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28歳の最強お姉さん冒険者は、自己肯定感ゼロの俺を放っておけない  作者: 慈架太子


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108/119

108:都市防衛戦

 従魔王グラディウス討伐。


 その報は、一夜で大陸中へ広がった。


 崩壊都市ヴァルゼアを守り切った英雄。


 無数の魔物軍勢を止めたS級冒険者セレナ。


 そして。


 空間術式を扱った黒髪の青年。


 名を、レイン。


 だが本人は、英雄扱いされるたびに顔を青くしていた。


「む、無理です……」


 ギルド本部の廊下。


 壁際に縮こまりながらレインは震えていた。


 目の前にはギルド職員たち。


「ですから会議だけでも!」


「王国軍の方々がお待ちで!」


「他都市との連携も!」


「む、無理……」


 本気で涙目だった。


 そんな彼の肩を、後ろから大きな手が掴む。


「いじめない」


 セレナだった。


 長身。


 銀髪。


 黒いシャツ姿。


 片手には酒瓶。


 職員たちは一斉に背筋を伸ばした。


「せ、セレナ様!」


「この子はまだ新人」


「一気に全部押し付けない」


 その言葉に、レインは少しだけ肩の力を抜く。


 セレナはちらりと彼を見る。


「逃げるのは駄目だけど」


「潰れるのも駄目」


「……はい」


 彼女は酒瓶を軽く振る。


「とりあえずご飯」


「食べながら考える」


 ヴァルゼア中央食堂。


 元々は冒険者向けの大衆酒場だった場所だ。


 今は防衛拠点兼炊き出し施設になっている。


 大鍋ではスープが煮込まれ、パンが並び、避難民へ配給されていた。


 レインは配膳を手伝っていた。


 身体は疲れている。


 魔力枯渇の後遺症で頭も痛い。


 それでも動く。


 座っていると、不安ばかり考えてしまうから。


「兄ちゃん!」


 小さな女の子がパンを受け取りながら笑った。


「ありがと!」


「……うん」


 レインはぎこちなく笑う。


 その様子を、少し離れた席からセレナが見ていた。


 彼女は静かにスープを飲む。


 昔から、こういう男に弱かった。


 強いふりをしない。


 怖がる。


 震える。


 それでも最後に逃げない。


 そんな人間は、案外少ない。


「セレナさん」


「なに?」


 レインが隣へ座る。


「これ、甘いパンです」


「……」


 セレナの目が少し揺れた。


「余ってたので」


「……そう」


 受け取る。


 小さく千切る。


 一口。


「美味しい」


 レインが少し笑う。


「良かったです」


「……あなた」


「はい?」


「最近、笑うようになった」


 レインは固まった。


「そ、そうですか……?」


「うん」


 セレナは静かに頷く。


「前はずっと、怯えた顔してた」


 レインは俯く。


 昔の自分を思い出す。


 何も出来なかった。


 怖かった。


 誰かと話すだけで胃が痛かった。


 でも。


 少しだけ変わった。


 セレナがいたから。


 食事。


 洗濯。


 傷の手当。


 朝の会話。


 眠れない夜。


 雨の日。


 そういう積み重ねが、彼を少しずつ人間に戻していた。


「……セレナさんのおかげです」


「私?」


「はい」


 レインは照れながら言う。


「ずっと、見てくれたから」


 セレナは一瞬だけ言葉を失った。


 そんなふうに真っ直ぐ感謝されたのは、いつ以来だろう。


 利用はされた。


 期待もされた。


 戦力として頼られもした。


 でも。


 一人の女として、大事に扱われた記憶は少ない。


「……変な子」


 彼女は誤魔化すようにパンを食べた。


 その時だった。


 都市中に警鐘が鳴り響く。


 空気が凍る。


 冒険者たちが立ち上がる。


「魔物接近!!」


「北壁!!」


「数が多い!!」


 セレナが立ち上がる。


 レインも剣を取った。


 外へ飛び出す。


 ヴァルゼア北壁。


 そこに広がっていたのは、黒い海だった。


 魔物。


 魔物。


 魔物。


 数万。


 地平線まで埋め尽くしている。


 避難民が悲鳴を上げる。


 兵士たちの顔も青い。


「こんなの……」


「無理だ……」


 レインの鑑定が走る。


 魔狼。


 飛竜。


 重甲魔獣。


 腐食型。


 爆裂型。


 さらに後方。


