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28歳の最強お姉さん冒険者は、自己肯定感ゼロの俺を放っておけない  作者: 慈架太子


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106/119

106:世界中の魔物

 世界は、静かに壊れ始めていた。


 最初に異変が報告されたのは北方連邦。


 雪山地帯で確認されていた氷狼群が、一夜で三倍へ増殖。


 次に西部商業国家。


 地下水路から魔物が溢れ、物流都市が封鎖。


 南方では飛竜種の群れ。


 東方では海魔災害。


 そして中央大陸各地のダンジョンで、“階層崩壊”が連続発生。


 国境線など関係なかった。


 世界中で、魔物が溢れ始めていた。


 崩壊都市ヴァルゼア。


 冒険者ギルド本部。


 広間には異様な空気が漂っていた。


「……十七都市」


 受付長の男が震える声で言う。


「既に壊滅確認」


 ざわめき。


 冒険者たちの顔色が変わる。


「原因は不明」


「転移災害との関連性あり」


「魔物移送の痕跡を確認」


 レインは壁際で話を聞いていた。


 隣にはセレナ。


 彼女も珍しく無言だった。


「……世界規模ね」


 小さく呟く。


 レインは拳を握る。


 転移能力者を倒した。


 終わったと思っていた。


 違った。


 あれは一部。


 もっと巨大な何かが動いている。


「レイン」


 セレナが視線を向ける。


「顔色悪い」


「……少し」


 正直、怖かった。


 都市単位ではない。


 国家規模でもない。


 世界規模。


 そんな災害、自分が関わるような話じゃなかった。


 元々、レインは弱い新人冒険者だった。


 震えて。


 吐いて。


 人と目も合わせられない。


 そんな人間だ。


「帰りたい?」


 セレナが聞く。


 レインは少し黙る。


 そして。


「……帰ったら」


 小さく答える。


「もっと後悔する気がします」


 セレナが少し笑った。


「なら大丈夫」


 その言葉だけで、少し呼吸が楽になる。


 その時だった。


 ギルド扉が勢いよく開く。


「緊急報告!!」


 血まみれの伝令。


「東地区防壁崩壊!!」


「魔物群、侵入!!」


 空気が凍った。


 次の瞬間。


 セレナが立ち上がる。


「行くわよ」


「はい!」


 二人は駆け出した。


 外。


 空は赤かった。


 火災。


 悲鳴。


 崩壊音。


 そして。


 魔物。


 大量。


 数百。


 いや。


 千を超えている。


「……なんだよこれ」


 冒険者が青ざめる。


 魔狼。


 甲殻種。


 飛行型。


 大型。


 全部いる。


 本来、生息域が違う。


 同時出現するはずがない。


「転移で集められてる」


 レインが呟く。


 誰かが意図的に。


 世界中の魔物を。


 都市へ流し込んでいる。


「最悪ね」


 セレナが大剣を担ぐ。


「でも、やるしかない」


 彼女が前へ出る。


 爆炎。


 大剣が振るわれた瞬間、最前列の魔物群が吹き飛ぶ。


 圧倒的。


 それでも。


 数が多すぎる。


「レイン!」


「はい!」


「後衛支援!」


 レインは震える手で魔力を流す。


 怖い。


 多い。


 死ぬ。


 でも。


 止まれない。


「氷壁!!」


 巨大な氷の壁が展開。


 突進を止める。


「風圧!!」


 魔物群が押し返される。


「光槍!!」


 無数の光が空を走る。


 飛行型を撃ち落とす。


 冒険者たちが驚愕していた。


「新人……だよな?」


「魔力量どうなってる!?」


 レインは聞こえていなかった。


 視界が狭い。


 頭痛。


 魔力制御。


 失敗すれば暴走する。


 それでも。


 止める。


 守る。


 セレナが前で戦っている。


 一人で背負わせたくない。


「右!!」


 レインが叫ぶ。


 大型種。


 突進。


 セレナが反応。


 炎を纏った斬撃。


 一刀で両断。


 血飛沫。


 爆風。


 それでも次が来る。


「多すぎる……!」


 誰かが叫ぶ。


 戦線が押され始める。


 その時。


 レインの鑑定が反応した。


 空。


 高高度。


「……転移陣?」


 見えた。


 巨大。


 雲の上。


 空間ゲート。


 そこから魔物が落とされ続けている。


「セレナさん!!」


「なに!?」


「空です!!」


 セレナが見上げる。


 瞬間。


 顔色が変わった。


「冗談でしょ……」


 空間裂け目。


 巨大すぎる。


 都市規模。


「あれを閉じない限り終わらない」


 レインの声が震える。


「行ける?」


 セレナが聞く。


 レインは息を呑む。


 怖い。


 無理だ。


 そんな高度。


 そんな魔力量。


 でも。


 セレナは待っている。


 信じている。


「……やります」


 セレナが笑う。


「そういう顔、好きよ」


 レインの顔が赤くなる。


「い、今言います!?」


「今だから言うの」


 セレナは大剣を構える。


「道を作る」


「あなたは閉じなさい」


「はい!」


 次の瞬間。


 セレナが地面を砕いて跳躍した。


 炎。


 爆発。


 空へ。


 魔物群を吹き飛ばしながら進む。


 圧倒的。


 まるで戦場の女神。


 レインは必死に魔力を集中する。


「風圧推進……!」


 風を足場に変える。


 未熟。


 不安定。


 でも飛ぶ。


 空へ。


 怖い。


 高い。


 吐きそうだ。


 それでも。


 セレナが前にいる。


「レイン!!」


 空中でセレナが叫ぶ。


 巨大飛竜が迫っていた。


 レインは反射的に魔法を放つ。


「闇槍!!」


 黒い槍。


 飛竜を貫通。


 墜落。


 セレナが少し目を見開く。


「やるじゃない」


 レインは息を切らしながら答える。


「必死です……!」


 空間裂け目が近づく。


 巨大。


 禍々しい。


 世界そのものが割れているみたいだった。


「閉じるわよ!」


「はい!」


 レインは術式を展開する。


 空間固定。


 閉鎖。


 圧縮。


 無限魔力が暴れ狂う。


 脳が焼ける。


 血が流れる。


「ぐっ……!」


「レイン!」


 セレナが支える。


 その腕が背中に触れる。


「大丈夫」


 低い声。


 安心する声。


「一人じゃない」


 その瞬間。


 レインの魔力制御が安定した。


 空間が軋む。


 裂け目が閉じ始める。


 魔物が悲鳴を上げる。


 転移崩壊。


 空間封鎖。


「閉じろおおおお!!」


 轟音。


 光。


 爆発。


 そして。


 空間裂け目が完全消滅した。


 静寂。


 空が戻る。


 魔物群が止まる。


 都市の人々が空を見上げていた。


 レインは限界で落下しかける。


 だが。


 セレナが抱き止めた。


 強い腕。


 熱い体温。


「お疲れ様」


 レインは力なく笑う。


「……怖かったです」


「知ってる」


「死ぬかと思いました」


「私も」


 セレナが少し笑う。


「でも、生きてる」


 レインは彼女を見上げる。


 空を背にした銀髪が綺麗だった。


 強くて。


 優しくて。


 ずっと遠い人だと思っていた。


 でも今は。


 少しだけ。


 隣へ近づけた気がした。







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