最初で最後の本気モード①
なんとも言えない、兎に角耳障りな声だった。
「なんだ今のは」
「もしかしてアンデッドドラゴンの咆哮か」
「まさか此処まで聞こえたのか」
皆がざわめく中、千秋が空を指さして叫んだ。
「おかん、腐ったキング〇ドラ!」
「は? 馬鹿言いんさんな。んなもんおる、おったわぁ・・・」
千秋が指さしたペルダン方面の空には3つ首のアンデッドドラゴンが飛んでいた。
バッサバッサと飛びながらこちらへとやって来ているようだ。
バッサバッサと言ったがデロデロに腐った翼で所々骨が見えている。
その為翼が動くたびに腐肉や腐汁がボタボタと飛び散っているのでベッチョベチョとでも表現するほうがいいだろうか。
兎に角汚物を撒き散らしながら飛んでいるのだ。
「うぇぇぇ、なんでこっちに来よるん」
「ほんまよぉね、こんでええのに」
「マズイですねあれは」
「ああ、汚物が落ちた土地は汚染されて作物が枯れるだろうな」
「冬場なので作物自体はないでしょうが・・・」
「汚染された土地は浄化魔法が無ければ不毛の地に・・・」
「汚物が飛び散らんにゃええんじゃね?わかった」
「「 おかん? 」」
マォは雨漏りする雨水を受け止める大きな金盥を思い浮かべて魔法を使う。
コンッ ゴンッ コォーンッ
アンデッドドラゴンの3つの頭に3つの金盥が落ちた。
「「「 ぶっ 」」」
「そぉじゃねぇだろ!ちっげぇよっ!」
「なんせよん、おかん」
今度は詳細に、汚物を受け止めるようアンデドドラゴンの体の下に浮かぶ金盥を思い浮かべる。
ポテッ ペチョッ ポトッ
今度は成功したようで受け止めている。
が、飛び散っているのですべてを受けきれない。
「駄目か、受け洩れがある。
仕方がない、儂ちょい行ってくるわ」
「待て、マォ1人で行く気か」
「んだよ。だってきっと物理も魔法もあんま効かんと思うん。
それに近付くのも苦戦しそうじゃん」
「確かにそうだが、おかんはどうするつもりだ」
「想像力次第ならなんとかなりそうじゃろ?
たぶん儂1人で精一杯で皆の事まで手が回らんと思う」
「自分の身は自分で守れるであります!」
「あの臭いからも?」
「「「 ・・・ 」」」
「ね? それにさ、あのアンデッドドラゴンから湧き出た雑魚アンデッドが
あちこちで暴れてそうじゃん?
皆はスカイラーやエウリケに連絡してそっちの対応頼むわ」
「念の為ここにも人は残した方がいいだろうな」
「千秋はチビ等連れてオルガと一緒におりんさい」
「わかった。おかん、気ぃつけてね」
「任せんさい。んじゃ行って来る」
そう言うとマォはもっちゃんにまたがり地中を駆け抜けながら考える。
臭い対策は孤独死などの特殊清掃員が就ける防臭マスクがいいだろう。
アンデッドモンスターについては総合的に聖属性や光属性の武器や魔防が有効なはずだ。
それと同時に浄化魔法とやらを使えば汚物処理も大丈夫だろうと。
(ランクⅠじゃけど、儂全属性持ちらしいからなんとかなるじゃろう)
マォの知るゲームの知識ではレベルの低い聖属性魔法でもアンデッドに対してはダメージ大である。
加えて浄化魔法も割と初期に覚える聖属性の魔法だ。
だから自分にも使えてなんとかなるだろうと思ったのだ。
アンデッドドラゴンに近付くにつれて地中からでも臭いが分かるようになる。
マォは見た目がガスマスクっぽい防臭マスクを想像して魔法で作り上げ、自分ともっちゃんに装着した。
次第に目も痛くなってきたのでゴーグルも同様に作り出し装着する。
ついでに自分達に汚物が掛からない様に侍女長が持たせてくれたレインコートも着込んだ。
このレインコートは水棲妖獣の川で作られており防水性が高い物だ。
(なんか見た目がぶち怪しいけどまぁええか。どぉせ誰も見んじゃろうし)
『マォ、着いた。地上に出る』
「わかったよ」
もっちゃんはマォに告げるとモコモコと地上に出た。
「うわぁぁ、地面から魔物が!」
「誰が魔物かぁー!」パコォーンッ
マォの姿が現れるや誰かがそう叫び、条件反射でマォがどつく。
「そのどつきは・・・ マォか?」
「ん? あれ、オーウェン?」
叫んだのは騎士の1人で、その叫び声に駆け付けたオーウェンはどつき方でマォだと判断したらしい。
「なんでオーウェンがおるん」
「この先がエルケイムだ。ここで食い止めねばせっかくの王都が・・・」
「なるほど、じゃったらアンデッドドラゴンは任せんさい。
オーウェンは部下連れて少し下がった場所で防衛線ひいて
雑魚アンデッドの処理してくれんさい」
「まさかマォ1人で戦う気か!僕も一緒に」
「却下!」
「何故!」
「たぶん本気出さんといけん気がするん。
巻き込まんようにいちいち周囲気にせよったら本気だせんけぇ。
悪いけど、邪魔なん」
「 ・・・ 」
邪魔と言われていい気はしない。
だが実際にアンデッドドラゴンと戦うとなれば周囲の事など気にする余裕がないのも事実。
オーウェンは「ご武運を」と伝えて渋々と部下と共に後退していった。
(すまんねオーウェン。でも巻き込みたくないんよ。
生き残ってエウリケと共にこの国を守って行ってもらわんにゃ困るん)
フゥと息を漏らしマォは頬を叩いて気合を入れ直す。
感傷的になっている場合ではないのだ。
此処でこのアンデッドドラゴンを倒さなければ、せっかく皆で作り上げた王都が駄目になってしまう。
「さぁて、この腐った三つ首蜥蜴め!