 巨大反応。


「……来る」


「大型がいます」


 セレナは剣を肩に担ぐ。


「当然ね」


 彼女の目は冷静だった。


「レイン」


「はい」


「都市防衛は初めて?」


「……はい」


「じゃあ教える」


 セレナは前を見る。


「防衛戦っていうのはね」


「全部守ろうとすると崩れる」


「……」


「優先順位を決める」


「守る場所」


「切り捨てる場所」


「死ぬ覚悟」


「生かす覚悟」


 重い言葉だった。


 でも現実だった。


 彼女はそれを何度も経験してきた。


「あなたは索敵」


「私は前線」


「壁を壊させない」


「はい!」


 戦闘開始。


 魔物群が突撃する。


 轟音。


 振動。


 地面が揺れる。


「風圧壁!!」


 レインが防壁を展開。


 突撃速度を削る。


 続けて氷槍。


 数十体貫通。


 それでも止まらない。


「火炎斬!!」


 セレナの大剣が炎を撒き散らす。


 一撃で魔物の群れが消し飛ぶ。


 圧倒的。


 まさに最強。


 だが敵も異常だった。


 後方から飛来する腐食弾。


「っ!」


 レインが土壁を展開。


 着弾。


 壁が溶ける。


「危な……」


 冷や汗。


 怖い。


 心臓がうるさい。


 吐きそうだった。


 でも。


 逃げない。


 レインは索敵を広げる。


 魔力反応。


 流れ。


 空気。


 違和感。


「セレナさん!!」


「なに!」


「地下!!」


 次の瞬間。


 壁下から巨大魔物が飛び出した。


 超大型穿孔虫。


 壁破壊型。


「なるほど」


 セレナが笑う。


「ちゃんと見えてる」


 彼女は跳んだ。


 炎加速。


 空中回転。


 大剣が振り下ろされる。


 轟音。


 巨大魔物が真っ二つになる。


 兵士たちが歓声を上げた。


「すげぇ……!」


「S級……!」


 しかし。


 まだ終わらない。


 空。


 巨大な影。


 飛竜群。


 数百。


「……多い」


 レインの顔が引きつる。


「空は苦手?」


 セレナが笑う。


「怖いです」


「正直でよろしい」


 彼女は炎を噴き上げる。


「でも今のあなたならやれる」


 レインは息を飲む。


 その言葉だけで。


 少し立てる。


「……はい」


 レインは両手を前へ。


「風拘束」


 巨大風圧。


 飛竜群が乱れる。


「氷槍連結!!」


 無数の氷槍。


 空を埋める。


 飛竜が次々墜落する。


 だが。


 一体だけ違った。


 漆黒の飛竜。


 王種。


 圧倒的魔力。


「レイン!!」


 セレナが叫ぶ。


 飛竜王が急降下。


 速い。


 避けきれない。


 レインの身体が凍る。


 死ぬ。


 そう思った瞬間。


 炎。


 セレナが割り込んでいた。


 衝撃。


 彼女が吹き飛ばされる。


「セレナさん!!」


 レインの頭が真っ白になる。


 怖い。


 嫌だ。


 また。


 守れないのは。


 嫌だ。


 レインの中で何かが弾けた。


 魔力暴走。


 世界がスローモーションになる。


 飛竜王の動き。


 風。


 筋肉。


 魔力循環。


 全部見える。


「止まれ」


 空間が軋む。


 飛竜王が空中固定された。


 兵士たちが息を呑む。


「なっ……」


「空中で……止めた……?」


 レインは震えていた。


 鼻血。


 視界が赤い。


 それでも剣を握る。


「セレナさん」


 彼は前を見る。


「今です」


 セレナが笑った。


 血を流しながら。


 嬉しそうに。


「……本当に大きくなった」


 炎が爆ぜる。


 次の瞬間。


 飛竜王の首が空を舞った。


 歓声。


 都市が震えるほどの歓声。


 だがレインはその場に崩れ落ちる。


 限界。


 セレナがすぐ支えた。


「無茶しすぎ」


「……すみません」


「謝らなくていい」


 彼女は静かに額を合わせる。


「ちゃんと守った」


 レインの呼吸が少し落ち着く。


 周囲では、人々が生き残った喜びで泣いていた。


 都市防衛戦。


 勝利。


 それは奇跡ではない。


 誰か一人の無双でもない。


 怖がりながら。


 震えながら。


 それでも隣に立ち続けた二人が掴んだ、生存だった。







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