現実と向き合う準備をする④
(恥ずかしい、恥ずかしすぎる。
まさかこの年になってお姫様抱っこされるとか勘弁してほしい。
いやすでに侍女にお姫様抱っこされた後だけれども!
あの時はほかに人もいなかったし女性にだったし。
まさかこの世界では移動でお姫様だっこがあたりまえ?
まさかねぇ、妃殿下も歩いてたし・・・)
すれ違う人々にチラ見されてしまっている。
せめて宰相が普通の顔だったらよかったのに、なんでイケメンなんだよと心の中で叫んでみる。
国王にしろ宰相にしろ王妃にしろ侍女達にしろ、皆顔が整いすぎじゃないだろうか。
この世界美形しかいないとか?勘弁してほしい。
少しでも恥ずかしくないように接する面積が少なくなる様にしてみたのだが
「しっかりと手を廻していただかないと逆に不安定になって危ないですよ」
などとにこやかに言われてしまえばそうするしかなくなる。
まぁまだガン見されるよりはマシだと思う事にする。
しばらく移動した後にそっと降ろされる。
どうやら到着したようだ。
第二王子、いわゆるアレの部屋であろう扉の前には王妃も来ていた。
にこっと会釈をされたのでこちらは深々とお辞儀をしておく。
王侯貴族と言えばカーテシーなイメージがあるのだが、申し訳な事にカーテシーなんぞやった事もないしやり方も分からない。
宰相が扉の前に立っている騎士に何かを伝える。
騎士がチラッとこちらをみたけれども気にしない。
すぐに扉が開かれ中へと促される。
国王と宰相は入り口で待機するようだ。
自室の警備についてくれている騎士が一緒に中へと入る。
扉は開かれたままだ。
一呼吸置いて部屋へと足を踏み入れた。
「父上!父上ならばきっと僕の事を理解してくださると・・・
ってなんでこのババァが此処に居るんだ!生きてたのか!ちっ」
まてこら、ちってなんだちって、舌打ちすんなや!
入って行き成りこれかい!どつくそこのガキァよ。
そう思ったものの、ここはぐっと我慢の子である・・・
さすがにしょっぱなからかます訳にもいくまいと心の中で自分をなだめる。
「父上こんなババァはとっとと追放してください!僕には聖女様が・・・あ?
なんだよババァ、貴様には用はない!僕は父上と話・・・」
ぷつんっ
気が付けば胸倉を掴んでいた。
ババァババァ連呼すんなや。
「貴方に拉致されたあげく身代わりに刺されたババァです、二度目まして?
(掴んだ胸倉を放して肩をどつく バンッ)
生きてたのかって生きてますが何か問題でも?(バンッ)
本来死に掛けるのは貴方だったはずなんですがね?(ドンッ)
好きで身代わりになった訳でもないですし?
(ぐいっと胸倉を掴み直す)
勝手に拉致って人の人生まるっと奪っておきながら
怪我をさせたにもかかわらず放置のあげくババァ呼ばわりとか!
(ちょっと持ち上げる)
ありえねぇー!」
(ドンッと壁に押し付ける、色気のない壁ドン)
「ぼ・・・僕はこの国の・・王子だぞ!いずれ王・・となっ・・・て
手を・・・放せ。 今なら許してやる・・・クソババァ」
ぶちぶちと血管の切れる音がした。
「なんだと? 今なんつったよ、あぁん?
どの口が言うか!
努力もしない。他者を思いやる事もしない。
他者をいたわる事も出来ないし家族すら大切に出来ない。
あげくに自己都合の脳内変換で虚言妄想。
どう考えても王になるとか無理だろ!
大体な、クソババァとか言われる筋合いねぇんだよこのクソガキッ!」
これの事を知っている訳もないので王妃の話を聞いた上での憶測である。
ただマォの場合本能というか第一印象で感じた事は9割方当たっていたりする。
胸倉を放してその場にドサッと落とし1発蹴り上げた。
「ゲホッ
母上がそう言ったのか!母上は僕のすごさが分かってないんだ!
僕は本当の事を言っているだけだ!前世の記憶もあるしすごい力だって!」
「うっせぇぼけっ、だったら今ここで言ってみろや。
どの世界の何処の国でどの時代に生きていた記憶だ?
その時テメェは何歳だった?性別は?どんな能力や知識を持っていた?
ん?オラッ言ってみろよ」
ちょっと低めの声が出たのは許して欲しい。無意識だし。
もう何発か蹴り飛ばしたい衝動を押えずいと1歩前へ出ればずりっと後ろに下がるアレ。
実際にはすでに壁際なので下がりようがないのだが。
「そのすごい力とやらを見せてみろよ」
「そ・・・それは・・・
そんな事僕が解る訳ないだろ!」
「「は?」」
重なったもう1つの声はついてきた騎士の声だった。
うんうん、そりゃ思わず声もでるよねと勝手に納得しておく。
アレはというと、目が泳ぎ出して肩が震え始めた。
そのうち泣き出すんじゃないだろうか。
泣きだしたら儂が虐めてるみたいだろ、勘弁してくれよ。
だがここで攻撃を緩める気はない。なんせ殺されかけたのだから。
ぐいと顔を近づける。
「おかしくね?おかしいよなぁ?
