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プリローダ⑮

産まれた子供達は順調に成長していった。

1週間もすれば目も開きぼんやりと見えているようで、動く人や物を目で追うようになった。

ヨタヨタと歩くようにもなり時々バランスを崩してつんのめっていたりするのだが、それがまた可愛いと皆にこやかに見守って居る。


2週間目になれば足取りも少ししっかりとし、トリーは少しだけ人っぽく、ユヅキはちょっぴり鼻が伸びて犬っぽくなり始めた。

千秋は未だに「いつのまに妊婦じゃったんじゃろう」と不思議がっている。

他の獣人達もこんな感じなのかと聞いてみたのだが皆悪阻や胎動があったという。


「不思議じゃねぇ~」

「不思議なんは千秋じゃろぉ。普通気付くんじゃないん?」

「ねぇー」

「ねぇー、じゃないんよ・・・」

「ところでおかん、いつ雪解けになるん?」

「嵐が過ぎ去ったらみたい」

「へぇ、そうなんじゃ。どんくらいの嵐なん?台風みたいな感じ?」

「そうじゃね、台風と吹雪が合体した感じ。

 それが終わると空にオーロラが現れて幻想的でぶち綺麗なん。

 まぁ去年はそのオーロラ見よったらゆっちゃんが現れたんじゃけども・・・」

「その嵐はいつ頃くるん?」

「冬の終わり」

「冬の終わりはいつなん」

「雪解けが始まる頃」

「 ・・・

 なんなん、結局はハッキリと分からんちゅうこと?」

「そうとも言う・・・」


マォは思い出して少しばかり遠い目になる。

あの時は驚いたり喜んだり怒ったり悲しんだりと忙しかった。

四神獣まで出て来てファンタジーを通り越しミステリアスになった気がしなくもなかったが、今はこうして平穏に暮らしている。

千秋とも会えたしゆっちゃんも生まれたしで後はこのままのんびりと孫の成長を見守れればと思う。



数日後、2人の子供は人間の赤ん坊の様に伝い歩きをするようになった。

トリーはきゃっきゃと楽しそうに笑い、ユヅキはでへへとご機嫌である。

外は荒れており冬の終わりを告げる嵐の到来だ。


「おかん、凄いね。こねぇに荒れるんじゃ」

「すごかろぉ。でもね、不思議とこの家壊れんのんよ」

「茅葺なのに?」

「うん、茅も飛ばん」

「ほぇ~、そりゃぁ不思議じゃねぇ」

「まぁ作ったのがオルガ達オーガじゃし?

 要所要所で魔獣や妖獣の素材使っちゃるみたいじゃし?

 儂等が知っちょる茅葺古民家とは違うんかもしれん」

「そうじゃねぇ、異世界じゃもんねぇ」


最近ではこの世界で育ったはずの千秋でさえ「異世界じゃし」で済ませるようになってしまっていた。

そんな2人は今うどんの生地を足で踏んでいる。


「まさかうどんを1から作るとは思わんかった」

「そうじゃろぉねぇ。

 まぁ離乳食も進んで来たし、千秋もうどん好きじゃったじゃん。

 手掴みじゃったけぇテーブルの上はえらいこっちゃになるし

 フォークの意味が無かったけども」

「そうじゃったかいね、覚えちょらんよ」

「まぁ1歳前じゃったしね」

「そういやぁゆっちゃんもうどん好きじゃったわ。

 食べながらクシャミして鼻から出た事もあったけど」

「アンタもそれやったよ・・・」

「マジでぇ?・・・ さすが親子」


思い出話をしながら生地は完成した。

適当に野菜を切って鍋で煮る間に生地を切る。

切り終わったうどんは白湯で下茹でしておき、野菜が煮えて味を調えたらうどんを入れひと煮立ちさせれば完成だ。

マォが作るのは関西風の出汁が聞いたうどんだ。

関東に住んで居た頃に1度だけうどんを食べてみた事があるのだが、煮込みうどんかと思うくらい色が濃くてしょっぱかった。

それ以来うどんは自分で作った物しか食べなくなった。

千秋もマォのうどんに慣れていたので、旅行先などでうどんを食べて衝撃を受けた覚えがある。


「あ~、これこれ。やっぱこの味じゃろぉ」

「俺は他のうどんを知らないからな。

 おかんのうどんが旨いから他のを食べてみたいとも思わないが」

「俺は初めて食うが旨いな。それに体が温まっていい」

「ガイもこれ好きー!」

「ンマンマー」

「ンマー、 くちゅんっ」びろんっ

「「 ・・・ 」」


先程話していた思い出の光景が目の前にある。

全員の視線がユヅキに集まる中、当の本人は気にする事も無くズルッとうどんを啜った。


「ぅわぁぁ、すするなユヅキ!」

「フンッてして、フンって!」

「ふんっ」

「いや、ふんって口で言うんじゃなくて」

「鼻から息を出すんだ」

「ふんっ」

「いやだからそうじゃなくてね」


なんのコントを見ているのだろうかとマォは可笑しくなってしまい笑ってしまう。


「もぉ、おかん。笑いごとじゃないん」

「じゃけど千秋も同じことしたんじゃもん」

「嘘じゃぁ、私こんな事せ・・・したん?・・・」

「千夏も冬依もやったよ。なんじゃろか、遺伝?」

「まさかぁ、こねぇな遺伝いらんよぉね」

((( 遺伝ではないとおもう・・・)))


