王国軍将校が眉をひそめる。


「ではS級殿に案があると?」


「ある」


 セレナは迷わない。


「防衛線を都市単位で繋ぐ」


「物資共有」


「魔導通信統合」


「空間転移対策の固定術式展開」


「後方支援都市を守る」


 その瞬間。


 何人もの視線がレインへ向いた。


 空間固定術式。


 今、それを扱えるのはレインだけだった。


 レインは肩を震わせる。


 怖い。


 視線が怖い。


 期待が怖い。


 失敗が怖い。


「……レイン」


 セレナの声。


「大丈夫」


 彼女は自然に彼の手を握った。


 机の下。


 誰にも見えない場所。


 大きくて温かい手。


「一人でやらせない」


 レインはゆっくり息を吐いた。


「……やります」


 静かな声だった。


 でも。


 逃げていなかった。


 会議後。


 二人は外壁上を歩いていた。


 夕暮れ。


 空が赤い。


 遠くには避難民の列が見える。


 荷車。


 疲れた顔。


 泣く子供。


 世界が壊れ始めていた。


「……多いですね」


 レインが呟く。


「うん」


「全部守れると思う?」


 レインは答えられない。


 セレナはそれを責めなかった。


「私も無理だと思う」


 彼女は空を見る。


「昔はね」


「強ければ守れると思ってた」


「でも違った」


 静かな声。


「人は一人じゃ足りない」


 レインは隣を見る。


 セレナの横顔。


 強い。


 綺麗。


 でも。


 少し疲れている。


「……セレナさん」


「なに?」


「休んでますか」


 彼女は笑った。


「説教?」


「ち、違います」


「ふふ」


 セレナは目を細める。


「最近あなた、そういう顔する」


「え?」


「心配してる顔」


 レインは赤くなる。


 目を逸らした。


「……普通です」


「普通じゃない」


 セレナは少しだけ嬉しそうだった。


 その時。


 警報。


 空気が変わる。


「敵襲!!」


「西門!!」


「超大型多数!!」


 二人は同時に駆け出した。


 西防衛線。


 そこには、既に戦場が出来上がっていた。


 炎。


 悲鳴。


 崩れる壁。


 無数の魔物。


 そして。


 その中心にいた。


 巨大な人型魔物。


 十メートル超。


 黒い鎧。


 四本腕。


 異常な魔力。


「……魔将級」


 セレナの顔が険しくなる。


 周囲の兵士たちは既に崩れ始めていた。


「む、無理だ!」


「止まらねぇ!」


「壁が破られる!!」


 レインの鑑定が発動する。


【魔将バルグ=ゼム】

・災害級

・重力操作

・再生

・魔力装甲

・指揮能力


 レインの背筋が冷える。


 強い。


 今までの敵とは違う。


 その瞬間。


 魔将が腕を振った。


 重力衝撃。


 外壁が吹き飛ぶ。


 大量の兵士が落下。


「っ!!」


 レインの身体が勝手に動く。


「風圧緩衝!!」


 落下兵たちを減速。


 数十人が助かる。


 でも。


 魔力消費が重い。


 息が苦しい。


「レイン!」


 セレナが前へ出る。


「後ろを守って!」


「でも!」


「信じて」


 彼女は笑った。


 戦場で笑える女だった。


「私、強いから」


 次の瞬間。


 炎爆発。


 セレナが魔将へ突撃する。


 激突。


 轟音。


 大地が揺れる。


 剣と拳。


 炎と重力。


 化け物同士の戦いだった。


 レインは必死に後方支援を続ける。


「氷壁!」


「土壁!」


「光治癒!」


 止まらない。


 考える。


 見る。


 支える。


 昔の自分なら、もう蹲っていた。


 でも今は。


 セレナがいる。


 だから立てる。


「レイン!!」


 叫び。


 見る。


 セレナが吹き飛ばされていた。


 魔将の重力拳。


 直撃。


 彼女の身体が壁へ叩きつけられる。


「セレナさん!!」


 血。


 銀髪。


 崩れる瓦礫。


 レインの頭が真っ白になる。


 怖い。


 嫌だ。


 失いたくない。


 その感情だけで、身体が動く。


「空間固定!!」


 世界が軋む。


 魔将の動きが止まる。


 空間拘束。


 魔将が咆哮する。


 重力で無理矢理破壊しようとしている。


 レインの身体が悲鳴を上げる。


 鼻血。


 視界が揺れる。


 それでも止める。


「動くな……!!」


 初めてだった。


 彼が敵へ怒鳴ったのは。


 セレナが目を見開く。


 レインは震えていた。


 怖がっていた。


 それでも前にいる。


「セレナさん!!」


 叫ぶ。


「今です!!」


 セレナが立ち上がる。


 血を拭う。


 そして笑った。


 女として。


 戦士として。


 心の底から嬉しそうに。


「……本当に、男になってきた」


 炎が爆ぜる。


 巨大な火柱。


 全魔力解放。


「紅蓮断界」


 一閃。


 魔将の上半身が消し飛んだ。


 沈黙。


 次の瞬間。


 歓声。


 兵士たちが叫ぶ。


「勝った!!」


「押し返せ!!」


「まだ戦える!!」


 戦線が繋がる。


 人々が立ち上がる。


 総力戦線。


 世界が崩れながらも。


 それでも人間は、まだ折れていなかった。


 レインはその場に座り込む。


 呼吸が乱れる。


 限界だった。


 セレナが隣へ座る。


「お疲れ様」


「……怖かったです」


「知ってる」


 彼女は自然に肩を寄せた。


 大きな身体。


 温かい。


「でも、逃げなかった」


 レインは目を閉じる。


 夕陽が赤かった。


 壊れかけた世界で。


 二人だけの静かな時間が、確かにそこにあった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。