現実と向き合う準備をする②
食事を終えた後に侍女がとりあえずの衣装を持ってきてくれた。
騎士達が鍛錬の時に着る服なのだそうだ。
早速着替えてみるも少々余計な体力を使った。
自分で着替えるというのにどこからか現れた他の侍女も加わり今着ている寝着をひん剥かれ、入浴は無理だからと全身を拭かれ新しい服を着せてもらったのだ。
「招き人様はお肌の肌理が細こうございますね」
「日に焼けていない部分は白くて陶磁器のようですわね」
「普段はどういったお手入れを?参考までにお聞かせくださいませ」
「この御髪も艶やかですこと、どのような香油をお使いだったのでしょう」
などと褒めちぎってくれるのだが肌質は日本人特有のものだと思うし、香油なんてものは使ってなくて白髪隠しのカラートリートメントだなんて言える訳もなく。
「やはり世界が違うと有る物も違うかもしれませんし。
私も皆さんにいろいろと教えて頂きたいです」
としか言いようがなかった。
化粧までしそうな勢いだったのでそれは丁重にお断りし、髪だけは纏めて貰う事にした。
セミロングの髪を綺麗に纏め、後ろでシニヨンにして紺色のレースのリボンで飾ってくれた。
「このお色のリボンでしたら派手過ぎずに招き人様の御髪にもよくお似合いです」
「ありがとう。リボンなんてめったに付けないから少し恥ずかしいかも」
「何をおっしゃいますか。よくお似合いですから自信を持ってくださいませ」
着替えが終わり身支度が整った段階で扉がノックされた。
1人の侍女が対応に当たると現れたのは煌びやかな女性、王妃だった。
(陛下の次は王妃ときたか、皆フットワーク軽いな。というか軽すぎないか)
記憶にある情報とは言っても小説や映画j知識だが、それらによると国王や王妃って気軽に一般人が会えるような存在じゃないと思うのだが。
だが実際こうやって部屋に訪ねて来られている。
当然ながら追い返すわけにもいくまい。
何をしに来たのだろうかと不思議に思うが突っ立ったままにもいかず、侍女に促されて王妃と共に席に着く。
(いやいや王妃と同席とかまずいだろ)
と思うが当の王妃はにこにこと連れてきた侍女にお茶の準備をするよう命じている。
テーブルにお茶とお茶菓子が並べられたところで王妃が口を開いた。
「私はこの国の王妃を務めるアムリタ・レラ・ウォール。
初めまして招き人様。本当に、本当にごめんなさいね。
謝って済む事ではないと解ってはいるの。それでも謝らせて頂戴。
身勝手にも貴方をこの世界、この国に招いてしまった事もだけど
老婆だのババァだのとあの愚息・・・もう1発殴っておくべきだったかしら」
「ぶほっ」
吹いてしまったじゃないか。
物静かな落ち着いた女性のイメージだった王妃殿下が今なんと?
殴るとか言ったような、気のせいだろうか。
「妃殿下。お言葉使いが・・・」
んんっと咳払いをしながら少し年配に見える侍女がそう声を掛ける。
「あらやだ、ごめんなさいね。ホホホホホ
でもねぇ、貴方をそんな言い方するなら私だって老婆と言う事になるのよ。
そこの侍女長もね」
紹介された侍女長がうんうんと頷いている。
なるほど侍女長だったのか、王妃よりは年上っぽいしお目付け役も兼ねているのだろうか。
頼れる感じがするし王妃自身も気を許している様に見える。
「例え幾つであっても女性に向かって老婆だのとありえませんわっ。
ねぇ貴方達もそう思わなくて?」
え? そこで侍女達に振る?