そう思いながらも言えないアルノー・リオル・ガイアであった。



そして嵐も通り過ぎ雪解けが始まり、空にはオーロラが舞っている。

昨年はゆっくりと鑑賞出来なかったので今回こそはとマォは庇に座って外を眺めていた。

本来なら北極圏でしか見られないオーロラである。

いつかは本物のオーロラが見てみたいと思っていたがまさか異世界で見るとは思わなかった。


「おかん、凄いねぇ。テレビで見るんとはやっぱ違うね」

「そりゃそうじゃろ、迫力が違うしなんか空気も違うような感じがする。

 それに癒されるじゃろ」

「うん、なんか感動する」


2人はしばらくの間オーロラを眺めていたのだが、遥か遠くが一瞬カッと明るくなったのが見えた。


「ねぇおかん。今のはなんじゃろぉか。いやな予感がするんじゃけど」

「言わんで千秋、言ったらフラグになりそうじゃん」

「もぉゆぅてしもぉた・・・」


「マム!今の見たでありますか!」

「マォ!今の爆発はなんだと思う!」

「マォ様、あの閃光はペルダンの方角ではなでしょうか」

「ペルダンってなんじゃったっけ・・・」

「元ウォール国でございますね」

「あー・・・

 あそこで爆発だか閃光だかがあったって事?

 うぇぇぇぇ、もぉ嫌な予感しかせん。

 千秋があねぇな事ゆぅけぇ・・・」

「えぇぇ、私のせぃじゃなかろう・・・」

「取り合えず情報を集めるのがよいだろう」

「マム、自分がモルトと偵察してくるであります!」

「そうか、モルトなら飛べるもんね。

 危険だと思ったらすぐ戻ってくるんよ?無理はしちゃあいけんからね?」

「イェスマム!」


アシーナが名乗りを上げモルトと偵察へと飛び立った。

その姿をみて千秋が呟く。


「モ〇ラじゃぁ・・・」

「やっぱそう思うよねぇ・・・

 さて、ここで突っ立っててもしゃーない。

 何があってもええように腹ごしらえしちょこうや」


という事で冬の定番となっているすいとんを作る事にした。

定番となっているだけにコルディもすっかりお手の物となっている。

そろそろ出来上がるだろうと言う頃にアシーナは戻って来た。

戻って来たのはいいがアシーナもモルトも異臭を放っている。


「ど、どした?・・・」

「すみませんが先に洗い流してくるであります!」


アシーナはモルトを連れて風呂場へと走り去った。

モルト達の獣舎の隣にはオルガ達によってつくられた騎獣達用の風呂場があるのだ。


身綺麗にして戻って来たアシーナはまだ自分の体をクンクンと嗅いでいる。


「まだ臭いが取れていない気がするであります」

「じゃったら・・・」


マォはペットが舐めても安心という乳酸菌で作られた消臭剤を思い浮かべて魔法を掛ける。

プシュゥーッと音がしてミストがアシーナとモルトを包み込んだ。


「どう?」

「イェスマム!大丈夫であります!」

「よかった。そんでどうじゃったん?」


アシーナの報告によれば、廃墟となったペンダルの城があった場所にアンデッドドラゴンが居て、その体から大量のアンデッドが湧き出ているとの事だった。


「アンデッド・・・」

「おかんバイオでもゾンビとか腐った犬とか倒しよったけぇ得意じゃろ?」

「あんね千秋。あれはゲームじゃけぇ大丈夫なん。

 リアルアンデッドじゃと・・・ねぇ?・・・」

「ねぇ? なんなん」

「千秋、アンデッドは悪臭を放つ。悪臭と言うか腐臭だな」

「そうであります!自分も先程、そこまで近寄った訳ではなかったのですが・・・」

「あれって腐臭じゃったん?! うぇぇぇぇ・・・」


現代日本での一般人ならば腐臭など嗅ぐことはめったにあるまい。

例えるならば腐った卵と汲み取りを忘れたボットン便所と発酵中の堆肥の匂いを混ぜたような物で鼻の奥にこびりついて取れないようなニオイである。

マォが初めてアンデッドに対面した時思ったのが「多頭飼育崩壊した現場の猫ちっこ臭のほうがまだマシだ」である。


「それでそのアンデッドドラゴンとその他はペダルだけでおさまるんじゃろうか」

「おかん、ペンダルじゃね・・・」

「ペダルでもそぉかわらんじゃろ、覚える気ないし」

「それが・・・

 どうもこちら側にジワジワと移動している様でありました」


アンデッドドラゴンはまだ形成途中なのか、己から湧き出たアンデッドを吸収しながら形を変えているのだとアシーナは言う。


「まだ翼が不完全でしたが、あれが完成されて飛ばれたら・・・」


アシーナがそう言い終わる前に『グオォォンッ』と潰れたような咆哮が聞こえた。

読んで下さりありがとうございます。

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