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現実と向き合う準備をする③

数日後には用意が整った服が運び込まれた。

さすがに農民服や庭師の作業着は無理だったようで侍女たちは申し訳なさそうな顔をしてた。

だが衣装部が頑張ってくれたようで、騎士や兵士が訓練で着るシャツとズボンを改良した物が用意された。

シンプルで動きやすく汚れても大丈夫な服、よかったこれで。

まかり間違っても貴族とかが着るようなしゃれた物だったらどうしようかと思った。

靴も同じく騎士達や兵士が履くようなブーツっぽい物が用意されていた。

これなら走れるし、いや城内で走る事はないと思うが。

ヒールはほぼ履いた事がないのでありがたい。

運び終えた侍女達が退室していきほっとするも1人だけ残っていることに気が付いた。


「招き人様の専属となりました、イザベルと申します」


専属って何とは思ったが、右も左も分からない場所での慣れない生活だから国王か王妃が気を利かせてくだたのだろうか。

ニコリ微笑みながら挨拶をしてくれたのでこちらも挨拶を返す。


「・・・」


名乗ろうとして自分の名前が発音出来ず口が動くだけな事に気付く。


「ぅえぇぇぇ、マジで」

「あの、招き人様?私何か失礼をいたしましたでしょうか」

「ふへ?! いやそうじゃなくて・・・

 私の名前が発音出来ないんですけどぉぉぉ」

「発音出来ない、でございますか。

 それはお困りですよね。でしたら紙に書いてみるのはいかがでしょう」


叫んだにも関わらず動じない侍女イザベル、さすがである。

どうぞとペンと紙を渡されたので書いてみる。

お、書くことは出来るんだと思ったが、書き終えた瞬間パッと文字が消えてしまった。


「 ・・・ 」

「 ・・・ 」

「イザベルさん今の見ました?」

「はい、招き人様。この目でしかと見ました」

「見間違いじゃないよね」

「見間違いではございませんね、文字が消えましたね」

「やっぱり。どうすりゃいいのよこれ」


その後もイザベラとあれこれ試してみた。

ニックネームならどうだろうとか、子供のころの呼び名はどうだろうとか。

結局発音出来たのはゲームで使っていた名前だけだった。

気に入って長年使っているキャラ名なので違和感はないけれども。

ほかの名前が発音出来無いのだから仕方がない。

ずっと招き人と呼ばれるのも嫌だし。


「ではマォ様と呼ばせていただきますね」

「改めまして、よろしくお願いします。イザベラさん」

「お任せくださいませ、誠心誠意を持ってお仕えさせていただきます」


ようやく呼び名を伝える事が出来、ほっとするのも束の間大事なことを思い出す。


(儂国王と王妃に名乗ってねぇじゃん!!)


両名とも名乗ってくれたにも拘らず自分は名乗ってない、それってどうなのまずいんじゃないのと軽くパニックを起こす。


「落ち着いてくださいませ。

 招き人様のお名前を無理に聞き出す事は禁じられております。

 ですので心配ございませんよ」


そう言って差し出されたお茶を受け取る。

一口飲めば爽やかな香りが広がる。


(何かのハーブティだろうか、ミントとは違うけど爽やかな香りがする)


お茶を飲み終えた後届いた服に着替えて体を少し動かしてみる。

動かしやすいし傷の引き攣れも随分と違和感が無くなった。

もう少しで普通に動けるようになりそうだと思う。

治療魔法って素晴らしいと2度目の感動をする。


医師の方も痛み止めを処方してくれたりリハビリのストレッチを教えてくれたりと有難い。

それになんと言っても驚いたのが目の機能を改善する薬があると言う事。

眼鏡がなくて不便だと話したらそういった薬があるので心配無用と処方してくれたのだ。

勿論劇的な変化がある訳では無く、徐々に回復していくとの事で毎日服用している。

味は・・・ブルーベリー酢を濃縮した感じとでもいうべきか、つまりはべらぼうに酸っぱい。

耳の下というか顎の付け根というか、そこら辺がキューッとなる。

思い出すだけで・・・唾液が溢れてくる。お判りいただけるだろうか。

だがそのおかげで視力も少しずつではあるが回復している。

この世界には眼鏡が存在しないというのでこの薬は非常にありがたい。

というか、この薬があるなら眼鏡なんて技術は生まれる訳もないか。


ストレッチを終えソファにもたれたところで丁度扉がノックされた。

イザベルが対応し来訪者は入ってくる。


(ぐほっ、国王じゃん)