儂ののんびりスローライフの為に大人しくサクッと消えてくれんさい!」
「ングァァァ!」
アンデッドドラゴンは口から腐臭のするブレスを吐き出した。
『マォ、気を付けて。あれに触れると腐食する』
「うぇぇ、マジかー」
マォは対応すべく某ゲームのホーリーブレスを想像して撃ち放つ。
これで相殺されるはずだと信じて。
ところが雑魚アンデッドは消滅するものの、ブレスは相殺されない。
「でぇぇ、なんで!くっそ・・・」
仕方がないので風を起こして押し返す。
ホーリーブレスが効かないのではれば火はどうだろうか。
マォの知識では聖属性の次に有効なのは火属性だ。
ファイアーウォールで自分ともっちゃんを囲めば、これは有効だったようでアンデッドドラゴンのブレスを打ち消す事が出来ていた。
「なるほど。火は有効なんじゃ。
もっちゃん、後ろのオーウェンに伝言頼める?」
『うん、何を伝えればいい?』
「水魔法使える人はアクアシールドとかウォーターレインとかで
炎から身を守れってゆうてくれる?
んでもっちゃんもそのままオーウェン守ってくれんさい」
『マォは? どうするの?』
「ぶっぱなす! ここにおったらもっちゃんも焦げるけぇ」
『もっちゃん居るとマォ全力出せない?』
「うん」
『 わかった・・・ でも』
「急いでもっちゃん!」
『 うん・・・ 』
もっちゃんがこの場を離れたのを確認するとマォは集中して想像する。
(ゴ〇ラが吐く光線ってなんちゅう名前じゃったけな。
破壊光線?違うな。波動砲はヤ〇ト。えーと・・・
しっぽの先から順番に背びれがファンファンファンファンって光って行って
喉がオレンジ色に光ってエネルギーが溜まったら青白くなって・・・)
マォの持つ魔力が光と共に集まり始め、足から膝へ、膝から腿へ、腿から腰へと言った感じに徐々に上へと上がって行く。
炎の温度は赤やオレンジだと約800℃から1000℃。青白くなると1500℃を超える。
そんな温度に人間が耐えられる訳がなかった。
が、マォは耐えている。
(ゴ〇ラもガ〇ラも光線吐いても平気っちゅう事は吐く本人は耐性あるんじゃろう)
そう考えたからなのかは謎である。
マォがそうやって魔力を溜め凝縮させている事に気が付いたのかアンデッドドラゴンはマォへ向かって突進してきた。
ドンッと地響きがしてアンデッドドラゴンがマォを組み伏せる。
「こぉんのっ!邪魔すんなやぁ!」
集中力が切れた事で集まっていた魔力の光も霧散してしまう。
イラッとしたマォはアンデッドドラゴンを殴るのだがグニュリとした感触が手に伝わり腐肉が絡みついてしまう。
「うぇぇい、暖簾に腕押し糠に釘ぃー!だめじゃん!
って今そねぇな事言いよる場合じゃないじゃん!」
自分で言って自分で突っ込むマォ。
なんとかして離れなければいくら防臭マスクとゴーグルをしていても至近距離では辛いものがある。
骨を掴めばいいのではと考え掴んでみるが脆くて崩れてしまう。
そのくせすぐに再生してくるのでやっかいでもある。
(やっぱり塵も残らんくらいに焼き尽くすしかないかなぁ)
もがきながら考えるマォの目の前にぐにゃりと歪んだ顔が現れた。
「ぅぎゃぁぁぁぁ!」
「ぅげぇぇぇぇ!」
マォと現れた顔は同時に叫んだ。
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