前世を覚えてるならどんな国でどの時代で自分が誰でどう生きていたのか。
全部覚えているハズだが?」
覚えているから前世の記憶がうんぬんと言えるのだ。
なのにこのアレときたら・・・
「だ・・・だから・・・この体に産まれた時に・・・
そうだよ生まれた時に忘れて」
とほざきやがった。
「それってさ、前世を覚えてるとは言わなくねぇか?」
うんうんと斜め後ろで騎士が頷いている。
「そんなことはない!あの本を読んだ時これが本当の僕だと確信したんだ。
聖女だって夢の中で待ってるから呼び出してくれって!!そう言ったんだ。
僕は・・・
僕は間違ってなんかいない!
僕は・・・僕は・・・
くそぉぉぉ!
お前が居るから!お前のせいで聖女が来れないんだ!!
全部お前が悪いんだ!」
胸倉を掴んだままの手を振り解こうと暴れもがき始めたが、なんてことはない。
すこぶる非力だった。うちの孫よりも非力なんじゃなかろうか。
他人事ながらこんなに非力で大丈夫なのかと心配になる。
まさかスプーンより重い物は持った事が無いとか言わないよなとしばし考える。
ふっ、さすがにそれは無いと思いたい。
これはあれだ、統合失調症や妄想性障害に似ている。
現実と夢・妄想との区別が出来ない、いわゆる精神疾患てやつだ。
まぁこの若さでアルツハイマーではないと思う、思いたい。
なんて考えてる場合じゃなかった。
アレが隠し持っていたのか、それとも近くの騎士から奪い取ったのか。
短剣を手にしてこちらに振り下ろそうとしていた。
なるほど、剣の稽古もサボっていたのか持ち方が悪い。
あれだと自分の手首を痛めてしまう。下手をすれば指の骨も折れそうだ。
「「マォ殿!!」」
国王と騎士の叫び声が聞こえるが、慌てる事もないと思う。
短剣すら振り上げれないのかアレの腕はプルプルしているのだ。
国王と騎士に振り返り微笑んで余裕を見せたのにビクッとされてしまった。
解せぬ。
「てぃっ!!」
胸倉を掴んだまま体の向きを変えて肩越しに前方へと投げつける。
なんちゃって背負い投げだ。
見様見真似なのでアレがどこか筋を傷めていたとしても知った事ではない。
はっはっはっ・・・
「ババァに負けてりゃせわねぇな、ふんっ」
アレはだらしなく気を失っていた。
農作業で鍛えた足腰と薪割で鍛えた腕と昔取ったなんとやら。
僻地暮らしのババァ舐めんなよ?
鍛えた騎士ならともかく、ガキなんぞにはまだ負けんと思う。
たぶんガキだよな?と少し不安になる。
これで成人済みとかだったらどうしよう。
さすがにこんなのが成人済だとは思いたくない、切実に。
いくら他の子がまともだとは言え、国の将来に不安がでるじゃないか。
(後でこっそりイザベルに確認を取ろう、そうしよう)
「陛下、コレ病んでますよ。頭も心も。
専門医が居るならちゃんと診せた方がいいです。
後体ももう少し鍛えさせた方がいいですよ、軟弱すぎます」
「お、おぅ。解った・・・」
あれ、なんかちょっと引いてる?さすがに口が悪すぎたかと不安になる。
「あ、そこの騎士殿コレどこかに閉じ込めて貰ってもいいです?」
「はっ、承知いたしました!」
(あれ、なんか騎士の人少し怯えてる?
王妃は・・・よかった。凄くいい笑顔してるよ)
三者三様のこの反応はいったい何なのだろうか。
ともあれ、第二王子は不治の病になったと言う事で塔にて軟禁治療となった。
当然ながら行動制限も設けられ塔とその庭からはほぼ出る事は出来ず
投薬治療を受けながら体力作りの訓練と礼儀なんかの基礎を再教育するらしい。
それでまともになってくれればよいのだが。
どのみち今後は関わり合いたくないと願うのであった。
後でイザベルに確認した所、この国の成人は15歳でアレは14歳と10か月。
ギリギリ未成年だったようなのでギリセーフ。
なにがセーフなのかは自分でも解らんが。
ま、成年男性にクソガキと言った訳でなくてよかったと安心したのだった。
読んで下さりありがとうございます。
よいこはマォのマネしないでくださね(苦笑)