「おはようございます陛下」


しれっと驚いてませんよと平静を装い挨拶をする。


「ああ、おはよう。朝からすまない。この時間しか予定が開いてなくてな」


国王の方も気付いたであろうにシレッと挨拶を返す。


「いえ、大丈夫ですよ。どうかなさいましたか?」


多忙な国王がここへ来たと言う事は何か用があるのだろう。


「アレに直接文句を言いたいと妃より聞いた」

「ごふっ」


危ない、咽るところだったじゃないか。

それにしても直球で聞いてきたな、しかも自分の息子をアレと言い切ったなこの国王。

まぁそこは突っ込まずにおこうかなと思う。


「そうですね。やっぱりモヤッとするんですよね」

「気持ちは分らんでもないがな。

 だがまた不快な言葉を聞く事になるかもしれんぞ」

「妃殿下にも心配されましたが

 今回はちゃんと意識もありますし言い返しますから大丈夫です。

 それに、余りにもムカつけばどつきますし?

 あ、不敬とか言わないでくださいね」


何か悪態をつかれるであろう事は百も承知だ。

むしろ言い返すきっかけにもなって丁度いいとさえ思っている。

ただ、こちらも相当に口が悪いので予め断わりを入れておく。

後からあれこれと言われても困るのだ。


「大丈夫だ、不敬とはいわん。

 国王でなければ私とて怒鳴りたいくらいだ。

 して招き人殿、どつくとはいったい・・・」

「おふっ・・・」



やっぱり通じてなかったようだ。

妃殿下はなんとなく雰囲気で察してくれたのだろうか。

まあ国王や妃殿下は知らない方がよい言葉だとは思う。


「そうですねぇ・・・ 見てのお楽しみ?

 いや楽しむもんじゃないな。

 ()()()()どついた場合は不敬になるような行為とだけ言っておきます」


はははと乾いた笑いで濁しておいた。

出来れば国王ともあろう人に どつく なんて言葉理解して欲しくない。

なにかの拍子に臣下に対してとか どつくぞ なんて言ってしまえば威厳が損なわれるきがする。

あかんあかんと心の中でつぶやく。


「なるほど、理由がなければ不敬になるような・・・

 では理由があればよいのだな?」

「いやそこは気にしないでいただきたく・・・」

「余計に気になるではないか」

「いえですからね・・・」

「んんっ、陛下。招き人様が気にするなとおっしゃっているのです。

 気にしない方がよろしいかと。

 それに見ればどういったものなのか分るのでは」

「ふむ、それもそうか」


止めてくれたのは宰相だとイザベルがこっそり教えてくれた。

なるほど、宰相ナイスだよ!

ん? 待って、今なんつった?

見ればわかるって見るのか・・・

何度目か分からないチーンという音が頭で鳴った。


「では今から参ろうか。私と王妃も背後からけんが・・・見守る。

 安心して文句を言うがよい」


今見学とか言いそうになっただろ。

安心してとかいうけど親の前で文句言うとか安心できないじゃないか。

うぇ・・・マジか。と声にしなかった自分を褒めたいと思うのだった。


「素で喋るのでかなり言葉使いが悪いですよ?

 見ない方がいいと思うのですが」

「素・・・なるほど。それはそれで一興ではないか」


しまった、余計に興味を引いたようだ。失敗した。


「そう言えば其方、どう呼べば良いであろうか」


そうだ、そうだった!また忘れてたよ。


「マォとお呼びくださいませ。

 どういった訳か本来の名前が発音する事も文字にする事も出来なかったので」

「マォか。承知した。ではマォ殿参ろうか」


そう言ってすっと腕を差し出された。


「 ・・・ 」


これって世に言うエスコートってやつだろうか。

国王にエスコートされる一般人とか恐れ多いしおかしいだろう。


「どうした。まだ傷が痛むようなら抱えて・・・」

「ひぇっ、いえ大丈夫です。陛下のお手を煩わせるなど恐れ多い・・・」

「では失礼して私が」


ひょいと宰相に抱えられてしまった。

当然ながらお姫様抱っこである。

チーン チーン チーン

頭の中で音が響き渡った。

読んで下さりありがとうございます。

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