王妃に聞かれても答えにくいと思う。
「左様でございますね、
あの言葉はすべての女性を敵に回す言葉と言っても過言ではございません!」
侍女長の言葉に他の侍女達が頷く。
それにしても侍女長の言葉に力が入っているような・・・
あの王子に同じことを言われたことがあるのかもしれない。
「どこで育て方を間違えたのかしらね。
もっと女性に対するマナーを叩き込むべきだったわね」
そう溜息をつく王妃だったが、そもそも王子や王女の教育って家庭教師や教育係がつくのでは。
地位や金目当てのゲス教師が頭に浮かぶがドラマじゃあるまいし、王家の教師ならばまともな人であろうとゲス教師の存在を頭から追い出す。
「そもそもね、聞いて下さる?」
(あ、まだ続くんじゃ。謝罪は終わったからおしまいかと思ったのに・・・)
とここから怒涛の愚痴が王妃の口から溢れ出た。
他の子供達は素直で優しく聡明なのに第二王子だけが異色なのだと。
物語や史実書、古史の世界にあこがれるのは良いけれど、妄想癖が酷いだの
自分が特別だと思い込み努力を疎かにし兄や妹を見下すだの
選民意識が強いのか民を大切にせず臣下も大事にしていない
自分の思うようにならなければすぐに癇癪を起してメイド達に手を上げるだの
自分に耳障りの良い言葉しか聞き入れず、苦言を呈する友人を遠ざける等々
それは確かに愚痴を言いたくもなるだろうなと思い相槌を打ちながら聞いていたのだが
最後に聞いた言葉でつい素が出てしまう。
「自分は前世の記憶を持って偉いのしいずれ聖女を娶って王となるべき存在なのだ
なんて・・・
私、はしたなくも開いた口がふさがりませんでしたの」
「そりゃそうじゃろ、馬鹿じゃね?頭沸いてる? あ・・・」
言った後でマズイとは思ったが後の祭りである。
ピシッと王妃と侍女長の動きが止まった。
これはさすがに不敬とか言われるんだろうか。
「やっぱり?やっぱりそう思いますわよね?あぁよかったわ。
ほら使用人達は皆思っても口に出来ないでしょう?
私だけがそう思ってイライラしてるだけなのかと不安でしたのよ?
共感してくれる人がいてとても嬉しいわ。
本当に我が子なのかと疑いたくなるくらいですのよ。
見た目だけなら王家の特徴があるのですけどもね?
性格や物の考え方は先王様や王太后様、陛下とも似ても似付かないし。
あ、勿論私とも似ておりませんことよ?
口先だけで威張り散らして分が悪くなるとすぐに側近の後ろに隠れるの。
私も陛下も何度も注意しているのだけど駄目なのよねぇ。
そして今回の件でございましょう?これはもう無理だと思いましたの」
な、なるほど。
取り合えず苦手と言うか嫌いな部類の人間なんだと言うのは理解した。
そして王妃のうっぷんが凄いのも理解した。
そりゃね、あんなのが息子じゃ気苦労は絶えんだろうよとも思った。
そして話を聞けば聞くほど怒りがこみ上げる。
なのでここは1つぶちかますべきなんじゃないかと考えた。
勿論手足は出さずに丁重に会話をするだけのつもりだが。
「妃殿下、1つお願いがあるのですが良ろしいでしょうか」
「なにかしら、私で叶えられる事であればよいのだけど」
「その愚の骨頂たる第二王子に直接文句を言いたいのです。
なんといいますか、こうもやっと感がありまして?」
「わかる!わかりますわ。私も言い足りないもの。
分りました、私から陛下にお願いしておきますわね。
でも、また貴方に暴言を吐くかもしれないから心配ですわね」
「あぁ大丈夫です、我慢できなければどつき倒すんで!」
「じゃぁ大丈夫ですわね」
王妃はうんうんと頷き納得した様子で退室していった。
ここで愚痴を吐き出したことで少しはスッキリ出来たのだろうか、王妃の顔は晴れやかだった。
(まだ若いのに可哀そうに。よほどストレス抱え込んじょったんじゃなぁ)
そしてふと思う。 どつく は通じるんだと・・・
読んで下さりありがとうございます。




